なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「ある戦慄」 The Incident (1967)

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監督:ラリー・ピアース
製作:モンロー・サクソン
   エドワード・メドウ
脚本:ニコラス・E・ベア
撮影:ジェラルド・ハーシュフェルド
音楽:テリー・ナイト
出演:トニー・ムサンテ
   マーティン・シーン
   ボー・ブリッジス
   ロバート・バーナード
   セルマ・リッター
   ジャック・ギルフォード
   ブロック・ピータース
   ルビー・ディー
   ゲイリー・メリル
   ジャン・スターリング
   マイク・ケリン
   ドナ・ミルズ
   ヴィクター・アーノルド
アメリカ映画/100分






<あらすじ>
日曜深夜のニューヨーク下町。週明けを控えて人通りもまばらな繁華街を、酔っ払って上機嫌で闊歩する2人のチンピラ、ジョー(トニー・ムサンテ)とアーティ(マーティン・シーン)。遊ぶ金欲しさに通りがかりの老人に暴行を働くが、あいにく老人の所持金はたったの8ドル。稼ぎの少ない貧乏人は死んだほうがましだ。そうせせら笑って2人は走り去っていく。
妻ヘレン(ダイアナ・ヴァンダー・ブリス)の実家で義母の世話をした帰り道の中年男ビル(エド・マクマホン)。明日は仕事なのに帰りが遅くなったのはお前のせいだと、幼い娘を抱き抱えながら愚痴る彼に、ならばタクシーで帰ればいいじゃないと言い返すヘレンだったが、お前の金銭感覚がそんな風だから家計が苦しいんだとさらに責められる。言いたいことをぐっとこらえるヘレン。一家は地下鉄の駅へと向かう。
息子に見送られて地下鉄の駅に着いた老夫婦サム(ジャック・ギルフォード)とバーサ(セルマ・リッター)。サムは息子に借金を断られたことで腹の虫がおさまらない。せっかく育ててやった恩を忘れたのかと。あの子にだって家庭があるんだから、と弁護するバーサの言葉もまるで耳に入らない。
駅の改札へ向かう若い娘アリス(ドナ・ミルズ)と恋人トニー(ヴィクター・アーノルド)。身持ちの固いアリスは結婚するまで処女を貫くつもりだが、イタリア系の積極的で男らしいトニーの強引さに負けて、ついついキスを許してしまう。
親を幼い頃に亡くした天涯孤独の軍人フェリックス(ボー・ブリッジス)は、兵隊仲間の親友フィリップ(ロバート・バーナード)の実家へ夕食に招かれ、家庭の暖かさを羨ましく感じる。駅へ向かう帰り道、将来の夢を語るフィリップだったが、フェリックスは人生の目標を見いだせないでいた。
高級アパートに住む友人のホームパーティからの帰り道。派手好きで見栄っ張りの妻ミュリエル(ジャン・スターリング)は、真面目なだけが取り柄の地味で冴えない学校教師の夫ハリー(マイク・ケリン)に不満を募らせる。
場末のバーで話し相手を探す孤独なゲイの青年ケネス(ロバート・フィールズ)。アルコール依存性で妻子から見放された中年男ダグラス(ゲイリー・メリル)に優しい言葉をかけられたのが嬉しくて、つい地下鉄の駅へ向かう彼の後を追いかけてしまう。
駅のホームで地下鉄を待つ黒人夫婦アーノルド(ブロック・ピータース)と妻ジョーン(ルビー・ディー)。白人を憎悪する夫の喧嘩腰な態度に、いつか殺されるんじゃないかと心配するジョーンだったが、人種差別に苦しんできたアーノルドは頑なだ。
それぞれに問題や悩みを抱えた乗客たちを運んで都市部へと向かう地下鉄。最後に乗り込んできたジョーとアーティが騒ぎ始める。かかわり合いになるまいと目をそらす乗客たち。だが、2人の暴言と暴力はどんどんとエスカレートしていく…。

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強まるヨーロッパ映画や日本映画の影響力に押され、往時の勢いを失っていた'60年代のハリウッド。さらに、深刻化する都市部の犯罪や激化するベトナム反戦運動などの社会問題によって、もはや古き良きアメリカは失われつつあった。そんな暗い世相を背景に、当時のハリウッド映画は人間や社会の醜い裏側をリアルに描く作品が増えつつあった。老朽化したニューヨークの地下鉄にたまたま乗り合わせた市井の人々が、傍若無人なチンピラたちの暴力に晒されることで本性をむき出しにしていく本作などは、まさしくこの時代に生まれるべくして生まれた映画だと言えるだろう。

物語はまず登場人物たちが地下鉄に乗るまでの経緯を描きながら、それぞれに複雑な事情を抱えた彼らの人間模様を通して、貧困や生活格差、人種差別など当時の社会問題をじっくりと浮き彫りにしていく。ひと組またひと組と電車に乗り込んできたところで、ゴロツキのチンピラコンビが登場するというわけだ。

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大声でわめきながらナイフを片手に車内を暴れまわる彼らに、誰もが怯えて見て見ぬふりを決め込む。もちろん、いじめっ子が標的を方っておくわけもなく。逃げようと思っても、2つあるドアのうち1つは故障で開かない。ニューヨークの地下鉄といえば、'70~'80年代にかけて犯罪の温床とも言える危険地帯として知られていたが、この当時から既に老朽化と荒廃が始まっていたことが分かる。唯一開くドアへたどり着くためにはチンピラたちを通り過ぎねばならない。かくして、理屈の通用しない怪物たちと共に地下鉄の閉鎖空間に囚われてしまった人々の、心理的な恐怖とサバイバルが展開していくことになるわけだ。

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だが、そうした極限下におけるギリギリのサスペンスと併せて注目するべきは、追い詰められることで次々と暴かれていく平凡な人々の平凡な仮面の下に隠された赤裸々な本性である。チンピラたちの傍若無人によって見栄もプライドもズタボロにされ、思わず本音をぶちまけてしまう人々。普段は正論を振りかざしたり、一家の大黒柱として偉そうに振舞ったり、人前で格好つけたりしていた彼らの、なんとも愚かで浅はかで身勝手で弱い一面が次々と露呈していくのだ。被害者であるはずの一般市民が、犯罪者によって己の矛盾や偽善を嫌というほど思い知らされていく。なんとも皮肉な話である。

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だが、それ以上に皮肉なのは実に呆気ない結末であろう。反撃してみて分かったチンピラたちの意外なくらいの弱さ。所詮は世間を舐めていきがっているだけのクソガキに過ぎなかったわけだが、そんな連中に好き勝手をさせてしまったのはいったい誰なのか。善良と言われる一般市民の無関心や身勝手な事勿れ主義が犯罪を助長しているのではないか。そんな痛いところを容赦なく突いてくるのだ。

50年近く前のモノクロ映画でありながら全く古さを感じさせないのは、今も昔も変わらぬ社会や犯罪の本質的な問題を鋭く捉えているからなのだろう。登場人物の設定など幾らか変えれば、そのまま現代の物語としても通用するはず。こういう作品こそ実はリメイクに値するのではないかと思う。

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監督はテレビ出身のラリー・ピアース。「さよならコロンバス」('68)のような青春映画から「あの空に太陽が」('72)のような感動ドラマまで、幅広いジャンルを手堅くこなす職人監督だが、本作の設定を大規模なアメフトスタジアムに移したテロ・パニック映画「パニック・イン・スタジアム」('76)という傑作も残している。もっと評価されてしかるべき人物だ。

なお、本作はニコラス・E・ベアが脚本を書いたテレビ映画「Ride with Terror」('63・日本未公開)のリメイクに当たる。ベアが原作と脚本の両方にクレジットされているのは、それが理由だ。
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また、内容的に問題があるとして地下鉄での撮影許可が降りなかったため、車内シーンはスタジオに再現された本物ソックリのセットで撮影しつつ、それ以外はゲリラ・ロケを強行したのだそうだ。絶妙なカメラアングルや編集技術によって、まるで全編ロケ撮影のような臨場感と緊張感を生み出しているのは特筆に値する。

当時まだ無名に近かったトニー・ムサンテとマーティン・シーンをチンピラ役に起用することで、何をしでかすか分からない彼らの危なっかしさを際立たせつつ、そんな怪物たちの恐怖に晒される人々を知名度の高いベテラン名優や実力のある中堅俳優たちに演じさせるという配役のバランスも絶妙。中でも凶暴・凶悪そのもののクレイジーなジョーを演じるムサンテのキレっぷりは圧巻だ。さすが「豹/ジャガー」('68)でフランコ・ネロを向こうに回した人だけのことはある。

評価(5点満点):★★★★★

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参考DVD情報(日本盤)
モノクロ/ワイドスクリーン(1.85:1)/音声:ドルビー・ステレオ/言語:英語/字幕:日本語/地域コード:2/時間:100分/発売元:20世紀フォックス
特典/なし

by nakachan1045 | 2016-07-10 05:19 | 映画 | Comments(0)

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