なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「わが恋は終りぬ」 Song Without End (1960)

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監督:チャールズ・ヴィダー
演出協力:ジョージ・キューカー
製作:ウィリアム・ゲッツ
脚本:オスカー・ミラード
撮影:ジェームズ・ウォン・ハウ
音楽:モリス・ストロフ
   ハリー・サックマン
出演:ダーク・ボガード
   キャプシーヌ
   ジュヌヴィエーヴ・パージェ
   パトリシア・モリソン
   イヴァン・デニ
   マーティタ・ハント
   ルー・ジャコビ
   アルベルト・ルーエブレヒト
アメリカ映画/124分/カラー作品





<あらすじ>
時は19世紀半ば。天才ピアニストとして名を馳せたフランツ・リスト(ダーク・ボガード)は、パリから遠く離れたシャモニーで慎ましく暮らしている。
人妻マリー・ドアゴール伯爵夫人(ジュヌヴィエーヴ・パージェ)と不倫の末に駆け落ちし、2人の間には子供まで生まれたものの、一度は激しく燃えた恋愛の炎も今や風前の灯だ。巡業で各地を巡るピアニストよりも作曲家として腰を落ち着けて欲しいというマリーの願いを聞き入れたはずのリストだったが、演奏家としてステージに立ちたいという欲求には抑えがたいものがあり、日増しに募る不満がマリーとの間に深い溝を作っていたのだ。
そんな折、パリから友人のジョルジュ・サンド(パトリシア・モリソン)にショパン(アレクサンダー・ダヴィオン)、そして元マネージャーのボタン(ルー・ジャコビ)が遊びに来る。彼らの口からパリで絶賛されている新進気鋭のピアニスト、サルバーグの評判を聞いていてもたってもいられなくなったリストは、マリーの反対にも耳を貸さず現役復帰を決意する。
パリでのカムバック・リサイタルは大成功し、続くウィーン公演も満員御礼。そのどちらにも顔を見せていたロシア皇帝の副官ニコライ公爵(イヴァン・デニ)より、サンクトペテルブルグでのロシア皇帝御前公演を依頼された彼は、その申し出を快く引き受ける。一目惚れしたニコライ公爵の美しい妻カロライン(キャプシーヌ)との再会を期待して。
ところが、リストは演奏会に遅れてきたロシア皇帝の態度に激怒して立ち去ろうとする。驚いたカロラインのとりなしで事態は事なきを得たが、これを機に2人の距離は一気に縮まった。また、会場に居合わせたワイマール大公妃(マーティタ・ハント)は彼の恐れ知らずで誇り高い態度に感心する。大公妃はロシア皇帝の妹で、カロラインの後見人でもあった。
その後もボタンのマネージメントでヨーロッパ各国を巡業し、華やかな名声に酔いしれるリスト。そんな彼の様子を見に現れたマリーだが、正式な妻のように甲斐甲斐しく振舞う彼女の態度にリストは苛立つ。まるで自分のために地位も名誉も捨てたと言わんばかりではないかと。深く傷ついたマリーは立ち去ってしまう。
やがて逢瀬を重ねるようになったリストとカロライン。己の気持ちを素直に告白するリストだったが、思慮深いカロラインは躊躇する。政略結婚の夫に対して愛はないが、しかし根無し草のリストとの間に未来があるとも思えなかったからだ。
そんな彼女の気持ちに応えようと、突如として演奏家引退と作曲家への転身を表明したリスト。カロラインも離婚を決意する。ワイマール大公妃の協力を得た2人は、カロラインの離婚をロシア皇帝に認めてもらおうとするのだが…。

言うなれば、女たらしの懲りない男フランツ・リストの、ある意味で自業自得な報われぬ大恋愛を描いた歴史メロドラマ。これを悲恋として見るか、それとも天罰として見るかは人それぞれだろうが、いずれにせよハリウッド黄金期を偲ばせる過剰なまでの絢爛豪華に目を奪われる作品だ。
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もちろん、当時のハリウッドは既に衰退の一途を辿っていた。黄金期を支えたスタジオ・システムはとっくに崩壊し、ヨーロッパや日本から押し寄せる新たな映画運動の波に揉まれ、世界最大の映画の都は岐路に立たされたまま模索を続けていた。そこで当時のハリウッド映画人のたどり着いた答えが、娯楽の王様のお株を奪ったテレビには成し得ない大型横長スクリーンの大作主義、そして人件費の安い海外ロケによるコストの削減だ。贅沢の限りを尽くしたヨーロッパ・ロケの本作などは、まさにその典型だともいえよう。

しかも、監督はハリウッド黄金期の巨匠チャールズ・ヴィダー。撮影スタート直後にヴィダーが急逝したため、女性映画の名手として鳴らしたジョージ・キューカーがバトンを受け継いでいるが、彼もまたハリウッド黄金期を代表する巨匠の一人。その演出には、まさしくMGM大作華やかなりし頃の面影が色濃い。時代が時代なら、主演はさしずめジョン・バリモアとグレタ・ガルボだ。結局のところ、テレビとの差別化を図るのが精一杯で、依然として黄金期の成功体験から抜け出せないでいた当時のハリウッドの事情が浮かび上がる。
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なんて言っていると、さも古めかしくて退屈なメロドラマのように思われるかもしれないが、そんなことはない。そもそも、筆者はハリウッド黄金期の大袈裟なメロドラマ大作が大好物(笑)。本作も十分すぎるくらい楽しませていただいた。

だいたい、主人公フランツ・リストの自己中で欲まみれなキャラが凄い。ハンサムでワガママで気分屋で感情直下型の女好き。とにかく自分を抑えることができない。しかも、プライドが高くて尊大であからさまに無礼。芸術家こそが人類の頂点に立つ存在だと信じて疑わない。
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その一方で…というよりも、だからこそなのかもしれないが、音楽にしても女性にしても美しいものは素直に賞賛する。大衆から愛されることが大好きで、批判されたりけなされたりするとすぐに傷ついてしまう。ヒジョーに面倒くさい(笑)。とりあえず、そんな自分の欠点を理解しているらしく、たまに自己嫌悪に陥ったりはするものの、しかし結局のところ自分を変えたりはしない。いや、変えられないといった方が正解だろう。
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なので、束縛の強い不倫相手マリーに愛想を尽かして新たな恋人カロラインに乗り換えたわけだが、恐らく2人の恋愛が仮に成就したとしても、結局は元の木阿弥だったに違いない。特定の相手と一箇所に落ち着いて関係を築くことなど、そもそも彼には出来やしないのだ。そういう意味で、これは天才ゆえに芸術家として生きるしか道のなかった男の悲劇でもある。

そんなリストを巡って心揺れ動く2人の女性、カロラインとマリーの苦悩を通して、女性の意地とプライドをしっかりと描いている辺りはキューカーの持ち味だ。本音と建前を使い分ける上流社会の人間模様も巧みで面白い。
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もともとコロンビア映画の暴君ハリー・コーンが長年温め続けた企画だったという本作。紆余曲折を経て20世紀フォックスの創始者の一人だったウィリアム・ゲッツが企画を引き継ぎ、「楽聖ショパン」('44)で音楽家の伝記映画に実績のあった大御所チャールズ・ヴィダーに演出の白羽が立った。ハンガリー出身であるヴィダーにとって、祖国の英雄リストの伝記を描くというのは夢であり、本人もかなり意気込んでいたと言われる。しかし、撮影開始からほどなくして心臓発作のため死去。後任としてキューカーが選ばれたわけだが、彼はそんなヴィダーの熱い思いに敬意を評し、監督としてクレジットされることを辞退。あくまでも“協力者”としてスクリーンには表記されている。
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また、撮影監督にはサイレント映画期から活躍する中国系の伝説的カメラマン、ジェームズ・ウォン・ハウがクレジットされているものの、彼もまた実は途中で降板しており、「麗しのサブリナ」('54)や「お熱いのがお好き」('59)で知られるオスカー受賞の名カメラマン、チャールズ・ラングがノークレジットで撮影監督を請け負っている。

女優陣のゴージャス極まりないドレスのデザインを手がけたのは、マレーネ・ディートリッヒやマリリン・モンローに愛された衣装デザイナーのジャン・ルイ。「純金のキャデラック」('56)でオスカーに輝いた彼は、過去に「ギルダ」('46)でチャールズ・ヴィダーと、「スタア誕生」('55)でジョージ・キューカーと組んでいる。
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周囲を振り回しながらも常に魅了し続ける天性のカリスマ、リストの激情を体当たりで演じきるのは、当時「わたしのお医者さま」('55)シリーズでアイドル的人気を博していた英国の二枚目スター、ダーク・ボガード。演技の上手さはもちろんのこと、なんたって品があって色っぽい。そりゃ女が放っておかないわけだよ、と思わず納得だ。これ以降、彼は本格的な演技派へと著しく成長し、ジョセフ・ロージーの「召使」('63)やジョン・シュレシンジャーの「ダーリング」('65)、そして巨匠ルキノ・ヴィスコンティの「地獄に堕ちた勇者ども」('68)に「ベニスに死す」('71)と、数々の名作・傑作に主演していくこととなる。

彼を取り巻く女優陣も魅力的だ。カロライン役にはモデル出身の絶世の美女キャプシーヌ。まだスーパーモデルという言葉がなかった時代の元祖スーパーモデルであり、ディオールやジバンシーのミューズだった女性だ。その美しすぎる容姿ゆえ女優としては過小評価されたが、堂々たる立ち振る舞いには貫禄すら漂う。そこにいるだけで絵になる人だ。一方、捨てられる女マリーの怒りと悲しみと気高さを全身全霊で演じきったジュヌヴィエーヴ・パージェも素晴らしい。さすがは、ルネ・クレマンやルイス・ブニュエルなどの巨匠に愛された大女優。そういえば、奇しくも2人ともフランスの出身だ。

また、キャスティングで面白いのは、'40年代から主に「シャーロック・ホームズの殺しのドレス」('46)など低予算映画の悪女役で活躍したB級女優パトリシア・モリソンが、男装の麗人ジョルジュ・サンド役を演じていること。ただし、彼女の女性的過ぎる声が役柄に相応しくないとの判断から、セリフは全て英国女優アン・リーが吹き替えている。「大いなる遺産」('46)や「追想」('56)などで威厳ある貴婦人役に定評のあった性格女優マーティタ・ハントがワイマール大公妃を好演。「我が心のボルチモア」('90)が印象的だったカナダ俳優ルー・ジャコビも、商売上手なマネージャーのボタン役で印象を残す。

評価(5点満点):★★★★☆
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参考DVD情報(イギリス盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:2.0ch ドルビー・ステレオ/言語:英語/字幕:英語/地域コード:2、4/時間:124分/発売元:Sony Pictures (2012年)
特典:オリジナル劇場予告編





by nakachan1045 | 2016-07-13 06:19 | 映画 | Comments(0)

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