なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
プロフィールを見る
画像一覧
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

「密室の恐怖実験」 Twisted Nerve (1968)

f0367483_13534452.jpg
監督:ロイ・ボールティング
製作:ジョージ・W・ジョージ
   フランク・グラナット
原案:ロジャー・マーシャル
脚本:レオ・マークス
   ロイ・ボールティング
撮影:ハリー・ワックスマン
音楽:バーナード・ハーマン
出演:ハイウェル・ベネット
   ヘイリー・ミルズ
   ビリー・ホワイトロー
   フランク・フィンレー
   フィリス・カルヴァート
   バリー・フォスター
   サルマン・ピーア
   クリスチャン・ロバーツ
イギリス映画/113分/カラー作品





<あらすじ>
街の玩具店で見かけた若い女性スーザン(ヘイリー・ミルズ)に一目惚れした内気な若者マーティン(ハイウェル・ベネット)。とっさに万引き事件を起こし、わざとスーザンを巻き込んだマーティンは、そこで彼女の名前と住所を手に入れるのだった。
この一件で、資産家の継父ヘンリー(フランク・フィンレー)は激怒。苦労して財を成したヘンリーは、学校にもいかず就職もせずフラフラしているマーティンに業を煮やしていた。一方、母親イーニッド(フィリス・カルヴァート)は障害を持つ長男を養護施設へ預けていることの罪悪感、子連れでも再婚してくれたヘンリーへの気兼ねから、その反動として次男マーティンを必要以上に溺愛。その結果、彼は母親の愛情にどっぷりと甘えつつ、厳しい継父には憎しみを募らせる歪んだ若者になっていた。
その日以来、偶然を装ってはスーザンの周囲に頻繁に現れるようになったマーティン。彼を無害な障害者だと思っているスーザンは全く警戒心を抱かない。極度のコンプレックスを抱えたマーティンは、無邪気なジョージーを演じることでしか彼女に近づけなかった。
やがて、マーティンの将来を心配したヘンリーは、自立させるため彼を家から追い出すことにする。これを逆恨みしたマーティンはフランスへ行くと嘘をつき、スーザンの実家へと向かった。というのも、彼女の母親ジョーン(ビリー・ホワイトロー)は下宿屋を営んでいたのだ。
言葉巧みに部屋を借りることになったマーティン。寂しがり屋で純粋なジョージーを演じる彼に、美しい未亡人ジョーンは次第に母性本能をくすぐられる。もちろん、彼の本命はスーザンだが、彼女にはフィリップ(クリスチャン・ロバーツ)というハンサムで人気者の彼氏がいた。嫉妬心を抑えきれないマーティン。さらに、実は彼は憎き継父ヘンリーを殺害する計画も秘密裏に練っていた。しかし、これが結果的に彼を破滅へと追い込むことになる…。

f0367483_13543700.jpg

知る人ぞ知る英国産サイコ・サスペンスの傑作。巨匠バーナード・ハーマンによる口笛のテーマ曲が、タランティーノ監督の「キル・ビル Vol.1」('03)で使用されたことでも知られている。その素朴な美しさの中に寂しげな暗さを漂わせたメロディと同様、精神を病んだ孤独な人間の歪んだ愛情を、時に詩情すら漂わせる繊細なタッチで描いた恐ろしくも哀しい作品だ。

主人公のマーティンは、一見すると物静かで大人しい若者。実の父親を早くに失い、母親から過剰なまでに溺愛されて育った彼は、強烈な自己嫌悪と高い自尊心という相反する感情を抱え、それが原因で常に怒りと不満で悶々としている。そんな彼が知恵遅れの可哀想な障害者ジョージーを演じることで女性たちの同情と関心を引き、邪魔になる男たちを巧妙な手口で次々と排除していき、己の邪な欲求と願望を満たそうとする。果たして、スーザンと母親ジョーンは手遅れになる前に彼の本性に気づくのか?そこがサスペンスを盛り上げるポイントだ。

f0367483_13550239.jpg

それにしても、狡猾で計算高いくせに情緒不安定で直情的なマーティン。童顔で貧弱な体の自分に自信がなく、しかしプライドだけは人一倍高い。その上、疑い深くて嫉妬深くて執念深いナルシスト。何を考えているのか分からない、何をしでかすのか分からない。要するに、得体の知れないサイコパスだ。演じるハイウェル・ベネットは、当時「きんぽうげ」('70)などの青春映画で精細な若者を演じて売れっ子だった英国スター。幼い顔立ちにどこか危うげな雰囲気をたたえた彼は、まさしくマーティン役にはうってつけの俳優だといえよう。

f0367483_13544058.jpg

ヒッチコックの「下宿人」('26)や「サイコ」('60)、ウィリアム・ワイラーの「コレクター」('65)といったサイコ・サスペンスからの影響はかなり濃厚。周囲の人々がいったいいつマーティンの恐ろしい本性と企みに気づくのか、次第に理性のたがが外れていくマーティンの暴走を止めることができるのか。無邪気なジョージーの仮面の隙間から覗くドロドロとしたマーティンの欲望に、スーザンが違和感を覚え始めてから一気にストーリーは急展開。衝撃のクライマックスへと突っ走っていく。息をつかせぬ面白さだ。

f0367483_13551802.jpg

監督のロイ・ボールティングは戦前から活躍する大ベテランで、双子の兄ジョンと共同監督した「戦慄の七日間」('50)でサスペンスの実績はあるものの、主にピーター・セラーズ主演のコメディ映画やファミリー映画で知られる人物。本作では父親の不在と母親の過保護によって、健全な成長を妨げられたマーティンの抑圧された性欲が物語の根底にあるわけだが、彼のふとした仕草や言動などの細やかな描写によって、その薄気味悪さや異常性を丁寧に炙りだしていくボールティングの演出はなかなかのもの。寂しがり屋のジョージーとして甘えるマーティンに母性本能を刺激され、ついつい彼を男として意識してしまうジョーンなど、随所でセクシュアルなニュアンスをじっくりと醸し出していく。それでいて、決して下世話な表現を用いることのない品格が本作の肝だ。光と影のコントラストを巧みに生かしたカメラワークも秀逸。サイコロジカルなダーク・ファンタジーとも呼ぶべき独特の世界を作り上げている。

f0367483_13553537.jpg

ちなみに、ボールティング監督は本作と同じハイウェル・ベネットとヘイリー・ミルズの主演で、過去には「ふたりだけの窓」('66)という庶民的なファミリー映画も撮っている。ヘイリー・ミルズは「罠にかかったパパとママ」('61)や「シャム猫FBI/ニャンタッチャブル」('65)などのディズニー映画の主演で一世を風靡したティーン・アイドル女優。父親は英国演劇界を代表する大物名優ジョン・ミルズというサラブレッドで、本作の当時は少女役から大人役への転換期にあった。ボールティング監督とは後に33歳の年齢差を超えて結婚している。

f0367483_13544778.jpg

スーザンの母親ジョーンを演じているのは、「オーメン」('76)の悪魔の家政婦ベイロック夫人役で有名なビリー・ホワイトロー。明るくてサバサバした普通のお母さんが、次第に艶かしい女の顔を垣間見せていく辺りの生々しい演技はずば抜けている。一方、マーティンの過保護な母親を演じるフィリス・カルヴァートは、'40年代に数々の英国産メロドラマに主演した女優。本作ではすっかり年相応のオバサマなのだが、今の女優と違って昔の女優は若作りなんて全くしないんだよな…ということに改めて気づかされる(笑)。その夫ヘンリー役がローレンス・オリヴィエ主演の「オセロ」('65)のイアーゴ役でオスカー候補になったフランク・フィンレイ。筆者世代だと「スペース・バンパイア」('85)の博士役でお馴染みだ。また、ヒッチコックの「フレンジー」('72)で有名なバリー・フォスターがマーティンの素性に疑問を持つ下宿人を、「いつも心に太陽を」('67)のイケメン不良生徒デナム役で注目されたクリスチャン・ロバーツがスーザンの彼氏役を演じている。

f0367483_13545505.jpg

スタッフで特筆すべきは、撮影監督のハリー・ワックスマン。ベイジル・ディアデンやケン・アナキンなどの名匠と組むことの多かったカメラマンだが、一方で「炎の女」('65)や「残酷な記念日」('68)などハマー・フィルム作品での仕事も少なくなく、「ワンダーウォール」('68)や「ウィッカーマン」('73)などのカルト映画でも優れた仕事を残している。本作のどことなく幻想的で寓話的なビジュアルは、やはり彼の功績によるところが大きいだろう。

f0367483_13550704.jpg

また、一度聞いたら脳裏に焼き付いて離れないテーマ曲を書いたのは、「めまい」('58)や「サイコ」('60)など一連のヒッチコック映画であまりにも有名な作曲家バーナード・ハーマン。このテーマ曲は「キル・ビル Vol.1」のダリル・ハンナ扮する殺し屋エリーのテーマ曲として使用されたほか、同じくタランティーノ監督の「デス・プルーフinグラインドハウス」('07)にも登場。また、テレビ「アメリカン・ホラー・ストーリー」シーズン1ではサイコ少年テイトのテーマ曲としても使われている。他にもヒップホップやダンスナンバーのサンプリング、テレビCMのBGMなどでも頻繁に登場し、いまや映画本編から独立したメロディとして親しまれている。



評価(5点満点中):★★★★☆


参考DVD情報(イギリス盤)
カラー/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:Dolby Digital Mono/言語:英語/字幕:なし/地域コード:2/時間:113分/発売元:Optium Releasing (2007)
特典:なし


by nakachan1045 | 2016-08-06 15:58 | 映画 | Comments(0)

カテゴリ

全体
映画
音楽
未分類

お気に入りブログ

なにさま映画評

最新のコメント

昔、NHKで見たので記憶..
by さすらい日乗 at 12:59
> さすらい日乗さん ..
by nakachan1045 at 10:21
これは、公開時に今はない..
by さすらい日乗 at 07:33

メモ帳

最新のトラックバック

venussome.co..
from venussome.com/..
venuspoor.co..
from venuspoor.com/..
venuspoor.com
from venuspoor.com
http://while..
from http://whileli..
http://while..
from http://whileli..
http://www.v..
from http://www.val..
オペラ・ブッファの傑作で..
from dezire_photo &..

ライフログ

検索

ブログパーツ

最新の記事

「クリープス」 Night ..
at 2017-10-23 01:34
「Morte sospett..
at 2017-10-18 19:18
「A Study in Te..
at 2017-10-16 05:48
「七人の特命隊」 Ammaz..
at 2017-10-15 00:37
「サタンバグ」 The Sa..
at 2017-10-14 13:09

外部リンク

ファン

ブログジャンル

映画
ライター