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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「フォクシー・レディ」 Foxes (1980)

「フォクシー・レディ」 Foxes  (1980)_f0367483_23302369.jpg
監督:エイドリアン・ライン
製作:デヴィッド・パットナム
   ジェラルド・エイアーズ
脚本:ジェラルド・エイアーズ
撮影:レオン・ビジョー
音楽:ジョルジョ・モロダー
出演:ジョディ・フォスター
   スコット・ベイオ
   サリー・ケラーマン
   ランディ・クエイド
   チェリー・カリー
   マリリン・ケイガン
   キャンディス・ストロー
   ロイス・スミス
   アダム・フェイス
   ロバート・ロマヌス
   ローラ・ダーン
アメリカ映画/106分/カラー作品





<あらすじ>
主人公はサン・フェルナンド・バレーに住む親友の女子高生4人組。恋多き女ディアドル(キャンディス・ストロー)は、いつだってディスコとイケメンに夢中。反対にポッチャリ体型で自信が持てないマッジ(マリリン・ケイガン)は、いまだに処女でいることが悩みの種だ。しょっちゅう家出ばかりしているアニー(チェリー・カリー)は、酒もマリファナもやる憎めない(?)不良娘で、厳しすぎる警官の父親を自分の本当の父親じゃないと思っている。
そして、そんな彼女たちのまとめ役的な存在のジーニー(ジョディ・フォスター)はグループで一番のしっかり者だが、離婚してからというもの男を取っ替え引っ替えで生活の乱れている母親メアリー(サリー・ケラーマン)のことで秘かに悩んでいる。
しょっちゅうジーニーの家に集まって寝泊まりし、ロサンゼルスの街を庭のように遊びまわっている彼女たちは、学校が退屈で退屈で仕方ない。同年代のクラスメートたちはクールじゃないし、スケボー少年ブラッド(スコット・ベイオ)やロック少年スコット(ロバート・ロマヌス)らボーイフレンドたちも子供じみて見える。かといって、大人たちからは子供扱いされ、まるで理解してもらえない。
中でも、しっかり者のように見えて実はまだまだ心細いジーニーは、父親ブライアン(アダム・フェイス)との同居を望んでいたが、人気ロックバンドのツアーマネージャーで世界を飛び回る父親は忙しい。母親のことでいろいろと相談したかったが、久しぶりに再会した父親からは我慢してくれと言われるばかりだ。
そんな彼女たちの最大の気晴らしはパーティ。母親から自宅パーティを禁じられてしまったマッジは、年上の恋人ジェイ(ランディ・クエイド)の自宅を借りてパーティを仕切り直すが、噂を聞きつけた高校生たちが大挙して押しかけ、部屋を滅茶苦茶に荒らしてしまう。さらに、不良仲間とつるんでいるアニーがトラブルに巻き込まれてしまい…。


映画史の中では折に触れて、その時代の空気をヴィヴィッドに捉えたタイムカプセルのような映画が現れる。エイドリアン・ライン監督の長編劇映画デビューに当たる本作などは、まさにそれだ。世間がディスコとドラッグとフリーセックスに明け暮れた狂乱の'70年代末。大都会ロサンゼルスを舞台に、そんな時代の申し子的な少女たちの甘酸っぱくもほろ苦い青春を鮮やかに切り取って見せる。

ヒロインたちがサン・フェルナンド・バレーの出身という設定も、実は重要な意味がある。ここは当時、いわゆるアッパー・ミドル・クラスの家庭が多かった地域で、ロサンゼルスの中でも若者のトレンド発信地的な場所だった。ショッピングモールで買い物三昧、ビーチでの日焼けやパーティに明け暮れ、高級ブランドを身にまとった、バレー・ガールと呼ばれるティーン女子が'80年代初頭に社会現象となるわけだが、本作に登場する女子高生たちはその先駆けだ。

エイドリアン・ライン監督は積極的にロサンゼルスの街中へと飛び出し、手持ちカメラを駆使しながら少女たちの自由気ままで悩み多き日常と、猥雑で活気に溢れた当時の繁華街やトレンドスポットを、まるでドキュメンタリーのように描き出していく。子供でもなければ大人でもない束の間の思春期、打ち上げ花火のように狂い咲いた'70年代末期の終焉、もはや2度と戻ることはないあの瞬間を生き生きとカメラに収めているのだ。

さらに、伝統的な価値観や家族の形が通用しなくなってしまった当時のアメリカ。ビートニク世代・ヒッピー世代の親たちはなかなか大人になれず、ゆえに子供たちは嫌でも大人にならざるを得ない。しかし、いっぱしに大人の真似事はしても中身はまだまだ未熟な子供。その責任感の欠如や無分別が重大な結果を招き、やがて大人とはなんたるかを自覚していくことになる。脚本を書いたジェラルド・エイアーズは実際にサン・フェルナンド・バレーの住人で、娘は主人公の少女たちと同世代。本作の執筆のため娘やその友達の日常に密着取材をしたという。

強い責任感ゆえあらゆるものを一人で背負ってしまい、相談できる大人もおらず苦悩する思慮深いジーニー。不惑の年齢で夫に捨てられてしまい、その不安や焦りから恋愛に現実逃避を求めるものの上手くいかず、娘やその友達の若さに対する嫉妬すら隠さない子供のような母親メアリー。この逆転した親子関係の描き方も素敵だ。決して極端に走らず、落ち着いた表情の隙間から垣間見えるジーニーの少女らしい純粋さや心細さ、我に帰ったメアリーが見せる母親らしい愛情と強さも丁寧に捉えている。ジョディ・フォスターとサリー・ケラーマンの演技は本当に素晴らしい。

もちろん、その他の役者たちも一様に魅力的だ。演技を演技と感じさせない瑞々しさが今見ても新鮮。まるで女の子みたいなスコット・ベイオの完全無欠な美少年ぶり、「初体験リッジモント・ハイ」と並んでクールな一匹狼少年が似合いすぎるロバート・ロマヌスのニヒルな魅力、ヤンチャな不良娘の愛情に飢えた孤独な内面を細やかに演じるチェリー・カリー(ランナウェイズ)のナチュラルさ。ジーニーの父親をイギリスのロック・スター、アダム・ウェストが演じているのも興味深い。

そういうわけで、恐らく本作は賛否両論があって然るべき映画ではあると思う。あの時代を生きた人であれば胸キュンでたまらない瞬間の連続だと思うが、しかし何ら感じるものがないという観客もいるに違いない。また、ロサンゼルス大好き人間としては、当時のハリウッド大通りやノースハリウッドなどの様子もたっぷりと見れる点もポイント高い。高層ビルが立ち並ぶ前のセンチュリー・シティ辺りの光景には感動すら覚えた。また、随所に挿入されるジョルジオ・モロダー作曲ドナ・サマー歌唱の名曲「オン・ザ・レイディオ」の美しくも切ないメロディがまた効果的だ。

評価(5点満点):★★★★★



参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audiio/言語:英語/字幕:英語/地域コード:A/時間:106分/発売元:Kino Lorber/MGM/20th Century Fox (2014)
特典:エイドリアン・ライン監督による音声解説/女優サリー・ケラーマンのインタビュー(約9分)/オリジナル劇場予告編


by nakachan1045 | 2016-08-11 12:08 | 映画 | Comments(0)

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