なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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Up The Junction (1968)

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監督:ピーター・コリンソン
製作:アンソニー・へイヴロック=アラン
   ジョン・ブラボーン
原作:ネル・ダン
脚本:ロジャー・スミス
撮影:アーサー・ラヴィス
音楽:マンフレッド・マン
出演:スージー・ケンドール
   デニス・ウォーターマン
   リズ・フレイザー
   モーリーン・リップマン
   エイドリアン・ポスタ
   マイケル・ゴサード
   アルフィー・ベイス
   ハイドラ・ベイカー
   リンダ・コール
   オーブリー・モリス
   スーザン・ジョージ
イギリス映画/114分/カラー作品





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<あらすじ>
ロンドンのスラム街バターシーに、上品な身なりの若い女性ポリー(スージー・ケンドール)が足を踏み入れる。キャンディ工場に勤めることとなった彼女は、下世話だが気立てはいい女工の姉妹シルヴィー(モーリン・リップマン)とルーブ(エイドリアン・ポスタ)の2人と親しくなる。
早速、工場の近隣でアパートの部屋を借りるポリー。実は、彼女はチェルシーに住む裕福な家庭のお嬢様だったが、虚飾に満ちた上流階級の生活に抵抗感を感じ、自立した普通の暮らしがしたいとバターシーへやって来たのだった。
中古品の雑貨屋で“庶民的”な家具を買い揃えたポリーは、雑貨屋の店員ピート(デニス・ウォーターマン)と惹かれあう。いつかこの町を出て、もっといい暮らしがしたいと語るピートにポリーは言う。あなたはしがらみだらけの息苦しい世界を知らない、ここには自由があるじゃない!と。しかし、そんな彼女の言葉にピートは苦笑いする。貧乏人は一生貧乏人のまま、この町を出て行くことなど夢のまた夢だ。それのどこが自由なのか。初心な理想主義者のポリーに、彼の言わんとすることは理解できない。だが、やがて底辺の人々が日々直面する過酷な現実を、嫌というほど思い知ることになる…。

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ロンドンのスラム街に暮らす貧しい労働者階級の赤裸々な日常を活写し、イギリスでセンセーションを巻き起こした作家ネル・ダンの'63年出版の出世作を、主にアクション映画で知られるピーター・コリンソン監督が映画化した作品。日本では劇場未公開のまま、テレビ放送もビデオ発売もされなかったが、スウィンギン・ロンドン華やかなりし時代のイギリス社会の裏側で、経済発展に取り残された底辺の人々の喜びと悲しみをリアルに浮き彫りにする隠れた名作だ。

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幾つもの独立した短編エピソードで構成されていた原作小説に対し、映画版ではスラム街の外からやって来たヒロインの目を通した市井の人間模様が綴られていく。そのヒロイン、ポリーの存在が本作の重要な要だといえよう。劇中では本人の独白によってのみ語られるが、彼女はいわゆる富裕層の御令嬢。上流階級の建前や偽善、権威主義や拝金主義を嫌悪する彼女は、貧しくも逞しく日々を暮らし、権威に媚びることなく本音で生きている労働者階級の人々に一方的な親近感を抱いている。

ろくに働きもせず贅沢ばかりの富裕層よりも、たとえ僅かでも頑張って働いて得たお金で慎ましい生活を送る庶民の方がよっぽど尊敬できる。これこそ人間の本来あるべき姿だ。私もそうやって生きていきたい。そんな青臭い正義感と理想主義を胸にスラム街へと移り住んだポリーだが、しかしそんな彼女の前に厳しくも残酷な貧困の現実が立ちはだかり、綺麗事では済まされない人間の複雑な暗い闇を垣間見ることとなる。

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ただひたすら、毎日の生活に追われるばかりのスラム街の住人たち。学歴もなければ教養もない彼らに、将来の目標や展望など描けるわけもない。たとえ暇ができても金がないので、することといえばパブで安酒を飲んでバカ騒ぎするか、一時の安易な快楽を求めてセックスに溺れるか。なので、週末ともなれば酔っ払いが路上で殴り合いのケンカを繰り広げ、ろくに性教育も受けていない若い娘たちは怪しげな闇医者のもとで望まない子供を堕ろす。蔓延る窃盗や暴力、生き急ぐ若者たち。ここには夢も希望もない。彼らが本音で生きているのは、そうでなければサバイブ出来ないからだ。貧しい人々を勝手に美化してしまっているポリーには、明るく朗らかな表層の裏に秘められた彼らの苦悩など想像も及ばない。いかに自分が恵まれて育ってきたのかを、全く気付いていないのだ。

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そんなポリーが、小さな古物商で働く真面目な若者ピートと恋に落ちる。いつか金持ちになってこの街を出ていきたい、高級車を乗り回して贅沢な暮らしをしてみたい。そんな夢物語を思い描くピートにポリーは言う。お金は人間を狂わせる、贅沢なんて何の役にも立たない、私は貧しくてもいいから普通の暮らしがしたい。そんな彼女の言葉に、当然ながらピートは怒りとともに呆れかえる。そんなのは貧乏を経験したことのない金持ちの戯言だと。財産が有り余っていることに罪の意識を感じる余裕があるならば、その金をバンバン使って貧乏人にも回ってくるようにしろ、そのほうがよっぽど建設的だし社会の役に立つと。ポリーは自分の考える正義が単なる自己満足であり、結局は富裕層の思い上がりに過ぎないと思い知らされる。

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コリンソン監督は貧しい庶民が肩を寄せ合って生きるスラム街の、猥雑でありながらも活力に溢れた日々の光景を鮮やかに捉えつつ、その裏側の荒んだ現実も余すことなくリアルに描いていく。そこには、自らも売れない音楽家と女優の息子として貧しい生まれ、幼くして両親が離婚したことから孤児院で育った彼の、肌身で知る労働者階級の実像が投影されているのだろう。貧乏は醜い、貧乏は哀しい。上品で洗練された控えめなポリーの化粧に対して、ケバケバしく塗りたくったスラム街の女たちの安化粧。中絶手術の後遺症で出血が止まらないルーブを前に、すぐに医者を呼ばなくちゃと泣き叫ぶポリー、そんなお金があるのなら最初から医者に行っていると首を振るルーブの母親。人間は決してみんな平等などではないことを、さりげない描写やエピソードの積み重ねで丁寧に描く。

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ポリー役には当時売れっ子スターだった美人女優スージー・ケンドール。ダリオ・アルジェントの「歓びの毒牙」などイタリアン・ホラーへの出演も多いが、そもそもは「いつも心に太陽を」('66)の清楚な女教師役で注目された人だ。品行方正で優等生的なイメージが強い女優なだけに、本作のポリー役などはまさにピッタリ。苦労を知らないお嬢様の戸惑いと苦悩を瑞々しく演じている。

また、イギリスの国民的ドラマ「ニュー・トリックス~退職デカの事件簿~」('03~'15)でお馴染みののハードボイルドなタフガイ爺さんデニス・ウォーターマンが、まるで別人のように爽やかな好青年ピートを演じているのも嬉しい驚き。また、下品ながらも大らかで心優しい姉妹シルヴィーとルーブの、スラム街でも特に弱者である女性だからこその痛みと苦しみを見事に体現したモーリーン・リップマンとエイドリアン・ポスタも好演だ。なお、当時まだ無名のスーザン・ジョージが、恋人の子供を妊娠した16歳の女工役でチラリと顔を出している。

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なお、本作は当時人気絶頂のロック・バンド、マンフレッド・マンがテーマ曲および音楽スコアを全面的に手がけたことでも話題を呼んだ。同名のサントラ・アルバムもマンフレッド・マン名義でリリースされている。

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参考DVD情報(イギリス盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:5.1ch Dolby Digital Surround・1.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語/字幕:英語(SDH)/地域コード:2/時間:114分/発売元:Paramount Pictures (2008)
特典:オリジナル劇場予告編


by nakachan1045 | 2016-08-14 16:08 | 映画 | Comments(0)

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