なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
プロフィールを見る
画像一覧
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30

Die Hinrichtung (aka Naked Massacre) (1976)

f0367483_13555323.jpg
監督:ドゥニ・エルー
製作:ピーター・フィンク
   ゲオルグ・M・ルーテル
脚本:ドゥニ・エルー
   F・G・レンジャー
   クレモン・ウッズ
撮影:ハインツ・ホルシャー
編集:イヴ・ラングロワ
出演:マチュー・カリエール
   デブラ・バーガー
   クリスティーヌ・ボワッソン
   ミリアム・ボイエ
   レオノーラ・ファニ
   エリ・ガレアーニ
   カロル・ローレ
   エヴァ・マッテス
   アンドレ・ペレティエ
西ドイツ・カナダ・イタリア・フランス合作/92分/カラー作品





f0367483_14595424.jpg
<あらすじ>
内戦の嵐が吹き荒れる北アイルランドのベルファスト。一人の若者があてどもなく彷徨っている。彼の名はケイン・アダムソン(マチュー・カリエール)。ベトナム帰りの元米軍兵士だ。戦場での殺戮と緊張に精神を侵された彼は、自殺を図ったために軍から除隊させられ、戦時下の様々な事情からベルファストへと流れ着いたのだ。
戦場から別の戦場へと渡り歩く羽目になった皮肉。街では日常的に銃撃戦が勃発し、教会は爆弾で吹き飛ばされている。アメリカへ戻る船に乗りたいが金はなく、ホームレス用のシェルターで寝泊りするしかない。ただでさえ荒んだ彼の心はより一層のこと歪んでいく。
そんなある日、彼は若いナースたちが共同生活をしている寮の前を通りがかる。それぞれに事情を抱えながら、内戦に巻き込まれた人々の看護に日々明け暮れる若い女性たち。その先輩格であるエイミー(カロル・ローレ)は、食事を求めて寮の扉を開けたケインに不審の目を向けつつも、キッチンテーブルの余り物を袋に詰めて手渡す。そんな彼女にケインは故郷に残してきた妻の面影を見る。躾に厳しい母親に育てられ、親友に妻を寝取られた彼は、心のどこかで女性に対して憎悪と軽蔑の念を抱いていた。それがこの瞬間、ある意味で解き放たれてしまう。
その晩、真夜中にシェルターを抜け出したケインはナース寮に侵入。たまたま居合わせた8人のナースたちをひと部屋に監禁した彼は、一人また一人と部屋の外へ連れ出してはサディスティックに陵辱し、そして平然となぶり殺していく。

f0367483_14595792.jpg

これはなんとも奇妙で不思議な立ち位置の映画である。ストーリーの骨格は「暗闇にベルが鳴る」('75)や「ハロウィン」('78)の系譜に属するスラッシャー・ホラー。しかし、同時にベトナム帰還兵の心の闇と北アイルランド紛争の悲惨な地獄を背景に織り混ぜることで、暴力の溢れかえった現代社会の病理を浮き彫りにする社会派映画という側面も持ち合わせているのだ。

f0367483_14595269.jpg

本作の主人公ケインにはモデルがいる。1966年にシカゴの病院女子寮で8人の看護実習性を殺害したシリアル・キラー、リチャード・スペックである。といっても、8人の若い女性ナースを殺したこと、幼い頃に虐待されて(スペックは義父からだが)育ったこと以外の共通点は全くない。スペックの事件は日本の若松孝二監督の「犯された白衣」('67)をはじめ様々な映画やドラマ、小説や音楽などに影響を与えてきたが、本作ではベトナム戦争と北アイルランド紛争を絡めることで、戦争や暴力の蔓延る現代社会が生み出した怪物として描いているのだ。

f0367483_14594297.jpg
撮影の大半は当時の西ドイツで行われているものの、屋外シーンの多くは実際にテロが頻発するベルファストでロケされており、無残に荒廃した街並みや行き交う人々の沈んだ面持ちが、作品に生々しいリアリズムと緊張感を与えている。さらに、テレビに映し出されるベトナム戦争の悲惨な記録映像や犯罪ニュースが、'70年代当時の荒みきった世相をまざまざと浮き彫りにし、本作のテーマとメッセージを明確なものにしていく。

f0367483_14594545.jpg
その一方で、後半の大量殺人シーンは、アメリカのスラッシャー映画のみならずイタリアのジャッロ映画も顔負けの露骨なエロスとバイオレンスが満載だ。まるで己の力を見せつけるように、女性たちを跪かせ、徹底的に辱め、そして残酷な方法で命を奪うケイン。これが40分以上も続くのだから、見ている方も心がどんより。かなり精神的にヘヴィーな作品だと言えるだろう。後味も相当悪い。

f0367483_15000079.jpg
監督はクロード・シャブロルの「刑事キャレラ/血の絆」('78)やルイ・マルの「アトランティック・シティ」('80)、ジャン=ジャック・アノーの「人類創世」('81)などの名作をプロデュースしたフランス系カナダ人のドゥニ・エルー。ドキュメンタリー・タッチのアートフィルム的なリアリズムと、エクスプロイテーション的なエロスとバイオレンスを兼ね備えた微妙なラインの演出は、初期のクローネンバーグとも相通ずるものがあるかもしれない。と同時に、そこが賛否の分かれるポイントでもあり、恐らく露骨なセックス描写とバイオレンス描写に関しては強い抵抗感を覚える観客もいるだろう。また、主人公が女性たちを殺すに至るまでの心理の変化が十分に描かれているとは言えないため、話の展開に無理があると感じる向きもあるはずだ。

f0367483_14593794.jpg
あと、本作の大きな見どころでもあるのがキャストの豪華さ。しかも、いわゆるエクスプロイテーション映画とはおよそ結びつくことのない、主にヨーロッパのアート系映画で知られるような役者が多くを占めているのだ。主人公のケイン役にはフォルカー・シュレンドルフやマルグリット・デュラス、エリック・ロメールなど数々の巨匠に愛された名優マチュー・カリエール。残念ながら英語のセリフは別人によって吹き替えられており、これがあまり上等とは言えないような出来なのが惜しまれるものの、あの独特のアンニュイな風貌がケインの歪んだ狂気に説得力を持たせている。

f0367483_14594951.jpg
さらに、若いナースたちを束ねるお姉さん的存在のエイミーには、「ハンカチのご用意を」('78)で絶賛され「勝利への脱出」('80)でハリウッドにも進出したカロル・ローレ。妊娠中のレイラ役にはアラン・タネールの「ジョナスは2000年に25歳になる」('76)で有名なミリアム・ボイエが扮している。他にも、ミケランジェロ・アントニオーニの「ある女の存在証明」('82)やフィリップ・ガレルの「自由、夜」('83)に主演したクリスティーヌ・ボワッソン、ファスビンダーやヘルツォークのミューズとして知られるエヴァ・マッテス、増村保造の「エデンの園」('80)に主演したレオノーラ・ファニ、イタリア産アクションやサスペンスのヒロイン役として引っ張りだこだったエリ・ガレアーニなどが登場。クリスティーヌとレオノーラは大胆なレズビアン・シーンにも挑んでいる。

なお、いまだにオフィシャルなDVDソフトが存在しない本作。複数のメーカーからDVDリリースはされているものの、いずれも古いVHSからの劣悪なコピーだ。正式なソフト化が待たれる。

f0367483_15000313.jpg
評価(5点満点):★★★☆☆

参考DVD情報(アメリカ盤)
カラー/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:1.0ch Dolby Digital/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/時間:88分/発売元:CFS Releasing (2011)
特典:なし




by nakachan1045 | 2016-08-15 17:01 | 映画 | Comments(0)

カテゴリ

全体
映画
音楽
未分類

お気に入りブログ

なにさま映画評

最新のコメント

昔、NHKで見たので記憶..
by さすらい日乗 at 12:59
> さすらい日乗さん ..
by nakachan1045 at 10:21
これは、公開時に今はない..
by さすらい日乗 at 07:33

メモ帳

最新のトラックバック

venussome.co..
from venussome.com/..
venuspoor.co..
from venuspoor.com/..
venuspoor.com
from venuspoor.com
http://while..
from http://whileli..
http://while..
from http://whileli..
http://www.v..
from http://www.val..
オペラ・ブッファの傑作で..
from dezire_photo &..

ライフログ

検索

ブログパーツ

最新の記事

「ニンジャⅡ:修羅ノ章」 R..
at 2017-06-19 19:12
「アムステルダム・キル」 T..
at 2017-06-18 23:19
「Mansion of th..
at 2017-06-15 19:34
「燃えよNINJA」 Ent..
at 2017-06-12 04:46
L'orribile seg..
at 2017-06-11 03:14

外部リンク

ファン

ブログジャンル

映画
ライター