なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「暖流」 The Warm Current (1939)

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監督:吉村公三郎
原作:岸田國士
脚色:池田忠雄
撮影:生方敏郎
音楽:早乙女光
出演:佐分利信
   水戸光子
   高峰三枝子
   徳大寺伸
   斎藤達雄
   藤野秀夫
   葛城文子
   槇芙佐子
日本映画/124分/モノクロ作品





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<あらすじ>
院長の志摩泰英(藤野秀夫)が病に倒れて以来、院内の派閥争いが表面化して経営が傾きかけた総合病院。恩人である泰英によって台湾から呼び戻された有能な青年・日疋祐三(佐分利信)は、病院の立て直しのために全権を委任される。
とはいえ、いきなり外部から現れて改革に乗り出そうとする日疋のことを、古株のドクターたちが快く思うはずもない。まずは泰英の不出来な息子で資産を食いつぶしてばかりの副院長・泰彦(斎藤達雄)の放蕩三昧に歯止めをかける日疋だったが、しかし院内の改革はなかなか進まない。そこで、彼は病院の将来を案ずる真面目で一本気な看護婦・石渡ぎん(水戸光子)の正直さを買い、秘かに彼女をスパイとして情報収集を任せることにする。
そんな日疋の半ば強引なやり方を静かに見守るのが、院長の娘である美しき令嬢・啓子(高峰三枝子)。聡明で気立ての良い啓子は、時に独断的な日疋の行動にやんわりと釘を刺しつつも、陰ながら応援をしていた。また、幼馴染のぎんに対しても親愛の情を抱いている。その啓子に熱い視線を送るのが外科の有望な若手医師・笹島(徳大寺伸)。彼には看護婦の堤ひで子(槇芙佐子)という恋人がいたが、野心的な笹島は彼女を手ひどく振り、啓子に積極的なアプローチを試みる。傷ついたひで子は病院を去った。
日疋の信頼を得たことで心を許したぎんは、いつしか彼のことを一方的に深く愛するようになる。だが、あくまでも病院の改革のため彼女に協力してもらっているという意識しかない日疋は、ぎんに対して特別な感情があるわけでもなければ、彼女の気持ちにすら全く気づいていない。実は、彼は秘かに啓子へ想いを寄せていたが、仕事を遂行するために恋愛は邪魔、それにそもそも彼女は別世界の人間だと考えていた。だが、そうとは知らないぎんが笹島とひで子の関係を日疋に告白し、啓子の婚約者として相応しくないのではないかと進言したことから、この三角関係は思いもよらぬ方向へと展開していく…。


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これまで幾度となく映画化・ドラマ化されている岸田國士の小説の、戦前の最初の映画化に当たる。佐分利信に水戸光子、高峰三枝子、そして徳大寺伸と松竹のトップスターをズラリと揃えた豪華なキャスト。戦後に「安城家の舞踏会」('47)や「源氏物語」('52)などの名作を生み出す吉村公三郎のハリウッド・メロドラマを彷彿とさせる華麗な演出。戦前の日本映画がいかに洗練されていたのか、如実に物語ってくれる作品だと言えるだろう。

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とはいえ、本来は前編・後編の合計3時間で構成されていたものの、現存するフィルムは戦後に再編集された124分の短縮版のみ。ゆえに、どことなくストーリー的に舌足らずな印象を受けることも否めない。病院内の権力争いもそれほど深刻なようには見えないし、病院や同僚たちの将来を案ずるぎんの深い苦悩も少々大袈裟に感じられる。それもこれも、恐らくは尺が削られてしまったことに起因するのだろう。特に後半、啓子と日疋、ぎんのそれぞれの気持ちがコロコロと移り変わる辺りの目まぐるしさには少なからず戸惑う。この短縮版をもってして、本作の良し悪しを語るのは無理があるかもしれない。

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ただ、吉村監督がフェミニズムに重きを置いていることは間違いないだろう。本作に出てくる男たちは、多かれ少なかれ誰もが身勝手だ。権力欲や出世欲、金銭欲に取りつかれた笹島や泰彦は勿論のこと、正義感と責任感に突き動かされて行動する日疋ですら、真っ当な理由があるにせよ、目的のために他人を利用することしか考えておらず、大切なことをいつも見逃している。そんな浮ついた男たちに比べて、女は常に冷静で賢く地に足がついており、野心だの大義名分だのに振り回されることなくしっかりと真理を見極めている。そして、涙を飲んで耐えるのもまた女。どこまでも女性の側に寄り添っているのが、女性映画の巨匠たる吉村監督ならではだ。

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戦前の新橋や東京などの街角風景、鎌倉山の美しい自然などを垣間見ることができるのも大きな魅力。裕福な志摩家の贅沢な暮らしぶり、日疋やぎんら庶民のありふれた日常など、今となっては失われた戦前の日本の風俗や習慣も興味深い。揮発と呼ばれるベンジンでスーツのシミ抜きをするシーンなど、何気ない描写から当時の日本人の生活が鮮やかに浮かび上がる。それもまた、古い映画だからこその愉しみだ。

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少々鈍感で無骨だが責任感の強い日疋を演じる佐分利信のダンディな男らしさ、控えめだが意志の強い大和撫子ぎんを演じる水戸光子の健気さ、天真爛漫だが聡明で思慮深い令嬢・啓子を演じる高峰三枝子の優雅さ。華麗なスターたちの演じる三角関係は、今となってはなんとも慎ましい。名作「按摩と女」の按摩・徳市役で有名な徳大寺伸の、都会的で洗練された二枚目ぶりもちょっと新鮮。現在でも十分に通用するくらいイケメンだ。そういえば、「按摩と女」では徳大寺・高峰・佐分利の三角関係が描かれていたっけ。

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また、高峰三枝子が身にまとう豪華な衣装の数々も必見。洋装・和装どちらも実にゴージャスかつ洗練されており、彼女の浮世離れした美貌がなお一層のこと際立つ。まるでノーマ・シアラーかグレタ・ガルボかと言わんばかりのドレスを、あれだけ堂々と着こなせる女優というのも、当時は彼女か原節子以外になかなかいなかったのではなかろうか。

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評価(5点満点):★★★★☆

参考DVD情報(日本盤)
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:1.0ch Dolby Digital Mono/言語:日本語/字幕:なし/地域コード:2/時間:124分/発売元:コアラブックス/松竹
特典:なし




by nakachan1045 | 2016-08-16 01:26 | 映画 | Comments(1)
Commented by さすらい日乗 at 2016-08-22 12:59 x
昔、NHKで見たので記憶が曖昧ですが、やはり増村保造のリメイク版の方が面白かった記憶があります。
原作の小説の岸田国士は、元はフランス演劇の人で文学座の創設者の一人です。しかし、なぜか戦時中は日本文学報国会の事務局長になってしまい。戦後は、その性で不遇のまま亡くなってしまいます。岸田は左翼ではありませんが、吉村公三郎はやや左翼的というか、時代に相応した監督だと言えるでしょう。大船の後輩の鈴木清順は、吉村公三郎が一番好きだったそうです。
岸田の娘岸田今日子の醒めた演技には、父親の時代に翻弄されたことが影響を与えているのではないかと私は思っています。

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