なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「狙撃」 Sun Above, Death Below (1968)

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監督:堀川弘通
製作:貝山知弘
脚本:永原秀一
撮影:長谷川清
美術:村木忍
ガン・アドバイザー:国本圭一
音楽:真鍋理一郎
出演:加山雄三
   浅丘ルリ子
   森雅之
   岸田森
   藤木孝
   船戸順
   サリー・メイ
   小沢昭一
日本映画/86分/カラー作品





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<あらすじ>
早朝の東京都内。ビルの屋上からライフル銃を片手に新幹線の線路を狙う男。彼の名は松下徹(加山雄三)、職業は凄腕の殺し屋。クライアントの指示を受けた彼は、眼下を走る特急ひかり号の一等車に乗るターゲットのこめかみを射抜き、満足そうな表情を浮かべて静かに立ち去る。
大学時代に射撃の腕を磨き、銃を撃つために生きている松下。ある日、彼は射撃場で美しいファッションモデル、小高章子(浅丘ルリ子)と知り合う。珍しい蝶の標本を収集し、ニューギニアの太陽に憧れる章子に、漠然と惹かれるものを感じる松下だったが、しかし彼女を抱く気にはなれなかった。
松下に商事会社を経営する花田(藤木孝)から新たな仕事の依頼が舞い込む。外国系犯罪組織が密輸する金塊の強奪計画だ。仕事を引き受けた彼は、米軍基地の近くで銃器店を営む左翼過激派崩れの友人・深沢(岸田森)のもとを訪れ、米軍兵が横流ししたソ連製ライフルを手に入れる。一度仕事で使った銃は二度と使わないのが殺し屋の鉄則だ。
金塊強奪は成功。生きている実感を取り戻した松下は、その足で章子のマンションを訪ねて彼女を激しく抱く。めくるめく愛と享楽の日々を送る松下と章子。しかし、それでも2人の間には縮まらない心の距離がある。
一方、花田は強奪した金塊を売り捌けずにいた。犯罪組織の影響力を恐れたブローカーたちが、軒並み取引を拒んできたからだ。しかも、組織は報復のために一人の殺し屋を差し向ける。ベテランの片倉(森雅之)だ。松下の周辺に出没しては、まるで敵の品定めをするかのように振舞う片倉。やがて花田と社員たちは片倉によって皆殺しにされ、松下と章子にもその魔手が迫る…。



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'60年代末の暗くペシミスティックな世相を背景に、ハードボイルドなリアリズムを追求して一世を風靡した“東宝ニューアクション”。その原点であり、恐らく最高傑作と呼べるのが、若大将こと加山雄三が孤独な殺し屋を演じた「狙撃」である。

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冒頭からいきなり新幹線の狙撃シーンで始まる。ビルの屋上にひっそりと身を潜め、弾丸を一つ一つ丁寧に弾倉へ込めていき、タバコの煙で風向きを読む。もちろん、すぐに火を消して吸殻はポケットへ。証拠は一切残さない。照準器越しに走行する新幹線車内のターゲットを見定め、一発でこめかみを仕留める。素早く武器をしまってその場を立ち去り、愛車2000GTを走らせて都内(恐らく新橋辺り)のコインロッカーへ。なに食わぬ顔で街中へ姿を消し、ひとしきり女を抱く。タイトルロールまでおよそ7分間。カメラは寡黙で冷静な主人公・松下の行動を淡々と追う。その間のセリフは一言だけ。クライアントの指示に対する「了解」という返答のみ。このオープニングで一気に作品の世界へ引き込まれる。

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気だるいジャズのメロディ、官能的なボサノバのリズムに女声スキャット。大都会のビルの谷間を疾走する真っ白なトヨタ2000GT。フレンチ・ノワールを彷彿とさせるクールで洗練されたアダルトなムード、随所に挿入されるサイケデリックでアバンギャルドなイメージ。一切の無駄を省いたストイックなアクション。それはもうシビレるほどにカッコいい。当時ロサンゼルスタイムスの映画評でマックイーンの「ブリット」と並び称され、高い評価を得たとのことだが、それもむべなるかなの見事な完成度である。

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何よりも特筆すべきは、日本映画として前代未聞とも言えるリアルなガンアクションの描写であろう。オープニングのライフルは実銃を使用。画面に映る弾丸も実弾だ。その他のモーゼルやAK47は、本物と寸分違わない金属製モデルガンを東宝美術部が撮影用に用意。これは1971年の銃刀法改正でモデルガンの仕様が規制される以前だから可能だった。しかも、ガン・アドバイザーとして16歳から拳銃殺陣師の仕事をしているエキスパート、国本圭一が監修を担当。銃の正確な仕様からプロの使い方まで細かく指導し、どこまでも本物らしく描かれている。銃撃シーンのスローモーションでは、ちゃんと薬莢が飛んでいるという徹底ぶり。松下の愛用するレザージャケットの肩当てが、ライフルの銃床で磨り減っているなど、つい見逃しがちなディテールの描写にも寸分の抜かりはない。

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監督の堀川弘通は黒澤明のチーフ助監督出身で、時代劇からコメディ、文芸ものまで幅広いジャンルを手がけた職人肌だが、本作ではこれぞ洗練の極みとも言うべき都会的なセンスを遺憾なく発揮している。めくるめくラブシーンの幻想的な映像マジックなどは白眉。裸で熱く愛を交わす松下と章子の姿に、虹色の蝶やニューギニアのジャングル、灼熱の太陽、火を吹くライフルの銃口、ギリシャ神話の神々、中世宗教画の悪魔などのイメージが次々とオーバーラップしていく。

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さらに、ゴーゴークラブのサイケな妖しい照明のもとで踊り狂う松下と章子の姿、アップテンポなゴーゴーサウンドを寂しげなボサノバのリズムと切ないスキャットが覆い尽くし、刹那的な喧騒の中で彷徨う2つの孤独な魂が浮かび上がる。なんという洒脱、なんという哀切。この日本映画離れした演出は、堀川監督や長谷川清カメラマンの力量もさる事ながら、洋画志向の強かった貝山知弘プロデューサーの意向も色濃く反映されているのだろう。

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松下の2000GTが刺客・片倉の乗ったヘリに追撃される空撮シーンや、真夜中のカーチェイスシーンなどのスピーディかつ流麗なカメラワークも素晴らしい。まるで巌流島の宮本武蔵と佐々木小次郎を彷彿とさせるラストの一騎打ちも緊張感たっぷりだ。ハリウッド映画のように派手なドンパチではなく、殺しの美学とも言うべきスタイルに重きを置く。あえて荒唐無稽を排したミニマルなスタントが、低予算でも一流のアクションが撮れることを証明してくれる。

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若大将シリーズで健康的な好青年のイメージが定着する中、あえてニヒルで孤独な殺し屋という真逆の役柄に挑んだ加山雄三。「俺は好きな銃で最高の標的、つまり人間を撃つ。ただ撃つ。俺が生きるために、自分が生きていると感じるために」と独白する主人公・松下は、銃なしでは生きていけない屈折した男だ。そこにはモラルも私情もない。ただただ歪んだ本能あるのみ。殺すか殺されるかの緊張の中でしか生を実感できない彼は、銃がないと女を抱くことすらできないのだ。この一種異様な人物を演じる加山雄三は、確かにまだどこか役柄に馴染まないというか、ぎこちなさのようなものを払拭できないでいるものの、それでも堀川監督のノワーリッシュな演出のおかげで、クールな佇まいを見せてくれる。

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一方で文句なしに見事なのは章子役の浅丘ルリ子だ。妖艶かつアンニュイ、セクシーでコケティッシュ。彼女もまた、松下同様に屈折したメンタルを内包したキャラクターだ。冒頭の狙撃事件を報ずるラジオニュースに、「何発撃ったのかしら、その人」と呟く章子。「一発だ」と松下が言うと、すかさす「そうね、二発じゃ格好悪いもの」と微笑む。この男にしてこの女あり。虚飾に満ちたファッション界に退屈し、色とりどりの美しい蝶に魅了され、ニューギニアの太陽を渇望する。本能のままに赴く女。ただ男に抱かれるだけではなく、自ら能動的に男の肉体を貪る。この大胆なセックスシーンを演じる浅丘ルリ子のカッコイイこと。本作のために日活から彼女を借りてきたわけだが、当時の優等生的な東宝女優にこの役をできる者はいなかったに違いない。

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主演の加山雄三以上に意外なキャスティングだったのは、黒澤明や成瀬巳喜男などの巨匠に愛されたインテリ名優・森雅之が敵方の刺客・片倉を演じていること。しかも、華麗な手さばきのガンプレイで襲い来るシェパードの群を次々と射抜くわ、ラストの一騎打ちでは砂浜を猛ダッシュで駆け抜けるわと、アクション俳優さながらの身軽な演技を披露してくれる。これには少なからず驚かされるだろう。その上、穏やかな笑顔と柔らかい物ごしで平然と人を殺しまくる。いかにも悪人らしい悪人よりもよっぽど怖い。

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また、この大嫌いな日本を滅茶苦茶にしてやりたいと社会を呪う過激思想の左翼青年・深沢には岸田森。出番こそ少ないものの、当時の日本の暗澹たる空気を体現する。さらに、怪しげな商事会社の社長・花田にはツイスト・ブームの火付け役である元ロック歌手の藤木孝。いかにも胡散臭い感じが相変わらずハマっている。

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評価(5点満点):★★★★★

参考DVD情報(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:Dolby Digital Mono/言語:日本語/字幕:なし/地域コード:2/時間:86分/発売元:東宝(2013)
特典:貝山知弘プロデューサー インタビュー(約38分)/国本圭一(ガン・アドバイザー) インタビュー(約34分)/オリジナル劇場予告編/スチールギャラリー/スチールギャラリー スペシャル


by nakachan1045 | 2016-08-20 23:57 | 映画 | Comments(0)

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