なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
プロフィールを見る
画像一覧
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

「その男を逃すな」 He Ran All The Way (1951)

f0367483_10285462.jpg
監督:ジョン・ベリー
製作:ボブ・ロバーツ
原作:サム・ロス
脚本:ガイ・エンドア
   ヒューゴ・バトラー
   ダルトン・トランボ
撮影:ジェームズ・ウォン・ハウ
音楽:フランツ・ワックスマン
出演:ジョン・ガーフィールド
   シェリー・ウィンタース
   ウォーレス・フォード
   セレナ・ロイル
   グラディス・ジョージ
   ノーマン・ロイド
   ボビー・ハイアット
   キース・ヘザリントン
アメリカ映画/78分/モノクロ作品





<あらすじ>
口うるさい母親(グラディス・ジョージ)と狭いアパートに暮らす無職の男ニック(ジョン・ガーフィールド)。コソ泥仲間のアル(ノーマン・ロイド)の発案で強盗を計画するが、小心者で神経質なニックは気が進まない。しかし、アルの押しの強さに負けて加担することになる。
とある工場へ忍び込む2人。従業員の給料を入れたカバンを盗むという計画だったが、逃走する際に護衛の警官にアルが撃たれてしまう。仲間を置き去りにして必死で逃げるニックは、追いかけてくる警官に向けて発砲。相手が倒れた隙に逃走した。
人でごった返す市営プールへと逃げ込んだニック。そこで彼はペギー(シェリー・ウィンタース)という若い女性と知り合う。ペギーの親切心を巧みに利用し、彼女の自宅へ上がり込んだ彼は、そこで夜まで待つつもりだった。
ところが、映画鑑賞から帰ってきたペギーの両親(ウォーレス・フォード、セレナ・ロイル)と幼い弟トミー(ボビー・ハイアット)が外で隣人と話をしている姿を見て、張り込みの刑事と話をしているのではないかと疑った彼はパニックを起こし、ポケットに隠し持っていた拳銃を取り出して一家を脅迫。そのままアパートに立て篭ることとなる。
翌日の新聞で警官が死亡したこと、自分の身元が割れたことを知ったニック。隣人から不信がられないよう、ペギーと父親はいつも通り職場へ出勤し、母親と弟トミーが人質となる。自分の母親に車を用意させようと、ペギーに連絡を取らせるニックだったが、母親は既に息子のことを見限っていた。
過度の被害妄想と強迫観念から焦りを募らせるニック。ペギー一家の固い絆と家族愛が、愛情を知らずに育った彼をさらに苛立たせる。そんな彼に自首を説得するペギーだったが、それが叶わないと知った彼女は、自らの命を犠牲にしてでも家族を救おうとする…。


1950年代のハリウッドで吹き荒れた赤狩りの嵐。その公聴会における証言…つまり自分のキャリアを守るため他者を告発することを拒否しせいで、まさに役者としてこれからという時期に映画界を干され、そのストレスから39歳という若さで心臓発作のため亡くなったジョン・ガーフィールド。そんな悲しい運命をたどった名優の、結果的に遺作となってしまったフィルムノワールの隠れた名作だ。

ストーリーは極めてシンプル。強盗を働いて逃亡中の男が、見知らぬ他人の家に上がり込んで立て篭るというだけの話だ。上映時間も80分に満たない短さ。だが、その中で当時の貧しい一般庶民の暮らしを丁寧に織り込みながら、同じ労働者階級でありながら愛情に溢れた仲睦まじい善良な一家と、猜疑心の強いひねくれた小悪党の明暗を分けたものとは何なのか…?を見る者に問うていく。サスペンスフルかつ非常に密度の濃い、社会派の人間ドラマとして仕上げられている。

何よりも主人公ニックを演じるジョン・ガーフィールドが素晴らしい。極端に被害妄想が強くて神経質。思慮が浅くて堪え性がないので、すぐに癇癪を起こして暴力に訴える。他人を信用せず、常に自分の身を守ることしか考えていない。愛情を知らずに育ったせいで、人間の善意や良心などはなから信じていないが、しかし心のどこかで愛情に飢えている。そんな屈折した孤独な男が、極限状態の中で精神的に壊れていき、自ら身を滅ぼしていく様をガーフィールドは徹底したリアリズムで演じる。同じように追い詰められた男の醜い悪あがきを演じた「郵便配達は二度ベルを鳴らす」('46)もそうだが、彼は社会の底辺で這いつくばる負け犬の哀しみを体現して抜群に光る。「欲望という名の電車」('51)や「波止場」('54)のマーロン・ブランドにも通じる個性だといえよう。

骨太な社会性と繊細な心理描写を兼ね備えたジョン・ベリー監督の演出も見事。シンプルでありながら雄弁だ。彼もまたガーフールド同様、赤狩りのため本作を最後にハリウッドを追放され、60年代に復帰するまでフランスでの活動を余儀なくされた。そもそも、本作は赤狩りでブラックリストに入れられた関係者が少なくない。脚本にはダルトン・トランボとヒューゴ・バトラーが参加しているが、どちらも当時は既にブラックリスト入りしていたため、本編ではガイ・エンドアのみしかクレジットされていない。恐らく、実質的にはトランボとバトラーの脚本だったのだろう。また、ペギーの母親を演じている女優セレナ・ロイルも、本作の直後に公聴会の証言を拒否してハリウッドを追われた。

ニックの中に本来の人間性を見出し、なんとか自首させて更生の道を歩ませようとするヒロインのペギーを演じているのは、当時まだ若くてスリムだった名女優シェリー・ウィンタース。この直後に出演した「陽のあたる場所」('51)でオスカー候補となり、「アンネの日記」('59)と「いつか見た青い空」('65)で2度のアカデミー助演女優賞に輝く。ここでは水泳があまり得意ではなく、プールで練習をしていたところ、たまたまぶつかったニックに泳ぎを教えてもらったことから親しくなるという設定なのだが、そのおよそ20年後に「ポセイドン・アドベンチャー」('72)で元水泳選手の中年婦人を演じることを考えると興味深い。

そのほか、ジョン・フォード映画の常連俳優ウォーレス・フォード(血縁関係は無し)や'30年代に活躍した個性派女優グラディス・ジョージ、ヒッチコック映画の悪役としてお馴染みのノーマン・ロイドらが脇を固めている。ちなみに、ロイドは101歳になる現在も第一線で活躍中だ。

評価(5点満点):★★★★☆

参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:なし/地域コード:A/時間:78分/発売元:Kino Lorber/MGM/20th Century Fox (2015)
特典:オリジナル劇場予告編


by nakachan1045 | 2016-08-22 12:58 | 映画 | Comments(0)

カテゴリ

全体
映画
音楽
未分類

お気に入りブログ

なにさま映画評

最新のコメント

昔、NHKで見たので記憶..
by さすらい日乗 at 12:59
> さすらい日乗さん ..
by nakachan1045 at 10:21
これは、公開時に今はない..
by さすらい日乗 at 07:33

メモ帳

最新のトラックバック

venussome.co..
from venussome.com/..
venuspoor.co..
from venuspoor.com/..
venuspoor.com
from venuspoor.com
http://while..
from http://whileli..
http://while..
from http://whileli..
http://www.v..
from http://www.val..
オペラ・ブッファの傑作で..
from dezire_photo &..

ライフログ

検索

ブログパーツ

外部リンク

ファン

ブログジャンル

映画
ライター