なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「スリープウォーカーズ」 Sleepwalkers (1992)
製作:マーク・ヴィクター
マイケル・クレイス
ネイビール・ザード
脚本:スティーブン・キング
撮影:ロドニー・チャーターズ
特殊メイク:トニー・ガードナー
音楽:ニコラス・パイク
出演:ブライアン・クラウズ
メッチェン・アミック
アリス・クリーグ
ジム・ヘイニー
シンディ・ピケット
ロン・パールマン
ライマン・ウォード
ダン・マーティン
グレン・シャディックス
カメオ出演:スティーブン・キング/ジョン・ランディス/ジョー・ダンテ/クライヴ・バーカー/トビー・フーパー/マーク・ハミル
アメリカ映画/89分/カラー作品
<あらすじ>
カリフォルニアのとある港町。辺り一面に猫の死体がぶら下がった一軒家で、ミイラ化した少女の死体が発見される。だが、住人であるブロディ母子の姿はなく、そのまま行方をくらましていた。
彼らはメアリー(アリス・クリーグ)にチャールズ(ブライアン・クラウズ)と名前を変え、インディアナ州の田舎町へと移り住んでいた。実はこの母親と息子、処女の精気を吸うことで生き長らえる猫科の魔物スリープウォーカーだった。超人的な怪力を持ち、自在に物を動かしたり姿を消したり出来る彼らだったが、唯一の弱点は猫だ。
映画館でアルバイトをする地元の女子高生ターニャ(メッチェン・アミック)を次のターゲットに選んだ母子。ハンサムなチャールズが獲物を誘惑する担当だった。全く疑うことなくチャールズに夢中となるターニャ。クラスの意地悪な担任教師ファローズ(グレン・シャディックス)だけは彼の怪しい素性に気付くが、脅迫しようとして反対に殺されてしまう。
まんまとターニャをデートに誘ったチャールズだったが、キスをした途端に食欲に目覚めてしまい、スリープウォーカーとしての正体を現す。逃げようとして必死に抵抗するターニャ。そこへ警察官アンディ(ダン・マーティン)が駆けつけるものの、彼もまた無残にも殺されてしまう。絶体絶命のターニャを救ったのは、アンディの愛猫クローヴィスだった。
全身に傷を負って息も絶え絶えで、腹をすかせた母親の待つ自宅へ戻ったチャールズ。息子の無残な姿を見たメアリーは復讐に燃え、家の前に張り込んでいる警官を殺害してターニャの家へ向かう。
娘を守ろうとした父親(ライマン・ウォード)と母親(シンディ・ピケット)を襲撃し、ターニャを連れ去るメアリー。それを止めようとした警察官ソームス(ロン・パールマン)も犠牲となる。ターニャの精気を奪って息子を蘇らせようとするメアリーだったが、そこへどこからともなく集まった猫の集団が襲いかかる…。
初めて見た時には、なんたる傑作!すげえ面白いじゃん!と少なからぬ感銘を受けたものの、後になって改めて見直すとそうでもなかった…という映画はよくあるもの。ホラー小説の大家スティーブン・キングが脚本を書き下ろした本作も、筆者にとってはそうした映画の一つである。
スリープウォーカーとはヴァンパイアのようなクリーチャー。ただし、吸うのは血ではなく若い処女の精気だ。普段は人間の姿をしているが、その正体は猫の全身の毛を剃って人間サイズにしたような化け物。いわば猫科のモンスターである。劇中の描写から察するに、古代から脈々と生きながらえてきた種族らしく、ヴァンパイアの始祖とも考えられているという。人間を獲物とするため、一ヶ所に定住することは出来ず、処女の精気を吸っては別の場所へ移動することを繰り返している。しかも、どうやら既に仲間の多くは死んでおり、もはや絶滅寸前のようだ。人目を忍んで流れさすらう孤独な異形の種族。なかなかロマンティックで魅惑的な設定ではないか。
出だしの雰囲気は悪くない。平凡な日常の隙間で息を潜める魔の空間、この世に頼れるのはお互いだけと手を携える母子、愛憎渦巻く妖しい近親相姦関係。背徳的であり、伝奇的であり、アメリカン・ゴシック的である。しかし、ミック・ギャリス監督の演出には一貫した美学のようなものが著しく欠けるため、どこか垢抜け切らないところがある。野暮ったいのだ。しかも、チャールズがターニャの前で正体を現すシーンになると、突如として作品はスラップスティック・コメディへ。その後も、シリアスとコメディの間を行ったり来たりし続ける。そういう意味でも、まるで一貫性がない。
また、当時テレビドラマ「ツインピークス」のシェリー役でブレイクしていた女優メッチェン・アミックふんするヒロイン、ターニャが、終始逃げ回ってばかりなのも不満が残る。しかも、大声で泣きわめいたり叫んだりとうるさい(笑)。辛うじて絶体絶命の瞬間には、相手に傷を負わせるくらいのことはするものの、それでも面と向かって対決するようなことは最後までない。当時ですら時代遅れな感のある、古典的な絶叫ヒロイン。おかげで犠牲者は続出。「13日の金曜日」シリーズのヒロインたちですら、最後は意を決して戦ったというのに!もうちょっと頑張れよ!と突っ込まずにはいられない。
あと、これは古い映画なので仕方ないのだが、当時のCG技術、特にスリープウォーカーたちが人間からモンスターへ変わる際のモーフィングのクオリティはさすがに安っぽい。変身時のクリーチャー・スーツの出来栄えもいまひとつ。というより、恐らくこれは見せ方の問題だろう。
スティーブン・キングの脚本は面白いし、アメリカン・ゴシックな雰囲気たっぷりのプロダクション・デザインも魅力的。そもそものポテンシャルは非常に高い作品なのだが、結局のところミック・ギャリス監督の力量不足が足を引っ張ったという印象だ。とはいえ、スティーブン・キングはギャリス監督のことをいたく気に入っていたようで、本作以降も「ザ・スタンド」('94)や「シャイニング」('97)、「骨の袋」('11)など、自作のテレビ・ミニシリーズ版の演出をことごとく彼に任せている。演出家としては決して一流とは言えないギャリスだが、ホラーのジャンルには人並み外れて精通しているためか、キングはもとよりスピルバーグからマイケル・ジャクソンまで、実に幅広い人脈を誇るエキスパートでもある。本作でもトビー・フーパーやクライヴ・バーカー、ジョー・ダンテ、ジョン・ランディスといったジャンル系の巨匠・名匠がズラリとカメオ出演。冒頭ではマーク・ハミルまでもが警官役で顔を出している。
興味深いといえば、ヒロインの両親役をシンディ・ピケットとライマン・ウォードが演じていることだろう。そう、「フェリスはある朝突然に」('86)のフェリスのパパとママである。同作での共演をきっかけに結婚した2人は、本作の当時は実生活でも夫婦だった。シンディ・ピケットはロジェ・ヴァディム監督のエロティック・サスペンス「ナイト・ゲーム」('80)のヒロイン役に抜擢された元セクシー女優。でも、あの作品が大コケしたことからも察せられるように、セクシー路線は彼女に向いていなかった。ちょっと美人で感じのいいお母さん。それこそが彼女の持ち味だ。
ちなみに、チャールズ役のブライアン・クラウズは、後にテレビシリーズ「チャームド~魔女3姉妹」のパイパーと結ばれる白の守護者レオ・ワイアット役で人気となる俳優。母親マリー役のアリス・クリーグは「ゴースト・ストーリー」('80)の幽霊役がインパクト強かった女優で、冷たい気品をたたえたクラシカルな魅力を持つ人なのだが、あまり作品や役柄に恵まれないのが惜しまれる。また、あのゴリラ顔の怪優ロン・パールマンが警察のキャプテン役で登場するものの、あっという間に倒されてしまったのも残念。
評価(5点満点):★★★☆☆
参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:5.1ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:英語(SDH)・スペイン語/地域コード:A/時間:89分/発売元:Image Entertainment/RLJ Entertainment/Columbia Pictures (2013)
特典:オリジナル劇場予告編
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:5.1ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:英語(SDH)・スペイン語/地域コード:A/時間:89分/発売元:Image Entertainment/RLJ Entertainment/Columbia Pictures (2013)
特典:オリジナル劇場予告編
by nakachan1045
| 2016-08-23 08:20
| 映画
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