なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「愚者ありき」 A Fool There Was (1915)

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監督:フランク・パウエル
製作:ウィリアム・フォックス
原作:ルドヤード・キプリング
戯曲:ポーター・エマーソン・ブラウン
脚本:ロイ・L・マッカーデル
撮影:ジョージ・シュナイダーマン
出演:セダ・バラ
   エドワード・ホセ
   メイベル・フレンイヤー
   クリフォード・ブルース
   ヴィクター・ブノア
   メイ・アリソン
   ルナ・ホッジス
   フランク・パウエル
アメリカ映画/67分/モノクロ作品(サイレント)





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<あらすじ>
ニューヨークのウォール街に勤める裕福な弁護士ジョン・シュイラー(エドワード・ホセ)は、貞淑な妻(メイベル・フレンイヤー)と幼い娘(ルナ・ホッジス)を愛する良き家庭人だ。
友人や部下からも慕われる人格者で、政府から重要な外交の仕事も任されている。今度も外交交渉のためにヨーロッパへ行くこととなり、旅行を兼ねて妻と娘を連れて行くつもりだったが、直前になって義妹(メイ・アリソン)が事故で怪我をしてしまったことから、一人で船に乗ることとなった。そこで知り合ったのが、謎めいた妖艶な美女(セダ・バラ)だった。
美女の正体は、金持ちの男をたらしこんでは骨の髄まで財産を絞り取り、その挙句に捨てては次の金持ちに乗り換えている冷酷な悪女。これまで幾人もの男を破滅へと追いやってきた。今もまた一人の哀れな男(ヴィクター・ブノア)を捨てようとしているところで、彼女を追いかけてきた男は船上で拳銃自殺を遂げる。
そんなこととは露知らず、たちまち美女の虜となってしまうジョン。音信不通になってしまった彼を心配する家族や友人だったが、その頃ジョンはイタリアの避暑地で美女とのバカンスにうつつを抜かしていた。
数ヵ月後、ジョンは美女を連れてニューヨークへ戻るものの、妻子の待つ自宅へは寄り付かず、美女を連れて別宅を借り、酒と愛欲に溺れる自堕落な日々を過ごすようになった。もはや仕事も手につかず、日中から酔いつぶれ、どんどんと生気を失っていくジョン。そんな彼をよそに、贅沢三昧とパーティ三昧に明け暮れる美女。
親友トム(クリフォード・ブルース)の忠告にも耳を貸さず、妻や娘の懇願にもうわの空のジョンは、まるで麻薬中毒者のごとく美女なしでは生きていけない身になっていた。ほとんど廃人寸前の彼を、家族や友人は救うことが出来るのだろうか…?

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映画史上最初のセックス・シンボルと呼ばれるサイレント期の大物スター女優セダ・バラ。かつて映画界にはヴァンプ女優という言葉があった。ヴァンプとは妖婦。つまり、セックスを武器に男を骨抜きにして破滅させてしまう悪い女のことだ。吸血鬼=ヴァンパイアが語源だとされているが、そのヴァンプ女優第一号がセダ・バラだった。言うなれば、彼女こそが元祖セクシー女優というわけだ。

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そんなセダ・バラの出世作となった本作。役名もそのものずばり、ヴァンパイアである。もちろん、男の精気も財産も吸い取ってしまう吸血鬼のような女という意味であり、別に人間の血を吸ったりするわけじゃない(笑)。グラマラスで豊満なわがままボディ、相手の男をひれ伏せさせる高圧的で傲慢な態度、そしてコッテコテに塗りたくった迫力の超濃厚メイク。あまりにも造形が過剰すぎて、今となっては笑いすら溢れかねないのだけれど、きっと当時の概念ではこれがセクシーだったのかもしれない。まあ、何事も価値基準というのは時代によって様変わりするし、なにしろ今から100年以上も前の映画なので、その辺は推し量るしかないのだけれど。

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そもそも、セダ・バラという女優そのものが美しいのかどうか、セクシーなのかどうかという点についても、今の観客には首をひねりたくなるところかもしれない。顔つきはゴツすぎるし、体型も寸胴だし、とても男を夢中にさせるような妖婦には見えないんですけど…と言いたいところだが、とはいえサイレント時代の美人女優、例えばポーラ・ネグリとかグロリア・スワンソンとか、はたまたイタリア映画界最大のディーヴァと呼ばれたフランチェスカ・ベルティーニなどを思い浮かべても、だいたい押し並べてこんな感じ。スリムで細面の女性が美しいとされるようになったのは、もっと後のことなのだろう。

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それはそうと、作品そのものは啓蒙映画の傾向が強いように感じる。要するに、殿方、ゆめゆめこのような女と関わってはなりませんぞ、さもなくばこんな酷い目に遭ってしまうことになりますから…という戒めだ。なので、妖婦の餌食となった中年紳士ジョンの転落ぶりは徹底的に凄まじい。ラストなんて、ほとんど末期の麻薬中毒患者。おどろおどろしい演出も、まるでホラー映画みたいだ。演じているエドワード・ホセという人は、当時活劇映画の女王パール・ホワイトの映画によく出ていた役者だが、前半の溌溂と自信に満ちたエリート紳士ぶりと、後半のボロボロ&ヘロヘロになった情けない愚か者ぶりの落差は、思わず別人かと思ってしまうくらいに激しい。これはなかなかの大熱演である。

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もちろん、その一方でセダ・バラの妖艶でグラマラスな魅力を堪能するという男性向け娯楽映画の側面もある。下着姿のサービスショットもあり。さすがに、彼女が男どもを虜にして離さない“秘技”こそ描かれないものの、彼らの精根尽き果てたような姿を見ていると、あらまあ、よっぽど凄いテクをお持ちなのねえ~と想像も膨らむってもんだ(笑)。

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また、ちょっと面白いなと思ったのは、妖婦には妖婦なりの意地があるという点だ。そもそも、彼女がジョンにターゲットを絞った理由の一つは、船で乗り合わせる以前に公園で彼の家族とすれ違った際に、ジョンの幼い娘を“可愛いわね”と撫でようとしたところ、そんな怪しい人と話しちゃダメよ!みたいな感じでジョンの妻に邪魔されたこと。彼女にとって、これがある種の復讐なのではないか?と思わせるフシがあるのだ。

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さらに、イタリアの高級リゾートでジョンの知人とすれ違った際に、その知人の奥方がケバケバしい格好をした妖婦のことをチラリと見て、まるでバカにするかのように黙って通り過ぎていく。それにいたく傷ついたのか、彼女は一緒にいたジョンに対し、なんで自分を庇ってくれないのかと憤慨するのだ。もしかすると、金持ちの男ばかりを狙って破滅させる彼女を駆り立てるものとは、そうした男たちの妻や母親、姉妹といった、彼らの周囲にいる気取った上流階級婦人たちに対する憎しみなのかもしれない。

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制作は20世紀フォックスの前身であるフォックス・フィルム・コーポレーション(初公開時の社名はウィリアム・フォックス・ヴォードビル・カンパニー)。監督のフランク・パウエルは、サイレント期の貴婦人女優マージョリー・ランボーの主演作を数多く手がけた人だが、その監督作品の大半は現存していない。というか、セダ・バラの主演作もほとんどが失われてしまい、現在見ることが出来るのは本作を含めて数本のみ。ほぼ全裸に近いスケスケ衣装で体脂肪率高そうな豊満ボディをさらけ出した「クレオパトラ」('17)など、スチル写真だけは残っているものの、肝心の本編を見ることはもはや叶わない。'34年にプロダクション・コードが本格施行される前、特に'10年代後半~'20年代までのハリウッド映画は、今見ても驚くくらいに性描写が奔放だった。そういう意味でも、セダ・バラの作品というのは価値があるだけに、そのフィルムの多くが跡形もなくなくなってしまったことは非常に惜しまれる。

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評価(5点満点):★★★☆☆

参考DVD情報(アメリカ盤)
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:2.0ch Dolby Digital (ピアノ伴奏のみ)/言語:サイレント/字幕:英語/地域コード:ALL/時間:67分/発売元:Kino Video (2002)
特典:原作のルドヤード・キプリングによる詩の完全収録(テキスト)/作品批評(テキスト)/スチルギャラリー


by nakachan1045 | 2016-09-05 23:47 | 映画 | Comments(0)

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