なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「野獣狩り」 (1973)

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監督:須川栄三
製作:藤本真澄
   安武龍
原作:松山善三
   西澤治
脚本:松山善三
   西澤治
潤色:須川英三
撮影:木村大作
音楽:村井邦夫
出演:藤岡弘
   伴淳三郎
   渚まゆみ
   稲葉義男
   加藤和夫
   富川
   菅原一高
   中村まり子
   山口哲也
   中条静夫
   西本裕之
   三谷昇
   松金よね子
日本映画/83分/カラー作品





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<あらすじ>
血気盛んで正義感の強い若手刑事・船木明(藤岡弘)は、社会の不正や警察組織の官僚主義がどうしても許せず、上層部にも公然と歯向かうことから、署内でも問題児として目をつけられている。大先輩のベテラン刑事である父親・長太郎(伴淳三郎)は、なにかと暴走しがちな息子をハラハラしつつ見守っていた。
そんなある日、銀座に本社を構える外資系大企業ポップ・コーラの子母沢社長(西本裕之)が、“黒の戦線”を名乗る過激派左翼グループに誘拐されるという事件が発生。彼らは企業秘密であるコーラの原液データをマスコミに発表するよう迫るが、ポップコーラのアメリカ本社が下した決断は、代わりに30万ドルの身代金を支払うというものだった。人命よりも企業利益を優先しようというのである。
これにはさすがの鬼丸班長(稲葉義男)や長太郎も呆れ返り、怒りを隠せない明は過激派グループに共感すらしてしまう。とはいえ、現場の刑事たちにとって人命第一は変わらない。警察犬を使って独自に追跡調査をしていた鬼丸班長は、運悪く犯人グループと遭遇してしまい、半殺しの目に遭ってしまう。実は、彼らはポップ・コーラの本社ビル内に潜んでいたのである。
そうとは知らず焦る警察に、身代金を受け取るとの連絡が犯人グループから入る。団課長(加藤和夫)から身代金の受け渡し役に指名された明は、銀座の歩行者天国で犯人グループと接触。入り組んだ細い裏路地を舞台に、警察と犯人グループの追跡劇が展開するものの、身代金ごとまんまと逃げられてしまう…。

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テレビ「仮面ライダー」('71~'73)の仮面ライダー1号こと本郷猛役で日本全国の子供たちを熱狂させた藤岡弘が、番組降板の直後に主演したハードボイルドな刑事アクション。当時は真木洋子主演の女任侠映画「日本侠花伝」('73)の併映作品という添え物的な扱いだったが、これが何を隠そう、'70年代日本映画を代表するといっても過言ではない、超硬派な社会派アクション映画の大傑作なのである。

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何が素晴らしいって、本作が撮影監督デビューだった当時33歳の木村大作による、縦横無尽のダイナミックなカメラワークですよ。全編ほぼ人工照明なしの手持ちカメラ。しかも、山手線車内や地下鉄車内およびプラットホーム、池袋西口駅前に銀座の歩行者天国と、何も知らない通行人をバンバン巻き込んでの突撃ゲリラロケを敢行し、ドキュメンタリー・タッチの臨場感&躍動感溢れる映像をモノにしている。才気ほとばしるとはまさにことのこと。

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一般人に気づかれないようダンボールの中に隠れてカメラを回したり、映画の撮影じゃなくて本物の事件だと勘違いした通行人の通報で救急車や消防車が駆けつけるなど、これ今やったらモラルファシストどもの格好の餌食になるだろうなあという場面も盛りだくさん(笑)。しかも、そのいちいちをちゃんとカメラに収めて本編でバンバン使っている。迷路のように入り組んだ銀座の裏通りで繰り広げられる追跡劇のスリルと緊張感もさることながら、逃げる過激派一味を藤岡弘が全速力で追いかけるシーンの長回しなんぞ、手持ちカメラでなければ不可能な撮影だ。しかも、迫り来る藤岡を過激派が振り切ろうとして通りがかったタクシーに乗り込み、そのまま走り出したものの信号で追いつかれそうになり、焦ってタクシーから飛び出した過激派が反対車線のダンプカーに跳ね飛ばされる。そこまでを、カメラが役者と一緒になって疾走しながらワンカットで撮っているのだ。俳優もカメラマンも一心同体で体力の限界ギリギリにまで挑んだ圧巻の名シーン。とにかく作り手のパワーとエネルギーがハンパじゃない。

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また、'70年代当時の日本の不穏な世相を巧みに織り込んだストーリーもズッシリと重厚で奥が深い。組織の体面ばかりを重んじる警察上層部の事勿れ主義や官僚主義に反発し、世間に蔓延る拝金主義や利己主義に不満を募らせる主人公・明は、まさに“怒れる若者”の象徴だ。それゆえに、大企業を相手に勝ち目のない喧嘩に打って出る過激派グループへシンパシーすら抱いてしまうわけだが、結局は身代金の誘惑に負けた彼らに深く失望することとなる。それはちょうど、内ゲバの殺し合いへと堕落した学生運動に、それまで幾ばくかの共感を抱いていた当時の世間が深く失望したのと同じように。正義とはなんなのか。自分はなんのために戦っているのか。もちろん最後まで答えなど出ない。恐らく主人公・明は刑事を辞めるその日まで自らに問い続けることになるだろう。しかし、それでも自分は刑事を続けていくしかない。やり場のない憤りに呆然としながらも覚悟を固める、クライマックスの明の複雑な表情が強烈な余韻を残す。

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同時に、本作は明の父親・長太郎や上司・鬼丸ら、現場一筋で生きてきたベテラン刑事たちの悲哀も滲ませる。社会のため、人様のためと思って身を粉にして働いてきた彼らが、しかし所詮は警察という大きな組織の便利なコマでしかなく、その努力や情熱の多くは報われない。それでも不平不満など口にせず、黙々と己の職務に忠実に生きてきた刑事たちの意地と誇り、そして哀しみと怒り。そうした彼らの人生の重みというものを、本編の要所々々できっちりと織り込むことで、物語に深い奥行きと味わいを与えているのだ。物語の序盤、明け方の銀座繁華街を長太郎が彷徨う。ゴミ箱を漁る浮浪者や配達中のヤクルトのおばさん、客待ちをしているタクシー運転手などにさりげなく声をかける。何を話しているのかはほとんど聞こえないが、遠くからカメラが捉えるその姿には、長年に渡って市井の人々に寄り添い足で事件を追ってきた男の人柄がじんわりとにじみ出ており、実に情感の溢れる名シーンとなっている。

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藤岡弘と伴淳三郎も素晴らしい。良い面も悪い面もひっくるめた刑事の生きざまを背中で示してきた昔気質の長太郎と、そんな父親に少なからず反発しつつも同じ刑事の道を歩む明。一見すると非常にドライだが、しかしその言葉の節々に互への思いやりが滲む。このいかにも日本的な親子の情愛がね、しみじみと心に染み渡ってくるわけですよ。命綱なしで高層ビルの側面を歩いたり、ビルとビルの谷間をジャンプしたりと、今なら絶対に芸能事務所のOKが出ないであろう超危険なスタントシーンを自らこなす藤岡弘だが、そのがむしゃらにエネルギッシュで気骨溢れる演技は、ただのアクション俳優にとどまらないことを雄弁に物語っている。もちろん、そこにいるだけで苦労人の叩き上げ刑事の哀愁を漂わせる喜劇王・伴淳三郎の存在感も抜群だ。この人といい、いかりや長介といい、コメディ出身の人がシリアスをやると、なんでこうも上手いのだろう。

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脇役では明の恋人で四畳半の小料理屋を経営する女将・美矢子役の渚まゆみ、親友の息子・明を暖かく見守る人情肌の上司・鬼丸刑事役の稲葉義男が印象深い。ハリウッド女優ばりのゴージャスな美女というイメージの強い渚まゆみだが、ここではそのバタ臭さを一切封印して、愛する男に多くを望まず黙って支える薄化粧の控えめな女性を演じており、人生の酸いも甘いも噛み分けたいい大人の女っぷりを遺憾なく発揮。そこはかとなく漂う幸薄さが逆に魅力的だ。

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監督は仲代達矢主演の「野獣死すべし」('59)で知られる須川栄三。本作と同じ木村大作のキャメラ、藤岡弘の主演で「野獣死すべし 復讐のメカニック」('74)も撮っているが、面白さでは本作が頭一つ抜き出ている。当時は須川監督が43歳、木村大作が33歳、藤岡弘は27歳。日本映画斜陽の時代にあって、洋画に負けない斬新でカッコいいアクション映画を作ってやろうという、若き映画人たちの心意気がヒシヒシと伝わって来る。そのエネルギーとパワーは40年以上を経た今もなお色褪せていない。

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評価(5点満点中):★★★★★

参考DVD情報(日本盤)
カラー/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:Dolby Digital Mono/言語:日本語/字幕:なし/地域コード:2/時間:83分/発売元:東宝株式会社(2011年)
特典:予告編/木村大作インタビュー/オーディオ・コメンタリー:藤岡弘


by nakachan1045 | 2016-09-17 17:39 | 映画 | Comments(0)

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