なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「ドリラー・キラー」 The Driller Killer (1979)

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監督:アベル・フェラーラ
製作:ロシェル・ワイズバーグ
脚本:ニコラス・セイント・ジョン
撮影:ケン・ケルシュ
特殊効果:デヴィッド・E・スミス
絵画:ダグラス・メトロ(D・A・メトロフ)
音楽:ジョセフ・デライア
出演:ジミー・レイン(アベル・フェラーラ)
   キャロリン・マーズ
   ベイビ・デイ
   ハリー・シュルツ
   アラン・ワインロス
   ロドニー・モントリオール(D・A・メトロフ)
   リチャード・ホワース
アメリカ映画/96分/カラー作品





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<あらすじ>
ニューヨークのとある教会。礼拝堂へ足を踏み入れた男性レノ(アベル・フェラーラ)は、説教壇の前に膝まづく浮浪者らしき老人に近づく。老人に腕を掴まれ、驚いたレノは教会を飛び出した。
レノはニューヨークの片隅で暮らす売れない画家だ。アパートの部屋には恋人のキャロル(キャロリン・マーズ)、さらにそのレズビアンの恋人パメラ(ベイビ・デイ)が同居している。生活費は全てレノが出しているものの、家賃は何ヶ月も滞納しっぱなし。電話代の請求書が届いたものの、高額過ぎて払える見込みはない。馴染みの画商ダルトン(ハリー・シュワルツ)のもとを訪ね、現在取り掛かっている新作の前金として500ドルの借金を申しでるが、過去の借金が返済されていないことを理由に断られる。
その翌日、ルースターズというパンク・バンドが同じアパートにリハーサル用の部屋を借りた。大音量の音楽が深夜まで鳴り続ける。仕事に集中できないと大家に苦情を申し立てるレノだったが、全く相手にしてもらえない。逆に滞納している家賃を要求される。不満やストレスで神経が参りかけたレノは、次第に幻聴や幻覚に襲われるようになり、衝動的に日曜大工で使っているハンドドリルを手に持って夜の街へ出る。そして、気が付くと怒りに任せて浮浪者をドリルで殺していた。気持ちがスカッとした。
キャロルとパメラに誘われ、レノはルースターズのライブに行く。パメラはルースターズのグルーピーだった。しかし、演奏を聴いているうち不愉快になったレノは、ライブハウスを飛び出して部屋へ戻り、ハンドドリルを持って再び夜の街へ出る。目に入った浮浪者たちを手当たり次第に殺していくレノ。もはや中毒だった。
そのルースターのリーダー、トニー・コカコーラ(D・A・メトロフ)がレノに肖像画を依頼する。500ドルのギャラで引き受けたレノだが、トニーの傍若無人な態度にイラつき、ストレス発散のために浮浪者を殺す。やがてレノは待望の新作を完成させ、ダルトンに見せるものの酷評されてしまう。あまりのショックで言葉を失うレノ。そんな彼に失望したキャロルは家を出ていく。たった一人の心の支えを失ったレノは、みるみるうちに壊れていくのだった…。

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古今東西、インディペンデントのホラー映画を足がかりにして名を成す映画監督は少なくない。特に安上がりなドライブインシアターやグラインドハウスシアターが健在だった頃のアメリカでは、たとえ低予算の無名キャストでもそれなりに需要が見込めることから、新人や若手の映画作家にとってホラー映画は敷居の低いジャンルだった。フランシス・フォード・コッポラからデヴィッド・クローネンバーグ、ジェームズ・キャメロンにデヴィッド・リンチ、サム・ライミなどなど、その例は枚挙に暇ない。本作が長編劇映画処女作だったアベル・フェラーラもその一人である。

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とはいえ、アベル・フェラーラとホラー映画という組み合わせは決して不思議じゃない。むしろ理に適っているようにも思える。ニューヨーク派の巨匠とも呼ばれ、マフィア映画「フューネラル」('96)やサイバーパンク映画「ニューローズホテル」('98)、ジュリエット・ビノシュやマリオン・コティヤールら豪華キャストを揃えた宗教サスペンス「マリー~もうひとりのマリア~」('05)などでヴェネツィア映画祭やカンヌ映画祭の常連となったフェラーラだが、その過激な性描写と暴力描写、タブーを恐れない作家性でたびたび物議を醸してきた孤高の異端児でもある。その真骨頂が、リメイクもされた問題作「バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト」('92)だ。社会や人間の闇を抉るという意味で、ホラーというジャンルは彼のテリトリー内にあってもおかしくない。クローネンバーグやリンチと同様に。

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ただ、厳密に言うと本作は純然たるホラー映画ではない。確かに主人公のやることは完全に連続殺人鬼だし、ドリルで人間の頭や腹に穴を開けるスプラッター描写も露骨だ。しかし、それはあくまでもサブ的な要素であって、本作のメインディッシュではない。なので、ニューヨークの街を夜な夜な徘徊する連続殺人鬼の恐怖を描いたスラッシャー映画を期待すると、大いに裏切られることになるだろう。むしろ、本作は大都会ニューヨークの片隅で誰からも見向きされず、常に怒りや不満を抱えている孤独な無名の芸術家が、歪みに歪んだ挙句に狂気を暴走させていく姿を描いた異端のアートムービーとして見るべきだ。

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オープニングのキリスト像からして、宗教的イメージを多用するフェラーラらしさが垣間見える。ゴミ溜めのように薄汚いニューヨークの街、社会の底辺で蠢く怪しげな人々、暴力的で殺伐とした人間関係。贖罪と救済、狂気と破滅が入り乱れる混沌としたダークな世界観は、まさにアベル・フェラーラ作品のトレードマークとも言えよう。ここに映し出されるのは、治安も経済も最悪だった'70年代のニューヨーク。そんな明日への希望が見えない街の底辺で、誰に才能を認められるわけでもなく、社会の厳しさと冷たさに晒され、絶望的な孤独と沸々煮えたぎる怒りに駆られた主人公が確実に狂っていく。ある意味、これはフェラーラ版「タクシー・ドライバー」だ。しかも、虐げられた弱者が浮浪者というさらなる弱者を攻撃するという構図が哀しい。

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そんな主人公レノをアベル・フェラーラ自身が演じている。彼がキャロルやパメラと同居しているアパートも、実際に当時フェラーラ監督が住んでいたアパートだ。ロケ地もその近辺。ニューヨーク州立大学パーチェス校で映画作りを学び、卒業後は短編実験映画を撮っていたものの、なかなか芽が出ずギャラ目当てでポルノ映画に携わっていたこともあるフェラーラは、恐らく売れない画家レノに当時の自分自身を投影していたのかもしれない。それだけに、終始憤怒と不満でギラギラとした主人公の姿は演技と思えないほどリアルだ。彼もまた“怒れる若者”だったのである。全編に散りばめられたパンク・ロックやパンク・カルチャーも、そう考えると必然的なものであり、本作がパンク映画でもあるという側面は考察されるべきだ。

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16ミリフィルムで撮影された超低予算映画ゆえに見栄えは良くないし、若きフェラーラ監督の演出にも稚拙な点は多々ある。まだまだ素人感の抜けない作品ではあるが、しかしだからこその生々しいエネルギーは魅力だ。ニューヨークのアンダーグラウンド・シーンで高い評価を受け、異端の鬼才フェラーラ監督が注目されるきかっけとなった本作は、さらにVHSビデオの時代に入ってクチコミで評判を呼び、カルト映画として持て囃されるようになった。一時期リメイクの話も出たようだが、時代性や作家性と密接に結びついた本作を作り直すことに何の意味があるのだろう?

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評価(5点満点):★★★☆☆

参考DVD情報(イギリス盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)※レターボックス収録/音声:2.0ch Dolby Digital/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/時間:96分/発売元:4Digital Media (2008)
特典:アベル・フェラーラ監督による音声解説/オリジナル劇場予告編


by nakachan1045 | 2016-10-09 17:19 | 映画 | Comments(0)

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