なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「忘れじの面影」 Letter From An Unknown Woman (1948)

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監督:マックス・オフュルス
製作:ジョン・ハウスマン
原作:シュテファン・ツヴァイク
脚本:ハワード・コッチ
撮影:フランク・プラナー
美術監督:アレクサンダー・ゴリツェン
ドレスデザイン:トラヴィス・バントン
音楽:ダニエル・アンフィシアトロフ
出演:ジョーン・フォンテイン
   ルイ・ジュールダン
   メイディ・クリスチャンス
   マルセル・ジュールネ
   アート・スミス
   キャロル・ヨーク
アメリカ映画/87分/モノクロ作品





<あらすじ>
1900年頃のオーストリアはウィーン。ある人物と決闘することになったステファン・ブランド(ルイ・ジュールダン)は、その前日に夜逃げをしようとしていたが、そんな彼のもとに一通の手紙が届く。それは、送り主の女性が臨終の間際にしたためたものだった…。
女性の名前はリーザ(ジョーン・フォンテイン)。彼女がまだ15歳だった頃、有名な若手のコンサート・ピアニストが隣家に引っ越してくる。それがステファンだった。ハンサムな優男のステファンを遠巻きに見かけ、ひと目で恋に落ちてしまったリーザは、それからというものの寝ても覚めてもステファンのことしか考えられなくなってしまう。
夜な夜な聞こえてくるピアノの音色に聞き惚れ、彼の留守宅にこっそりと忍び込み、日増しに恋心を募らせていくリーザだったが、しかし母親(メイデイ・クリスチャンス)の再婚でウィーンを離れなくてはいけなくなる。引越しのその日、最後にひと目だけ彼に会いたいと、汽車の駅からステファン宅へ戻ったリーザ。しかし、そこで見たのは愛人を部屋へ連れ込むステファンの姿。彼は名うてのプレイボーイでもあった。言葉をかけることすらできないリーザは、物陰から彼の姿を見つめることしかできなかった。
それから数年後。すっかり大人の女性に成長したリーザは、将来有望な青年士官からのプロポーズを断り、怒った親に勘当されて自宅を飛び出す。いまだ彼女の心にはステファンしかなかった。ウィーンへ戻ってモデルとなった彼女は、毎晩のようにステファンの自宅の外に立ち、その姿を一目見ようとしていた。
そんなある晩、ステファンはようやく彼女の存在に気付いて話しかける。リーザをデートに誘うステファン。女たらしの彼にとってみれば、彼女もまたその他大勢の愛人と変わりなかったが、最愛の男性と初めて話せたというだけでリーザは舞い上がる。豪華な食事やカーニバルを楽しみ、彼の自宅で遂に結ばれたリーザ。2週間後にコンサートツアーから戻ったらまた会おうと約束するステファンだったが、それっきり連絡が来ることはなかった。
その後、密かに彼の子供を出産したリーザ。迷惑をかけたくないからと、あえて彼に知らせるようなことはしなかった。そして、事情を全て理解した上で結婚を申し込んでくれた裕福な年配男性ヨハン(モーリス・ジュールネ)の妻となり、息子ともども幸せな日々を過ごしていた彼女だったが、ある晩オペラ鑑賞に訪れた劇場で、放蕩生活の末に身を持ち崩し落ちぶれてしまったステファンと再会する。再び恋の炎が燃えるリーザ。しかし、ステファンは彼女の名前すら覚えていなかった…。


「輪舞」('50)や「たそがれの女心」('53)、「歴史は女で作られる」('56)など、フランスで撮った大人向けのエレガントなラブロマンス作品で、映画史にその名を残す女性映画の巨匠マックス・オフュルス。もともとドイツ出身の彼だが、戦時中はナチスの台頭を避けてアメリカへと渡った。そのハリウッド時代における最高傑作と呼ばれているのが本作だ。

原作はオーストリアの流行作家シュテファン・ツヴァイクが書いた小説「未知の女の手紙」。いわば、生涯をかけて一人の男性だけを慕い続けた女性リーザによる、究極の純愛ドラマである。しかも、そんな彼女の想いは終始報われることがない。なぜなら、相手の男ステファンは根っからの女たらしだからだ。せめてもの救いは、生涯でたった一度だけ一夜を共にしたこと。そして、その結果として息子を授かったこと。だが、リーザにとっては一生忘れられない瞬間だったかもしれないが、しかしステファンにとってみれば、星の数ほどある逢引の一つにしか過ぎない。それでもなお彼への愛情を抑えることができず、ようやく見つけたささやかな幸せ…つまり夫ヨハンとの家庭をも捨てようとするリーザの姿は、傍から見れば愚かで哀れなものに映るだろう。

しかし、果たしてそうなのか?たとえ一方通行ではあっても、最期の瞬間まで燃えるような愛に身を捧げて生きたリーザと、誰かを真剣に愛することもなく刹那的な欲望に身を委ね、気づけば一人ぼっちになってしまったステファンとでは、いったいどちらが幸福だったのか。“恋愛は男の生涯では一つの挿話に過ぎないけれども、女の生涯では歴史そのものである”とは、フランスのロマン主義作家スタール夫人の言葉だが、本作の描くテーマはまさにそれだろう。女性映画の巨匠オフュルスにとっては格好の題材だ。

愛に生き愛に輝く情熱的で誇り高き女性、日々失われゆく若さと美しさへの憧憬、既に失われた古き良きベル・エポック時代のヨーロッパへの郷愁。後のフランス時代にも共通するオフュルス作品ならではのロマンティシズムとセンチメンタリズムが、流れるように滑らかで洗練されたカメラワーク、豪華絢爛たる美術セットや衣装によって描かれていく。その眩いばかりの美しさときたら!モラルに関しては極めて保守的な当時のハリウッド映画ゆえ、フランス時代のようなデカダンやエロティシズム、エスプリの類は望むべくもないが、それでも純然たるヨーロッパ映画と見紛うばかりの気品と風格には惚れ惚れとするばかり。マレーネ・ディートリッヒの御用達だった伝説的デザイナー、トラヴィス・バントンによる優雅で乙女チックなドレスの数々にも目を奪われる。

主人公リーゼ役は「断崖」('41)でアカデミー主演女優賞を受賞し、当時押しも押されぬトップスターだったジョーン・フォンテイン。本作は当時の彼女の夫ウィリアム・ドジャーが設立したランパート・プロダクションが制作している。15歳の初心な少女から洗練された貴婦人となるまでの十数年間を、文字通り体当たりで大熱演しており、本人も相当に力を入れて臨んだ作品だったことが伺い知れる。その煌くような美貌もまた格別だ。対するステファンを演じるのはフランス出身の美形俳優ルイ・ジュールダン。当時のヨーロッパを舞台にしたハリウッド映画においては、先輩格シャルル・ボワイエと並ぶ鉄板の二枚目スターだったわけだが、どこか知的な冷たさを感じさせる個性がステファン役に見事ハマっている。この非の打ち所のない美男美女の顔合わせが、切なくも哀しい物語を大いに盛り上げていく。黄金期ハリウッド映画の魅力とは、まさにスターの魅力であったことを改めて思い知らされる。

評価(5点満点):★★★★☆

参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
モノクロ/スタンダードサイズ(1.37:1)/1080p/音声:1.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/時間:87分/発売元:Olive films/Paramount Pictures (2012)
特典:なし


by nakachan1045 | 2016-10-14 10:59 | 映画 | Comments(0)

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