なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
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「ラビッド」 Rabid (1977)

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監督:デヴィッド・クローネンバーグ
製作:ジョン・ダニング
製作総指揮:アイヴァン・ライトマン
      アンドレ・リンク
脚本:デヴィッド・クローネンバーグ
撮影:ルネ・ヴェルジェル
編集:ジャン・ラフルー
特殊メイク:ジョー・ブラスコ
音楽監修:アイヴァン・ライトマン
出演:マリリン・チェンバース
   フランク・ムーア
   ジョー・シルヴァー
   ハワード・リシュパン
   パトリシア・ゲイジ
   スーザン・ロマン
   J・ロジャー・ペリアール
カナダ映画/91分/カラー作品





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<あらすじ>
カナダはケベック州モントリオールの郊外。田舎道をフルスピードで飛ばしてきた一台のバイクが、立ち往生したミニバンを避けようとして横転し、大破してしまう。ドライバーの男性ハート(フランク・ムーア)は軽傷で済んだものの、後ろに乗っていた恋人ローズ(マリリン・チェンバース)は、燃える車体の下敷きとなって大ヤケドを負ってしまった。
目撃者の通報を受けて駆けつけたのは、たまたま近隣にあった整形外科医院の救急車。院長のケロイド博士(ハワード・リシュパン)はローズの深刻な怪我を見て、まだ実験段階にある最先端の皮膚移植手術を行うことにする。
それから1ヶ月後。ヤケドはほぼ感知したものの、まだ事故のショックで昏睡状態にあるローズを残し、後ろ髪を引かれる思いでハートはモントリオールの自宅へ戻る。その晩、突然意識を取り戻したローズは苦悶の叫びをあげ、その声を聞いて病室へ駆けつけた患者ロイド(ロジャー・ペリアール)に抱きつく。腹部に激痛が走るロイド。血みどろで発見された彼は、病室での出来事を忘れていた。
ロイドの傷を診察したケロイド博士は首をかしげる。血液は一向に凝固せず、しかも傷口周辺の神経が麻痺しているようだ。さらに、ローズの様態をチェックした博士は、彼女の右腕の脇の下に奇妙な亀裂を発見。すると次の瞬間、そこからペニスのような突起物が飛び出し、ローズは博士に襲いかかる。その突起物から博士の血を吸うローズ。彼女は手術の後遺症による突然変異で、人間の血液からしか栄養を補給できない体となってしまったのだ。
恐怖と不安に駆られたローズは、恋人ハートに電話をかける。彼女からの連絡を受けたハートは、入院中に親しくなった医師サイファー(ジョー・シルヴァー)と共に病院へ向かう。一方、意識を取り戻したケロイド博士は仕事に戻るものの、手術中に錯乱して助手である妻ロクサンヌ(パトリシア・ゲイジ)らに襲いかかる。たちまちパニック状態となる病院。その騒ぎに紛れてローズは逃げ出す。
モントリオールを目指してヒッチハイクを続けるローズ。だが、その間に次々と人を襲っては血を吸い、その犠牲者たちもまた発狂して周りの人間を襲っていく。ローズが親友ミンディ(スーザン・ロマン)のアパートへ到着した頃には、新種の狂犬病としてテレビで報道されるまでに騒ぎは大きくなっていた。しかし、彼女はまさか自分が感染源であるとは全く気付いていない。
やがて、疫病はモントリオール市内で急速に広がり、政府は戒厳令を敷く。ミンディからの連絡でローズの所在を確認し、急いでモントリオールへと戻るハート。そこで彼が見たのは、口から緑色の泡を吐いて暴れ狂う感染者たち、パニックを鎮めるために投入された大勢の武装兵と戦車。まるで戦時下のような光景だった…。

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自主制作の短編実験映画で高く評価された後、ホラー映画「シーバース」('75)で劇場用長編映画デビューを果たしたカナダの鬼才デヴィッド・クローネンバーグ。当時はカヌクスプロイテーション(カナダ+エクスプロイテーション)と呼ばれる、カナダ産B級エンターテインメント映画が国際マーケットで注目され、それまで政府の援助なしでは成立しなかったカナダ映画が、徐々にビジネスとして成り立つようになり始めた時代。処女作「シーバース」を国内外でヒットさせたクローネンバーグは、そんなカナダ映画界の新たな時代を背負って立つ将来有望な若手映像作家の一人だった。そんな彼の待望の2作目として公開されたのが「ラビッド」である。

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だが、「シーバース」と「ラビッド」の間にはおよそ2年のブランクがある。なぜかというと、処女作「シーバース」がカナダ国内で思いがけず物議を醸してしまったからだ。実は政府の公的機関CFDCの資金援助によって制作された「シーバース」。その劇場公開に先立ち、クローネンバーグ監督は国内でも高い権威を誇る雑誌「Saturday Night」の編集長で映画評論家のロバート・フルフォードのために試写を行った。フルフォードはクローネンバーグの実験映画「ステレオ」を高く評価していたので、彼ならば作品の趣旨を正しく理解してくれるだろうと期待したのだ。ところが、フルフォードはレビュー記事で「シーバース」を“ポルノまがいの悪趣味なクズ映画”とボロクソに酷評し、こんないかがわしい作品に国民の血税が注ぎ込まれているとは由々しき問題だと非難。これがきっかけで世論はたちまち「シーバース」バッシングで大炎上し、クローネンバーグは仕事を干されたばかりか、怒り狂った大家さんに自宅を追い出されてしまう。まさしく踏んだり蹴ったりの目にあったわけだ。

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とはいえ、「シーバース」が興行的に大当たりしたことは事実。しかも、CFDCが出資した映画としては、利益を上げることの出来た数少ない例外だったという。そこで、「シーバース」の配給を担当した映画会社シネピックスが「ラビッド」では制作も手掛けることに。シネピックスとはライオンズゲートの前身で、当時は「ナチ収容所/悪魔の生体実験」('74)に始まるエログロ極悪映画“イルザ”シリーズや、ソフトポルノ「夜霧のモントリオール」('68)、スラッシャー映画「血のバレンタイン」('81)などを生み出した、カナダ産B級映画の総本山的な会社だった。しかしながら、本作では大規模な群衆パニックシーンなども少なくないため、さすがのシネピックスでも資金繰りに苦心し、頼みの綱であるCFDCも世論を気にして資金援助に踏み切れず。結果的に制作費の一部をCFDCが出資したわけだが、そこへ至るまでに2年近くを要してしまったのである。

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「シーバーズ」ではまだどこか自主制作映画的な臭いが抜けきれていなかったクローネンバーグだが、本作ではだいぶ商業映画としての体裁が整っているという印象だ。最先端医学の暴走が阿鼻叫喚の血みどろパニックを招くというストーリーは前作同様だが、「シーバース」では高層マンションという閉鎖空間に舞台が限定されていたのに対し、「ラビッド」では大都会モントリオールが未曾有の感染パニックに陥る。大量のエキストラを動員した地下鉄やショッピングモールでの群衆パニック、戒厳令下の市街地で武装した軍隊や自警団が感染者を虐殺するアクションなど、そのスケール感もなかなかだ。雰囲気としてはジョージ・A・ロメロの「ザ・クレイジーズ」('73)に似たものがある。特殊な皮膚移植手術を受けた女性の脇の下からペニスのような突起物が飛び出し、次々と人間の血を吸っていくという設定は確かに荒唐無稽に過ぎるかもしれないが、有無を言わさぬパワーと勢いで押し切っていくクローネンバーグの演出には異様な迫力がある。

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その一方で、自分の身に何が起きているのかも分からず、まさか自分が感染源だとは思いもよらぬまま、恐怖と不安と飢えを抱えながら、寂しげな冬の田舎道や大都会を一人彷徨うヒロインの姿が、えも言われぬ哀愁を誘う。この熱狂と冷静の明確な対比が独特の雰囲気を生み出し、ある種の詩情すら漂わせるのは興味深い点だ。ちなみに、本作が撮影されたのは'76年の10月から11月にかけて。なぜかというと、CFDCからの援助資金が支払われるのが年1回、12月だったからだ。スタッフやキャストへのギャラ支払いの時期を考慮してタイミングを合わせたのだろう。なので、冬場の撮影というのは意図したものというよりも偶然の賜物だったと言える。そういえば、昔のカナダ映画というのは寒い時期を舞台設定にした作品が多いように思うが、単に冬が長いという気候条件だけでなく、こうした理由も背景にあったのかもしれない。

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また、本作がケベック州モントリオール周辺を舞台にしているのには、制作会社シネピックスの本拠地だったからという以外にも深い意味や理由がある。実は'50年代にケベック州では、当時の超保守的で独裁的な悪名高い州首相モーリス・デュプレシーの承認のもとで、孤児を対象にした医療人体実験が行われていたのだ。しかも、その多くが実は孤児ではなく、未婚の母親が生んで里子に出された私生児だったという。さらに'57年から'64年にかけて、CIAによる有名な極秘洗脳実験“ウルトラ計画”がモントリオールのマギル大学アラン記念研究所において行われ、カナダ政府からの援助資金まで投入されていた。本作の根底には、そうした権力や医療機関に対する根深い不信感が横たわっているのだ。さらに、'60年代から'70年代初頭にかけて、ケベック州では左翼過激派組織ケベック解放戦線による誘拐や爆弾殺人などのテロ事件が続発。中でも、'70年に起きた“オクトーバー・クライシス”と呼ばれる要人誘拐事件は大問題となり、モントリオール市長の要請でカナダ政府が戦時措置法を発動し、軍隊が大量投入されるという事態にまで発展してしまう。クローネンバーグ自身、「ラビッド」の後半の展開は“オクトーバー・クライシス”を念頭に置いたと語っているらしいが、本作にはそのようなカナダ近代史の暗い闇が投影されているのだ。

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そして、なんといっても当時話題を呼んだのは主演女優マリリン・チェンバースである。もともとクローネンバーグはローズ役にシシー・スペイセクを希望していたらしいが、当時はまだ知名度が低かった上に、テキサス訛りのアクセントが強かったことから、シネピックス社長で本作の製作者でもあるジョン・ダニングによって却下されてしまう。そこで、製作総指揮アイヴァン・ライトマンが提案したのが、当時ハードコアポルノ映画「グリーンドア」('74)でセンセーションを巻き起こしていたマリリン・チェンバースの起用だった。ポルノ女優なのでギャラは安いし、その反面で世間的な知名度は非常に高い。プロデューサーとしては願ったり叶ったりの人選だ。当時のポルノ女優らしからぬ清楚で親しみやすい個性も魅力的だった。しかも演技はかなり上手い。クローネンバーグ自身も高く評価しているように、本作では文字通り体当たりの大熱演を披露しており、彼女あっての「ラビッド」だったと言っても過言ではないだろう。一般映画への出演がこれ1作だけだったというのは惜しまれる。なお、「シーバース」でホブス博士の同僚リンスキーを演じていたジョー・シルヴァーが、本作でもケロイド博士のビジネスパートナー、サイファーを演じているのも要注目だ。

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評価(5点満点):★★★★☆

参考ブルーレイ&DVD情報(イギリス盤)
ブルーレイ
カラー/ワイドスクリーン(1.78:1)/1080p/音声:1.0ch LPCM/言語:英語/字幕:英語(SDH)/地域コード:B/時間:91分
DVD
カラー/ワイドスクリーン(1.78:1)/音声:1.0ch Dolby Digital/言語:英語/字幕:英語(SDH)/地域コード2/時間:91分
発売元:Arrow Films/Lionsgate (2015)
特典:デヴィッド・クローネンバーグ監督による音声解説/評論家ウィリアム・ベアードによる音声解説/デヴィッド・クローネンバーグ監督インタビュー(約21分)/製作総指揮アイヴァン・ライトマンのインタビュー(約12分)/共同製作者ドン・カーモディのインタビュー(約16分)/特殊メイク担当ジョー・ブラスコのインタビュー(約6分)/ドキュメンタリー「The Directors: David Cronenberg」(約59分)/ドキュメンタリー「Raw, Rough adn Rabid」(約15分)/オリジナル劇場予告編/ポスター&スチル・ギャラリー/フルカラー解説ブックレット(44p)


by nakachan1045 | 2016-10-15 10:54 | 映画 | Comments(0)

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