なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「暗黒の銃弾」 Guns of Darkness (1962)

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監督:アンソニー・アスキス
製作:トーマス・クライド
原作:フランシス・クリフォード
脚本:ジョン・モーティマー
撮影:ロバート・クラスカー
編集:フレデリク・ウィルソン
衣装デザイン:アンソニー・メンデルソン
音楽:ベンジャミン・フランケル
出演:レスリー・キャロン
   デヴィッド・ニーヴン
   ジェームズ・ロバートソン・ジャスティス
   デヴィッド・オパトッシュ
   エレノア・サマーフィールド
   デレク・ゴッドフリー
   イアン・ハンター
イギリス映画/99分/モノクロ作品





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<あらすじ>
舞台は南米某国の首都。大晦日を迎えて街中が祝賀ムードに包まれる中、大統領官邸の周辺では秘かに軍隊が結集していた。新年が明けると同時に始まる軍事クーデター。兵士たちはリヴェラ大統領(デヴィッド・オパトッシュ)を亡き者にすべく行方を追うが、一足先に官邸を脱出した後だった。
そんな一大事が起きているとは露知らず、年賀パーティから帰宅するイギリス人トム・ジョーダン(デヴィッド・ニーヴン)とフランス人の妻クレア(レスリー・キャロン)。トムは世界的な実業家ヒューゴ・ブライアント(ジェームズ・ロバートソン・ジャスティス)の経営する農作物企業に勤めていたが、企業倫理よりも営利を最優先するブライアントのやり方が気に入らず、パーティの席では必ず酔って悪態をつき、場の雰囲気を壊してしまう。そんな彼にクレアは愛想を尽かしつつあった。しかも、彼女はこれまでに2度の流産を経験しており、そのこともあって夫婦仲はギクシャクしていたのだ。
翌日、仕事を早退して帰宅したトムは、怪我を負って意識のもうろうとした男性を発見する。クーデターで失脚したリヴェラ元大統領だった。友人の医師スワン(イアン・ハンター)は革命政権に引き渡すことを提案するが、命を狙われた怪我人を見捨てられないトムは応急処置を施し、クレアに黙って安全な場所へ元大統領を逃がそうとする。
通行証明書を入手するため市役所へ向かうトムだったが、現場は大混乱でらちがあかない。すると、昨晩のパーティで知り合った役人エルナンデス(デレク・ゴッドフリー)と再会する。狡猾な彼はまんまと新政権の要職に収まっていた。何も知らないエルナンデスの口利きで通行証明書を手に入れたトムは、元大統領を車のトランクに隠して検問を突破しようとするが、荷物チェックでバレてしまい、銃弾を浴びながらも危機一髪で逃げる。
辛うじて自宅へ戻ったトムだったが、そこには検問所からの通報で駆けつけた兵士たちで包囲されていた。彼は反革命派の使用人たちの援護で妻クレアを連れ出し、車に元大統領を乗せて再び逃亡する。様々な困難を乗り越えて、ようやく国境付近へとたどり着いた3人。だが、そこにはエルナンデスの差し向けた革命軍が待ち構えていた…。

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『マイ・フェア・レディ』の元ネタである『ピグマリオン』('38)や、テレンス・ラティガン原作の『ウィンスロー少年』('48)などの名作を生み出したアンソニー・アスキス監督。代表作の多くが劇場未公開の日本では知名度が低いものの、イギリス本国ではキャロル・リード、デヴィッド・リーンなどと並び称される巨匠だ。これは、そんな彼が晩年に撮ったポリティカルで骨太な逃亡サスペンスである。

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政情不安定な南米の某国で軍事クーデターが発生し、革命軍に命を狙われた元大統領をかくまう外国人夫婦が決死の逃亡を試みる。国家全土に戒厳令が敷かれる危機的な状況の中、果たして主人公たちは国境を越えて無事に逃げおおせるのか?というスリリングなストーリー展開が見どころとなるわけだが、しかし本作の核心的なテーマはまた別にある。善と悪の境界線も曖昧な混沌としたこの世界で、いったい何が本当の正義なのか。そもそも、純粋に正義と呼べるものが存在するのだろうかという、普遍的かつ難しいテーマに真正面から挑んでいるのだ。

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物語は愚直なくらいナイーブな理想主義者トムと、そんな彼に付き合いきれなくなってきた妻クレアの葛藤を軸として進んでいく。非暴力主義で平和主義。世の中の悪事や不正を見過ごすことが出来ず、それゆえにたびたびトラブルを起こして職を転々とする羽目になり、常に不満や怒りを抱えて周囲と衝突してしまうトム。真面目過ぎて妥協することが出来ないのだ。いつも尻拭いをさせられるのはクレア。人一倍正義感の強い夫のことを愛しているものの、その一方で、そろそろいい加減に“大人”になって欲しいと願っている。そんな2人が異国の地で独裁的な軍部による革命クーデターに巻き込まれ、たまたま助けた元大統領を守って国境を目指す。

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クーデターに加担していた高級官僚エルナンデス、政治不介入を言い訳に新政権へ擦り寄るトムの上司ブライアント、人命を救う職業ながら元大統領を見殺しにしようとする医師スワンなど、周囲の誰もがいざとなると自分本位で身勝手だ。そんな中、困った人を助けるのは当たり前だとばかりに、赤の他人を身の危険も顧みず守っていくトム。それは勇敢で英雄的な行為だとも言えるだろう。しかし、逃亡の過程で彼は幼い子供たちすらも暴力に駆り立てる人間の本質的な醜さを目の当たりにし、愛する妻の命をも危険に晒してしまった己の行動に疑問を抱き、揺るぎない絶対的な信念が徐々に揺らいでいく。そして、生き延びるために取り返しのつかない罪を犯すことで、それまで蔑んできた周囲の人々と自分が大して変わらないこと、自分の信じる正義というのが絵空事の理想に過ぎないことを嫌というほど思い知らされる。

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一方、夫の頑なな正義感に嫌気がさしていた妻クレアだが、彼女もまた逃亡の過程で人間の醜悪な本性をまざまざと見せつけられることで、逆に夫への尊敬の念を少しづつ取り戻していく。そして、度重なる飢えと恐怖に苛まれるうち、彼女自身もまた理性を失ってしまい、己の野蛮な浅ましさを知って愕然とする。そこで初めて彼女は、逆境の中で信念を貫き通すことの難しさを思い知らされ、夫への理解を深めていくことになるわけだ。

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旅路の結末は極めてほろ苦い。必ずしも善意が報われるとは限らないし、苦労や努力が実を結ぶとも限らない。力のあるものこそが正義。それもまた世の常である。そんな現実の厳しさや虚しさを厳かに突きつけつつも、夫婦の絆を取り戻した主人公たちの姿にかすかな希望の光を見出す。この何とも言えない余韻。まさしく大人のためのサスペンス映画である。

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アスキス監督は当時60歳。新年のカウントダウンと革命軍蜂起のカウントダウンがシンクロするオープニングから緊張感たっぷりだ。パーティのドンチャン騒ぎと革命軍による大虐殺を同時進行で描いていく辺りも皮肉が効いている。コメディやロマンス、文芸映画のイメージが強いアスキス監督だが、さすがはベテランの巨匠。骨太なアクション演出にも抜群の腕前を発揮している。しかも、元英国首相アスキス卿の息子である。本作のようなポリティカルな題材も、実はお手のものだったのかもしれない。『回転』('61)や『バニー・レークは行方不明』('65)のジョン・モーティマーによる脚本も、人間の心の闇を丁寧に汲み上げていて奥が深いし、『第三の男』('49)や『夏の嵐』('54)で名高い大御所カメラマン、ロバート・クラスカーの陰影を強調したカメラワークにも重厚感が漂う。

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主人公トム役を演じているのは、『80日間世界一周』('56)で押しも押されぬトップスターとなったデヴィッド・ニーヴン。二枚目半のチャーミングな英国紳士を演じさせて天下一品だった彼は、少年のようにナイーブなトム役にはピッタリだと言えよう。その妻クレア役にはMGMミュージカルで一世を風靡したコケティッシュなパリジェンヌ、レスリー・キャロン。ミュージカル映画が下火となる中、当時の彼女はシリアスな演技派への道を模索していたわけだが、この翌年に出演した『The L-Shaped Room』('63)でアカデミー主演女優賞候補となり、その試みは成功することとなる。

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そのほか、『白鯨』('56)のブーマー船長や『チキ・チキ・バン・バン』('68)のスクランプシャス卿でお馴染みのジェームズ・ロバートソン・ジャスティス、『栄光への脱出』('60)でポール・ニューマンの叔父を演じていたデヴィッド・オパトッシュ、『恐怖のロンドン塔』('39)や『ジキル博士とハイド氏』('41)で印象深いイアン・ハンター、『燃える洞窟』('67)や『ハンズ・オブ・ザ・リッパー』('71)などハマー作品に出ていたデレク・ゴッドフリーなどが出演している。

評価(5点満点):★★★★☆

参考DVD情報(英国盤)
モノクロ/ワイドスクリーン(1.66:1)/音声:1.0ch Dolby Digital/言語:英語/字幕:なし/地域コード:2/時間:99分/発売元:Network/Studio Canal(2014)
特典:オリジナル劇場予告編/ポスター&スチル・ギャラリー




by nakachan1045 | 2016-11-05 16:02 | 映画 | Comments(0)

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