なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「バクスター!」 Baxter! (1973)

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監督:ライオネル・ジェフリーズ
製作:アーサー・ルイス
原作:キン・プラット
脚本:レジナルド・ローズ
撮影:ジョフリー・アンスワース
音楽:マイケル・J・ルイス
出演:パトリシア・ニール
   ジャン=ピエール・カッセル
   ブリット・エクランド
   リン・カーリン
   スコット・ジャコビー
   サリー・トムセット
   ポール・エディントン
イギリス・アメリカ合作/102分/カラー作品





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<あらすじ>
ロサンゼルスからロンドンへと引っ越してきた少年ロジャー・バクスター(スコット・ジャコビー)。裕福だが仕事人間で家庭を顧みない父親(ポール・マクスウェル)と、子育てよりも社交パーティや芸術を愛する母親(リン・カーリン)は常日頃から諍いが絶えず、母親は離婚を機にロンドンへ移り住むことを決め、息子を一緒に連れてきたのだった。
離婚の痛手とストレスで神経が過敏になっている母親は、ロジャーのすることや言うことのいちいちに苛立つ。息子に自我が芽生えてきたことに気付かず、ただ母親の関心を引きたいだけの我がままだと考えていた。
そんなロジャーには大きな悩みがあった。アルファベットのRの発音が出来ないのだ。以前はちゃんと喋れたのに、いつの間にか苦手になっていた。無理矢理に矯正させようとした担任教師ローリング(ポール・エディントン)も匙を投げ、学校に常勤する児童心理学者ロバータ(パトリシア・ニール)に任せることにする。
ある日、ロジャーはアパートの上階に住むファッションモデルのクリス(ブリット・エクランド)とその恋人のフランス人シェフ、ロジェ(ジャン=ピエール・カッセル)と親しくなり、彼らと一緒に田舎のコッテージへ遊びに行く。Rの発音が苦手だというロジャーに、“フランス人だってRの発音は下手だよ”と笑って返すロジェ。彼らとの楽しいひと時で、ロジャーは久しぶりに笑顔を取り戻す。
向かいのアパートに住む少女ニモ(サリー・トムセット)と知り合ったロジャーは、彼女に淡い恋心を抱く。だが、ちょっと風変わりな彼女が理解ある母親と仲睦まじく過ごす姿を見て寂しくなり、帰宅したロジャーはロサンゼルスの父親のもとへ電話をかける。だが、電話に出た父親は仕事仲間とギャンブルの最中で息子の話もうわの空。傷ついたロジャーは電話を無茶苦茶に破壊する。帰宅した母親はそれを発見し、なぜ私を困らてばかりなのかと一方的に怒鳴り散らすのだった。
それ以来、ロジャーの様子がおかしくなる。黙って彼の話に耳を傾けるロバータに心を開くロジャーだったが、ニモが遠くへ引っ越すと知ってショックを受け、朝までロンドンの街を彷徨った挙句に意識不明の状態で発見された。
病院に担ぎこまれたロジャーが名前を呼んだのは母親でなくロバータだった。見舞いに駆けつけた母親はそのことが不愉快でならない。息子は病気なんかじゃない、私の気を引きたいだけだという母親に、医師は心神喪失状態で入院が必要だと告げる。
ロバータや病院スタッフの手厚い看護の甲斐あって、退院出来るまでに回復したロジャー。母親の待つアパートへと戻るが、そこで管理人からクリスが病死したことを知らされ、そのショックから再び心を閉ざしてしまう…。


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'60年代末から'70年代にかけて、ヨーロッパでは幼い子供を主人公にしたファミリー向けメロドラマが数多く作られてヒットした。たいてい主人公は小学生から中学生くらいの少年。両親の不和など家庭に問題を抱えており、そんな中で孤独を感じつつも健気に振舞うものの、やがて白血病などの不治の病に冒されて短い生涯を閉じる…というのが定番ストーリーだ。『クリスマス・ツリー』('68)に『メリーゴーランド』('74)、『星になった少年』('77)などなど、この手のお涙頂戴映画は日本でも大いに受けたものだった。

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で、この『バクスター!』も基本プロットはそうした一連の映画とそっくり。まあ、ありがちな感動ドラマなんだろうなあ…と思って見始めたところ、これが全くの見当違いというか、嬉しい誤算というか。いくらでもお涙頂戴に走ろうと思えば走れるところを、あえて一歩下がって冷静に見つめている。その上で、本作は子供を子供扱いする大人たち、特に親のエゴや身勝手を真っ向から批判しているのだ。

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両親の離婚で深く傷ついた主人公の少年ロジャー。とはいえ、思春期に差しかかった彼は自分なりの考えも持っているし、バカじゃないから大人の事情というものもなんとなく理解している。むしろ、分かっていないのは両親の方だ。父親は体のいい綺麗ごとばかり並べて息子の話は右から左へスルーだし、母親は息子の自己主張をただの我がままとしか受け取らない。2人とも彼を一人の独立した人格と見なしていないのだ。特に母親は問題で、息子のことを愛玩動物のように扱っている。なので、自分の思い通りにならないと、まるで裏切られたかのように癇癪を起こす。母親という立場に胡座をかいた専制君主だ。

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それは杓子定規で居丈高な担任教師も同様だ。生徒は黙って教師の言う事に従えばいい、模範的な子供はこうあるべきだ、そうでない子供は教師が責任を持って矯正しなくてはいけない。なので、彼はロジャーの発音の問題に関しても頭から否定するだけで、なぜ苦手になってしまったのかという理由など疑問にも思わないし、そのことについて悩む彼の心情にもまるで想像が及ばない。生徒を型にはめることしか考えていないのだ。

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そんな親の無理解にロジャーはどんどんと孤独を募らせ、やがて精神を蝕まれていく。これがありきたりな映画だと、息子の深刻な病で初めて両親が己の過ちに気付き、家族の絆を取り戻していく…となるところなのだが、ところがどっこい、本作の両親は最後の最後まで自分たちに非があるとは認めない。それどころか、母親なんぞは“私を悪者にするつもりか!”とでも言わんばかりに、息子を病院から引っ張り出そうとする始末。母親のあたしを差し置いて赤の他人に助けを求めるとは何事か!と怒り狂うその姿からは、もはや母親失格という言葉しか浮かばない。しかも、本人には一切悪意がない。むしろ息子への愛情あってこその怒りなのだから始末に負えないのだ。

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親だからといって我が子を本当に理解できるとは限らないし、間違った愛情がかえって害毒になることさえある。それが本作の基本姿勢だ。かといって、ロジャーの両親を悪者扱いして描いているわけでもない。世の中には親に向いていない親もいる。本作のケースはまさにそれだ。そこで重要になってくるのが、ロジャーを温かく見守る周囲の“赤の他人”の大人たちである。ロジャーの言うことをバカにせずちゃんと耳を傾け、ありのままの彼を受け入れる児童心理学者ロバータ。ロジャーと同じ目線に立って悩みに共感し、それをジョークで笑いに変え、男として対等に扱う陽気なフランス人ロジェ。そして、何も問わず聞かず、ただ寄り添って暖かく抱きしめてくれる心優しき美女クリス。親というのは必ずしも血が繋がっていなければならないとは限らない。その子のことを本当に想ってあげることの出来る人間。それこそが親なのだ、というのが本作の描かんとするところだと言えよう。

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特に後半は非常にヘヴィーな展開が続くのだが、ラストのおよそ5分、突如として号泣タイムがやって来る。これは全くの不意打ちで、それゆえ完全にやられてしまった。しかも、ロジャー役を演じているスコット・ジャコビー少年の上手いことといったら!これみよがしなメロドラマ演技とは一線を画す、それはそれは繊細で情感豊かで真に迫った演技に思わず息を呑む。これには本当に驚いた。ちなみに、ジャコビー少年といえば、この翌年に作られたカルト映画としても有名なサイコ・サスペンス『のぞき魔!バッド・ロナルド』('74)のタイトルロール役で知る人ぞ知る俳優。『バッド・ロナルド』では高校生役ですっかり大人っぽくなっていたが、本作の頃はまだまだあどけない少年という感じ。10代の成長は早いもんだ。

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また、ロバータ役のパトリシア・ニールも好演。大物女優の顔見せくらいのキャスティングだろうとたかをくくっていたら、後半では厳しくも人間味溢れる人格者として圧倒的な存在感を見せてくれる。ヴァンサン・カッセルの父親としても有名な名優ジャン=ピエール・カッセル、スウェーデン出身のセックス・シンボル、ブリット・エクランドもいい味を出している。カサヴェテスの『フェイシズ』('68)で有名なリン・カーリンも、エゴイスティックな母親役を大熱演して素晴らしい。監督のライオネル・ジェフリーズはイギリスの名脇役俳優だが、映画監督としても優れた作品を残している。中でも『若草の祈り』('70)は筆者の大好きな映画だったが、この『バクスター!』はこれまで見る機会がなかった。なにをかくそうブリット・エクランド目当てで見たのだが、思わぬ拾い物を見つけたという感じだ。

評価(5点満点):★★★★☆

参考DVD情報(イギリス盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.66:1)/音声:2.0ch Dobly Digital Mono/言語:英語/字幕:なし/地域コード:2/時間:102分/発売元:Network/Studio Canal (2014年)
特典:オリジナル劇場予告編/フォトギャラリー/プロモーション用素材集(PDF)


by nakachan1045 | 2016-11-21 16:40 | 映画 | Comments(0)

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