なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「ウォーターシップダウンのうさぎたち」 Watership Down (1979)

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監督:マーティン・ローゼン
アニメーション監督:トニー・ガイ
アニメーション監修:フィリップ・ダンカン
製作:マーティン・ローゼン
原作:リチャード・アダムズ
脚本:マーティン・ローゼン
編集:テリー・ローリングス
音楽:アンジェラ・モーリー
補足音楽:マルコム・ウィリアムソン
主題歌作曲:マイク・バット
主題歌歌唱:アート・ガーファンクル
声優:ジョン・ハート
   リチャード・ブライアーズ
   マイケル・グレアム=コックス
   ジョン・ベネット
   ラルフ・リチャードソン
   サイモン・カデル
   ロイ・キニア
   デンホルム・エリオット
   ゼロ・モステル
   ハリー・アンドリュース
   ハンナ・ゴードン
   ナイジェル・ホーソーン
   マイケル・ホーダーン
   ジョス・アックランド
イギリス映画/92分/カラー作品(アニメーション)





<あらすじ>
それは昔々のこと。創造神である太陽フリスは動物たちを対等に作り上げた。しかし、大量繁殖した食欲旺盛なウサギたちによって食糧危機が到来。ウサギの王エル・アライラーがなんの手立ても打たないことから、フリスはそれぞれの動物たちに生き残るための術を与え、肉食となった一部の動物がウサギを獲物にするようになる。恐怖におののき、深く反省するエル・アライラー。その後悔の念に免じ、フリスはウサギたちに素早い動きと賢い知恵を授けた。
そして現在。イギリスはハンプシャー州のサンドルフォード繁殖地に、ヘイゼル(ジョン・ハート)とファイバー(リチャード・ブライアーズ)という兄弟ウサギが暮らしていた。特殊な予知能力を持つ弟ファイバーは集落に危機が迫っていることを察知し、兄ヘイゼルは別の土地へ移ることを長老に進言するも取り合ってもらえない。そこで、兄弟は一部の仲間と共にサンドルフォードを脱出することに決意する。
外の世界は危険の連続で、唯一の雌ヴァイオレットも鷹に食われてしまった。やがて彼らはカウスリップというウサギの村にたどり着く。一見すると安全な場所のように見えたが、しかし住民のウサギたちの様子がおかしい。ここは人間によって管理されている養兎場だった。仲間のビグウィグ(マイケル・グレアム=コックス)が罠にかかって瀕死の重傷を負ったことから、ヘイゼルらは別の新天地を目指すことにする。
その途中で、一行は傷ついた元仲間ホリー(ジョン・ベネット)と再会し、サンドルフォードが人間による土地開発で壊滅したこと、仲間たちの多くが穴蔵で生き埋めになって窒息死したことを知る。その事実に衝撃を受けつつも、ようやく見つけた理想郷のウォーターシップ・ダウンへ定住することになったヘイゼルたち。カモメのキハール(ジョシュ・モステル)という新しい友達も出来たが、ウサギの繁殖地を作る上で重大なものが欠けていることに気づく。雌の存在だ。
犬や猫が見張っている農場で檻に入れられた雌ウサギを解放した彼らは、さらにエフラファという繁殖地があることを知る。ここは独裁者ウーンドウォード(ハリー・アンドリュース)が恐怖支配しており、脱出を望んでいる雌たちがいるという。そこで、ヘイゼルは屈強なビグウィグをオトリとしてエフラファへ送り込み、キハールの協力も得て雌たちを救出させる計画を立てるのだったが…。


'70年代のアニメーション映画というと、ルネ・ラルー監督の『ファンタスティック・プラネット』('73)や日本の虫プロによる『哀しみのベラドンナ』('73)、ラルフ・バクシの『ウィザーズ』('77)など、いわゆるディズニー的な子供向け王道カートゥーンとは明らかに一線を画す、大人の鑑賞にも耐えうる芸術性および実験性の高い作品が多かったという印象を受けるが、この『ウォーターシップダウンのうさぎたち』もその一つ。写実性を重視した作画スタイルと独特の神話的な語り口を用いながら、生と死が隣り合わせの過酷で厳しい野うさぎたちのサバイバルを描き出していく。

原作はイギリスの児童文学者リチャード・アダムスが1972年に発表した同名ベストセラー小説。そのアニメ化に名乗りをあげたのは、もともとアニメーションの世界とは全くの無縁だったアメリカ人製作者マーティン・ローゼンだった。俳優エージェントから映画製作の分野に転向したローゼンは、妻と共に移り住んだイギリスでケン・ラッセル監督の『恋する女たち』('69)などの実写映画に携わっていた。アダムスの原作を読んで熱烈に惚れ込んだ彼は、すぐに権利を取得して映画化へと動き出す。本物のうさぎを使った実写から人形アニメまで検討したらしいが、やはり最終的に最も適した映像表現方法として落ち着いたのはセル・アニメだったという。

とはいえ、ローゼンはアニメに関して全くの素人。そこで、実験的な幾何学アニメで有名なUPAの元アニメーターであるジョン・ハブリーを監督に起用して制作に着手をすることとなった。ところが、'77年にハブリーが62歳で死去。アニメーション監督をランキン/バス出身のトニー・ガイに、アニメーション監修をディズニー出身のフィリップ・ダンカンに任せることで、ローゼン自らがプロデューサー兼監督として全体を見渡すことになったのである。

まずオープニングでは、うさぎの世界に伝わる神話伝説が描かれる。ここはまさにUPAアニメの世界。幾何学模様を基調とした実験的な表現が用いられている。ところが、それが終わると作画タッチはガラリと一変。ボタニカルアートを彷彿とさせる美しい田園風景の中で、写実的でリアルなデザインの野うさぎたちによる生態が丁寧に描かれていく。驚くべきは、子供向けアニメとは思えないシビアな世界観だ。強い者から食料が優先されるうさぎ社会の厳然たるヒエラルキー。個々の意思よりも集団の利益が優先され、支配者たる長老の言うことは絶対だ。勝手に群れを離れることは許されないし、そもそもそれでは生き延びていけない。まるで現実の人間社会を映し出す鏡のようである。

そして、迫り来る危険=人間による環境破壊を避けるため、意を決して故郷を離れた主人公たちの行く手に待ち受けるのは、まさしく弱肉強食そのものの厳しい自然界の掟だ。まごまごしていると天敵の肉食動物に食われかねない。ここでも本作は、そんな残酷で非情な現実を真正面から描いていく。人間の仕掛けた罠にかかって口から血と泡を吹く、犬や鷹に襲われ食いちぎられ壮絶な最期を遂げる、敵対するうさぎ同士が血で血を洗う戦いを繰り広げる。生存競争の厳しさと恐ろしさを生々しく捉えた残酷描写も少なくない。小さな子供が見たらトラウマになること必至。終盤に登場するエフラファの独裁者ウーンドウォードなどは、その凄みの効いた顔つきといい執念深さといい、アニメ史上屈指の怖さだといえよう。

その一方で、全編に渡って貫かれている神話的な語り口、随所に挿入されるファンタジックなドリームシークエンスが、本作に独特のポエティックなムードを与えている。ハンプシャー地方に実在する土地をそのまま背景画として使用したという、水彩画の如き牧歌的な美しさの大自然にも思わず目を奪われてしまう。文句なしにゴージャスだ。

また、ジョン・ハートを筆頭に英国演劇界の重鎮が揃った役者陣によるアフレコも印象的だ。いわゆるアニメらしい演技とはだいぶ違うし、かといってシェイクスピア劇などのようでもない。限りなくシンプルでナチュラル。息遣いも繊細だ。まずは台本に合わせて役者がセリフを喋り、そのレコーディングを参考にしながらアニメーションを制作。仕上がった本編を見ながら、もう一度改めて声を入れ直すという作業が行われたのだそうだ。

原作の持つ精神と世界観をそのまま映像に昇華することが目的だったというローゼン監督。環境破壊から全体主義まで、現実の人間社会とリンクする様々な問題を提起しつつ、生きることの難しさと厳しさを通して生命の貴さを力強く描いていく。幼い子供が鑑賞するには刺激が強すぎるとしても、思春期に差しかかった年頃辺りからの少年少女にはぜひ見て欲しい映画である。

なお、素朴で叙情的な音楽スコアも本作の魅力。当初担当していたマルコム・ウィリアムソンがオープニングの序曲とテーマ曲を書いた時点で病気のため倒れてしまい、ピンチヒッターとして起用されたアンジェラ・モーリーがたった2週間で残りのスコアを書き上げたという。このモーリーという人、実はもともと男性だったトランスジェンダーで、'50年代から'60年代にかけてウォリー・ストットの名前で活躍したイージーリンスニングのバンドリーダーだった。また、アート・ガーファンクルの歌った全英No.1ヒットの主題歌「ブライト・アイズ」は、本作の主な出資者がレコード会社CBSだったことから、大人の事情で含まれることになったのだとか。CBSとしては投資した制作費は最低限でも回収したい。そこで、ネームバリューのあるアーティストによる主題歌が、有効なプロモーションツールとして必要だったのだ。幾つかの候補曲の中からローゼン監督が選んでレコーディングしたのだが、今ではスタンダードな名曲として愛されているにも関わらず、ガーファンクル本人は当時も現在もこの曲のことをあまり好きではないらしい



評価(5点満点):★★★★☆

参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:2.0ch リニアPCM/言語:英語/字幕:英語/地域コード:A/時間:92分/発売元:The Criterion Collection/Janus Films (2015)
特典:マーティン・ローゼン監督インタビュー(約16分)/ギレルモ・デル・トロ監督インタビュー(約12分)/ストーリーボード/メイキングドキュメンタリー「Defining a Style」('05年制作・約13分)/オリジナル劇場予告編/解説シート(コミック作家ジェラルド・ジョーンズ)


by nakachan1045 | 2016-11-23 15:18 | 映画 | Comments(0)

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