なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「ファスビンダーのケレル」 Querelle (1982)

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監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
製作:ディター・シドール
   サム・ウェインバーグ
原作:ジャン・ジュネ
脚本:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
   ブルクハルド・ドリエスト
撮影:ザヴィエ・シュワルツェンベルガー
装飾デザイン:ロルフ・ゼヘットバウアー
音楽:ペール・ラーベン
出演:ブラッド・デイヴィス
   フランコ・ネロ
   ジャンヌ・モロー
   ローラン・マレ
   ハンノ・ポーショル
   ギュンター・カウフマン
   ブルクハルド・ドリエスト
   ナーチャ・ブルンクホルスト
西ドイツ・フランス合作/104分/カラー作品




<あらすじ>
フランスの港町ブレストに駆逐艦「復讐号」が入港する。その頃、波止場のバー兼売春宿「フェリア」のマダム、リジアーヌ(ジャンヌ・モロー)は、年下の愛人ロベール(ハンノ・ポーショル)にタロット占いで、あなたの弟がやって来ると告げる。ただし、その弟はとても危険な状況にあるという。
「復讐号」ではベルギー人のチンピラ水兵ケレル(ブラッド・デイヴィス)の若くて逞しい肉体に、艦長のセブロン大尉(フランコ・ネロ)が熱い視線を注いでいる。彼はケレルに寄せる秘かな愛情と欲望をテープに録音していた。そのケレルこそ、ロベールの弟だったのだ。
「フェリア」を訪れたケレルは兄ロベールと愛憎入り混じる再会を果たす。そこで彼は店主でリジアーヌの夫ノノ(ギュンター・カウフマン)とSMファッションに身を包んだ汚職警官マリオ(ブルクハルド・ドリエスト)の協力でアヘンを密輸し、相棒の水兵ヴィック(ディター・シドール)を口封じのため殺害する。
リジアーヌと寝ることを望んだケレルだが、そのためにはノノとダイスの賭けをせねばならない。勝負に負けたケレルは、ノノにアナルを犯される。初めての男とのセックスに、彼は今まで経験したことのない感情を覚えて戸惑う。リジアーヌの愛人となったケレルだが、自分の体には一本も指を触れさせず、しかしその一方で警官マリオとのセックスに溺れる。
その頃、建築作業員のジル(ハンノ・ポーショル2役)は、愛する女性ポーレット(ナーチャ・ブルンクホルスト)の美しい弟ロジェ(ローラン・マレ)に友情以上の感情を抱ていた。そんなジルを作業現場の同僚が人前で嘲笑したことから、怒った彼は相手を刺殺してしまう。
警察の追跡から隠れたジルの逃亡を手助けするふりをして、ヴィック殺しの罪も彼になすり付けようとしたケレル。だが、変装したジルの姿が兄ロベールと瓜二つだったことから、秘かに兄に性的な欲望を抱いていたケレルは衝撃を受ける。ジルと熱いキスを交わすケレルは内心ためらうものの、しかし彼を警察に売り渡してしまう。セブロン大尉はケレルの悪だくみを見抜くものの、真相を暴くどころか逆に彼を守ろうとするのだった…。


'60年代末から'80年代初頭にかけて、当時の西ドイツでは既存の映画界に反発する野心的な若手映像作家が次々と台頭し、世界の注目を集めるようになる。いわゆるニュー・ジャーマン・シネマの時代だ。かつてフリッツ・ラングやF・W・ムルナウなど数々の巨匠を輩出し、ドイツ表現主義と呼ばれるムーブメントで世界中の映画に多大な影響を及ぼすなど、ヨーロッパを代表する映画大国として黄金時代を享受したドイツ映画界。しかし戦後はナチス時代の反省やトラウマから映画界も委縮してしまい、他愛のない娯楽映画ばかり作られるようになる。経済発展に伴って産業としては復興を果たすものの、一方で世界に対する影響力はすっかり失われてしまった。そんな停滞する映画界に対しての不満が原動力となり、ヴィム・ヴェンダースやヴェルナー・ヘルツォーク、フォルカー・シュレンドルフといった気鋭の若手監督たちが、メッセージ性や実験性の高い低予算のアート映画を生み出し、世界各国の映画祭で高く評価されるようになったのである。そんなニュー・ジャーマン・シネマを代表する作家の一人が、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーだ。

ただ、個人的にニュー・ジャーマン・シネマはあまり得意でない。こう言ってしまうと身も蓋もないかもしれないが、とにかく地味で暗い作品が多いからだ。まあ、地味なのは戦後の西ドイツ映画全体の特徴でもあって、例えば'50年代末から人気を博したクリミと呼ばれる猟奇犯罪サスペンスのジャンルにしても、当時の西ドイツ映画では残酷描写や性描写が忌避される傾向にあったことから、その後はイタリアのジャッロ映画ブームにすっかりお株を奪われてしまう。西ドイツ版007ことジェリー・コットン・シリーズもまた然り。地味というか、お堅いというか。そんなわけなので、ファスビンダーの作品も『自由の代償』('75)や『マリア・ブラウンの結婚』('79)、『リリー・マルレーン』('81)など少なからず見てはいるが、しかし憂鬱で退屈で辛気臭い映画という印象しか残らず。その中で唯一の例外が、ファスビンダーの遺作にして最大の問題作『ケレル』('82)である。

原作は筆者も学生時代に愛読したジャン・ジュネの名作『ブレストの乱暴者』。美しくも残酷な水兵ケレルを巡る殺人と犯罪、友情と裏切り、同性愛とナルシズムの渦巻く物語は、生前のファスビンダー自身が「ストーリーそれ自体は三流の犯罪小説と変わらない」と述べていたように、まるで安手の同性愛者向けパルプフィクションのようである。『ブレストの乱暴者』が名作たるゆえんは、ジュネ独特の想像力豊かで倒錯的な筆致とある種の寓話的な世界観にあると言えよう。ゆえに、映画化に際してスタジオ内に港町を丸ごと巨大セットとして作り上げ、常にオレンジ色の夕焼けに包まれた人工的な空間で物語を展開させたファスビンダーの判断は極めて正しい。そこはフランスの港町ブレストとは名ばかりの異世界。スペインやドイツ、ブラジル、ポルトガルなど様々な国の文化が交じり合っている。水兵たちの服装や警官マリオのハードゲイないで立ちも、完全に'50~'60年代のアンダーグラウンドなゲイアートそのまま。この世には存在しないホモエロティックな寓話の世界なのだ。

実はこの作品、もともとはファスビンダーの企画ではなかった。当初はヴェルナー・シュレーターが監督する予定で製作が進行していたものの、興行的成功の実績に乏しいシュレーターでは満足な資金が集まらず、紆余曲折の末にシュレーターの友人でもあるファスビンダーに落ち着いたのである。とはいえ、作品そのものはまさにファスビンダーにおあつらえ向き。それはなにも彼自身が同性愛者であったからというだけにとどまらない。ゲイとして男性に激しい欲望をぶつけつつ、その一方で自らの男性性を誇示するかのように女性との結婚と離婚を繰り返し、まるで愛情の裏返しのように男女問わずパートナーに対して精神的にも肉体的にも暴力をふるい続けたファスビンダーは、相手を傷つけることでしか愛情を表現できない乱暴者ケレルそのものだからだ。

ブルクハルド・ドリエストが予め用意していた脚本を大幅に書き直したファスビンダーは、ストーリーそのものよりもジュネの筆致と世界観を映像へと変換することを重視。その結果として、あの美しくも退廃的で官能的な異空間が出来上がったというわけだ。セット・デザインを手掛けたのはライザ・ミネリ主演のミュージカル『キャバレー』('72)でオスカーを獲得したロルフ・ゼヘットバウアー。通常の映画では場面設定ごとに別々のセットを組むものだが、本作では巨大なサウンドステージに港町を丸ごと作り上げている。リアリズムとは対極にある人工美の世界。まるで黄金期のハリウッド映画のようでもあり、それ以前のファスビンダー作品とは一線を画すものだと言えよう。

過去作品との違いはキャスティングにも明らかだ。デビュー以来、無名時代からの演劇仲間や映画仲間、家族やパートナーなど身内ばかりで役者を固めてきたファスビンダーだが、彼にとって初めての外国との合作映画、しかも多額の予算がつぎ込まれた本作では、ブラッド・デイヴィスにフランコ・ネロ、ジャンヌ・モロー、ローラン・マレと、既に名声を確立した各国の有名俳優が集められている。中でも特筆すべきはケレル役のブラッド・デイヴィスだろう。筋骨隆々のマッチョ体型と少年っぽさを残す端正な顔立ちのアンバランスは、まさにレトロなビーフケーキ・マガジンのグラビアに出てくる弟キャラのハンクといった感じ。上目遣いのすねたような表情は、複雑な内面を抱えたケレルにピッタリだ。彼自身がインタビューで男性との同性愛関係を認めたバイセクシャルで、本作のおよそ9年後にHVI感染の苦悩から若くして自殺を遂げたことは偶然だとしても、ファスビンダーは当時『ミッドナイト・エクスプレス』や『炎のランナー』で脚光を浴びていた彼に、ケレルという役柄と相通じる何かを感じ取っていたのかもしれない。

評価(5点満点):★★★★☆

参考ブルーレイ情報(イギリス盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/1080p/音声:2.0ch リニアPCM/言語:英語・フランス語・ドイツ語/字幕:英語/地域コード:B/時間:104分/発売元:Artificial Eye (2014)
特典:メイキングドキュメンタリー「Twilight of the Bodies: Fassbinder in Search of Querrelle」(約35分)/フォルカー・シュレンドルフによる解説インタビュー(約6分)/オリジナル劇場予告編

by nakachan1045 | 2016-12-06 15:48 | 映画 | Comments(0)

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