なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
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「Maciste alla corte del Gran Khan(マチステとモンゴル皇帝の宮廷)」 (1961)

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監督:リカルド・フレーダ
製作:エルマンノ・ドナーティ
   ルイジ・カルペンティエリ
原案:オレステ・ビアンコ―リ
脚本:オレステ・ビアンコ―リ
   ドゥッチョ・テッサリ
撮影:リカルド・パロッティーニ
美術デザイン:ピエロ・フィリッポーネ
音楽:カルロ・インノチェンツィ
出演:ゴードン・スコット
   谷洋子
   エレーヌ・シャネル
   ダンテ・ディ・パオロ
   ガブリエレ・アントニーニ
   レオナルド・セヴェリーニ
   ワレリー・インキジノフ
イタリア・フランス合作/95分/カラー映画




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あらすじ>
時は13世紀。中国はモンゴル帝国によって征服され、多くの人民が過酷な強制労働を強いられ、逆らう者は容赦なく処刑されていた。モンゴル皇帝ガラク(レオナルド・セヴェリーニ)は中国皇太子タイ・スンを人質として宮廷内に軟禁し、愛人リュー・タイ(エレーヌ・シャネル)と結託して強権支配を敷いている。だが、打倒モンゴルを目指す抵抗軍が皇太子を救出し、民族独立の象徴として祀り上げようとしていると知り、皇太子を狩りに連れ出して抹殺しようとする。
ガラク皇帝の命を受け、トラに皇太子を食い殺させようとするモンゴル兵たち。すると、そこへ無敵の怪力戦士マチステ(ゴードン・スコット)が現れ、トラを倒して皇太子を助ける。その足でマチステは僧院を訪れて皇太子をかくまってもらうのだった。
僧侶の願いで抵抗軍のリーダー、チョー(ガブリエレ・アントニーニ)と酒場で落ち合ったマチステ。彼らは店に現れた若い女性を暴漢から救う。その女性は姿を隠していた中国の皇女レイリン(谷洋子)だった。レイリンを隠れ家にかくまうチョーだったが、ガラク皇帝の手先に襲撃され皇女を連れ去られてしまう。
傷を負いながらも抵抗軍の本拠地である僧院へたどり着いたチョーから話を聞いたマチステは、ガラク皇帝のもとで儀式を司りなが秘かに抵抗軍へ情報提供している高僧(ワレリー・インキジノフ)の手引きで宮廷へ侵入。だが、高僧は既に処刑されていた。そこへ現れたのが皇帝の愛人リュー・タイ。実は彼女、皇女レイリンの元侍女で、抵抗軍のスパイだったのだ。マチステとレイリンをこっそりと逃がしたリュー・タイだったが、駆け付けた衛兵に捕らえられてしまい、拷問の末に抵抗軍の居場所を吐いてしまった。
僧院を襲撃するガラク皇帝の軍隊。大勢の仲間が虐殺され、または捕虜となり、さらには皇太子が戦死してしまう。悲しみに暮れるマチステやレイリンたち。そこでレイリンが秘策を思いつき、マチステたちは宮廷への総攻撃を仕掛けるのだったが…。

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'50年代~'60年代にかけて、世界各国で活躍した日本人女優・谷洋子。ニコラス・レイ監督の『バレン』('60)ではアンソニー・クインの相手役を務め、『青い目の蝶々さん』('62)ではシャーリー・マクレーンやイヴ・モンタンらと共演するなど、華々しい活躍を繰り広げる彼女のことを、当時ヨーロッパでも屈指の映画大国として黄金期を迎えていたイタリア映画界が放っておくはずもなく。折からブームになっていたスペクタクル史劇やスパイ活劇のヒロインとして、エキゾチックなオリエンタル・ビューティの彼女は大変重宝された。その中の一本が、このマッスル史劇『Maciste alla corte del Gran Khan』である。

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筆者は勝手にマッスル史劇と呼んでいるが、正式にはぺプラム(Peplum)ないしスウォード・アンド・サンダル(Sword and Sandal)などの名称で親しまれ、欧米では今なお根強いファンの多いジャンル。その特徴は、ヘラクレスやサムソン、ユリシーズ、ゴライアスといった神話や民間伝承で有名な古代のヒーローたちが、ムキムキのマッチョ・ボディをこれでもかと見せつけながら、横暴な支配者や魔女、妖怪などを倒して虐げられた民衆を解放するというもの。いわゆるスペクタクル史劇とファンタジー・アクションを融合したような作品群のことだ。もともと古代の遺跡が多いイタリアでは、そうしたロケーションを生かした大掛かりな歴史劇はサイレント映画時代からのお家芸だったが、そのジャンルを新たな形で戦後に復活させ、ブームの口火を切ったのが『ヘラクレス』('57)だった。当時ハリウッドではスタジオシステムが崩壊し、経費削減の求められた大手映画会社は人件費の安いイタリアに目を付ける。ローマ郊外の撮影所チネチッタでは『聖衣』('53)や『ジュリアス・シーザー』('53)、『トロイのヘレン』('56)といったハリウッドのスペクタクル史劇が次々と製作され、そこから技術を学んだイタリアの映画人たちも『ユリシーズ』('54)や『侵略者』('54)などの史劇大作を連発。そうした中で、より気軽なエンターテインメント性を追求した結果生まれたのが、『ヘラクレス』とそれに続く大量のマッスル史劇映画だったわけだ。

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そんなマッスル史劇ブームの最中に作られた本作。主人公はイタリアで特に人気の高かった怪力の英雄マチステなのだが、実はこのキャラクター、ヘラクレスやユリシーズのような古代ヒーローとは違って、サイレント時代のイタリア映画の金字塔と呼ばれるスペクタクル史劇『カビリア』('14)に初めて登場したオリジナル・キャラだった。アメリカの巨匠D・W・グリフィスの『イントレランス』('16)にも多大な影響を与えた『カビリア』は、当時イタリアでも爆発的な大ブームとなり、その中でヒロインのカビリアを守る怪力男マチステは国民的なヒーローに。同作でマチステを演じたバルトロメオ・パガーノは、その後も次々とマチステ映画に主演した。そして、戦後のマッスル史劇ブームでも、知名度の高いマチステは引っ張りだこのキャラとなる。ただ、イタリア国外では殆ど知られていないことから、輸出用の吹き替えバージョンでは名前がヘラクレスやサムソンなどに変更されていることが多い。事実、本作の英語タイトルも『Samson and the Seven Miracles of the World(サムソンと世界の7つの奇跡)』。主人公は旧約聖書に出てくる英雄サムソンに変えられている。

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で、その内容はというと、モンゴルに支配された中国を救ったのはマチステだった!という荒唐無稽なインチキ史劇(笑)。もちろん、鼻っからファンタジーのつもりで作られているため、いろーんな意味でデタラメだ。今だったら時代考証がなってない!史実と全く違うじゃないか!嘘もいい加減しろ!などと叩かれまくりそうだが、そもそも本作は純粋なエンターテインメントを目指したB級映画。当時は目くじらを立てるような向きもなかったのだろう。昔は事実を平気で無視したような、いい加減な映画も多かった。所詮は映画なんだから別にいいじゃん、ってなわけだ。ストーリー展開も単純明快。全く奇をてらっていない。こういう古き良き娯楽映画、個人的には嫌いじゃない。

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しかも本作、古代中国を再現した大規模なセットといい、絢爛豪華たる衣装の数々といい、大勢のエキストラを動員した戦闘シーンといい、とてもB級映画とは思えないほどスケールがバカでかい。というのも、実はこの作品、ハリウッド俳優ロリー・カルホーンを主演に迎えた歴史超大作『豪快!マルコ・ポーロ』('61)のために作られたセットや衣装をそのまま流用し、エキストラも引き続き使用。さらには、ジャック・パランス主演の『蒙古の嵐』('61)のセットや衣装も使われているのだ。監督は文芸映画からマカロニ・ウエスタン、ゴシックホラーまで、文字通りなんでもござれのイタリアらしい職人監督リカルド・フレーダ。中でもスペクタクル史劇は彼の十八番で、『蒙古の嵐』でもノークレジットで追加シーンの演出を行っていた。『ベン・ハー』('59)をパクった二輪馬車アクションや、香港の武侠映画そのまんまな酒場での乱闘シーンなど、賑やかで派手な見せ場を詰め込んだサービス精神はさすが。アントニオ・マルゲリティ監督やウンベルト・レンツィ監督とのコラボレーションで有名なカメラマン、リカルド・パロッティーニによるカメラワークも躍動感があって楽しい。

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マチステ役を演じているのは、ハリウッドからイタリアへ出稼ぎに来たアメリカ人俳優ゴードン・スコット。当時は、彼のようなパターンは非常に多かった。その先駆けが、『ヘラクレス』に主演したスティーヴ・リーヴス。有名ボディビルダーから俳優へ転向したリーヴスだったが、アメリカではなかなか芽が出ず、たまたまギャラの安いアメリカ人俳優を探していたピエトロ・フランチージ監督が彼の出演作を見たことからスカウトされ、一夜にして国際的な肉体派アクションスターとなった。そのリーヴスの友人だったのがゴードン・スコット。3代目ターザン俳優として6本の映画に主演したものの、それっきりパッとしなかったスコットは、リーヴスの勧めでイタリア行きを決意。5年間で15本近くのイタリア産マッスル史劇に主演した。しかし、もとから地味でスター性に乏しく、マッチョな肉体くらいしか売りのない役者ゆえ、その人気は長続きせず。史劇ブームがマカロニ・ウエスタンに取って代わられると、あっという間に消えてしまった。彼の他にも、ハリウッドで売れずイタリアに活路を求め、マッスル史劇で活躍したアメリカ人俳優は数多いが、その中でも特に印象の薄い俳優だ。ちなみに、この伝統はマカロニ・ウエスタンにも受け継がれ、クリント・イーストウッドやハント・パワーズらがアメリカン・ドリームならぬイタリアン・ドリームを掴むこととなる。

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で、その相手役として中国のお姫様を演じているのが谷洋子。実は彼女、『豪快!マルコ・ポーロ』でもヒロイン役を演じており、あちらではモンゴル皇帝フビライ・ハンの姫君という役柄だった。ほかにも、ユリシーズと恋に落ちるタタール人の姫君を演じた『Ursus e la ragazza tartar(ユリシーズとタタールの姫君)』('61)、アニタ・エクバーグやアニエス・スパークらと肩を並べてお色気を振りまいたセックス・コメディ『Bianco, rosso, giallo, rosa(白、赤、黄、ピンク)』('65)など、当時は結構な数のイタリア映画に出演している谷だが、残念ながらその殆どが日本未公開のままに終わっている。

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妖艶な悪女リュー・タイを演じているエレーヌ・シャネルはフランス人の女優だが、その出演作の大半がイタリアとの合作映画。史劇からマカロニ・ウエスタン、スパイ映画などの色添え女優として当時は引っ張りだこだった。リチャード・ハリソンと共演した『危機一髪・殺しの追跡』('66)では、シェリー・モーガンという英語圏向け変名を使用している。また、抵抗軍のリーダー、チョーには、『ヘラクレス』および続編『ヘラクレスの逆襲』('59)でユリシーズ役を演じていたガブリエレ・アントニーニ。どちらも白人が東洋人を演じるという、当時ありがちなキャスティングなのだが、他の映画のようないわゆる東洋人メイクというのをしていないため、どこからどう見ても白人にしか見えないのがトホホなポイントだろう。あと映画ファン要注目なのは、抵抗軍に協力する高僧役を、ソビエト映画の傑作『アジアの嵐』('28)に主演していたワレリー・インキジノフが演じていること。モンゴル系ブリヤート人である彼は'30年代にドイツへと移住し、その後フランスに拠点を移して数多くのヨーロッパ映画に出演していた。

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まあ、そんなこんなで気軽に楽しめるヒーロー映画ではある。マチステとトラの格闘シーンでは、クロースアップだとぬいぐるみ相手に熱演するゴードン・スコット、ロングショットだと本物のトラとじゃれあうアニマル・コーディネーターってのが丸分かりなのも微笑ましい(笑)。なお、本作はスタンダードサイズにトリミングされたテレビ放送用バージョンが廉価版DVDとしてアメリカで数多く出回っているが、上記のDVDは唯一本来のスコープサイズで収録されている。ただし、尺自体はイタリア本国の劇場版に比べて30分ほどカットされているのだが…。

評価(5点満点):★★★☆☆

DVD情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:1.0ch Dolby Digital/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/時間:62分/発売元:Retromedia/Infinity
特典:『Ali Baba and the Seven Saracens(原題Simbad contro i sette saraceni)』/マッスル史劇予告編集


by nakachan1045 | 2016-12-27 03:51 | 映画 | Comments(0)

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