なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「悪魔の生物教師」 Cat And Mouse aka Mousey (1974)

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監督:ダニエル・ペトリ
製作:アイーダ・ヤング
製作総指揮:ベリル・ヴァ―チュー
脚本:ジョン・ピーコック
撮影:ジャック・ヒルドヤード
音楽:ロン・グレイナー
出演:カーク・ダグラス
   ジーン・セバーグ
   ジョン・ヴァーノン
   サム・ワナメイカー
   ジェームズ・ブラッドフォード
   ベッシー・ラヴ
   ベス・ポーター
   スザンヌ・ロイド
イギリス・アメリカ合作/86分/カラー作品




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<あらすじ>
住み慣れた我が家を売り払って出て行こうとする中年男ジョージ・アンダーソン(カーク・ダグラス)。ジュニアハイスクールの生物学教師として長年勤めてきた彼だが、地味で大人しい性格から生徒にはMousey(臆病者)とバカにされている。それでも年下の美しい妻ローラ(ジーン・セバーグ)と可愛い息子サイモン(スチュアート・チャンドラー)に恵まれ、そのささやかな幸せだけを心の支えにしてきた。
ところが、妻は息子を連れて離婚することに。しかも、彼女はサイモンが別の男性との間の息子であることを公に暴露し、ジョージに恥をかかせることで彼に離婚を同意させた。心にポッカリと穴の開いたジョージ。だが、ローラがカナダの裕福な建築家リチャードソン(ジョン・ヴァーノン)と再婚することを知った彼は、いてもたってもいられなくなり、カナダへ向かうことを決意したのだ。
弁護士からジョージがカナダへ来たことを知らされたローラは心中穏やかではない。彼には最初から愛情などなかった。当時未婚で妊娠していた彼女は、必要に迫られ打算で結婚したのだ。ジョージもそれは納得の上だったが、いつしか情が移ってしまったのだろう。特にサイモンへ注ぐ愛情は並々ならぬものがあった。ジョージはアンダーソンの姓をサイモンに継がせたいと、書類を持ってローラのアパートを訪ねるが、息子はあなたと一切関係がないとローラは突っぱね追い返すのだった。
怒りと悲しさと悔しさで次第に精神のバランスを崩していくジョージ。ローラから彼が現れたことを聞いたリチャードソンは、私立探偵を雇ってジョージを監視させるものの、それでもジョージはストーカーのようにローラの周辺を執拗に付きまとう。2人の結婚式でも遠くから見つめるジョージの姿があった。
もはや感情をコントロール出来なくなったジョージは、公衆電話から警察に連絡を入れる。「今夜、人を殺してしまうかもしれない」と。その言葉通り、行きずりの女性サンドラ(ベス・ポーター)の自宅へ上がり込んで彼女を実験用のメスで殺害するジョージ。さらには、尾行する私立探偵をも惨殺してしまう。
そして、リチャードソンの母親(ベッシー・ラヴ)とサイモンを人質にしたジョージは、ローラと別荘で休暇を楽しむリチャードソンを呼び出す。だが、そこにジョージの姿はなかった。リチャードソンから通報を受けて駆け付けた警察の警部(サム・ワナメイカー)は、別荘に一人残されたローラが危ないと考えてパトカーを緊急手配するのだが…。

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かつて『悪魔の調教師』('74)なんてゲテモノ・ホラーもあったが、もちろん本作とは一切関係がないし、そもそも本作はホラー映画ですらない。周囲からバカにされコケにされ続けた風采の上がらない中年教師が、唯一の心の支えだった妻と子供にまで見捨てられたことから逆上。ストーカー行為を続けるうちにどんどんと人格が崩壊し、やがて復讐の鬼と化していく様を描いた心理サスペンスだ。

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主な撮影地はカナダのモントリオールだが、本編自体はアメリカとイギリスの合作。アメリカでは「Mousey」のタイトルでテレビ映画として放送されたが、イギリスでは「Cat and Mouse」として劇場公開されている。Mousey(もしくはMousy)とは”ネズミのようにおどおどとした”という意味で、要するに臆病者のことを指す蔑称だ。一方のCat and Mouseとは追いかけっこのことで、ストーリーの終盤、別荘に閉じ込めた元妻ローラをジョージが追いかけるシーンのことを指している。ネズミ呼ばわりされていたジョージが、まるで猫のように獲物を追い回すわけだから、なんとも皮肉の効いたタイトルだと言えよう。

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興味深いのは、この負け犬そのものといった感じの、普段は地味で大人しくて気の弱い中年男をカーク・ダグラスが演じていることだろう。なんといったってスパルタカスですよ。見るからに筋骨隆々としたハリウッドを代表するタフガイ俳優。撮影当時は既に50代半ばを超えていたとはいえ、あごの割れた精悍な顔つきは相変わらず健在だし、そもそも恋敵役ジョン・ヴァーノンと比べても明らかにずっと男前。いやあ、違和感あり過ぎでしょ…と最初は思っていたのだが、そこはさすが名優。根暗でいじけて捻くれた男の悲哀をこれでもかと全身から醸し出し、だんだんとそれらしく見えてくるのだから不思議なもの。次第に常軌を逸して暴走していく姿にも気迫が漲っている。これはもう、半ばカーク・ダグラスの一人舞台と呼んでも良かろう。

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脚本もなかなか秀逸。物語は別れた妻子を追ってジョージがカナダへ向かうところから始まる。つまり、起承転結の承からいきなり入るのだ。本来はそこへ至るまでの経緯や背景が語られるべきなのかもしれないが、その辺は必要最低限の情報をセリフの随所に織り交ぜつつ、細部を観客の想像に委ねながら登場人物たちの個性や置かれた状況を浮き彫りにしていく。先述したように、アメリカではテレビムービーとして放送された本作。CMスポットなど諸々を考慮すると、本編は実質90分以内に収めなくてはならない。限りある時間をなるべく無駄にせず、なおかつ不自然なご都合主義に陥らないよう、極めて巧妙に脚本が構成されているのだ。脚本を書いたのはハマー・フィルムで『Straight on till Morning』('72)と『悪魔の性キャサリン』('76)を手掛けたジョン・ピーコック。特に『Straight on till morning』は愛情に飢えた孤独な男女の狂気と破滅を見事に描いた傑作サイコ・サスペンスで、本作と相通じる要素が多分に含まれている。

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主人公ジョージの孤独と哀しみに寄り添ったダニエル・ペトリ監督の演出もいい。随所に挿入される大都会モントリオールの雑踏を彷徨うジョージの寂しげな姿、全編を覆うロン・グレイナーの切なくも美しい音楽スコア。そのダークでメランコリックなタッチは非常にヨーロッパ映画的だ。アメリカではこの音楽スコアがサスペンス映画に相応しくないのではとも評されているようだが、まあ、確かにアメリカ人の感性とはちょっと違うのかもしれない。むしろ日本人好みだとも言えよう。ポール・ニューマン主演の『アパッチ砦・ブロンクス』('81)で知られるダニエル・ペトリは、『キーファー・サザーランドのベイ・ボーイ』('85)や『スクエアダンス』('87)などの青春ドラマでも手腕を発揮する人で、作品による出来不出来のバラツキは結構あるものの、基本的にはジャンルに関係なく人間の繊細な感情のひだを描くのが上手い監督だ。

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なお、ネタバレになるので詳細までは言及しないが、あの傑作スラッシャー映画『暗闇にベルが鳴る』('75)を先駆けた終盤のどんでん返しも大きな見どころ。ラストのジョージとローラの”追いかけっこ”もまずまずの緊張感だし、その先に待っているクライマックスも実に哀しく切ない。本作が単なるサイコ・サスペンスではなく、どうしても器用に生きることのできない人間の孤独な魂の叫びを描いた悲劇だということを改めて思い知らされる。

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元妻ローラ役には『悲しみよこんにちは』('57)と『勝手にしやがれ』('59)であまりにも有名な女優ジーン・セバーグ。少なからずジョージに同情を向けつつも、自分と息子の幸せのため心を鬼にせざるを得ないローラの複雑な心情を、決して十分とは言えない出番の中で丁寧に表現している。その新しい夫リチャードソンを演じているジョン・ヴァーノンは、『殺しの分け前/ポイント・ブランク』('67)や『ダーティ・ハリー』('71)などでお馴染みの強面俳優で、『アニマルハウス』('78)の校長役でも評判になった人だが、ここでは主人公と対照的な自信に満ちた成功者という役割に終始しており、それ以上のキャラクター付けはなされていない。映画監督としても知られる名優サム・ワナメイカーに至っては、警部という以外に具体的な役名も与えられていないという特別ゲストみたいな扱い。一方、『ロスト・ワールド』('25)や『ブロードウェイ・メロディー』('29)のヒロイン役で有名なハリウッド草創期のトップスター、ベッシー・ラヴは、当時はほとんど端役同然の仕事ばかりだったのだが、本作ではリチャードソンの心優しい母親役として、それなりのセリフと出番を与えられているのが珍しい。

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なお、本作の英国盤オフィシャルDVDには、ビスタサイズの劇場公開バージョンとスタンダードサイズのテレビ放送バージョンの2種類が収録されており、その両方を見比べてみると、もともとスタンダードサイズで撮影されたフィルムの上下にマスキングをしてビスタサイズに加工したことが分かる。このような疑似ワイドスクリーンというのは経費を安く抑えられるため、昔は低予算映画を中心によく使われた手法だった。

評価(5点満点):★★★★☆

参考DVD情報(英国盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.75:1)/音声:1.0ch Dolby Mono/言語:英語/字幕:なし/地域コード:2/時間:86分/発売元:Network/Studiocanal (2014年)
特典:スタンダードサイズ・バージョン(86分)/オリジナル劇場予告編/スチル・ギャラリー/プロモーション用素材(PDF)

by nakachan1045 | 2017-01-07 05:54 | 映画 | Comments(0)

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