なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「アクメッド王子の冒険」 Die Abenteuer des Prinzen Achmed (1926)

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監督:ロッテ・ライニガー
協力:ワルター・ルットマン
   ベルトルド・バルトッシュ
   アレクサンデル・カルダン
技術監督:カール・コッホ
音楽:ウォルフガング・ツェラー
ドイツ映画/67分/モノクロ・サイレント作品




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<あらすじ>
イスラムの王様カリフの誕生日を祝う盛大な催しに、悪賢い魔法使いがやって来る。魔法使いの披露した「空飛ぶ魔法の馬」を欲しがるカリフだったが、その代償として魔法使いはカリフの娘ディナルザデー姫を要求する。それに憤慨する姫の兄アクメッド王子。すると、すかさず魔法使いは王子を魔法の馬に乗せ、空高く飛ばしてしまう。
どこまでも飛び続ける魔法の馬に困り果てるアクメッド王子。だが、馬の頭飾りが上昇用のレバー、尻尾が下降用のレバーになっていることに気付き、地上へ降りることに成功する。だが、そこは故郷から遠く離れたワクワクと呼ばれる魔法の島だった。
湖で従女たちと戯れる美しい妖精パリバヌーに一目惚れしたアクメッド王子は、彼女を故郷の王国へと連れ帰って結婚しようとする。最初は戸惑ったパリバヌーも王子の熱愛にほだされ、2人はお互いに惹かれあうようになった。ところが、それを知った魔法使いがアクメッド王子を罠にかけ、パリバヌーを誘拐して中国の皇帝に売り払ってしまう。
魔法使いによって身動きが取れなくなったアクメッド王子を救ったのは、魔法使いの宿敵である火の山の魔女。魔女の協力で中国皇帝からパリバヌーを救出したアクメッド王子だったが、今度はワクワクの妖怪たちが彼女を連れ戻してしまった。固く閉じられたワクワクの門を開けるには、アラジンが持つ魔法のランプが必要だ。そこへ現れたアラジンは、ディナルザデー姫が魔法使いに誘拐されたことを告げる。アラジンと姫は深く愛し合っていたが、魔法使いに騙されてしまったというのだ。
かくして、アクメッド王子とアラジンは火の山の魔女の力を借りて、それぞれの愛する女性を救い出そうとするのだったが…。

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現存する世界最古の長編アニメーション映画であり、『白雪姫』('37)や『ファンタジア』('40)などのディズニー・アニメにも多大な影響を及ぼしたと言われる作品。それがドイツの女性アニメーター、ロッテ・ライニガーの手掛けた、美しくも壮麗な影絵アニメーション『アクメッド王子の冒険』だ。

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もともと舞台女優だったというライニガー。高名なマックス・ラインハルトの劇団に所属していた彼女は、休憩の合間などに趣味の切り絵を楽しんでいたところ、同劇団出身のスーパースターで映画監督でもあったパウル・ウェゲナーに認められ、彼の作品のタイトル・シークエンスや字幕シークエンスのシルエット・デザインを任されるようになる。当時はまだサイレント映画の時代。シーンとシーンの間に挿入される字幕には、その重要性ゆえ凝った装飾が施されることも多かったのだ。やがてウェゲナー作品でストップモーションによる特撮を手掛けたライニガーは、その実力が認められベルリンの文化研究所でアニメーションの実験研究を行うように。そこで将来の夫カール・コッホやワルター・ルットマンらアヴァンギャルド作家と知り合い、切り絵を使った影絵アニメーションを手掛けることとなる。

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影絵アニメを制作するために、ライニガーは専用の機械を夫コッホと共に開発。それはミシン台のような形をしており、真ん中にはガラス板がはめ込まれ、2本の電球によって真下から照らされている。これが言うなればフレームとなるわけだ。そこに半透明の薄い紙に描かれた背景画を敷き、その上にメインの切り絵を配置する。紙の切り絵は随所をワイヤーによってパーツが繋がれており、それを少しづつ動かしながらコマ撮りすることでアニメーションが完成するわけだ。もちろん、これはあくまでも単純な基本構造であり、様々な実験を重ねることで、より複雑かつダイナミックな映像表現が可能となっていったのである。

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1919年から短編の影絵アニメーションを発表するようになったライニガーと仲間たち。背景画の抽象的デザインなどはワルター・ルットマン、縫い針や石鹸の泡、二重露光など様々な素材や技巧を駆使した特殊効果はベルトルド・バルトッシュといった具合に、各アーティストがそれぞれの得意分野で制作に携わる一方、ライニガーは総監督として演出からデザイン、ストーリーまで全体の舵取りを行い、さらには全ての切り絵を自ら一人で作り上げたという。そして、短編アニメのみならず企業コマーシャルも手掛けるようになった彼らに銀行家ルイス・ハーゲンが声をかける。インフレ対策の一環で大量の映画用フィルムを購入したハーゲンは、それを使って長編アニメ映画を作らないかと持ち掛けたのだ。当時のアニメは短編が一般的だったことからはじめは躊躇したというライニガーだが、仲間たちと相談のうえで引き受けることにする。そうして生まれたのが本作だったというわけだ。

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制作におよそ3年を費やしたという本作。ストーリー自体はアラビアの説話集『千夜一夜物語』からの抜粋だが、『ライニガーのデザインした影絵アートはインドネシアの伝統的な影絵芝居ワヤン・クリッをお手本としている。そのオリエンタルでエキゾチックでボタニカルなデザインは、アラビアン・ナイトの世界にピッタリで全く違和感なし。全体的なアニメーションの動きはぎこちなさも目立つが、しかし部分的には驚くほどなめらかできめ細かく、なによりも女性キャラクターの奥ゆかしい動作を含めた艶めかしさは特筆に値する。とにかく手が込んでいて美しいのだ。

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さらに、魔法のランプから巨大な精霊が現れたり、魔法使いが瞬時に様々な動物へ姿を変えるなど、後年の特殊視覚効果を先駆けたような映像表現の豊かなイマジネーションも素晴らしい。中でも見どころは終盤の魔法使いVS魔女の妖術バトルと、アクメッド王子VS魔物軍団の全面戦争。お互いが次々と猛獣に変身し、さらには火の玉で攻撃しあう妖術バトルは迫力満点。あの火の玉のリアルな特殊効果など、どうやって作ったんだろう?と驚かされる。辺り一面に湧いて出る魔物たちとアクメッド王子の壮絶な戦いも超スペクタクル。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズや『ハリー・ポッター』シリーズに至るまで、あらゆるファンタジー・アクション映画の原点がここにあると言っても過言ではないだろう。

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1926年9月3日にドイツのベルリンで初上映された『アクメッド王子の冒険』。ただ、やはり当時は長編アニメーションという形態そのものが異例だったこともあり、芸術的な評価は高かったものの、ロードショー公開へ向けての配給元がなかなか見つからず。フランスの巨匠ジャン・ルノワールの取り計らいでパリで上映されたところ大反響を巻き起こし、それを契機に各国で劇場公開されるようになったという。本作を見て強い感銘を受けたウォルト・ディズニーは、本作の魔法使いの表情や手の動きを『白雪姫』の邪悪な女王の動作の参考にしたとされるほか、『ファンタジア』の制作の際にはワルター・ルットマンをハリウッドへ招いている。

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なお、その後ナチスの台頭を避けて国外へ脱出したライニガーとコッホの夫妻は、ルノワールやルキノ・ヴィスコンティらとの仕事を経て、戦後もコンスタントに子供向けの影絵アニメーションを制作。日本の藤城清治やフランスのミッシェル・オスロなど、彼女の作品に影響を受けた芸術家は少なくない。その名刺代わりの代表作とも言える本作は、80年以上を経た今も見る者の胸をワクワクとときめかせる。時代に色褪せることのない魔法のような傑作だ。

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評価(5点満点):★★★★★


参考ブルーレイ&DVD情報(英国盤2枚組)
ブルーレイ
モノクロ(カラー着色)/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:2.0ch リニアPCM Mono/言語:ドイツ語(サイレント版)・英語(サウンド版)/字幕:英語・ドイツ語/地域コード:B/時間:67分
DVD
モノクロ(カラー着色)/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:ドイツ語(サイレント版)・英語(サウンド版)/字幕:英語・ドイツ語/地域コード:2/時間:67分
発売元:British Film Institute (2013年)
特典:女優ペネロープ・マクギーのナレーションによるサウンド版/『ドリトル先生3部作』(1928年・33分)/『空飛ぶカバン』(1921年・9分)/『マルケスの秘密』(1922年・2分)/『ベツレヘムの星』(1956年・18分)/『放蕩息子』(1974年・14分)/解説ブックレット(30p)





by nakachan1045 | 2017-01-11 00:47 | 映画 | Comments(0)

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