なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「日本橋」 Bridge of Japan (1956)

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監督:市川崑
制作:永田雅一
企画:土井逸雄
原作:泉鏡花
脚本:和田夏十
撮影:渡辺公男
美術:柴田篤二
色彩指導:岩田専太郎
音楽:宅孝二
出演:淡島千景
   若尾文子
   山本富士子
   品川隆二
   川口浩
   柳永二郎
   船越英二
   浦辺粂子
   沢村貞子
   岸輝子
   平井岐代子
   潮万太郎
日本映画/111分/カラー作品




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<あらすじ>
日本橋元大工町の辺り。惚れた男に未練を残す芸者の幽霊が出ると評判の路地裏に、芸者置屋の稲葉家が転居する。駆け出しのお千世(若尾文子)ら9人の芸者衆を抱えるのは、気風のいい江戸っ子の女主人・お孝(淡島千景)だ。
界隈では誰もが名を知る人気芸者のお孝だったが、気性が激しく気位の高いところがあり、町で一番の美人と評判の芸者・清葉(山本富士子)に対して競争心をむき出しにしている。旦那と娘がいる清葉は操を立てているため、そんな彼女に振られた男たちとお孝が付き合って捨てることも少なくない。清葉への当てつけだ。
その中の一人、北海道の海産物問屋だった五十嵐伝吉(柳永二郎)はお孝に溺れるあまり仕事を失い、女房にも先立たれ、育てられなくなった乳飲み子を清葉の家の軒先に捨て、それでもなおお孝を求めて浮浪者となり町を彷徨っていた。清葉は乳飲み子を伝吉の息子とは知らずに育てることとなる。
そんなある日、生真面目な若き大学教授・葛木晋三(品川隆二)は、待合・お鹿に清葉を呼び出して想いを告白する。貧しい家庭に育った彼の姉は晋三を大学へ出すために妾となり、そのまま行方知れずとなっていた。そんな姉を心から慕う晋三は、姉によく似た清葉に惚れこみ、妻となって欲しいと願い出たのだ。しかし、操を立てた清葉はその想いを受け入れることは出来ない。彼女は涙を呑んで晋三と別れの杯を酌み交わす。
恋に破れた晋三は真夜中の一石橋に立ちすくみ、姉の形見である人形を川へ投げ捨てる。だが、その様子を怪しんだ警察の巡査・笠原信八郎(船越英二)に職務質問をされてしまった。そこへたまたま通りかかったお孝の機転で事なきを得る。晋三が清葉に振られたことを知ったお孝は、例のごとく彼を誘惑して付き合うことになるが、これまでと違って彼女は本気で晋三に惚れてしまうのだった。
心の中で晋三を自らの旦那様と決めたお孝。包丁で脅して居座ろうとした伝吉だったが、決意の固いお孝の凄みに負けて退散するしかなかった。それでもなお諦められない彼は、深夜に信三を待ち伏せして、お孝と別れてくれと懇願する。当然のようにはねつける晋三だったが、しかし自分のお孝に対する想いが伝吉に遠く及ばないことに気付き、そのことを恥じて巡礼の旅へ出ることにする。
晋三がいなくなって以来、お孝は頭がおかしくなってしまった。忠義芯の強いお千世を残し、芸者衆もみんな出て行ってしまい、稲葉屋は開店休業状態。困窮したお孝とお千世を救おうと清葉が手を差し伸べた矢先、思いがけない悲劇が彼女たちの身に降りかかる…。

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明治の文豪・泉鏡花の戯曲を、当時大映に移籍したばかりだった市川崑が映像化した作品。淡島千景に若尾文子、山本富士子という豪華3大女優を主演に迎え、贅を尽くした美術セットと衣装を駆使し、鏡花の妖しくも美しく激しい女の情念の世界をスクリーンに描き出そうとしたわけだが、残念ながら必ずしも100%成功しているとは言い難い。

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とはいえ、少なくとも映像の美しさに関しては非の打ちどころがないと言えよう。昭和の美人画の第一人者であり、映画の美術考証や時代考証でも知られる岩田専太郎の指導による、アクセントの赤を強調したイーストマンカラーの色彩美は筆舌に尽くしがたいものがある。真っ白な雪が静かに降りしきる一石橋を、真っ赤な傘を差したお千世が足早に歩いていくシーンの抒情と幻想など、思わず目を奪われるようなシーンも少なくない。

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さらに、巨大なスタジオセットの中に日本橋界隈をそっくり再現。マットペイントと陰影の強い照明を巧みに使って作り上げられた世界は、まるで浮世絵や文芸雑誌の挿絵のごとき独特のムードを醸し出し、耽美的ですらある非日常の空間を現出させている。芸者を演じる女優たちの上品で壮麗な和服衣装の数々も見事なもの。思わずうっとりと見惚れてしまうこと必至だ。

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まるで舞台の幕が上がるようなオープニングから、市川崑監督の演出にも才気がほとばしる。宵の口に細く薄暗い裏路地を彷徨い歩く美しい芸者の幽霊。突然スクリーンが暗転してスポットライトに浮かび上がるお孝。午後のそよ風に飛ばされ、お孝の手から清葉の手へと舞い落ちる黄金色の扇子。要所要所で洗練された実験的な映像表現が試みられ、それがある種のファンタジックな雰囲気を作り上げていくのだ。

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ただその一方で、映像に凝り過ぎてストーリーが表層的になってしまったという印象も否めない。泉鏡花の原作は読んだことがないので比較することは出来ないが、全体的に展開が駆け足となってしまい、一方的に清葉への強いライバル心を燃やすお孝の執念、家庭がありながら芸者を続ける清葉の意地、そしてハンサムなインテリ青年・晋三へのめり込んでいくお孝の情念など、女たちの心のひだが十分に描き切れていない。伝吉の狂気が暴走して凄惨な結末を迎えるクライマックスも、拍子抜けするくらいあっさりとしている。どうにも食い足りなさが残るのだ。

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それでもなお、役者陣の好演には特筆すべきものがある。中でもやはり、鉄火肌でチャキチャキの芸者お孝を演じる大女優・淡島千景は別格だ。しなの作り方なんぞも実に小粋で色っぽい。当時32歳のまさに女盛り。殺せるものなら殺してみな、やるんだったらあたしの名前を切り付けるんだね、それくらい我慢してやる、と包丁を手にした伝吉に凄んでみせるシーンも気迫が漲ってアッパレ。その堂々たる立ち振る舞いはさすがだ。燃え盛る炎のような女。それゆえ惚れた男へののめり込み方も激しく、気性の激しさで身を滅ぼしていくこととなってしまう。

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それとは真逆なのが清葉を演じる山本富士子。どう考えても理不尽なお孝の敵対心にもじっと耐え、言いがかりをつけられても落ち着いて聞き流す大人の神対応。そればかりか、晋三に捨てられて気のふれたお孝を心配し、困窮した稲葉屋に救いの手を差し伸べようとまでする優しさ。およそ水商売の世界には似つかわしくない、まさしく完璧なまでの淑女だ。恐らく、それがお孝の嫉妬心を燃え上がらせたのだろう。大和撫子のお手本のような山本富士子にはぴったりの役柄だ。

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また、お孝を姉のように慕うお千世には、当時まだ21歳だった若尾文子。どことなくあどけなさが残っていてあか抜けないのが微笑ましい。演技もまだちょっと素人臭いのだが、それが逆に純朴で未熟で可愛らしいお千世の個性となっている。貧しい植木屋の祖父をいつも気にかけ、かいがいしく身の回りの世話をする姿にキュンと来てしまうのだ。

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また、意外(?)にも好演だったのが晋三役の品川隆二。これが初の大役だ。筆者は後年の恰幅が良くなった三枚目の中年時代劇俳優としての彼しか知らなかったが、ここでは物静かで知的な悩めるインテリ青年で、しかも現代でも通用するようなかなりのイケメン。豊かな教養があるゆえに物事を必要以上に深く考えすぎてしまい、それが不幸の引き金となってしまうわけだが、ただの優男に終わらない品川隆二の品格ある佇まいが役柄に深みを与えていて秀逸だ。なぜこの人が大スターになれなかったのか、この作品を見る限りでは理解に苦しむところである。

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クマの毛皮を羽織っていることから赤熊などと呼ばれ、どれだけお孝に拒絶され足蹴にされても付きまとい、やがてその執着心が狂気へと変わっていく男・伝吉役の柳永二郎も怪演。さらに、本作の3年後に小津安二郎の『浮草』で若尾文子の恋人を演じる川口浩が、ここではお千世をバカにしてイジメる近所のガキ大将として1シーンのみ登場。また、最初は居丈高に見えたものの実は人情家で、信三に対するお孝の気持ちに理解を示す巡査役を演じる船越英二も、出番こそ少ないものの印象的だ。そのほか、娘を芸者にするしかなかったことに負い目を感じている清葉の母親に浦辺粂子、お孝を食い物にする強欲な叔母に岸輝子、お孝に恩義がある待合の女将に沢村貞子と、日本映画を代表する名脇役女優たちが顔を揃えている。

評価(5点満点):★★★★☆

参考DVD情報(日本盤)
カラー/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:Dolby Digital Mono/言語:日本語/字幕:なし/地域コード:2/時間:111分/発売元:株式会社KADOKAWA
特典:劇場予告編/スタッフ・キャスト紹介/フォトギャラリー

by nakachan1045 | 2017-02-03 11:49 | 映画 | Comments(0)

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