なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「ワイルド・ボーイ」 Sonny Boy (1989)

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監督:ロバート・マーティン・キャロル
製作:オヴィディオ・G・アッソニティス
脚本:グリーム・ウィフラー
撮影:ロベルト・デットーレ・ピアッゾーリ
編集:クラウディオ・カトリー
音楽:カルロ・マリア・コルディオ
主題歌:デヴィッド・キャラダイン
出演:デヴィッド・キャラダイン
   ポール・L・スミス
   ブラッド・ドゥーリフ
   コンラッド・ジャニス
   シドニー・ラシック
   サヴィーナ・ゲルサック
   アレクサンドラ・パワーズ
   マイケル・グリフィン
   スティーヴ・カーライル
アメリカ・イタリア合作/96分/カラー作品




<あらすじ>
アメリカ中西部の荒野に囲まれた田舎町ハーモニー。人口たった500人の寂れたこの町は、凶暴で頭のいかれた犯罪者スルー(ポール・L・スミス)に支配されていた。治安を守るはずの保安官もスルーの言いなり。貧しい住民たちも、報復を恐れ黙って従っている。唯一、町医者のベンダー(コンラッド・ジャニス)だけはスルーに批判的な目を向けていたが、医療ミスが原因で名医の座から転げ落ち、この最果ての町へ流れ着いた飲んだくれの彼には、スルー一味に抵抗するだけの気力は残されていなかった。
そんなある日、町で唯一のモーテルに珍しく宿泊客があった。スルーの手下ウィーゼル(ブラッド・ドゥーリフ)泊客の若い夫婦を殺害し、所持品や車を奪って親分のもとへ届ける。すると、その車には生まれたばかりの赤ん坊が乗っていた。スルーは赤ん坊を始末しようとするが、トランスジェンダーの妻パール(デヴィッド・キャラダイン)が猛反対し、自分の息子として育てることにする。
ソニー・ボーイと名付けられた赤ん坊を、我が子のように溺愛するパール。しかし、スルーは彼女から力づくで赤ん坊を奪い、自己流に厳しく育てようと考える。6歳の誕生日に息子の舌を切り落としたスルーは、ソニー・ボーイをけだもの同然に扱う。それはまるで、獰猛だが飼い主には従順な闘犬を育てるかのようだった。
やがて17歳を迎えたソニー・ボーイ。賄賂に満足できなくなった強欲な町長に手を焼いたスルーは、息子の初仕事として町長の殺害を実行させる。その結果に満足したスルーは、ソニー・ボーイを使って遠くの豊かな土地での強盗を計画。手下のウィーゼルにチャーリー(シドニー・ラシック)を従え、アイスクリームの移動販売車を隠れ蓑にして犯罪行為を重ねる。
いわば物を言わぬ従順な殺人者として育てられたソニー・ボーイだったが、その内面では自我が芽生えつつあった。本当は人殺しなんかしたくない。そんな彼に、ブロンドの美少女ローズ(アレクサンドラ・パワーズ)が優しい眼差しを向ける。しかし、町の住民たちは言葉を喋らない野獣のようなソニー・ボーイを毛嫌いしバカにする。
やがて、ソニー・ボーイをバイクで追いかけまわしたカップルが事故で死亡。住民たちはスルーに対する激しい積年の憎悪を、立場の弱いソニー・ボーイへ向ける。よそ者の女性サンディ(サヴィーナ・ゲルサック)に扇動された住民たちは、ソニー・ボーイを殺すべく暴徒と化す。命懸けで息子を守ろうと、スルーとパールは武器を手に応戦するのだったが…。


まさに怪作。カルト映画と呼ばれる作品は数あれど、これほど奇妙で風変わりな作品もなかなかないだろう。主演のデヴィッド・キャラダイン曰く、『俺たちに明日はない』と『赤ちゃん教育』と『ロッキー・ホラー・ショー』をごちゃ混ぜにしたような映画とのことだが、そう言われると確かにそうかもしれない。初期ジョン・ウォータースかアンディ・ウォーホルかといった感じの、キッチュで悪趣味なアングラ映画の胡散臭さに典型的なスクリューボール・コメディのユーモアを織り交ぜつつ、アメリカン・ニューシネマ的なアウトローの美学でまとめ上げた異色のハードバイオレンス映画だ。

アクの強い怪優ばかり揃えた主要キャストの顔ぶれがまた凄い。寂れた田舎町を恐怖支配するサイコでイカれたデブオヤジ、スルーには『ポパイ』('80)のブルート役や『砂の惑星』('84)のラバン役でお馴染みの巨漢ポール・L・スミス。その忠実な子分で後先考えず殺人や強盗を働き怒られてばかりいるウィーゼルには、『チャイルド・プレイ』('88)のチャッキーことブラッド・ドゥーリフ。もう一人の子分でおべっか使いの腰巾着チャーリーには、『恐怖のいけにえ』('80)のサイコ親父や『カッコーの巣の上で』('75)のチャーリー役で知られるシドニー・ラシック。そしてなんといっても強烈なのは、スルーの”妻”パール役を演じるデヴィッド・キャラダインだ。

いや、なんたって女装のデヴィッド・キャラダインですよ。どこからどう見たって、厚化粧な女の格好をした強面のごついオッサン。これがふつーに家庭的な妻として出てきて、赤ん坊のソニー・ボーイにおっぱいあげようとしたりする。そのシュール過ぎる光景たるや、ほぼダーク・ファンタジー(笑)。このスルーとパールの夫婦関係というのがまた面白い。ケダモノのように育てた息子ソニー・ボーイに悪事を働かせる横暴な専制君主スルーに対し、息子を溺愛して甘やかそうとする母性本能の塊みたいなパール。当然お互いに強く対立しあうのだけれど、しかし同時にお互いを認め合ってもいたりする。なので、クライマックスでは暴徒と化した住民から息子を守るため、夫婦は武器を手に取って立ち上がり、一致団結して決死の戦いに挑んでいく。これがね、どういうわけか不覚にも感動させられるんですよ。

ストーリー的には、いわゆる”アメリカの田舎は怖い”映画の系譜に連なる作品。凶悪そのもののならず者一家の暴虐と、彼らに育てられた若者の悲劇を軸にしつつ、モラルの崩壊した閉鎖的な薄汚い田舎社会を舞台に、人間の野蛮で浅ましい本性がこれでもかとぶちまけられていく。それはスルーの傍若無人に見て見ぬふりを決め込み、いざとなると凶暴な殺戮集団へと変貌していく住民たちも同様だ。むしろ単純明快な悪人たちよりも、卑怯な弱者の方がずっとたちが悪い。

と同時に、本作はどこか神話的でポエティックな雰囲気が漂うのも特徴。天使ような美少女ローズとソニー・ボーイの心の触れ合いも繊細なタッチで描かれる。アメリカ西部の広大な自然を捉えたカメラワークも幻想的だ。低予算映画でありながら、映像の安っぽさは殆ど感じられない。それがまた、悪趣味そのものの世界観と相まって不思議な味わいを醸し出す。

製作を手掛けたのは『デアボリカ』('74)や『テンタクルズ』('77)の監督として有名なイタリア産B級映画の商売人オヴィディオ・G・アッソニティス。当時は『ダークウォーター』('87)や『ザ・トレイン』('89)、『ブラッド・バイター』('89)など、イタリアとアメリカの合作でカルトな怪作を次々と製作していた。本作も非常に彼らしい映画だ。撮影監督には『デアボリカ』以来、アッソニティスの関連作品には欠かせないカメラマンのロベルト・デットーレ・ピアッツォーリ。住民を扇動するホワイトトラッシュな女性サンディ役には、アッソニティスの恋人で常連女優だったサヴィーナ・ゲルサック。お馴染みのメンツが揃っている。それゆえ、本作は長いことアッソニティスが匿名で監督した映画なのではないかと言われてきた。しかし、残念ながら(?)ロバート・マーティン・キャロルなる監督は本当に実在する。

もともと自主製作の短編映画で評価されたキャロル監督は、その後ローマへ渡ってアッソニティスのアシスタントをしていたらしい。そこでボスから持ち込まれたのが、後に『Dr.ギグルス』('93)というこれまた異形の怪作を手掛けるグリーム・ウィフラーの書いた、本作の脚本だったというわけだ。これが彼にとって劇場用長編映画デビューだったものの、あまりにも内容が不愉快だとして興行主たちから総スカンを食らい、劇場公開から1週間ほどで上映を打ち切る映画館が続出してしまったという。その上、同様の理由でエージェントからも契約を切られてしまい、これ1作で映画監督としてのキャリアを絶たれてしまった…ということだったようだ。その後、自主製作で『Baby Luv』('00)なる映画を発表しているが、ほとんど注目されることもなく。本作がちゃんと正当な評価を受けていたら、彼のキャリアも少しは違っていたはず。なんとも気の毒な話である。

評価(5点満点):★★★★☆

参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio Stereo/言語:英語/字幕:英語/地域コード:A/時間:96分/発売元:Scream Factory/MGM (2016年)
特典:ロバート・マーティン・キャロル監督の音声解説/脚本家グリーム・ウィフラーの音声解説/オリジナル劇場予告編

by nakachan1045 | 2017-02-21 08:48 | 映画 | Comments(0)

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