なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「修羅」 Demons (1971)

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監督:松本俊夫
脚本:松本俊夫
原作:鶴屋南北『盟三五大切』
   石沢秀一『盟三五大切』
撮影:鈴木達夫
美術:朝倉摂
編集:岩佐寿枝
出演:中村賀津雄
   三条泰子
   唐十郎
   今福正雄
   田村保
   観世栄夫
   山谷初男
日本映画/134分/モノクロ作品(パートカラー)




<あらすじ>
酒と女にうつつを抜かす貧しい浪人・薩摩源五兵衛(中村賀津雄)。だがそれは敵の目を欺くための仮の姿であり、実はお家取り潰しで自害した主君の仇討ちを狙う浪人・船倉宗右衛門というのが本当の素性だった。しかし、藩の御用金100両を紛失した罪で仇討ちに加わることを許されず、忠実な家来・八右衛門(今福正雄)が宗右衛門をいまだ慕う農民の人々からなけなしの金を苦労して集め、なんとか100両きっかりを用意してきたところだった。
ところが、久しぶりに長屋暮らしの主君のもとへ戻った八右衛門は、家財道具一式はおろか先祖伝来の家宝の数々まで売り払われていることを知って腰を抜かす。源五兵衛は深川の人気芸者・小万(三条泰子)にすっかり骨抜きにされており、借金を重ねてまで貢いでいたのだ。
色惚けした主君情けなやと涙ながらに訴える八右衛門に心動かされ、自らの不埒を恥じて仇討ちの初心へ帰ろうと心に決める源五兵衛。そこへ、小万の使いである三五郎(唐十郎)が現われ、今宵小万が馴染み客の武士によって100両で身請けされることを知る。いてもたってもいられなくなり、八右衛門の止めるも聞かず三五郎の案内で身請けの行われている料亭へ向かった源五兵衛は、愛する小万を自分のものにしたいがあまり、忠臣が苦労して工面した100両を差し出して彼女を身請けしてしまった。
ところが、小万が芸者というのは嘘、その場に居合わせた侍たちも偽者。実は三五郎と小万は夫婦で、源五兵衛から有り金を搾り取るために手下たちを使って芝居を打ったのだ。そうと知った源五兵衛は逆上し、夜討ちをかけて三五郎の手下5人を惨殺。だが、肝心の三五郎と小万はいち早く夜襲に気付いて逃げ出してしまった。
ところ変わって四谷鬼門町。幼い乳飲み子を抱えた三五郎と小万の姿があった。彼らは手にした100両を、寺の住職である三五郎の父親に届ける。というのも、三五郎の父親はもともと侍で、主君が仇討ちに加われるよう100両を必要としていた。そう、その主君というのは他でもない、船倉宗右衛門だったのである。もちろん、三五郎も小万も自分らが騙した源五兵衛が宗右衛門だとは全く知らない。その頃、復讐の鬼・修羅となり果てた源五兵衛は三五郎夫婦の行方を捜して彷徨い、ついにその新居を探し当てる…。

前衛ドキュメンタリーや短編実験映画の作家として知られる松本俊夫監督の、問題作『薔薇の葬列』('69)に続く長編劇映画第2弾。前作ではギリシャ悲劇「オイディプス王」を下敷きに壮絶な愛憎残酷物語を描いたわけだが、本作では四代目鶴屋南北の歌舞伎狂言「盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)」と、それを改変した青年座の同名舞台劇を基に、さらなる凄惨で血生臭い地獄絵図が展開していく。その凄まじさたるや、まさに怪作である。

夕暮れの太陽が沈んでいくオープニングのみカラー。夜の帳が下りると共に映像はモノクロとなり、文字通り世界は漆黒の闇に包まれるという仕掛けだ。原作の「盟三五大切」は同じく四代目鶴屋南北の代表作「東海道四谷怪談」の姉妹編であり、「仮名手本忠臣蔵」の外伝に当たるという位置付け。後半で三五郎と小万が引っ越す先は、伊右衛門とお岩が住んでいた長屋だ。本来、源五兵衛の正体は実在した赤穂浪士の不破数右衛門なのだが、ここでは船倉宗右衛門という架空の人物に変えられている。その理由は同じく変更されたクライマックスを見れば分かると思うのだが、これらの改変によって江戸時代の武家社会における絶対的な主従関係、名誉や仕来たりなどの呪縛に対する南北の風刺精神を、より明確に強調することになっているのだ。

松本監督の弁によると、'70年安保の敗北経験を映画作品として残しておきたいというのが本作の大きな動機だったというが、ここでは同じ志を持つ仲間同士でさえ互いに寝首を掻くような荒んだ安保闘争の時代を、原作の書かれた文化文政時代、つまり江戸の享楽的な町民文化が栄える一方で治安が悪化し風俗が乱れ、思想や風紀の取り締まりが厳しくなった当時の世相と照らし合わせ、盲目的な大義や色欲に振り回されて身を滅ぼしていく人々の業に政治闘争敗北の記憶を刻み込んでいるのだと言えよう。

少なからず意外だったのは、時代劇として極めて正統派の作品に仕上がっていること。実験映画の松本監督という色眼鏡で見ると驚かされることだろう。歌舞伎役者である中村賀津雄(現・中村嘉葎雄)は当然のことといえ、劇団民藝の有望な若手だった三条泰子、前衛演劇出身の唐十郎などの役者陣も見事なまでに”時代劇”を体現している。松本監督の演出も基本的には時代劇の伝統をきっちりと踏襲しており、そういう意味では非常に折り目正しい。とはいえ、その一方でモノクロのコントラストを強調し、ミニマルな美術セットを巧みに使い分け、象徴的な照明によっておどろおどろしい世界を浮かび上がらせるカメラワークは非常にアバンギャルド。斬られ役が大仰にのたうち回ったりしないリアリズムも、表現のセンスとしては現代的。この古典とモダンの絶妙なバランス感覚が見事なまでにスタイリッシュだ。

そして、ホラー映画も真っ青の凄まじい血みどろスプラッター描写の数々。まさしく修羅と化した主人公が次々と殺人に手を染め、挙句の果てには命乞いする母親の目の前で赤子を手にかける。そして、愛する女の生首をつまみに酒を飲む。三条泰子の美しい顔立ちが艶めかしく際立つシーンだ。『薔薇の葬列』のクライマックスもなかなかのものだったが、こちらはさらにその上を行く地獄絵図。このような、シェークスピアも足下に及ばない強烈な情念と怨念の世界というのは、かつて日本映画独特の持ち味でもあったと思うのだが、そのDNAを脈々と受け継いだのが現在の日本映画ではなく韓国映画であることがなんとも惜しまれる。

評価(5点満点):★★★★★

参考ブルーレイ情報(日本盤)
モノクロ(パートカラー)/スタンダードサイズ(1.33:1)/1080i/音声:2.0ch リニアPCM Mono/言語:日本語/字幕:なし/地域コード:ALL/時間:134分/発売元:キングレコード株式会社
特典:オリジナル予告編/監督インタビュー(約14分)

by nakachan1045 | 2017-03-22 02:16 | 映画 | Comments(0)

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