なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「ヘルバスター 避暑地の異常な夜」 L'agression (1975)
監督:ジェラール・ピレス
製作:アラン・ポワレ
ピエール・ブラウンベルジェ
原作:ジョン・ビュール
脚本:ジャン=パトリック・マンシェット
ジェラール・ピレス
撮影:シルヴァーノ・イポリッティ
カースタント:レミー・ジュリアン
音楽:ロベール・シャルルボア
出演:ジャン=ルイ・トラティニャン
カトリーヌ・ドヌーヴ
クロード・ブラッスール
フィリップ・ブリゴー
ミレーナ・ヴコティッチ
フランコ・ファブリーツィ
デルフィーヌ・ボッフィ
レオノーラ・ファニ
ミシェル・グレリエ
ジャック・リスパル
ロベール・シャルルボア
ダニエル・オートゥイユ
フランス・イタリア合作/96分/カラー作品
<あらすじ>
夏のバカンスを利用し、妻子を連れてパリから田舎の別荘へと車で向かう男性ポール(ジャン=ルイ・トラティニャン)。途中のサービスエリアで夕飯を済ませた一家だったが、レストランの前にたむろしていた3人の暴走族に妻を侮辱されたポールは、彼らの挑発に乗ってカーチェイスを繰り広げた挙句、車を降りたところをリンチされ気を失う。
意識を取り戻したポールの傍には、レイプされ殺害された妻と幼い娘の遺体が。放心状態のポールは、近くの公衆電話から警察に通報する。警察署で事情聴取を受けるポールだが、被害者である自分にすら疑いの目を向ける女性検事(ミレーナ・ヴコティッチ)に苛立ちを隠せない。
妻の葬儀を終えたポールは、ロンドンから急遽駆け付けた妻の妹サラ(カトリーヌ・ドヌーヴ)と墓地を後にするが、待ち構えていたゴシップ記者ラウール(ジャック・リスパル)の行き過ぎた取材に激高して殴りかかる。さらに、夕食の席で酒に酔った彼はサラを口説きはじめた。初めは嫌悪感をむき出しにしたサラだったが、以前からポールに秘かな好意を抱いていたこともあり、2人はそのままベッドを共にする。
警察署長(フィリップ・ブリゴー)に呼び出されたポールは、容疑者の面通しをする。そのうち一人の若者の声に聞き覚えがあった。しかし、犯人の暴走族たちはフルフェイスのヘルメットを被り、みな一様に黒づくめだったため、決め手になるものがない。しかも、その若者と仲間2人にはアリバイ証言があった。
次第に例の若者が犯人であるとの確信を強めていくポールは、記者ラウールに情報を求めたところ、彼ら暴走族のアリバイを証言したのはバイク工場の経営者サゲ氏(フランコ・ファブリーツィ)であることを知る。サゲ氏に直接会うため工場へ出向くポールとサラ。若者たちは無実だと断言するサゲ氏だったが、2人は彼が何かを隠していると直感する。さらに、その帰りに暴走族集団に絡まれ、リーダー(ロベール・シャルルボア)からこれ以上深入りするなと忠告を受けた2人は、さらに疑いを深めるのだった。
サービスエリアのレストラン店主アンドレ(クロード・ブラッスール)から、暴走族の溜り場になっているクラブの場所を聞き出し潜入したポールは、そこでサゲ氏を目撃する。そっと後をついていくと、サゲ氏は暴走族の少女ジョージ―(レオノーラ・ファニ)を買春していた。自らの違法行為がバレないようにと、若者たちのアリバイを偽証していたのだ。これでついに彼らこそ犯人だと確信したポールは、親しくなったアンドレからライフル銃を譲り受け、単身で暴走族狩りに乗り出す。だが、その頃サラの身に真犯人の魔手が迫っていた…。
ヨーロッパでこの種の映画に積極的だったのは、『暴行列車』('75)や『白昼の暴行魔』('77)などの壮絶なリベンジ映画を生んだイタリア。フランス産というのは結構珍しい。まあ、厳密に言うとイタリア資本の入った合作映画ではあるのだが、一部を除く主要スタッフ&キャストはフランス勢で固められているので、ここはフランス映画と呼んで差し支えないだろう。無軌道な若者の暴走族グループに妻子を殺された男性が、義理の妹と共に自ら犯人を探し出して復讐に乗り出す。しかし、実はそこに大きな落とし穴があった。というのも、彼には暴走族に襲われて気を失った”空白の時間”があったのだ。妻子が殺されたのはその間。暴走族が妻子殺しの犯人だという決定的な証拠がないまま、主人公は激しい憎悪によって突き動かされ、他の可能性に目が向かなくなってしまう。その結果、真犯人を野放しにすることとなり、もう一人の大切な人の命を危険に晒すこととなるわけだ。
重要なのは、本作に登場する人々の誰もが攻撃的であること。フランス語の原題もL'agression、ずばり”攻撃”だ。そもそも、事件の発端は暴走族の挑発に乗った主人公ポールの攻撃的な態度。それが相手を必要以上に刺激したせいで、彼らによる反動としての攻撃を招くことになってしまうのだ。その後もポールは攻撃的な衝動に身を任せ、短絡的な行動を積み重ねることで、復讐のターゲットを見誤ることになる。すぐに他者へカッカと牙をむく暴走族の若者たち、挑発的な尋問を続ける女性検察官、取材対象の人権など完全に無視する強引なジャーナリストなどなど。最も冷静に見えるヒロインのサラでさえ、感情が高ぶると激しく攻撃的になる。まさに本能の赴くがままの動物的な人々。それは性欲に関しても同様だ。愛する家族が死んだばかりだというのにポールとサラは取っ組み合いの末に寝てしまうし、立派に見える中年紳士だって陰では若い女の子を買春しているし、もちろん暴走族はレイプし放題だし。そりゃ世の中にセックスと暴力が蔓延するわけだよ。
そう考えると、本作はリベンジ物の体裁を取りつつ、現代人の精神的な病理に迫るサイコロジカルなスリラーだとも言える。ゆえに、実は復讐ドラマが話の本筋ではない。このような殺伐とした社会状況を招いた原因は何なのか、それは社会を構成する我々自身にあるのではないか。それこそが本作の核心的なテーマであり、その他大勢のリベンジ映画とは一線を画すポイントだ。原作はカナダ産ホラー・サスペンス『マインドコントロール殺人 ザ・ピクス』('73)のジョン・ビュール。なるほど、ある特定のジャンルに隠れた裏テーマを忍び込ませることによって、似て非なるものにしてしまう巧みな構成は共通していると言えよう。
撮影監督は長年に渡るティント・ブラス監督とのコラボレーションで知られるイタリア人カメラマン、シルヴァーノ・イポリッティ。アラン・ドロン主演の『友よ静かに死ね』('76)などフランスでの仕事も少なくない。ドロンと言えば、ピレス監督と共に脚本を書いたジャン=パトリック・マンシェットは、『危険なささやき』('82)や『最後の標的』('82)などドロン主演作の脚本を手掛けている。あのルネ・ラルー監督のアニメ『時の支配者』('82)の脚本も彼だ。音楽スコアを担当したのはフランス系カナダ人のシンガーソングライター、ロベール・シャルルボアで、役者としても暴走族グループのリーダー役で顔を出している。
主演はジャン=ルイ・トラティニャンにカトリーヌ・ドヌーヴという、フランス映画界を代表するトップ・スターの豪華な顔合わせ。マカロニ・ウエスタンや刑事アクションなどの仕事も多いトラティニャンはともかくとして、ドヌーヴがこの手のアクション系娯楽映画に出るのは珍しいかもしれない。また、ちょっと薄気味の悪い趣味があるレストラン店主役には、『ラ・ブーム』('80)シリーズのパパ役でもお馴染みの名優クロード・ブラッスール。女性検事役はブニュエルやフェリーニ、タルコフスキーらの巨匠に愛された性格女優ミレーナ・ヴコティッチ、むっつりスケベの紳士サゲ氏役はフェリーニやアントニオーニ作品の常連だったイタリアの二枚目俳優フランコ・ファブリーツィ、暴走族とつるんでいる美少女ジョージー役に『エデンの園』('81)のレオノーラ・ファニといった顔ぶれ。また、後に『ザ・カンニング』('80)シリーズや『愛と宿命の泉』('86)二部作で有名になるダニエル・オートゥイユが、チョイ役で1シーンのみ出演している。
評価(5点満点):★★★★☆
参考DVD情報(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.66:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:フランス語/字幕:日本語/地域コード:2/時間:96分/発売元:ジェットリンク/ポニーキャニオン
特典:フォトギャラリー/カラーリーフレット
by nakachan1045
| 2017-03-25 22:24
| 映画
|
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