なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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The House of the Seven Gables (1940)

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監督:ヨーエ・マイ
製作:バート・ケリー
原作:ナサニエル・ホーソーン
脚本:ネスター・コール
脚色:ハロルド・グリーン
撮影:ミルトン・クラスナー
美術:ジャック・オッターソン
音楽:フランク・スキナー
出演:ジョージ・サンダース
   マーガレット・リンゼイ
   ヴィンセント・プライス
   ディック・フォラン
   ナン・グレイ
   セシル・ケラウェイ
   アラン・ネイピア
   ギルバート・エメリー
アメリカ映画/85分/モノクロ作品




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<あらすじ>
17世紀半ばのニューイングランド。ピンチョン大佐は貧しい大工マシュー・モールを魔法使いの罪で告発し、絞首刑に処された彼の土地を奪って、そこに7つの破風が付いた大きな屋敷を建てる。しかし、それから程なくしてピンチョン大佐は死亡。地元ではマシュー・モールの呪いと噂され、それ以来ピンチョン家の人々は呪いを恐れて暮らすことになる。
それから160年以上を経た1828年。晴れて弁護士となったピンチョン家の次男ジャフレイ(ジョージ・サンダース)が屋敷を訪れる。野心的で上昇志向の強い彼は、理想主義者で芸術志向の強い兄クリフォード(ヴィンセント・プライス)を蔑んでいた。その晩、ジャフレイは驚くべきことを知らされる。先祖代々の屋敷が売りに出されるというのだ。
というのも、ジャフレイと父親ジェラルド(ギルバート・エメリー)の先行投資が失敗したせいで、ピンチョン家の財政は火の車だったからだ。音楽家として芽の出始めたクリフォードは屋敷を売って金を作り、自分の相続分を受け取って愛する従姉妹ヘプジバー(マーガレット・リンゼイ)と結婚し、ニューヨークで一旗揚げるつもりだった。
財政難に責任を感じていた父親は屋敷の売却に同意していたが、ジャフレイは猛反対する。由緒正しい家系の名声に泥を塗る行為だというのだ。それを聞いて失笑するクリフォード。他人を貶めて土地を奪ったピンチョン家のどこが由緒正しいのか?と。代々の先祖は搾取や略奪で富を築いてきた。むしろクリフォードは一族の歴史を恥だと思っていたのだ。
深夜、屋根裏の物音に気付いて目を覚ましたクリフォードは、古い書類を漁るジャフレイの姿を発見する。実は、この屋敷にはピンチョン大佐が隠した財宝が眠っているとの言い伝えがあり、ジャフレイはそれの在り処を探そうとしていたのだ。一族の名誉を守るというのは建前。彼が屋敷の売却に反対した理由は、結局のところ金欲しさだったのである。
翌日になって、父親ジェラルドは屋敷の売却を取りやめたことをクリフォードに伝える。そればかりか、先祖を侮辱した彼をもはや我が子だとは認めないとして勘当を言い渡した。激しい口論となる2人。すると、激高した父親は心臓発作を起こして死んでしまう。その現場を見たジャフレイは、兄に父親殺しの濡れ衣を着せて告発するのだった。
裁判ではクリフォードに不利な証言が相次ぎ、彼は終身刑を言い渡されてしまう。これで屋敷は我がものになったとほくそ笑むジャフレイ。ところが、弁護士バートン(セシル・ケラウェイ)から父親の遺言を聞かされて驚愕する。屋敷の相続権はヘプジバーにあるというのだ。ヘプジバーは憎きジャフレイを屋敷から追い出し、そのまま屋敷に閉じ籠ってしまった。
それから10年以上を経た1841年。財産が底をつきたヘプジバーは、写真家ホルグレイヴ(ディック・フォラン)に部屋を貸す。さらに、身寄りのない親戚の若い女性フィービー(ナン・グレイ)を迎え入れ、彼女と共に屋敷の一階で菓子店を営むこととなる。
そんな折、知事の恩赦でクリフォードが釈放されることとなった。感無量の再会を果たすクリフォードとヘプジバー。しかし、失われた若さと時間が2人の肩に重くのしかかる。やがて、クリフォードがピンチョン家の隠し財産の在り処を見つけたとの噂が町に流れる。その出所はホルグレイヴだった。彼の正体がマシュー・モールの末裔だと知って戦慄するヘプジバー。一方、今や判事として権力をわが物にしたジャフレイが噂を聞きつけ、再び兄クリフォードを陥れようと画策するのだが…。
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19世紀アメリカを代表する文豪の一人ナサニエル・ホーソーン。彼の代表作と言えば間違いなく『緋文字』であろうと思うが、それに次ぐもう一つの代表作『七破風の屋敷』を映画化したのが本作。先祖がセイラム魔女裁判の判事を務めていたことから、彼の作品には宗教的な善悪や贖罪の概念、米国史のダークサイドなどが色濃く映し出されていることが多い。これなどは、そういう意味で非常にホーソーンらしい因果応報のゴシック文学だ。
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しかしながら、恐らくこの映画版を原作のファンが見ると大きく落胆する可能性は高い。というのも、上映時間を90分以内に収めるため内容を大幅に削除&変更しているのだ。制作はユニバーサル映画。ご存知の通り、ユニバーサルは'30年代に『フランケンシュタイン』('31)や『魔人ドラキュラ』('31)などのホラー映画で一世を風靡したわけだが、そのブームも数年で沈静化する。ところが、'38年にニューヨークの映画館がユニバーサル・ホラー映画の3本立てリバイバル興行を催したところ、これが予想外の大当たりをとることとなり、ユニバーサルは再びホラー映画の量産体制に入る。厳密に言うとホラーではないものの、アメリカン・ゴシック的な作風の『七破風の屋敷』もその一つだった。
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ただし、会社から求められたのは予算のかからないB級映画。当時のハリウッド業界は2本立て興行が一般的で、単独で公開出来るのは一部の大作映画に限られていた。特にメジャー・スタジオの中でも”リトル3”と呼ばれた弱小クラスのユニバーサルは、低予算B級映画の2本立て興行に力を入れていたのである。なので、上映時間に長い尺を割くことが出来ず、おのずとストーリーはコンパクトにせざるを得ない。本作の場合も、原作の第1章に当たる部分、要するに呪いの由来となったピンチョン家の忌まわしい過去を、そっくりそのまま解説テロップとしてまとめることで、大幅なボリューム削減を行っている。さらに、本題となる第2章以降も分かりやすくシンプルに換骨奪胎。原作は恐怖小説の大家H・P・ラヴクラフトにも多大な影響を及ぼしたダークなゴシック文学であり、映画版にもそうした怪奇幻想的ムードは随所に散見されるものの、しかし全体的にはだいぶライトな印象だ。
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ただ、本作で注目すべきはその明確な社会主義的アプローチである。原作においては先祖の犯した罪を子孫が贖わねばならないのか?という点が大きなテーマの一つだったが、ここではそうした因果応報的な要素は薄められ、「マシュー・モールの呪い」もさほど重要な役割を果たすわけではない。その代わり、ピンチョン家の罪深き歴史に起因する親族間の不和と争いをドラマの中心に据えることで、アメリカ合衆国および資本主義に対する痛烈な批判の目を向けているのだ。他人を殺めてその土地を奪ったピンチョン家の成り立ちは、まさしく原住民を虐殺して土地を奪った米国の成り立ちそのもの。その後の当主たちも、汗水流して働くこともなく武器の裏取引や株投資などで巨万の富を得てきた。さらには、判事となったジャフレイはその裏で黒人奴隷の密輸を行って儲けており、その背後には資本家の援助がある。一方、主人公クリフォードの汚名挽回に力を貸すマシュー・モール(ホルグレイヴ)は奴隷解放運動の活動家。公衆の面前で演説したことから逮捕・投獄された彼は、「自由を謳う国で言論の自由が許されないとは何事か」と憤慨する。そして、刑務所で知り合ったクリフォードとマシューは、お互いに自由と平等を愛するという博愛精神、権力による弾圧や搾取を憎む反骨精神のもとに一致団結することになるのだ。
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脚本を手掛けたレスター・コールは、父親がマルクス主義者の労働組合代表で、彼自身も共産党員だったという筋金入りの社会主義者。後に赤狩りによってハリウッドを追われる最初の10人、いわゆる「ハリウッド・テン」の一人となる。それにしても、当時ここまで反米的・反体制的な要素を盛り込むことはリスクが高かったと思うのだが、その背景には製作者バート・ケリーの理解があったようだ。ケリー自身もコールと同じく社会主義的な思想の持ち主だったらしく、むしろ積極的に左翼的メッセージの導入を勧めたとも伝えられている。また、本作が低予算のB級映画だったことも結果として幸いした。というのも、多額の製作費や宣伝費をかけたA級映画と違って、B級映画はスタジオ上層部の現場に対する介入が限定的、場合によっては殆どないに等しいからだ。
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監督はドイツ映画のパイオニアであり、フリッツ・ラングの恩師でもある名匠ヨーエ・マイ。平凡な人々に戦争がもたらす悲劇を描く『帰郷』('28)や、大都会ベルリンの底辺で暮らす人々の日常に目を向けた『アスファルト』('29)で知られ、ナチスの台頭を逃れてハリウッドへやって来た彼もまた、恐らくレスター・コールやバート・ケリーの反権力的な意図を理解していたのだろうことは想像に難くない。ただし、彼の場合は社会主義というよりも反ファシズムの視点から共感するものがあったのだろうと思うのだが。ちなみに、彼は本作とほぼ同じスタッフ&キャストで『透明人間の逆襲』('40)を本作の直前に撮っている。
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主演としてクレジットされているのは、当時既に名優としての地位を確立しつつあったジョージ・サンダースだが、実質的な主演はクリフォード役を演じているヴィンセント・プライス。当時まだ29歳で、映画デビューから間もない時期だが、そのエレガントで重厚感漂うセリフ回しといい立ち振る舞いといい、まさに我々が良く知っている怪奇映画俳優ヴィンセント・プライスそのもの。また、清純で初々しい娘時代から苦々しくやつれた中年期までのヘプジバーを演じたマーガレット・リンゼイの大熱演も素晴らしい。B級娯楽映画のヒロインだった彼女にとって、これは最大の代表作と言えるだろう。また、フィービー役を演じる女優ナン・グレイの目を見張るような美しさも特筆もの。マシュー・モール役にはB級西部劇ミュージカルのスターだったディック・フォランが扮している。
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ということで、ナサニエル・ホーソーンの名作『七破風の屋敷』の映画化としては残念な出来栄えの作品かもしれないが、ゴシック文芸ドラマの形を借りた反米的・反資本主義的な左翼映画としては非常に興味深い作品。米国史の暗部に目を向けることでナショナリズムに釘をさすという意味でも、これは今の時代にも通用する普遍的なメッセージを孕んでいると言えるだろう。

評価(5点満点):★★★☆☆

参考DVD情報(イギリス盤)
モノクロ/スタンダードサイズ(1.37:1)/音声:1.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語/字幕:なし/地域コード:2/時間:85分/発売元:Screenbound/Universal (2016年)
特典:ヴィンセント・プライスのテレビ・インタビュー(約10分)

by nakachan1045 | 2017-03-28 23:46 | 映画 | Comments(0)

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