なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「残酷ドラゴン 血斗竜門の宿」 龍門客棧 Dragon Inn (1967)

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監督:キン・フー
製作:チャン・タオラン
脚本:キン・フー
撮影:ファ・フィイン
武術指導:ハン・インチェ
音楽:チョウ・ランピン
出演:シャンカン・リンフォン
   シー・チュン
   パイ・イン
   シュー・フォン
   ツァオ・チェン
   シェ・ハン
   ティエン・ポン
   ミャオ・ティエン
   ハン・インチェ
台湾映画/111分/カラー作品




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<あらすじ>
1457年、明朝時代の中国。宦官ツァオ(パイ・イン)は政治の実権を掌握して暴虐の限りを尽くし、人望の厚い政敵ユー・チェン将軍を無実の罪で処刑する。ユー将軍の3人の子供たちは流刑に処されたが、彼らが成長した暁に自分への復讐を企てる恐れがあるとして、ツァオは兄妹の皆殺しを命じる。
その任務に当たるのはツァオの右腕ヒイ(ミャオ・ティエン)とマオ(ハン・インチェ)。大勢の手下を引き連れた彼らは、人里離れた荒野に一軒だけ佇む旅館「龍門客棧」に陣取り、やがてここを通るはずのユー一門を待ち伏せるのだった。
そこへ、シャオ(シー・チュン)という謎の旅人が立ち寄る。留守中だった旅館の主人ウーを訪ねてきたという彼は、ただものではない剣術の達人で、追い返そうとした殺し屋たちは全く歯が立たない。ヒイの説得に応じて一度は宿を立ち去るシャオだったが、たまたまウーと出くわして宿へ戻って来る。
しばらくすると、今度はチュウ兄弟(シェ・ハンとシャンカン・リンフォン)が宿にやって来る。彼らもまた剣術の達人で、ヒイとマオは酒に毒を混ぜて彼らを殺そうとするも、シャオに阻止されてしまう。
実は、宿の主人ウーの正体は亡きユー将軍の忠実な右腕で、ツァオに命を狙われた子供たちを救うため、旧知の仲で優れた剣豪であるシャオと、盟友の子供であるチュウ兄弟を呼び寄せて、彼らの力を借りようと考えていたのだ。ウーから事の次第を聞いた彼らは、忠義のためにも協力することを約束する。
やがて、ユー一門が「龍門客棧」へと到着する。待ち伏せる殺し屋軍団。秘かに動いたシャオたちは、血で血を洗う激闘の末に敵を一網打尽にする。それを知ったツァオは、自ら軍隊を率いて宿を包囲するのだったが…。
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香港のショウ・ブラザーズで撮った『大酔侠』('66)を見事に成功させたものの、度重なる社長ラン・ラン・ショウの横やりや待遇の悪さに不満を募らせていたとされる武侠映画の神様キン・フーが、台湾へ活動の拠点を移して完成させた傑作。日本を除くアジア各国で興行記録を塗り替えるほどの大ヒットを成し遂げ、以降のキン・フー作品のプロトタイプともなった武侠映画である。先ごろデジタル修復版が日本でもリバイバル劇場公開されたばかりだ。
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なんといっても目を奪われるのはカメラワークの素晴らしさである。勇壮かつダイナミック、躍動感と立体感があってスケールも大きい。冒頭、必死に追手から逃れていくユー一門の後ろ姿を捉えるカメラが、反対方向へグーッと引いていくと、手前に奥にとそこかしこで刺客たちがスッと立ち上がる。古典楽器を使った賑々しいBGMの効果もあって、思わずおおおおっと声が漏れてしまうようなカッコ良さ。こうした奥行きのある壮大なビジュアルとケレン味たっぷりの演出が、否応なしに観客の期待感と高揚感を盛り上げていく。
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また、舞台となるのが荒野のど真ん中にポツンと建つ旅館ということもあり、その雄大な雰囲気はさながら西部劇。それも、マカロニ・ウエスタンを彷彿とさせるような荒々しさに満ちている。こうした大自然を背景にしたロケーションのスケール感溢れる美しさは、次回作『侠女』('71)以降さらなるバリエーションをもって多用されることとなり、キン・フー作品に山水画のごとき幻想美をもたらしていくことになるわけだが、これなどは台湾に拠点を移したからこそ成し得たこととも言えよう。スタジオを中心とする撮影体制の確立された当時の香港映画では難しかったに違いない。
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ケレン味たっぷりといえば、京劇の舞踏にインスパイアされた華麗なるチャンバラ・アクションも大きな見どころ。前作『大酔侠』と同じく”舞うように戦う”優美さは、チャンバラというよりもダンスに近いものがあり、そういう意味でバイオレンス的な迫力に欠けることは否めないものの、しかしワイヤーワークやトランポリンなどの仕込みを駆使した曲芸的なアクションは素直に楽しい。特にワイヤーワークは、本作だとまだ一部でチラリとしか使われていないものの、やはり次回作『侠女』ではふんだんに盛り込まれ、以降の武侠映画におけるトレードマーク的な醍醐味となる。
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徹底的に無駄をそぎ落としたプロット構成もキン・フー作品ならでは。前作『大酔侠』もかなりシンプルだったが、本作はさらに単純明快だ。その代わり、細部のディテール描写に手間暇をかけ、登場人物それぞれの個性を際立たせていく。政治の腐敗した明朝末期、権力を牛耳る悪徳宦官によって心ある将軍が処刑され、その子供たちが命を狙われる。その後もキン・フー監督がたびたび応用する基本設定だ。逃亡を続ける彼らが向かう先にある旅館で待ち構える刺客の群。そこへ一人また一人と只者ならぬ人物たちが現われる。互いが互いの腹を探り合う、ユーモアと緊張感が交錯する前半は、まさしく『ヘイトフル・エイト』そのもの。タランティーノが本作をお手本にしたであろうことは想像に難くない。
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で、実は将軍の子息・息女を守るため、宿の主人が秘かに集めた剣客だった謎の旅人たち。その中心人物となる武術家シャオの超人ぶりがいろんな意味で凄い。障子の陰から放たれた弓矢を鉄製の徳利で受けたかと思えば、それをそのまま瞬時に打ち返して姿の見えない暗殺者を倒してしまう。豪速で投げつけられた小刀だって箸の先でキャッチ。どんぶりに入った麵料理を別のテーブルに放り投げてもスープ一滴こぼれない。まあ、どんぶり投げが武術とどう関係あるのかは分からないが、そんじょそこらの剣客とはわけが違うことは一目瞭然だ。後から到着するチュウ兄弟というのもなかなか曲者。単細胞でキレやすい大柄な兄と、冷静沈着でクールな小柄の弟のやり取りはユーモラスでもある。しかもこの弟、実は女性が男装しているのだけれど、どこからどう見たって女にしか見えない。途中で体に触れたシャオが「お前、女だったのか!」と気付いて驚くのだが、むしろ見ている方は彼女が男装していることに気付いてビックリ(笑)。これ、中華圏の人にはちゃんと男装の麗人に見えるのだろうか?
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そんな具合に一通りお膳立ての説明とキャラ紹介が済むと、後半は一気にチャンバラ・アクションへとなだれ込んでいく。ここからはほぼノンストップ。面白いのは、敵の親玉キャラが3段階に分かれており、まるでビデオゲームのように一人倒すごとに相手がレベルアップしていくのだ。これまた非常に分かりやすい構成である。まずは刺客グループの2番手リーダー、マオ。一見すると地味で冴えないオジサンなのだが、いざ戦いとなると身軽に飛んだり跳ねたりの荒業を披露する。演じるは本作の武術指導を兼ねるハン・インチェ。香港映画における武術指導の草分け的存在であり、本作で彼が口元の血を手で拭ってみせる仕草をブルース・リーが真似したという逸話でも有名な人物だ。その次に立ちはだかるのが、刺客グループのリーダー、ヒイ。見るからに極悪な人相は凄みたっぷりだが、剣術の達人というよりは狡猾な策略家という性格が強い。こちらを演じているのはミャオ・ティエン。'90年代以降、台湾の名匠ツァイ・ミンリャンの作品には欠かせない老優として活躍した人だ。
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そして、ラスボスとして登場するのが悪徳宦官ツァオ。これがね、主人公たちが束になってかかっても敵わないほどの剣豪。なんたって、剣の一振りで全員ふっ飛ばしてしまうのだから(笑)。ただ、かなりの高齢という設定で、実は心臓に持病を抱えている。それが唯一の弱点となるわけだ。言ってみれば、初代デス・スターに仕込まれた換気ダクトみたいなもの。そこをいかに攻略するかが勝負の分かれ目となるわけだが、本作の主人公たち、勝つためだったらなりふり構わないのだよねえ。
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例えば、ツァオの下半身をバカにしてあざ笑ってみせたり。そう、彼は宦官なのでオチンチンがない。女とヤッたことねえからそんなに剣術が上達したんだろうね、可哀そうになあ、アハハハ~ってな具合。敵を挑発するためとはいえ、なんともゲスなヒーローたち。先頭に立ってあざ笑うシャオ役のシー・チェンがまた、よく見ると絶妙に悪人顔なので、余計にツァオが気の毒になって来るのだ。しかも彼ら、清廉潔白とか情け容赦という言葉を知らないので、一人では敵わない相手と分かれば寄ってたかって襲いかかる始末。基本姿勢は悪人どもと大して変わらない。そこが武士道精神との大きな違いなのだろう。かたや、心臓に爆弾を抱えながらも正々堂々と一人で立ち向かう、敵ながらあっぱれなツァオ。見ているうちにだんだんと彼の方を応援したくなっていくという善悪の逆転現象もまた、本作の意外性に富んだ面白さだと言えよう。
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そのツァオ役を演じているのが、当時まだ27歳のパイ・イン。本来はニコラス・ツェーにも似たハンサムな役者なのだが、ここでは白髪のカツラに老けメイクで悪党の親分を大熱演している。まあ、先述した男装の麗人と同様、若いのバレバレなんだけれどね。ワイヤーワークでいきなり空を飛んだり、木から木へと瞬間移動したりと、もはや人間とは思えない神業の数々を披露。キン・フーの武侠映画は京劇からの影響が強いことは周知の通りだが、こうしたファンタジー的要素にもそれは顕著だ。とはいえ、本作ではまだ比較的控えめ。本格的にファンタジーとリアリティが融合するのは、4年後の『侠女』以降のことだ。
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そんなこんなで、芸術性と娯楽性を兼ね備えたキン・フー監督ならではの痛快な武侠アクション。血沸き肉躍るとはまさにこのこと。全体的な完成度の高さとしては『侠女』に軍配が上がるものの、それでも十分に面白い。いわば、『大酔侠』で植えられた種が本作で発芽し、次なる『侠女』で大きく花開いたとも言えるだろう。

評価(5点満点):★★★★☆

参考ブルーレイ&DVD情報(イギリス盤)
ブルーレイ
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/1080p/音声:1.0ch リニアPCM/言語:中国語/字幕:英語/地域コード:B/時間:111分
DVD
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:2.0ch Dolby Digital/言語:中国語/字幕:英語/地域コード:2/時間:111分
発売元:Eureka Entertainment (2015年)
特典:台湾プレミア公開時の様子を伝えるニュース映像(約2分)/評論家デヴィッド・ケイアンズによるビデオ・エッセイ(約15分)/デジタル修復版予告編/ツイ・ハーク監督の特別コラムを含む解説ブックレット(36p)


by nakachan1045 | 2017-05-03 14:38 | 映画 | Comments(0)

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