なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「古都憂愁 姉いもうと」 (1967)

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監督:三隅研次
企画:財前定生
原作:川口松太郎
脚本:依田義賢
撮影:武田千吉郎
美術:内藤昭
衣装考証:上野芳生
音楽:小杉太一郎
出演:藤村志保
   若柳菊
   八千草薫
   船越英二
   長谷川明男
   伊藤栄子
   河内桃子
   藤岡琢也
   南部彰三
   水原浩一
日本映画/90分/カラー作品




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<あらすじ>
時は太平洋戦争の最中。有名な作家の結城信吉(船越英二)は、その作風が時局に不適切で軟弱だと当局より執筆活動を禁じられ、東京から故郷の京都へと戻って来る。昔馴染みの京舞の師範で、由緒ある旅館を経営する女将・志麻(八千草薫)のもとへ居候することになった彼は、ふと立ち寄った寺で京料理の名店「とと喜」の娘・ひさ子(若柳菊)と再会した。
かつては「とと喜」の常連で、先代の主人にはお世話になった信吉。だがその先代も既に亡くなっており、嫁入り先から出戻ってきた長女・きよ子(藤村志保)が、父から学んだ味を受け継いで包丁を握り、妹のひさ子と丁稚・お梅(伊藤栄子)の2人が店を切り盛りして、かつての常連客にだけ料理を出して厳しい戦時下で暖簾を守っていた。
そのひさ子には陶芸家の跡取り息子・明男(長谷川明男)という許婚がいた。しかし、婚前交渉を頑なに拒むひさ子に明男は苛立っており、2人の関係はぎくしゃくとしている。自分の結婚が失敗したことから、妹には幸せになって欲しいと願うきよ子は、自ら奔走して結婚の日取りまで決めるのだが、そんな彼女に明男が迫る。僕が本当に好きなのは貴女だと。
困惑したきよ子は、酔った勢いで信吉に体を委ねようとするがあえなく振られ、待ち構えていた明男と成り行きで一夜を共にしてしまう。そのことを明男から知らされたひさ子はショックで家を飛び出した。事情を知った志麻が仲裁に入るものの、姉妹の間に出来た溝は埋まらず、いたたまれなくなったきよ子は明男と東京へ駆け落ち。「とと喜」の暖簾は、姉妹が兄と慕う「とと市」の主人・市太郎(藤岡琢也)が預かることとなる。
それから10年の歳月が過ぎ、終戦後作家活動を再開した信吉は文学賞に輝き、その授賞式のため志麻を伴って東京へ出向く。そこで馴染みのバー「エトワール」のマダム(河内桃子)に紹介された新人ホステスこそ、他でもないきよ子だった。既に明男とは別れ、戦後苦労を重ねてきたというきよ子。信吉と志麻は今度こそ姉妹を仲直りさせ、名店「とと喜」を復活させようと、きよ子を連れて京都へ戻り尽力するのだったが…。
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あの「愛染かつら」で有名な昭和の流行作家・川口松太郎の短編集「古都憂愁」を大映で映画化した作品。原作本についてはさすがに未読だが、調べてみたところ小説家・結城信吉と祇園の名妓だった旅館の女将・志麻女のカップルを狂言回しに、京都を舞台にした様々な人情話を綴ったオムニバス小説だったようだ。'70年には佐分利信と月丘夢路の主演でテレビドラマ化されているが、その第1話に当たる「包丁姉妹」が本作と同じ話を基にしていると思われる。
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まずはとにかく、圧倒的に美しい映画である。女優の美しさ、京都の美しさ、着物の美しさ、和食の美しさ、食器の美しさ、日本家屋の美しさ、そして人情の美しさ。隅々まで計算され尽くした画面構図と洗練の極みと言うべきカメラワークで、和の情緒をたっぷりと醸し出す演出は、まさしくビジュアリストたる三隅研次監督の面目躍如たるもの。脚本を手掛けているのは溝口映画でお馴染みの大御所・依田義賢だが、戦中から戦後へかけての世相を巧みに織り交ぜつつ、なんとも粋で艶っぽい大人向けの人情譚として仕上げている。お話そのものは実にシンプルでたわいないものの、随所に散りばめられた姉と妹の情愛、男と女の色事、職人や商売人の信念が繊細な筆致で丁寧に描かれ、伝統を守りながら日々の生活を営む京都の人々の誇りと心意気が鮮やかに浮かび上がっていくのだ。
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ストーリーの骨格は、京料理の名店を営む美人姉妹の確執。妹ひさ子の許婚・明男を姉きよ子が奪ってしまったことから、仲睦まじかった2人の間に大きな溝が出来てしまう。それをいかにして修復し、一度は暖簾を降ろした名店を復活させるかが焦点となるわけだが、面白いのはきよ子の背信行為を必ずしも道徳的に断罪していないという点だ。その鍵となるのが、原作では各逸話をつなぐ狂言回し的な役どころを担う旅館の女将・志麻である。本作では姉妹の母親代わり的な存在として登場し、2人を仲直りさせるために奔走することとなるわけだが、そんな彼女の基本姿勢は「男と女の間で起きたことにいちいち目くじらを立てる必要なし」。さすがは元祇園の芸妓で老舗旅館を切り盛りする女将、懐の大きさが違いますわな。だいたい、若い明男の誘惑についつい乗ってしまったきよ子の言い分を聞いて、「そら(ついて)行くわなー」と同調してしまうくらいだしね(笑)。貴女もよく分かっていらっしゃる。で、そのきよ子にしたって、明男にセックスを迫られて断ったという妹に、なにそれ、信じられない!みたいな顔して呆れかえるような具合だから、本作に出てくるお姉さま方はいろいろと酸いも甘いも噛み分けている。なんとも素敵じゃないですか。
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そんな粋で艶っぽい志麻を演じている八千草薫がとにかく素晴らしい。一応、主演はきよ子役の藤村志保とひさ子役の若柳菊なのだが、これは完全に八千草薫の映画と言い切っても良かろう。それくらい彼女の存在は大きく、また抜群に魅力的なのだ。少女のように無邪気でチャーミングで可愛らしくて、それでいて気風が良くて小股の切れ上がったいい女。半ば内縁関係にある信吉から、きよ子に肉体関係を迫られた話を聞かされても、あら、寝なかったの?勿体ないことなさって、くらいのノリで聞き流せてしまうのだから、可愛い顔して肝が据わっている。それもこれも、清楚で美しい八千草が演じるからこその嫌味のなさ。その佇まいや立ち振る舞いも実に堂に入っており、改めて凄い女優なんだなと思い知らされる。稲垣浩の『宮本武蔵』三部作くらいしか映画での代表作がないというのは、なんとも罪深い話だ。
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一方、これが初主演映画だった藤村志保だが、本作ではちょっとばかり損な役回り。だいたい、きよ子という役柄自体が優柔不断でハッキリしないというか、やけに辛気臭いところがあるからね。綺麗なんだけれど、どこかパッとしない。『眠狂四郎』シリーズや『大魔神怒る』のような、儚げな役どころがやっぱり似合う人なのだろう。しかし、本作で一番の問題はひさ子役の若柳菊。現在の奈月ひろ子だ。これが映画デビューの新人ゆえに仕方ない部分があるとはいえ、それにしてもあまりに演技力不足。黙ったままの立ち姿は画になるものの、喋らせたらまるっきりダメ。信吉とひさ子が偶然出会う初登場シーンなど、そのグズグズなセリフ回しに思わず耳を疑ってしまった。音声トラックの問題かと思いましたですよ。
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そんなこんなで、一度は離れ離れになってしまった姉妹を引き戻し、迷惑を被った関係者の顔に泥を塗らないよう細心の注意を払いながら、志麻と信吉が様々なお膳立てをしていくことになるわけだが、その過程で浮かび上がる人々の情ってのがまた泣かせる。何がいいって、浪花節的な押しつけがましさが一切ないところだ。実にさらっとさりげなく、それでいて深い慈愛に満ちている。このじわじわと来る感じがまた大人の粋ってやつですな。姉妹の和解にしたってお涙頂戴に陥ることなく、嫌味の一つや二つも交えながらの素っ気なさ。しかし、だからこそ血を分けた姉妹の絆の固さが際立つわけですよ。
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脇役陣では、二枚目でありながらもどこか抜けてるお人好しなモテ男・信吉を演じる船越英二の安定感抜群なはまり役ぶりもさることながら、厳しくも優しい姉妹の兄貴分・市太郎役の藤岡琢也がなんとも味わい深い。隙あらば丁稚のお梅のケツをむんずと掴むセクハラもご愛敬だ(笑)。そのお梅を演じている伊藤栄子の初々しさもまた良い。ちょっとばかりドン臭いけど正義感が強くて一本気。最近では通販化粧品のCMでもお馴染みの伊藤だが、この頃はまだ垢抜けなくてションベン臭くてとても可愛い。また、東宝退社後にテレビへ拠点を移していた河内桃子が、高級バーのエレガントなママ役でチラリと顔を出している。
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さらに、本作は大正元年創業の今はなき茶懐石の名店・美濃幸が料理の監修を務めており、器を含めて芸術品と呼ぶにふさわしい懐石料理の数々もスクリーンを彩る。もちろん、西陣織の代表的老舗メーカー、じゅらくの提供した女優陣の和服も見事なもの。その一つ一つを眺めているだけでも至福の時間を味わえる、なんとも贅沢な映画である。
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評価(5点満点):★★★★☆

参考DVD情報(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:Dolby Digital Mono/言語:日本語/字幕:なし/地域コード:2/時間:90分/発売元:株式会社KADOKAWA
特典:劇場予告編/フォトギャラリー

by nakachan1045 | 2017-05-15 01:05 | 映画 | Comments(0)

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