なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「鉄のカーテン」 The Iron Curtain (1948)

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監督:ウィリアム・A・ウェルマン
製作:ソル・C・シーゲル
原作:イーゴリ・グゼンコ
脚本:ミルトン・クリムス
撮影:チャールズ・G・クラーク
音楽:ドミートリ・ショスタコーヴィチ
   セルゲイ・プロコフィエフ
   アラム・ハチャトゥリアン
   ニコライ・ミャスコフスキー
指揮:アルフレッド・ニューマン
出演:ダナ・アンドリュース
   ジーン・ティアニー
   ジューン・ハヴォック
   ベリー・クルーガー
   エドナ・ベスト
   ステファン・シュナベル
   ニコラス・ジョイ
   エドゥアルド・フランツ
アメリカ映画/87分/モノクロ作品




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<あらすじ>
第二次世界大戦中の1943年、カナダの首都オタワのロシア大使館にイーゴリ・グゼンコ(ダナ・アンドリュース)が赴任して来る。表向きは平凡な大使館職員だったが、実は彼の専門は暗号。モスクワから送られてきた暗号指令を解読するのはもちろん、カナダ国内で知り得た機密情報を暗号化して本国へ送るのが彼の仕事だった。
ソビエト大使ラノフ(ステファン・シュナベル)は、トップシークレットを取り扱うグゼンコの国家への忠誠心を徹底的に試す。ある時は、妖艶な大使館秘書ニーナ(ジューン・ハヴォック)に誘惑までさせるが、既婚者でもあるグゼンコはその手には乗らなかった。
やがて、愛する妻アンナ(ジーン・ティアニー)がオタワへ到着し、夫婦水入らずの生活が始まる。とはいえ、日常の行動には細心の注意を払わねばならない。夫の勤務中は独りで留守番をせねばならないアンナは、お隣のフォスター夫人(エドナ・ベスト)と親しくなるが、それも本来であれば慎まねばならない行為だった。
一方、ソビエト大使館では現地のスパイを使って、カナダ政府だけではなくアメリカ政府の機密情報を盗んでいた。その窓口となったのはカナダの共産党だ。両国の親睦会や交流イベントなどの場を通じ、共産主義に賛同する人々を秘かにリクルートしていたのだ。そのスパイは政治家や役人にまで及んでた。
中でもソビエト当局が強い関心を示したのはアメリカが開発している核兵器の情報だ。マンハッタン計画に携わるノーマン博士(ニコラス・ジョイ)が共産党員であることから、党首ジョン・グラブ(ベリー・クルーガー)が自ら説得に動き、核開発に関する情報をモスクワへ逐一送ることとなる。
やがて日本で原爆が投下され、戦争は終結する。カナダでの生活にすっかり慣れ、一人息子も生まれたグゼンコは、ノイローゼとなった同僚クーリン(エドゥアルド・フランツ)が逮捕されたことを機に、家族の将来を案ずるようになる。そんな折、モスクワへ戻ることが通達された。カナダへ亡命しよう。そう考えた彼は、ソビエトの違法なスパイ活動を証明する通信文書を秘かに大使館から持ち出し、妻と幼い息子を伴って連邦警察へ駆け込むのだったが…。
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1945年の9月、カナダの首都オタワにあるソビエト大使館職員イーゴリ・グゼンコとその家族が亡命したことをきっかけに、ソビエト政府の北米における違法な諜報活動と大規模な潜入スパイ網の存在が明らかとなり、カナダ政府はもとよりアメリカ政府にも衝撃を与えた。これは、いわゆる東西冷戦の幕開けを告げる事件だったとも言われている。なにより、現地カナダの共産党員がスパイ活動に関わっていたという事実は重く、後のアメリカ国内における赤狩りにも少なからず影響を及ぼしたと考えられる。そんなグゼンコ事件のあらましを、グゼンコ本人が書いた手記を基に映画化したのが、この『鉄のカーテン』である。
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事件の経緯をざっと解説しておこう。モスクワ近郊に生まれたウクライナ人のグゼンコは、軍隊で暗号書記の訓練を受けたのち、1943年に軍参謀本部情報総局の暗号書記官として在オタワのソビエト大使館へ配属される。もちろん、表向きはただの大使館職員だ。2年後の1945年、帰国の辞令が出たことを知ったグゼンコは、家族の将来のことを考えて亡命を決意。その際に大使館からソビエトの違法な諜報活動や現地スパイ網の存在を証拠づける書類を大量に持ち出し、まずは警察へ駆け込むものの全く相手にされなかった。というのも、ソビエトは第二次世界大戦中の同盟国。当時のカナダ国内ではソビエトに親近感を持つ人々も多かったという。それゆえ、まさかそんなことあるまいと信じて貰えなかったのだ。さらに、新聞社や裁判所を訪れるものの同様の結果に。困ったグゼンコは家族と共に隣人の部屋に身を隠し、ソビエトの諜報員が自宅を捜索する様子を鍵穴から覗いて一晩を過ごしたそうだ。そして翌朝、ようやく警察で話に耳を傾けてくれる人物と出会い、身柄を保護されたのである。
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ただ、報告を受けた当時のマッケンジー・キング首相は真相究明に消極的だったという。友好国であるソビエトとの関係を壊したくなかったのである。しかし、翌1946年の2月にはマスコミが事件を報じ始め、国民の間にも動揺が広がると、政府としては黙っているわけにもいかなくなる。特に懸念されたのは、カナダも重要な役割を演じたマンハッタン計画に対するソビエトの諜報活動だ。本件のために立ち上げられた調査委員会による取り調べの結果、18人のカナダ人がソビエトのスパイとして逮捕されることに。その中には、カナダ共産党で唯一の国会議員フレッド・ローズやカナダ共産党の創設者サム・カー、共産党支持者だった科学者レイモン・ボワイエのほか、外務省職員や陸軍将校、国立科学研究所の研究員なども含まれていた。フレッド・ローズがスパイ活動の窓口的役割を果たしていたことも明らかとなっている。当時、アメリカはイギリスと合同でソビエトの暗号文を解明する極秘プロジェクト「ベノナ」を発足したばかりだったこともあり、当然ながらこの件はFBIにも報告された。亡命したグゼンコ一家は、ソビエトによる報復を恐れてカナダ政府より新たなIDを与えられ、トロント郊外の町でひっそりと暮らすことになる。以上がグゼンコ事件の全容だ。
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で、そのグゼンコが1947年に雑誌「コスモポリタン」に寄稿した回顧録を基にした本作。制作された1948年といえば、前年に非米活動委員会の取り調べを拒否した10人の映画人、いわゆるハリウッド・テンに有罪判決が下され、元共産党員のエリザベス・ベントリーとウィットテイカー・チェンバースの2人がアメリカ政府内のソ連スパイの存在を暴露して米国社会に大きな衝撃を与えた年。おのずと、本作が「赤狩り」のプロパガンダを目的とした映画であったことは想像に難くない。当時は、例えばFBIのエージェントが極悪犯罪組織たる共産党に潜入する諜報サスペンス『FBI暗黒街に潜入せよ』('51)や、我が子を共産主義から救おうとする両親を描いたメロドラマ『マイ・サン・ジョン/赤い疑惑』('52)など、マッカーシズムに媚びを売ったプロパガンダ映画が少なからず作られているが、これはその最初期の映画の一つと言えるだろう。
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大まかな話の流れはだいたい事実の通りなのだが、人権など諸々に配慮してのことなのであろう、主人公のグゼンコ夫婦以外は名前が全て変えられている。また、亡命を図るものの当局に相手にされず、仕方なく自宅アパートへ戻ったグゼンコ一家がソビエト諜報員たちと鉢合わせしてしまい、間一髪のところを地元警察に救われるという展開も、映画的なスリルを盛り上げるために用意されたフィクションだ。第1回アカデミー作品賞に輝く『つばさ』('27)や『スタア誕生』('37)、『ボージェスト』('39)など数々の名作で知られる巨匠ウィリアム・A・ウェルマンの演出は、いわゆるドキュメンタリー・タッチの実録路線なのだが、随所にスタイリッシュなフィルムノワール的アプローチも散見され、スパイ・サスペンスとして地味ながらも手堅い仕上がり。共産党員やその支援者たちを、薄気味悪くて得体の知れない人々として描いているのはいかんにもプロパガンダ的だが、その一方でグゼンコだけでなく秘書ニーナや同僚クーリンの葛藤、要するに祖国への忠誠と自由な民主主義社会への憧れとの間で揺れ動く複雑な内面に触れることで、彼らの中にも我々と同じような人間がいる、彼らもまた共産主義の犠牲者なんだという立場を取っているところは興味深い。
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恐らく、ウェルマン監督や脚本家ミルトン・クリムスにとって、反共プロパガンダは必ずしも本意ではなかったのだろう。そもそも本作の企画自体、スタジオからあてがわれたものだったはずだ。そのため、ストーリーの主軸はソビエトの恐ろしさや共産主義者の非人間性よりも、主体性を持たないまま生きてきた主人公グゼンコの“目覚め”に焦点が当てられている。「僕らのような凡人に世の中のことは分からないから、頭のいいリーダーの言うことを聞いていればそれでいい」が口癖だったグゼンコだが、カナダでの生活を通して様々な疑問が沸き上がり、愛する家族の将来を案じるに至って、自らの頭で考えて正しいと思う行動に出ることを決断する。人間には誰でも自らの人生を選択する権利がある、それこそが本作の裏テーマであり、ウェルマン監督やクリムスのマッカーシズムに対するせめてもの抵抗だったのかもしれない。
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グゼンコ役にはフィルムノワール映画のヒーロー、ダナ・アンドリュース。その妻アンナ役には20世紀フォックスの看板女優ジーン・ティアニー。中でも当時全盛期だったティアニーの美しさは格別だ。また、秘書ニーナ役には前年のオスカー受賞作『紳士協定』('47)で演じた、ユダヤ人であることを隠す秘書役が印象深いジューン・ハヴォック。彼女は伝説のストリッパー、ジプシー・ローズ・リーの実妹としても知られる。脇役で強烈な印象を残すのは、見るからに怪しげな共産党幹部グラブを演じているベリー・クルーガー。カルト映画として有名なフィルムノワール『拳銃魔』('50)の悪役として知られる怪優だが、本作が映画デビュー作だった。また、ヒッチコックの初期代表作『暗殺者の家』('34)のヒロインを演じたエドナ・ベストが、隣人の中年夫人役で顔を出している。
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評価(5点満点):★★★☆☆

参考ブルーレイ&DVD情報(イギリス盤2枚組)
ブルーレイ
モノクロ/スタンダードサイズ(1.37:1)/1080p/音声:1.0ch リニアPCM/言語:英語/字幕:なし/地域コード:B/時間:87分
DVD
モノクロ/スタンダードサイズ(1.37:1)/音声:1.0ch Dolby Digital/言語:英語/字幕:なし/地域コード:2/時間:83分
発売元:Signal One Entertainment/20th Century Fox (2017年)
特典:なし

by nakachan1045 | 2017-05-16 00:51 | 映画 | Comments(0)

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