なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
プロフィールを見る
画像一覧
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

L'orribile segreto del Dr. Hichcock (1962)

f0367483_21263902.jpg
監督:リカルド・フレーダ(ロバート・ハンプトン)
製作:ルイジ・カルペンティエリ(ルイ・マン)
   エルマンノ・ドナーティ
脚本:エルネスト・ガスタルディ(ジュリアン・ペリー)
撮影:ラファエレ・マスチオッキ(ドナルド・グリーン)
美術:フランコ・フマガッリ(フランク・スモークコックス)
音楽:ロマン・ヴラド
出演:バーバラ・スティール
   ロバート・フレミング
   シルヴァーノ・トランキーリ(モンゴメリー・グレン)
   マリア・テレサ・ヴィアネッロ(テレサ・フィツジェラルド)
   ハリエット・ホワイト
イタリア映画/84分/カラー作品




<あらすじ>
1885年のロンドン。大学病院に勤務するヒチコック博士(ロバート・フレミング)は、天才的な名医として人々から尊敬を集めていたが、しかし一方で誰も知らない重大な秘密を抱えていた。実は彼、女性の死体にしか欲情しないネクロフィリアだったのだ。
そんなヒチコック博士にとって、唯一の理解者が妻のマーガレット(マリア・テレサ・ヴィアネッロ)だった。独自に開発した特殊な麻酔剤を妻に注射し、仮死状態にさせて愛を営む博士。マーガレットもその行為を喜んで受け入れていた。
ところがある日、博士は誤って大量の麻酔剤を注射してしまい、マーガレットはその場で息を引き取ってしまう。深い悲しみに打ちひしがれた博士は、妻との想い出の残る屋敷をメイドのマーサ(ハリエット・ホワイト)に任せ、遠く離れた土地へと移り住むこととなった。
それから12年後。ヒチコック博士は再婚した年下の若妻シンシア(バーバラ・スティール)を連れてロンドンへ戻って来る。メイドのマーサが待つ屋敷はすっかり荒れ果てていたが、2人はここで新婚生活をスタートすることになったのだ。
ところが、到着したその晩から、シンシアの周辺では奇妙な出来事が相次ぐ。静まり返った廊下では不気味な足音が響き、何者かが部屋のドアを開けようとする。ただでさえ屋敷のいたるところにマーガレットの肖像画や愛用品が残されており、彼女を崇拝していたマーサもシンシアに対して冷たい。孤独と不安に苛まれたシンシアは、やがてマーガレットの幻影まで見るようになる。
今すぐにでも屋敷を出たいと訴えるシンシアだったが、ヒチコック博士はただの強迫観念だと言って取り合わない。実は、シンシアには父親を亡くしたことで精神病を患った過去があったのだ。そんな彼女に想いを寄せる博士の愛弟子カート(シルヴァーノ・トランキーリ)。シンシアから夫に毒を盛られそうになったと相談を受けた彼は、問題のコップを調べたところ大量の睡眠薬が検出され、シンシアに身の危険が迫っていることに気付く。果たして、ヒチコック博士の恐るべき陰謀とは…?

日本語に訳すと『ヒチコック博士の恐ろしい秘密』といったところか。'60年代のイタリアン・ホラーを語る上で欠かすことの出来ない傑作とされながらも、本国イタリア以外では滅多に見ることの出来なかった幻の映画だ。一応、リアルタイムではアメリカやイギリスでも英語バージョンが劇場公開されているが、日本ではどういうわけだか劇場未公開。その上、テレビ放送もビデオ発売もされていない。VHS時代には海賊版がアメリカで出回っていたため、筆者も取り寄せてみたことがあるものの、テレビ放送の録画を複製したような代物で、画質は悪いし音声も全然聞き取れなかった。

数年前にはイタリアで正規版DVDがリリースされているが、残念ながら英語音声も英語字幕も未収録。さすがにイタリア語のヒアリングは難しい。アメリカでも数年前に比較的画質が良いとされる、著作権的に限りなくグレーゾーンなセミオフィシャルDVDが登場したものの、発売元からのダイレクト・オーダーのみで、しかもアメリカ国外への発送はNGだった。ウェブで動画を検索してもイタリア語バージョンしか出てこない。しかし、昨年秋になってアメリカで英語バージョンが正規版ブルーレイでリリースされ、ようやくまともな画質&音質で内容を理解しながら見ることが出来るようになったというわけだ。

ということで、おぼろげな記憶しかない海賊版ビデオ以来、およそ20年ぶりの再見となった本作。いやあ、素晴らしかった!ストーリー自体は特にどうってことない。いわば『レベッカ』のバリエーション的なゴシック怪奇譚だ。主人公の名前があの巨匠を連想させる(HitchcockではなくてHichcock)のも、暗にそれを認めているからこそだろう。古い屋敷にうごめく前妻の亡霊(?)に悩まされる美しき新妻、不可解な行動を取る夫への深まる疑心暗鬼、ヒロインを精神的に追い詰める冷酷なメイド。基本設定はまるっきりヒッチコックの『レベッカ』である。そういう意味で、少なくとも前半は既視感を覚える展開が多いことだろう。

ただ、ネクロフィリアをテーマにした点は非常に面白い。『レベッカ』の夫は単に亡き妻の呪縛に囚われただけだったが、こちらの夫ヒチコック博士は筋金入りの変態マッド・ドクターなのである。女性の死体にしか性的興奮を覚えない彼は、自ら開発した特殊な麻酔剤を使って、同じように変態な妻マーガレットと死姦ごっこを楽しんでいたわけだが、もっとリアルな仮死状態を作ろうとしたのがマズかった。普段よりも多めに麻酔剤を妻に注入したところ、誤って殺してしまったのだ。

で、その12年後にはるか年下の若妻シンシアと再婚。過去を忘れて心機一転かと思いきや、職場の病院では病死した女性患者の死体に思わずムラムラ。やっぱり変態の虫はそうそう簡単におさまらないわけねってことで、やがて彼がなぜシンシアを連れて屋敷へ戻って来たのか、その本当の理由が明らかとなっていく。そこはネタバレになるので詳しく述べることは避けるが、基本的にゴースト・ストーリーに見せかけたゴシック・ホラー風の完全犯罪型サスペンス。そう考えると、後半の展開はエドガー・アラン・ポー作品からの影響が濃いように思われる。ちなみに、脚本を書いたのは『白い肌に狂う鞭』や『華麗なる殺人』('65)、『デボラの甘い肉体』('69)、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』('85)などで知られる名脚本家エルネスト・ガスタルディだ。

しなしながら、ある種のどんでん返し的なクライマックスを含め、ストーリーの構成そのものは予定調和の域を出るものではない。確かにネクロフィリアという題材を取り上げたことについては、'60年代当時においてかなりショッキングなものだったと思われるし、実際にそれが原因でアメリカでは短縮版での上映を余儀なくされたわけだが、今となってはさして刺激的でも衝撃的でもないと言えよう。腐った死体とファックする『ネクロマンティック』('87)なんかに比べれば子供だましも同然だ。

ならば何が素晴らしいのかというと、マリオ・バーヴァも真っ青の荘厳かつ幻想的で超絶に美しいビジュアルだ。贅の限りを尽くしたゴージャスな美術セット、原色カラーの照明を駆使して作り上げられた異空間、細部まで計算し尽くされたスタイリッシュなカメラワーク。これぞまさしくイタリアン・ホラーの醍醐味と呼ぶべき、鮮烈な色彩と刺激的な恐怖描写に溢れたテクニカラーの映像は、バーヴァの傑作『ブラック・サバス』('63)や『白い肌に狂う鞭』('63)を先駆けたものだと言えよう。ダリオ・アルジェントの『サスペリア』('77)とソックリなシーンまであるのには驚かされる。

監督は本格的なイタリアン・ホラー映画の第1号と呼ばれる『I Vampiri』('56・日本未公開)を手掛けたリカルド・フレーダ。しかしながら、もともとスペクタクル史劇の分野を得意としていた彼は、ホラー映画に対する思い入れはあまりなかったと言われており、実際に『I Vampiri』も大半の演出は撮影監督だったマリオ・バーヴァによるものとされている。その真偽のほどはともかくとして、本作におけるフレーダのホラー演出は間違いなく一級レベル。撮影監督のラファエレ・マスチオッキも素晴らしい仕事をしている。

主演はバーヴァの『血ぬられた墓標』('60)とロジャー・コーマンの『恐怖の振り子』('61)でホラー映画の女王となった英国女優バーバラ・スティール。当時の彼女はフェリーニの『81/2』('63)に出演中だったが、本作はその合間を使って撮られたそうだ。彼女の一種病的な美しさが、テクニカラーの映像でなお一層のこと際立つ。タイトル・ロールにもなっているヒチコック博士役は、イギリスの性格俳優ロバート・フレミング。さらに、正義感溢れる若きドクター、カート役を、後にマフィア映画やポリス・アクション映画の名脇役として活躍するシルヴァーノ・トランキーリが演じる。ヴィットリオ・デ・シーカの『ひまわり』('70)で演じた、ロシアに住むイタリア人工場労働者役も印象深い人だが、この頃はまだ若くてかなりのハンサムだ。

また、『レベッカ』のダンヴァース夫人を彷彿とさせるメイドのマーサ役を演じているハリエット・ホワイトは、終戦直後に進駐軍の慰安公演のためイタリアへ渡り、そのまま現地に活動の拠点を移したアメリカ人女優。フェリーニの『甘い生活』('60)ではアニタ・エクバーグ扮するハリウッド女優の通訳役で顔を出していたが、マリオ・バーヴァ作品の常連女優としてもホラー映画ファンにはお馴染みだろう。

なお、リカルド・フレーダ監督はロバート・ハンプトン、エルネスト・ガスタルディはジュリアン・ペリー、ラファエレ・マスチオッキはドナルド・グリーンと、イタリア人の主要スタッフは英語名でクレジットされており、イタリア人俳優もアメリカ人ないしイギリス人風の変名を使用している。これは、あえてイタリア映画という素性を隠し、さもハリウッド映画かのように装うことで、興行価値を上げて世界中に配給するという、当時のイタリア映画界が得意としていたセールス手法だった。まさに嘘も方便である。面白いのは、プロデューサーとしてクレジットされているルイ・マンなる人物。実はこれ、製作者コンビであるルイジ・カルペンティエリとエルマンノ・ドナーティの共同変名なのだ。要するに、ルイジのルイとエルマンノのマンを合体させたというわけ。しかも、Louis Mannとフランス人風に表記しているという芸の細かさ。彼らは、本作以外にもたびたびこの変名を使っている。

というわけで、これを見ずしてイタリアン・ホラーを語るなかれと言っても過言ではない作品。この翌年には、同じくリカルド・フレーダ監督とバーバラ・スティール主演で、『Lo spetto(亡霊)』('63・日本未公開)なる続編も作られている。製作者コンビや撮影監督も同じで、ハリエット・ホワイトも似たような役柄で顔を出していたが、ストーリー的には直接的な関連性なし。本作とは逆に、バーバラ・スティール扮する悪妻(しかも名前はマーガレット!)が若い愛人と結託して夫のヒチコック博士を陥れるというストーリーだった。これはこれで良く出来たゴシック・ホラー映画だったが、本作の完成度には及ばない。

評価(5点満点):★★★★★

参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.78:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:英語/地域コード:A/時間:77分(アメリカ公開短縮版)/発売元:Olive Films/Paramount Pictures (2016年)
特典:なし

by nakachan1045 | 2017-06-11 03:14 | 映画 | Comments(0)

カテゴリ

全体
映画
音楽
未分類

お気に入りブログ

なにさま映画評

最新のコメント

昔、NHKで見たので記憶..
by さすらい日乗 at 12:59
> さすらい日乗さん ..
by nakachan1045 at 10:21
これは、公開時に今はない..
by さすらい日乗 at 07:33

メモ帳

最新のトラックバック

venussome.co..
from venussome.com/..
venuspoor.co..
from venuspoor.com/..
venuspoor.com
from venuspoor.com
http://while..
from http://whileli..
http://while..
from http://whileli..
http://www.v..
from http://www.val..
オペラ・ブッファの傑作で..
from dezire_photo &..

ライフログ

検索

ブログパーツ

最新の記事

「A Study in Te..
at 2017-10-16 05:48
「七人の特命隊」 Ammaz..
at 2017-10-15 00:37
「サタンバグ」 The Sa..
at 2017-10-14 13:09
「猟奇!喰人鬼の島」 Ant..
at 2017-10-12 23:34
「手討」 Teuchi (..
at 2017-10-11 23:55

外部リンク

ファン

ブログジャンル

映画
ライター