なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「怪奇と幻想の島」 The Magus (1968)

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監督:ガイ・グリーン
製作:ジョン・コーン
   ジャド・キンバーグ
原作:ジョン・ファウルズ
脚本:ジョン・ファウルズ
撮影:ビリー・ウィリアムズ
美術デザイン:ドン・アシュトン
タイトル・デザイン:モーリス・バインダー
音楽:ジョン・ダンクワース
出演:マイケル・ケイン
   アンソニー・クイン
   キャンディス・バーゲン
   アンナ・カリーナ
   コリン・レッドグレーヴ
   ポール・スタッシーノ
   ジュリアン・グローヴァ―
   タキス・エマニュエル
   ジョージ・パステル
   ダニエル・ノエル
イギリス映画/116分/カラー作品




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<あらすじ>
イギリス人の英語教師ニコラス(マイケル・ケイン)が、ギリシャの小さな島フラクソスへとやって来る。前任者ウィリアムソンが謎の自殺を遂げたことから、代理として急きょ雇われたのだ。ある日、海岸の砂浜を散歩していた彼は、T・S・エリオットの詩集を拾う。
ふと見ると、すぐ近くにギリシャ正教の古い修道院を改築した神秘的な豪邸が建っていた。そこで彼は、モーリス・コンチス(アンソニー・クイン)と名乗る男性と知り合う。自らを霊能者と称するコンチスは、陽気で人懐こくも謎めいたところのある人物で、ニコラスは不思議な魅力を覚えるのだった。
翌日、学校で同僚教師ミリヴィリス(ポール・スタッシーノ)にコンチスのことを訊ねると、コンチスはもう何年も前に亡くなっており、今住んでいるのはランブロス教授なる人物だという。地元の教会を訪ねたところ、確かにコンチスの墓が存在した。
ニコラスが本人に問い詰めたところ、どうやらコンチスは自らの死を偽装したようだったが、その真相ははぐらかされたまま。屋敷の中を案内されたニコラスは、そこに白い花をガラスに封じ込めた文鎮を発見して驚く。それは、恋人アンヌ(アンナ・カリーナ)の愛用するものと同じだったから。
アンヌはフランス人のフライト・アテンダント。2人は深く愛し合っていたものの、しかし優柔不断なニコラスは情熱的なアンヌとの関係に息苦しさを覚え、彼女のもとから逃げるようにギリシャへ来たのだった。
その文鎮の持ち主はコンチスの亡き妻リリー(キャンディス・バーゲン)。愛する女性に対するコンチスの複雑な心情に共感するものを覚えたニコラスは、たびたび彼の屋敷を訪れるようになる。するとある晩、死んだはずのリリーが屋敷に姿を現す。戸惑うニコラスに「君も霊能者の能力があるんだ」とうそぶくコンチス。さらに、目の前でリリーが演じる古代ギリシャの仮面芝居が突然始まり、ニコラスはコンチスらの正体や目的に疑問を抱く。
やがて、コンチスは自分が精神科医であり、屋敷をクリニックとして使用していると説明。リリーの正体はジュリーという名の精神病患者だという。しかし、リリー本人は自分をコンチスに雇われた女優だと明かす。何が本当で何が嘘なのか分からなくなったニコラス。やがて、第二次世界大戦中に島で起きたナチス・ドイツ軍による大量虐殺事件と、そこに関わったコンチスの暗い過去が明らかとなる…。
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アカデミー賞候補になった『コレクター』('65)や『フランス軍中尉の女』('81)の原作者ジョン・ファウルズのベストセラー小説『魔術師』を、ファウルズ自身による脚本で映画化した作品。ちょうど当時は『コレクター』が大ヒットしたばかりだったことから、欧米では鳴り物入りで劇場公開されたものの、残念ながら批評的にも興行的にも大惨敗を喫してしまった。そのため、日本では劇場公開が見送られテレビ放送のみ。その後はビデオでも発売されず、'14年に初めてDVD化されるまで幻の映画だった。
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まあ、リアルタイムで大コケした理由はよーく分かる。要するに、ストーリーが難解すぎて意味不明なのだ。もともと原作自体が実験性の高いポストモダン文学。何が現実で何が妄想なのか曖昧だし、現在進行形とフラッシュバックの区別もつきにくいし、登場人物の名前や設定もコロコロと変わる。そのため、観客が論理的に話を理解しようとすればするほど混乱をきたし、結局のところ何が言いたいのか見えてこないのだ。さすがに、この内容で一般受けはかなり難しいだろう。
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ただ、これが例えばキューブリックやポランスキーの演出であれば、少なくとも評論家からの評価は違っていたかもしれない。この種の前衛的な不条理劇は、監督によって向き不向きが明確に出てしまう。従来の映画文法に囚われない、自由な発想とセンスが必要不可欠だ。その点において、ガイ・グリーン監督では役不足だったように思う。ガイ・グリーンと言えば、『大いなる遺産』('46)や『オリヴァ・ツイスト』('47)など初期デヴィッド・リーン監督作品で知られ、アカデミー賞にも輝いたことのある伝説的な名カメラマン。つまり、前衛性とは対極にある正統派の王道を歩んできた映画人であり、当時既に30年以上の業界キャリアを誇る旧世代のベテランだった。
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それゆえなのだろう、ファウルズの自由奔放でアナーキーな脚本とグリーン監督の真面目で折り目正しい演出があまり噛み合っておらず、それがかえって難解さを増長させているように感じられる。ぶっちゃけ退屈で面白みがないのだ。恐らく、監督自身が脚本の意図するところを理解していなかったのではないかと思われるし、実際に監督の息子マイケルもインタビューでそのことを示唆している。監督ばかりか現場スタッフも役者も、誰一人として物語の内容をちゃんと理解している者はいなかったと。
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ただ、原作小説の生まれた背景を知っていると、本作のテーマもおぼろげながら見えてくることだろう。もともと英語教師だったファウルズは、ギリシャ南部の小さな島で教鞭を執ったことがある。その時に知り合ったのが、ファウルズにとって人生最大のミューズであり、当時同僚の妻だった女性エリザベスだ。お互いに深く愛し合うようになった2人は、不倫の末に結ばれてロンドンへ一緒に戻るものの、そこでファウルズは別の女性と浮気してしまう。ほどなくして2人は寄りを戻して正式に結婚し、'90年にエリザベスが癌で亡くなるまで添い遂げることになるわけだが、そんな別離状態の時期に執筆されたのが原作小説『魔術師』だったのである。
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主人公の英語教師ニコラスにファウルズ自身を投影し、ギリシャ時代の実体験を散りばめた本作の根底にあるのは、過ちを犯してしまった人間の罪の意識だと思われる。優柔不断で無責任なインテリ青年ニコラスは、恋人アンヌの束縛が重荷となってしまい、まるで逃げるようにしてギリシャへとやって来る。そこで彼は謎の人物コンチスの仕掛ける不条理なマインドゲームにハマり、同じく謎めいた女性リリーに魅せられることで、それまで見て見ぬふりをしてきた自身の罪深さと向き合い、自分にとってアンヌがいかに大切な存在であるのか思い知らされる。そこへ、かつてナチス・ドイツの暴虐から島の住民を守り切れなかったコンチスの過去が絡むことで、どうしようもなく不完全で矛盾した人間という生き物への憐れみが浮かび上がってくるのだ。
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悠久の歴史を感じさせるギリシャの、神秘的で幻想的な世界を捉えた映像の美しさも捨てがたい。撮影監督は当時ケン・ラッセル監督作品の常連組で、後に『ガンジー』('82)でオスカーに輝く名匠ビリー・ウィリアムズ。ラッセル監督作『10億ドルの頭脳』('67)で組んだマイケル・ケインの推薦で、本作に関わることになったという。エキゾチックなロケーションの魅力を的確に捉える撮影の妙は、その後の『風とライオン』('75)や『哀愁のエレーニ』('85)を先駆けたものだと言えよう。
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ただし、本作のロケ地はギリシャでなくスペインのマヨルカ島。当時のギリシャは政情不安定だったこともあり、地形的に似ているマヨルカ島が選ばれたようだ。また、家族揃ってたびたびマヨルカを訪れていたグリーン監督には土地勘があり、ロケハンをする上でも勝手が良かったらしい。実際、プロデューサー陣にマヨルカを推薦したのもグリーン監督だったという。それに、映画産業の脆弱なギリシャに比べ、スペインには熟練したスタッフや豊富な機材が揃っている。ロケ地としては理想的だった。
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主な舞台となるコンチスの豪邸は、本作の撮影のために一から建てられたもので、『戦場にかける橋』('57)や『素晴らしき戦争』('69)で有名なドン・アシュトンがデザインを手掛けた。アシュトンは香港をはじめとする世界中のマンダリン・オリエンタル・ホテルの建築や内装をデザインしたことでも知られており、本作でも彼一流の洗練されたエキゾチシズムを堪能することが出来る。
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主演は当時『アルフィー』('66)や『パーマーの危機脱出』('67)などで人気絶頂だったマイケル・ケインだが、圧倒的な存在感を示すのはコンチス役の名優アンソニー・クインだ。コンチスという取り留めのないようなキャラクターにある種の真実味を持たせ、不条理なストーリーの迷宮に辛うじて一筋の光をもたらしている。本作が単に難解で退屈なだけの映画に陥らなかったのは、彼の生命力溢れる豪快な演技と強烈な個性のおかげだと言えよう。
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女優陣は当時『砲艦サンパブロ』('66)や『魚が出てきた日』('67)で頭角を現していたキャンディス・バーゲンと、これが英語映画への初出演となったゴダール作品のミューズ、アンナ・カリーナ。『TVキャスター マーフィー・ブラウン』や『ボストン・リーガル』が大成功したおかげで、今ではすっかりテレビ女優と思われているバーゲンだが、かつてはダイアン・キートンやゴールディ・ホーンとも肩を並べる映画スターだった。本作の当時はまだ21歳。輝かんばかりに若くて美しい。もちろん、どことなく危険でアンニュイな魅力を放つアンナ・カリーナも素敵。アメリカ人のバーゲンが頑なにヌードを固辞してボディダブルを使わせたのに対し、海水浴シーンで惜しげもなくトップレス姿を披露するフランス人のカリーナ。そういう意味でも好対照な顔合わせだ。
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というわけで、トータルで見ると不完全燃焼な印象は否めない映画だし、難解で呑み込みづらいストーリーも弱点ではあるものの、異国情緒溢れる美しいビジュアルと国際色豊かな豪華キャストの共演は一見の価値あり。一部ではカルト映画として愛されているようだが、なるほど、好き嫌いは別としても、確かに一風変わった映画ではある。
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評価(5点満点):★★★☆☆

参考ブルーレイ&DVD情報(イギリス盤2枚組)
ブルーレイ
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/1080p/音声:1.0ch リニアPCM/言語:英語/字幕:英語/地域コード:B/時間:116分
DVD
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:1.0ch Dolby Digital/言語:英語/字幕:英語/地域コード:2/時間:111分
発売元:Signal One Entertainmnt/20th Century Fox/Hollywood Classics (2017年)
特典:ドキュメンタリー「John Fowles: The Literary Magus」(約23分)/助監督マイケル・グリーン(ガイ・グリーン監督の息子)のインタビュー(約22分)/ドキュメンタリー「Guy Green: A Life Behind the Camera」(約22分)/撮影監督ビリー・ウィリアムズのインタビュー(約12分)/セット装飾ティム・ハッチンソン(美術監督ウィリアム・ハッチンソンの息子)のインタビュー(約10分)/ヘアスタイル担当ステファニー・ケイのインタビュー(約6分)/オリジナル劇場予告編



by nakachan1045 | 2017-07-26 00:41 | 映画 | Comments(0)

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