なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「幽霊紐育を歩く」 Here Comes Mr. Jordan (1941)

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監督:アレクサンダー・ホール
製作:エヴェレット・リスキン
原作戯曲:ハリー・シーガル
脚本:シドニー・バックマン
   シートン・I・ミラー
撮影:ジョセフ・ウォーカー
衣装デザイン:イーディス・ヘッド
美術監督:ライオネル・バンクス
音楽:フレデリック・ホランダー
出演:ロバート・モンゴメリー
   クロード・レインズ
   イヴリン・キース
   リタ・ジョンソン
   エドワード・エヴェレット・ホートン
   ジェームズ・グリーソン
   ジョン・エメリー
   ドナルド・マクブライド
   ドン・コステロ
アメリカ映画/94分/モノクロ作品




<あらすじ>
次期チャンピオンは確実との期待を集める人気ボクサー、ジョー・ペンドルトン(ロバート・モンゴメリー)。サックスと飛行機をこよなく愛する彼は、父親代わりのマネージャー、コークル(ジェームズ・グリーソン)の反対にも耳を貸さず、次の試合開催地ニューヨークへ自家用プロペラ機で一足先に向かう。
ところが、操縦中にサックスを吹いていたところ、プロペラ機が事故で墜落。次の瞬間、彼は雲の上にいた。係員7013番(エドワード・エヴェレット・ホートン)によって天国行きの旅客機へ連れて来られたジョーだが、自分が死んでしまったということに納得が出来ない。責任者のジョーダン氏(クロード・レインズ)が調べたところ、ジョーが死ぬのは50年後であることが判明。本当は飛行機事故で助かるはずだったところ、新米の7013番が間違って死後の世界へ連れてきてしまったのだ。
ジョーダン氏はジョーの魂を元の体へ戻すことを7013番に指示。ところが、既に彼の肉体は火葬されていた。戻る身体を失ってしまったジョー。そこで、ジョーダン氏はジョーを連れて新しい肉体を探すことにする。
ロシア、オーストラリア、南アフリカと渡り歩いた2人は、今まさに殺されようとしているニューヨークの大富豪ファーンズワースへとたどり着く。プレイボーイの悪徳銀行家として悪名高いファーンズワースは、妻ジュリア(リタ・ジョンソン)とその不倫相手の秘書アボット(ジョン・エメリー)によって睡眠薬を飲まされ、事故死に見せかけて浴槽で溺死させられたのだ。
そんな悪人の肉体になど入りたくないと躊躇するジョーだったが、そこへ現れた若い女性ベティ(イヴリン・キース)に一目惚れしてしまう。ベティの父親はファーンズワースに騙され、有価証券詐欺の濡れ衣を着せられ逮捕されてしまったのだ。彼女を助けたいと考えたジョーは、ファーンズワースの肉体へ入ることを決意する。
ファーンズワースとして甦ったジョーは、ベティの父親の汚名を晴らしただけでなく、有価証券詐欺で騙された人々の損失金も全額返還。強欲で汚い金融業界に嫌気がさした彼は、再びボクシングのチャンピオンを目指そうと考え、コークルを呼び出して自分がファーンズワースではなくジョーであることを説明して納得させる。
心優しいベティとも深く愛し合うようになったジョー。しかし、再び結託したジュリアとアボットが今度はファーンズワースを銃殺。またもや肉体を失ったジョーだったが、そこでかつてのライバルである人気ボクサー、マードックが、八百長を断ったせいで決勝戦の試合中に銃殺されたことを知る。マードックの無念を晴らすべく、彼の肉体へ移ることにするジョーだったが…。

往年のハリウッド映画では、「天使物」とも呼ぶべきサブジャンルが存在する。若くして命を落としてしまった人、恵まれない境遇で苦しんでいる人、大きな人生の壁にぶつかってしまった人などが、天使の助けによってやり直すチャンスだったり、成功するチャンスを与えられる…というのがポピュラーな筋書きだ。

後にスピルバーグ監督の『オールウェイズ』('89)としてリメイクされた『A Guy Named Joe』('43)をはじめ、やはり『天使の贈りもの』('96)としてリメイクされたケイリー・グラント主演の『気まぐれ天使』('57)、同様に『エンジェルス』('94)としてリメイクされた『Angels in the Outfield』('51)など枚挙に暇ないが、それら全ての原点と呼ぶべき名作が、この『幽霊紐育を歩く』('41)。こちらもウォーレン・ビーティ主演の『天国から来たチャンピオン』('78)としてリメイクされ、マイケル・パウエル&エメリック・プレスバーガーの『天国への階段』('46)にも多大な影響を与えている。

主人公は次期全米チャンピオンの有力候補と目されている人気プロボクサー、ジョー。不慮の事故で死んでしまう彼だったが、実は天使の手違い(ただし、劇中で天使という言葉は使われていない)によって死後の世界へ連れて来られたことが判明。しかも、その事実に気付くも時すでに遅く、ジョーの肉体は荼毘に付されてしまった後だった。そこで、天使の責任者ジョーダン氏の取り計らいによって、たった今殺されたばかりの大富豪ファーンズワース氏の肉体に乗り移って甦ることになる。

ところがこのファーンズワース氏、ジョーと年齢や背格好が近いのはいいのだが、実は様々な悪事に手を染めた女好きの悪徳銀行家。当初はそんな奴の体になんか入りたくないと躊躇したジョーだったが、ファーンズワース氏に騙されて苦境に立たされた美女ベティに一目惚れし、彼女を救うことを決意。かくして、他人の肉体に宿った我らがヒーロー、ジョーが、頼りになる天使ジョーダン氏に導かれながら、庶民を食い物にする巨大金融機関の悪事を正し、愛する女性ベティのハートを射止めることとなる。

監督はシャーリー・テンプル主演の『可愛いマーカちゃん』('34)やケイリー・グラント主演の『此の蟲十万弗』('44)など、コロンビア映画で数々のハートウォーミングなコメディを手掛けた職人監督アレクサンダー・ホール。当時、コロンビア映画の看板監督と言えば巨匠フランク・キャプラだったわけだが、ホールはキャプラの断った企画を請け負うことが多かったこともあり、どことなく似たような印象の作品が少なくない。不器用でバカ正直だが正義感の強い庶民派の主人公が、大富豪の体に乗り移ってウォール街の不正にメスを入れるという本作の物語などは、実にキャプラ的なファンタジーだと言えるだろう。

他人の体で輪廻転生しても人格や記憶はジョーのまま…というのはいかにも都合のいい設定だが、しかしこれにはちゃんとした理由があり、ラストのちょぴり切ない展開へと絶妙に繋がっていく。また、周りの人間の目には乗り移った他人の姿形として見えているが、本人と観客には元のジョーの姿のままという設定も、すんなりと感情移入が出来て上手い。全てにおいて粋で洗練された演出が、荒唐無稽なストーリーに大人の味わいをもたらしている。アカデミー監督賞候補も納得の仕事ぶりだ。

また、全編に渡ってスクリューボール的なコメディ調を貫きつつも、要所々々でしっかり「人間の生と死」という重いテーマに向き合っているところも好感が持てる。さらに、このまま大富豪として財産も名声も愛する女性も手にしてハッピーエンド…かと思いきや、その全てを手放さなくてはならないという予想外のどんでん返しによって、人間の宿命や天命を考察するという終盤の展開もなかなか奥が深い。

もともと主人公ジョー役には、スタジオ専属の看板スターだったケイリー・グラントが予定されていたものの、本作のヒットに期待をかけていた社長ハリー・コーンは、格上の大手スタジオMGMに交渉して人気俳優ロバート・モンゴメリーを借り受けることに。そう、テレビ『奥さまは魔女』のサマンサ役でお馴染み、エリザベス・モンゴメリーの実父である。当時、MGMのロマンティック・コメディで人気を博すも、上流階級の洗練されたプレイボーイ役としてタイプキャストされることに不満を抱いていたモンゴメリーにとって、それまでとは真逆のイメージを打ち出すことの出来る本作は願ってもない企画だった。これで2度目のアカデミー主演男優賞候補になったわけだが、なるほど、愚直なまでに正直で男気溢れるジョー役を、奇をてらうことなく直球で演じて大いに観客の共感を呼ぶ。

しかし、本作で最も強いインパクトを残すのは、原題にもなっている天使ジョーダン氏を演じている名優クロード・レインズだろう。ダンディで知的で落ち着いていて、ちょっぴり茶目っ気があってウィットに富んだジョーダン氏の魅力的なこと!レインズにとっては、『カサブランカ』('42)のルノー署長役に匹敵するほどの名演だ。また、ジョーの父親代わりとも言うべきリング・マネージャー、コークル役を演じるジェームズ・グリーソンの、スラップスティックなコメディ演技も絶品。しかも、ただ面白おかしいだけでなく、ラストではホロっと涙を誘うような味のある演技も披露してくれる。

ヒロインのベティ役には、『風と共に去りぬ』('39)のスカーレット・オハラの妹スエレン役で注目された女優イヴリン・キース。低予算B級映画のヒロイン役が多く、演技よりも私生活のスキャンダルで注目されがちだった人だが、本作でもどちらかというとお飾り的な役割に終始している。なお、当時は妻子ある巨匠チャールズ・ヴィダーと不倫関係にあったことから、良き家庭人のロバート・モンゴメリーは彼女のことを快く思わず、2人は撮影以外ではほとんど口をきかなかったと言われている。

サポート陣では、おっちょこちょいの新米天使を演じているエドワード・エヴェレット・ホートンも印象的。この手のコメディ・リリーフはお手のものの名脇役俳優だ。マルクス兄弟作品の常連だったドナルド・マクブライドも、短気だが憎めないウィリアムズ警部役として、比較的少ない出番ながらも場をさらう。また、無名時代のロイド・ブリッジスが、天国行き旅客機のパイロット役として登場するのも要注目だ。

評価(5点満点):★★★★☆

参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/1080p/音声:1.0ch リニアPCM/言語:英語/字幕:英語/地域コード:A/時間:94分/発売元:Criterion Collection/Columbia Pictures (2016年)
特典:映画評論家マイケル・スラゴウと映像作家マイケル・シュレシンジャーの対談(約32分)/女優エリザベス・モンゴメリーの音声インタビュー('91年録音・約79分)/ラジオ・ドラマ版(ケイリー・グラント、クロード・レインズ、イヴリン・キース出演・約53分)/オリジナル劇場予告編



by nakachan1045 | 2017-07-29 09:05 | 映画 | Comments(0)

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