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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「ドーベルマン刑事(デカ)」 Doberman Cop (1977)

「ドーベルマン刑事(デカ)」 Doberman Cop  (1977)_f0367483_01464406.jpg
監督:深作欣二
企画:松平乗道
   奈村協
原作:武論尊
   平松伸二
脚本:高田宏冶
撮影:中島徹
主題歌:西浜鉄雄
挿入歌:弘田三枝子
出演:千葉真一
   ジャネット八田
   松方弘樹
   松田英子
   岩城滉一
   室田日出夫
   川谷拓三
   志賀勝
   橘麻紀
   藤岡重慶
   遠藤太津朗
   星野じゅん
   小林稔侍
   成瀬正
   穂積隆信
日本映画/90分/カラー作品




「ドーベルマン刑事(デカ)」 Doberman Cop  (1977)_f0367483_14525789.jpg
<あらすじ>
新宿のアパートで若い女性の焼死体が発見される。被害者は沖縄の石垣島出身の女性・玉城まゆみ。警察はこのところ世間を騒がせている連続放火殺人魔の仕業と考え、まゆみのポン引きをしていた暴走族・三迫長栄(岩城滉一)を容疑者として逮捕するが、三迫にはアリバイがあった。
そこへ沖縄県警の刑事・加納錠治(千葉真一)が上京して来る。まゆみと同じく石垣島出身の加納は、彼女の母親に頼まれ、家族との連絡を絶ったまゆみの行方を捜しに来たのだ。しかし豚を連れ歩く田舎者で、占いを根拠にまゆみがまだ生きていると主張する加納を、佐野警部(藤岡重慶)ら東京の刑事たちはバカにして取り合わない。ひとまず東京に残ることにした加納は、たまたま知り合ったストリップ一座の経営者・木下秀吉(川谷拓三)や、気のいいストリッパー、紫小袖(松田英子)らの世話になる。
その頃、都内の高層ホテルで新人女性歌手・春野美樹(ジャネット八田)が人質になるという事件が発生。ホテルの窓を蹴破って犯人(志賀勝)を逮捕し、美樹を救った加納は一躍全国的なヒーローとなる。美樹はテレビのオーディション番組『スター誕生』の優勝を狙っており、彼女を成功させることに人生をかけている元ヤクザのマネージャー、英森(松方弘樹)は、目的のためなら手段を選ばない危険人物だった。
そんな美樹を一目見た加納は、彼女こそ行方不明のまゆみだと直感する。さらに、三迫ら暴走族たちから美樹がかつてトルコ嬢だったこと、アメリカで整形して顔を変えたことを聞き、加納の疑念は確信へと変わる。加納と三迫が美樹の周辺を探ってると知った英盛は、手下を使って2人を抹殺しようとするのだが…。
「ドーベルマン刑事(デカ)」 Doberman Cop  (1977)_f0367483_14530972.jpg
日本映画が斜陽の時代だった'70年代。各映画会社は深刻な客離れを食い止めるため、あれこれと様々な趣向を凝らしたわけだが、その一つが当時青年層の間で人気を呼んでいた劇画の映画化だ。『女囚さそり』や『修羅雪姫』、『ボディガード牙』、『高校生無頼』、『愛と誠』、『子連れ狼』などが次々と実写映画化され、それぞれシリーズ化されるほどの大ヒットを記録。そんな劇画ブームの波に乗る形で作られたのが『ドーベルマン刑事(デカ)』だ。
「ドーベルマン刑事(デカ)」 Doberman Cop  (1977)_f0367483_14535667.jpg
警視庁特別犯罪課に属する型破りな刑事・加納錠治が、相手を殺すことも辞さない強引な捜査でマスコミや世間から非難されつつも、愛用の拳銃ニュースーパー・ブラックホークを片手に凶悪犯罪に挑んでいく劇画『ドーベルマン刑事(デカ)』。クリント・イーストウッドの『ダーティハリー』('71)に影響を受けたことは明らかだが、そのハードで露骨なバイオレンス描写や個性的な登場人物が若い男性を中心に支持され、『週刊少年ジャンプ』で約4年間に渡って連載された。ところが、その映画版に当たる本作は、タイトルと主人公の名前こそ共通しているものの、その中身はおよそ原作とは似ても似つかない代物となっている。
「ドーベルマン刑事(デカ)」 Doberman Cop  (1977)_f0367483_14543881.jpg
そもそも主人公・加納錠治のキャラ設定がまるっきり違っている。映画版の加納は、沖縄県警の刑事で石垣島の出身。口を開けば沖縄弁丸出しで、いで立ちも麦わら帽子に裸足に草履という、見るからにいなかっぺ丸出し。黒革ジャンプスーツに身を包んだ、都会的な原作の加納とはほぼ別人だ。これには多くの原作ファンが驚愕したのではないだろうか。みんなが知っている加納錠治の片鱗など一切なし(といっても、筆者は遥か昔に友達ん家で読んだことしかないので偉そうなことは言えないが)。そりゃ生身の人間が演じる実写版が原作コミックのイメージと異なるのは仕方ないが、それにしてもここまで設定から何から変わってしまうのも大胆不敵だ。
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ストーリーも原作とは基本的に無関係の映画版オリジナル。上司の西谷博や同僚の女性刑事・三森竜子など、原作のサブキャラも映画には登場しない。とはいえ、マグナム44の弾丸で頭が吹っ飛ぶなどの過激なバイオレンス描写は原作も顔負けだし、沖縄の田舎から東京へ出て来た若い女性が身を持ち崩し、成功の代償として姿形を変えたばかりか魂まで売ってしまうというメインプロットのペシミズムも原作のスピリットを継承している。
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さらには、暴走族というだけで警察から目の敵にされる若者たち、同じく警察から虐げられながらも逞しく生きるストリップ一座、己の偏った正義を振りかざして暴走するサイコパス警官など、様々なサブプロットを巧みに絡めながら大都会・東京の暗部をあぶり出していく脚本は悪くない。担当したのは『まむしの兄弟』シリーズや『殺人拳』シリーズ、『極道の妻たち』シリーズ、さらには『鬼龍院花子の生涯』('82)で有名な大御所・高田宏冶。当時は同じく深作と組んだ『北陸代理戦争』('77)や角川映画『野性の証明』('78)などの傑作を手掛け、まさに脂の乗り切った時期だっただけに、本作のような2本立てプログラムピクチャーでも気合が入っている。
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ちなみに、その整形した女性歌手・春野美樹を巡るメインプロットだが、実は本作の企画が立ち上がる以前から、深作欣二監督と高田宏冶が温めていたストーリーだったらしい。元ネタは、なんと本作でも美樹の吹替えとして挿入歌を歌っている大物歌手・弘田三枝子。当時はダイエットのおかげで美人になったと宣伝され、本人もそう主張していたが、しかしアメリカへ行って整形してきたであろうことは誰の目から見ても明らかだった。そこから垣間見える「闇」のようなものに、深作も高田も興味を惹かれたのかもしれない。
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凄いのは、当初その弘田三枝子本人に美樹役をオファーしていたということ。話題になること間違いなしってことで、制作側がかなり粘って交渉を続けたらしいのだが、結局本人が首を縦に振らなかったそうだ。まあ、そりゃそうだろう(笑)。代わりに起用されたのが、化粧品モデル出身のハーフ美女ジャネット八田。現在の田淵幸一夫人ですな。もともと決して演技の上手い人ではないし、歌唱シーンでは口パクなのが丸分かりで若干興ざめだが、それでも体当たりで頑張っている。麻薬でボロボロになった幸薄い女性が、悪魔に魂を売ってでも成功を掴もうとする。その哀しくも恐ろしいドロドロとした執念を、不器用ながらも懸命に演じきって好印象だ。
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主人公・加納役の千葉真一は…泥臭いところを含めていつもの千葉ちゃん。当時の『殺人拳』シリーズや『地獄拳』シリーズに比べると、得意の超絶スタントアクションはわりと控えめだが、ここぞという見せ場はしっかりと押さえている。ただ、何かにつけて科学捜査や推理よりも占いを信じたり、空き瓶に紛れて中身の残ったコーラを拾い飲みしようとしたりと、田舎者というよりも未開人に近いキャラは、ちょっと沖縄人に対して失礼じゃないかとも思ったりして。確かに沖縄の人って神がかったところはあるけれど、さすがにそこまで極端じゃないだろと。
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もちろん、それは深作監督や高田宏冶の意図するところではなく、むしろ本作は主人公・加納に対する東京の刑事たちのあからさまな差別意識、沖縄から出てきた女性・美樹(玉城まゆみ)とその身代わりに殺された女性の不幸を通じて、東京と地方の間に存在する歴然とした地域格差を浮き彫りにしている。警察権力に対する徹底した不信感と批判精神、ヤクザも絡んだ芸能界の闇に斬り込む反骨精神なども、さすがは深作欣二監督といった印象だ。オーディション番組の裏側のカラクリ(必ずしもその描写が正しいとは言えないが)を暴くばかりか、実在の番組と全く同じ「スター誕生」のネーミングを使用しているのも大胆。今だったら絶対に不可能だろう。
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松方弘樹演じるヤクザ上がりの芸能マネージャーが、必ずしも根っからの悪人というわけではなく、むしろ権威主義の蔓延る芸能界において被差別者側に属するという設定も、深作映画らしい視点でユニーク。ラストでは千葉ちゃんVS松方の一騎打ちも楽しめる。その子分役として、ピラニア軍団のイケメン要員・成瀬正(現・成瀬正孝)も印象的。美樹のライバル候補である美形男性アイドル歌手を裸にひん剥いてSM責めにする。あれ、そういえば深作監督、『暴走パニック 大激突』でも美青年凌辱シーンやってたよな。
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また、千葉ちゃんと本番まな板ショーまでやっちゃうストリッパー、紫小袖役を演じる松田英子(『愛のコリーダ』)のあっけらかんとしたお色気も魅力。深作監督は是非とも彼女を使いたかったのだそうだ。それと、暴走族役で登場する当時まだ25歳の岩城滉一。「演技が下手っくそ」と高田宏冶先生がインタビューで仰る通り、見事なまでの大根ぶり(基本的に今も全く上達していないけど)だが、とりあえずハンサムなルックスと活きの良さで様になっている。なお、当時既に30代半ばだった小林稔侍が暴走族の仲間を演じているのも苦笑い。『狂った野獣』('76)でヒロインを演じた星野じゅんの顔も見受けられる。
「ドーベルマン刑事(デカ)」 Doberman Cop  (1977)_f0367483_14551963.jpg
そのほか、サイコパス警察官・高松役の室田日出夫、冒頭で美樹を拉致する犯人に志賀勝、ストリップ一座のマネージャーに川谷拓三、独善的で傲慢な刑事・佐野に藤岡重慶、機動部隊の隊長に岩尾正隆と、ピラニア軍団を中心とした東映御用達の強面俳優たちが勢ぞろいし、ギラギラとした熱気を発散させてくれる。
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評価(5点満点):★★★★☆

参考ブルーレイ&DVD情報(イギリス盤2枚組)
ブルーレイ
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/1080p/音声:1.0ch リニアPCM/言語:日本語/字幕:英語/地域コード:B/時間:90分
DVD
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:1.0ch Dolby Digital/言語:日本語/字幕:英語/地域コード:2/時間:90分
発売元:Arrow Video/Toei Company (2017年)
特典:映画評論家・山根貞男インタビュー(約9分)/脚本家・高田宏冶インタビュー(約18分)/俳優・千葉真一インタビュー(約18分)/オリジナル劇場予告編



by nakachan1045 | 2017-08-05 14:59 | 映画 | Comments(0)

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