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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「バッド・ガール」 Bad Girl (1931)

「バッド・ガール」 Bad Girl  (1931)_f0367483_14483430.jpg
監督:フランク・ボーゼージ
製作:フランク・ボーゼージ
原作:ヴィーニャ・デルマー
戯曲:ヴィーニャ・デルマー
   ブライアン・マーロウ
脚色:エドウィン・バーク
撮影:チェスター・ライオンズ
美術:ウィリアム・ダーリン
録音:ジョージ・P・コステロ
出演:ジェームズ・ダン
   サリー・アイラーズ
   ミンナ・コンベル
   ウィリアム・ポーリー
   フランク・ダリアン
   クロード・キング
アメリカ映画/88分/モノクロ作品




<あらすじ>
高級ブティックの試着モデルとして働く美女ドロシー(サリー・アイラーズ)は、日々男たちからいやらしい目で見られることに辟易している。そんなある晩、仕事帰りに親友エドナ(ミンナ・コンベル)とコニー・アイランドへ遊びに出かけた帰り、彼女は遊覧船でエディ(ジェームズ・ダン)という若者と知り合う。
女には目もくれない堅物のエディ。男なんてみんな同じスケベだと思っているドロシーは、からかい半分で彼を誘惑してみるものの、逆に叱責されてビックリする。世の中にはこんな真面目な男もいるんだと感心するドロシー。一方、彼女の真意を知ったエディも、近頃では珍しく身持ちの堅いしっかり者のドロシーに好感を抱く。
早くに両親を失ったドロシーは、口やかましい兄ジム(ウィリアム・ポーリー)と小さなアパートで二人暮らし。ラジオ店の技師として働くエディは、いつか自分の店を持つためにコツコツと貯金していた。お互い、懸命に生きている相手のことを思いやり、本気で愛し合うようになっていく。
ある晩、仕事に夢中でデートの約束時間をすっぽかしたエディのアパートへ、腹を立てたドロシーが押し掛ける。そのまま一夜を明かす2人。生まれて初めて門限を破ったドロシーは、兄にこっぴどく叱られることを恐れる。そんな彼女に、エディは結婚を申し込むのだった。
晴れて夫婦となった2人は、新しいアパートへ引っ越す。様子を見に来たエドナに、妊娠したことを告げるドロシー。だが、自分の店を持つため頑張って働いているエディには言い出せない。子供が出来ればお金がかかるからだ。そこで、彼女は働きたいと夫に申し出る。すると、今の暮らしぶりに妻が満足していないと勘違いしたエディは、夢をあきらめることを決意。これまでの貯金を全て使い、高級アパートや豪華な家具を買い揃えるのだった。
さらに妻の妊娠を知った彼は、最高の産婦人科医のもとで出産させるため、秘かにボクサーの副業で医療費を稼ごうとするのだが、そのことを知らないドロシーは、夫が毎晩遅くまで家に帰らないのは子供を望んでいないからだと勘違いしてしまう…。

『第七天国』('27)で第1回アカデミー賞の監督賞に輝き、他にも『ユーモレスク』('20)や『戦場よさらば』('32)、『歴史は夜作られる』('37)といった数々の名作を世に送り出すなど、ハリウッド草創期~黄金期にかけて活躍した名匠の一人フランク・ボーゼージ。これは、そんな彼に2度目のアカデミー監督賞をもたらし、作品賞にもノミネートされたヒット作であるにも関わらず、今ではほとんど忘れられてしまった映画だ。

その理由は一目瞭然。ずばり、時代に色褪せてしまったのである。製作されたのは1931年。いわゆる世界大恐慌の真っただ中だ。しかし、本作に大恐慌の影は微塵も見られない。恐らく、原作が1928年に執筆されているからであろう。一応、市井の人々の慎ましい日常を題材にしてはいるものの、その背景に見え隠れするのは米国社会が空前のバブル景気に沸いた「狂乱の'20年代」だ。貧しい男女のささやかな恋愛と結婚を描いた典型的なロマンティック・コメディだが、そこには'30年代当時の厳しい庶民生活に根差したリアリズムは一切ない。それは、同時代に作られたジョセフ・フォン・スタンバーグ監督の『アメリカの悲劇』('31)や、バックステージ・ミュージカルの原点『四十二番街』('33)などと比べて見ても明らかだろう。数えきれないほど作られてきたハリウッド流の夢物語。それ以上でもそれ以下でもないという印象だ。

ただし、男嫌いの女性と女嫌いの男性が、互いに反発しあいながらも惹かれあっていく前半には見るべきものがある。緊張した面持ちの花嫁と付添人が、意を決して表へ出て行くと、なんと花嫁衣裳のファッションショーだったというオープニングもなかなか洒落が効いている。結婚や恋愛を巡る赤裸々な本音を散りばめた、毒舌満載の切れ味鋭いセリフの数々も痛快だ。これは、まだハリウッドの自主倫理規定が設定される以前の映画だからこそ。綺麗ごとではない男女関係の本質は、今も昔も大して変わらないことがよく分かる。

ヒロインのドロシーは、大都会ニューヨークに暮らす試着モデル。当時のアメリカの高級服飾店では顧客自身が試着するのではなく、サンプルを着用したモデルたちが店内を歩き回り、その中から顧客が気に入ったデザインの服を選んで、寸法を測ったうえで仕立てるというのが一般的だった。それゆえ、妻や恋人への贈り物を口実にしながら、実はモデルのナンパ目当てで来店するような男性客も少なくなかったという。数いるモデルの中でもダントツに美人の看板娘ドロシーは、それゆえに日頃から男たちの熱い視線を浴び続けているのだが、根が生真面目ゆえに見た目だけでチヤホヤする男たちが腹立たしくてならない。所詮、彼らの目当ては体だからだ。なにしろ、まだセクハラなんて言葉も概念も存在しない時代。男たちの態度は露骨だ。金持ちだろうと貧乏人だろうと、紳士だろうとゴロツキだろうと、女を見る男が考えていることはみんな同じ!と嫌悪感を露わにするドロシーだが、まあ、男嫌いになってしまうのも分からないではない。

一方、丈の短いスカートを履いた若い娘たちがキャッキャしていても、まるっきり目もくれない超堅物男のエディ。真面目で堅実な彼にしてみれば、そうした「今風」な都会の若い女性たちは、男に媚びを売っているようにしか見えない。しかも彼女たちときたら、せっかく働いて稼いだ金も、夜遊びやらファッションやらと一時の快楽のために無駄遣いしてしまう。そんな浮ついた女どもなんか俺の方から御免だね!というわけだ。

そうした、ある意味で異性に対するネガティブな先入観で凝り固まった男女が、それぞれ単刀直入にもほどがある憎まれ口を叩きながらも、やがてお互いに理想の相手だということに気付いていく。その辺りのシニカルな風刺を交えたロマンスの生き生きとした描写は楽しいし、アップテンポで洗練されたボーゼージ監督の演出にも勢いがある。これが映画デビューだった後のオスカー俳優ジェームズ・ダン、当時人気絶頂だった美人コメディエンヌのサリー・アイラーズもすこぶる好演だ。

また、ドロシーの親友エドナというキャラクターがまた素晴らしい。幼い息子を育てるバツイチのシングルマザーで、人生の酸いも甘いもかみ分けた気風のいい姐御肌。しかも絶妙なユーモアセンスを持ち合わせた毒舌家だ。花嫁衣裳のモデルに選ばれたドロシーが緊張でガチガチになっていると、「それだけ花嫁衣裳が似合ってたら、あたしなら一度に何人もの男と結婚するね」と励まし、エディと連絡がつかなくなり捨てられたと早合点したドロシーが「ああ、死にたい!」と叫べば、「大丈夫、その願いはいずれ叶うから、それ前にやるべきことやりましょ」とケツを叩く。実に心強い。

中でも印象的なのは、兄と同居するアパートを追い出されたドロシーが、エドナの部屋に身を寄せるシーン。実はドロシーの兄ジムとそれなりにいい仲だったエドナだが、彼のドロシーに対するあまりにも高圧的な態度に腹を立て、彼女を自分のアパートへと連れてきたのだ。その翌朝、目覚めたドロシーを励まそうとエドナが放ったジョークが傑作だ。「それにしても、彼(ジム)には命拾いされたわ。だって、あんなクソ男だと知らなかったら、危うく結婚するところだったんだもの。近頃じゃ、旦那を殺したら間違いなく死刑でしょ?」と(笑)。

こうした女性キャラクターのセリフの切れ味鋭い面白さは、やはり女性の手による作品だからであろう。原作は女流作家ヴィーニャ・デルマーの処女作で、そのデルマー自身の手掛けた舞台用戯曲が本作のベースになっている。デルマーは後に映画脚本家としても活躍するようになり、アイリーン・ダンとケイリー・グラントのコンビが主演したロマンティック・コメディ『新婚道中記』('36)ではオスカー候補にもなった。なお、映画用の脚色はエドウィン・バークが担当しており、本作でアカデミー賞の脚色賞を獲得している。

とまあ、こんな具合に映画の前半はいいのだけれど、主人公2人が結婚してからの後半で一気に迷走してしまう。お互いに相手を気遣うあまり誤解が生じ、溝が出来てしまうわけだが、このメロドラマ的な夫婦間のすれ違いがなんともベタだし、あまりにも唐突で安直なハッピーエンドも都合が良過ぎる。前半とは打って変わって綺麗ごとの連続だ。ボーゼージ監督の演出も、この後半においては明らかに覇気がない。なぜこんなことになったのか?前半のトーンのままでいけば不朽の名作、あるいはカルトな名作とも成り得たかもしれないが、残念ながら結果的に凡庸なラブ・コメディとなってしまった感は否めない。

評価(5点満点):★★★☆☆

参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:英語/地域コード:A/時間:88分/発売元:Kino Lorber/20th Century Fox
特典:映画史家ケント・ジョーンズによる音声解説/Kino Lorber発売作品の予告編集


by nakachan1045 | 2017-09-03 03:02 | 映画 | Comments(0)

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