なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
プロフィールを見る
画像一覧
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30

「雀」 Sparrows (1926)

f0367483_21433313.jpg
監督:ウィリアム・ボーダイン
製作:メアリー・ピックフォード
原作:ウィニフレッド・ダン
脚本:C・ガードナー・サリヴァン
撮影:チャールズ・ロッシャー
   カール・ストラス
   ハル・モア
美術:ハリー・オリヴァー
出演:メアリー・ピックフォード
   ロイ・スチュワート
   メアリー・ルイーズ・ミラー
   グスタフ・フォン・セイファーティッツ
   シャーロット・ミノー
   スペック・オドネル
   ロイド・ホイットロック
   モンティ・オグレイディ
アメリカ映画/83分/モノクロ・サイレント作品




<あらすじ>
アメリカ南部の片田舎。人里離れた場所で寂れた農園を営むグライムス氏(グスタフ・フォン・セイファーティッツ)とその妻(シャーロット・ミノー)は、預かった子供や引き取った孤児たちを強制労働に従事させ、不要になると周辺一帯を取り囲む沼地に沈めていた。
9人の幼い子供たちの面倒を見るのは年長者のモリー(メアリー・ピックフォード)。自身も劣悪な環境に置かれながら、甘えたい盛りの年少者たちの母親役として、グライムス夫妻の暴力から彼らを守ろうとしていた。そんな子供たちを日頃から虐めるのが、グライムス夫妻のバカ息子アンブローズ(スペック・オドネル)だ。
未成年者の強制労働が外部にバレるとまずいため、来客の際に子供たちは納屋へ隠れるという鉄則があったのだが、ある日アンブローズがわざと邪魔をしたことから、吃音の少年スプラッター(モンティ・オグレイディ)が業者の前に飛び出してしまう。不幸中の幸いでスプラッターは業者に働き手として買われていくものの、モリーたちは罰として夕飯を食べさせてもらえなかった。ただでさえ普段から満足な食事が与えられず、衰弱していた乳飲み子エイミーが天に召されてしまう。
グライムス氏は犯罪者ジョー・ベイリー(ロイド・ホイットロック)と組んで、身代金目的の児童誘拐を企てていた。ある晩、大富豪デニス・ウェイン(ロイ・スチュワート)の豪邸から幼い一人娘ドリス(メアリー・ルイーズ・ミラー)が誘拐され、グライムス一家のもとへ送り届けられる。秘密主義のベイリーは、女児が誰の子供かグライムスに教えなかった。
ドリスの面倒を見るよう指示されたモリーは、エイミーを失ったばかりだったこともあり、まだよちよち歩きのドリスをことのほか可愛がる。その翌朝、誘拐事件を報じる新聞を見たグライムス夫妻は、大富豪の一人娘の誘拐に加担したとなればただでは済まされないと怖気づき、ドリスを沼へ沈めて証拠隠滅しようとする。
その頃、警察の反対を押し切って身代金の支払いに応じることにしたウェイン氏。すると、以前から捜索願の出ていた少年スプラッターを警察が発見し、彼の証言からグライムス氏の農園の存在が捜査線上に浮かび上がる。警察は農園へ警官隊を送り込むことにする。
一方、グライムス氏がドリスを殺すつもりだと気付いたモリーは、意を決して子供たちを連れて農園から脱出することにする。しかし、周辺の森は人食いワニのうようよする底なし沼だらけ。追いかけようとしたグライムス氏も、生きて逃げ切れるはずがないとほくそ笑む。
すると、そこへベイリーの一味がやってきて、身代金の受け取りにドリスが必要だと言う。それはしまった!とばかりに、欲深いグライムス氏は先回りして沼地の向こうで子供たちを待ち構えることに。しかし、そこで警官隊と鉢合わせして銃撃戦となる。命からがら沼地を脱したモリーらは、警官隊が助けに来たことも知らず、あろうことかベイリー一味のボートへ乗り込んでしまう…。

サイレント期におけるハリウッド映画界の女王として君臨し、「アメリカの恋人」とまで呼ばれた国民的スーパースター、メアリー・ピックフォード。映画女優として初めて自らの制作プロダクションを設立し、夫ダグラス・フェアバンクスやチャップリンらと共に配給会社ユナイテッド・アーティスツを立ち上げ、映画アカデミー協会の創設にも携わるなど数々の偉業を成し遂げた彼女にとって、アカデミー主演女優賞に輝いた初トーキー作『コケット』('29)と並ぶキャリア後期の代表作がこれだ。

白人女性としては当時の基準でもかなり小柄の身長154センチで、その上まるで少女のような童顔だったことから、どうしても子供役を演じることの多かったピックフォードだが、当時既に34歳だった本作では推定12~3歳のヒロイン、モリー役。しかも、それが全く違和感なく溶け込んでいるのだから、ある意味で恐ろしい。そのけなげで可憐なことときたら!最大のライバルだったリリアン・ギッシュですら、当時はすっかり大人の女性役へと成長していたというのに。これぞまさしく永遠の処女である。

で、ストーリーはいわゆる南部ゴシックに分類されるような美少女残酷物語。身寄りのない子供たちを劣悪な環境下で強制労働させている農園を舞台に、ピックフォード演じる年長者のモリーが農園主一家の虐待から幼い少年少女を守り、やがて決死の脱出を試みることとなる。

驚かされるのは、その徹底したリアリズムである。基本的には児童文学的な傾向の強い作品なのだが、アメリカ南部の貧困や過酷な労働環境の描写はなかなか凄まじい。ヒロインや幼い子供たちを取り巻く状況も、容赦がないくらいに残酷だ。子役の少年少女がなんとも幼気で可愛らしいだけに、見ているだけで胸が痛んでしまう。アメリカでも20世紀前半まで児童労働は決して珍しくなく、未成年就労者の数は200万人以上にものぼっていたという記録もあることから、恐らく本作のように悪質な事例も実際にあったのだろう。

その一方で、本作には宗教的なファンタジー色も濃厚だ。そもそも『雀』というタイトルからして、聖書に出てくる「神様は一羽の雀にさえも情けをかけて下さる」という意味合いの一文から取られており、それが主人公モリーや子供たちが逆境を耐え忍ぶための心の支えとなっているのだ。いつか必ず神様が、雀のようにちっぽけな自分たちをここから助け出してくれるだろうと。

さらに、ミルクも与えられず衰弱していた乳飲み子エイミーが息を引き取るシーンでは、彼女を抱いてウトウトとするモリーの夢の中にイエス・キリストが現われ、モリーの腕からそっとエイミーを抱き上げ去っていく。苦しむことなく安らかに天へ召されたことを暗示する、とても象徴的で美しいシーンだ。ちなみに、このシーンにはキリストではなく光に包まれた天使が現われる別バージョンが存在する。これがまた幻想的で美しい。どうやら、非キリスト教圏の観客にも意味合いが伝わるよう準備されたようなのだが、実際に使用されたことがあるのかどうかは定かでないという。

そして、終盤にかけての緊迫感溢れる脱出劇がまた素晴らしい。モリーと子供たちが逃げ込むのは湿地帯の薄暗い密林。巨大なアリゲーターのうようよする沼地を、ある時は折れかけた大木の枝にぶら下がって、ある時は底なし沼にかけられた板をそっと渡って、命懸けで通り抜けていかねばならない。そのスリリングなことといったら!二重露光を使った原始的な特撮も見事な出来栄えだ。

しかも、子供たちの脱出劇と並行して、彼らを捕まえようと迫り来るギャング一味、その犯人たちを追う警官隊、それぞれの追跡劇が同時進行で交互に描かれ、息つく暇もないサスペンスが展開していく。舞台となる湿地帯の不気味な雰囲気がまたすこぶる効果的。実はこれ、本物の湿地帯ではなく、スタジオのバックロットに建てられた屋外セットというのだから驚きだ。泥水に大量の焦がしたコルクとおが屑を混ぜて、底なし沼のように仕立て上げたのだとか。さらに、本物のアリゲーターだけでなく、南部の湿地帯に生息する昆虫まで放たれたのだそうだ。

さらに、脱出劇の次はミシシッピー河を舞台にした激しいボート・チェイスまで登場。子供たちが誤って隠れたギャングの巨大ボートがクラッシュし、船底に子供たちを乗せたまま沈没しかけるという大掛かりなパニック・シーンも用意されている。涙あり、笑いあり、サスペンスあり、ファンタジーあり、ホラーあり、アクションあり、そしてスペクタクルありの大盤振る舞い。これぞまさしくエンターテインメントである。

監督はハリウッド随一の多作で知られた職人監督ウィリアム・ボーダイン。メアリー・ピックフォードとは『アンニー可愛や』('25)でも組んでいるが、本作の撮影中に2人は大喧嘩を繰り広げ、クランクアップを待たずしてボーダインは降板したらしい。なので、助監督のトム・マクナマラが後を引き継いだのだそうだ。

先述したように、子役たちの可愛らしさも本作の大きな魅力の一つだが、中でも誘拐される大富豪の娘ドリスを演じている、当時まだ2歳だったメアリー・ルイーズ・ミラーの可愛さは卒倒ものだ。お人形さんのようなまん丸フェイスにクリクリのカーリーヘア、そして絶妙なアクセントになっているそばかす。無邪気な笑顔や仕草がまた愛くるしいのなんのって!メアリー・ピックフォードは撮影終了後に、彼女を養女にしたいと実の親に申し出たそうだが、その気持ちはよーく分かる。もちろん、断られたそうなのだけれど。

両親がパラマウント撮影所のすぐ向かいで仕立て屋を営んでいたことから、1歳の時に顧客のスタジオ関係者にスカウトされて子役となったメアリー・ルイーズ・ミラー。たちまち売れっ子になったらしいのだが、物心つくと撮影を嫌がるようになって引退。成長してからはナイトクラブの歌手やピンナップ・モデルとして活躍し、やがて結婚して平凡ながらも幸せな家庭を築いたという。'03年に79歳で死去。そうだよなあ、なんたってもう91年も前の映画なんだから…。

評価(5点満点):★★★★★
f0367483_01562548.jpg
参考ブルーレイ情報(アメリカ盤3枚組)
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/1080p/音声:2.0ch リニアPCM/言語:サイレント/字幕:英語/地域コード:ALL/時間:83分/発売元:Milestone Film & Video (2012年)
特典:オリジナル劇場予告編/アウトテイク集/ドキュメンタリー「The Mary Louise Miller Story」(約17分)/映画史家ジェフリー・ヴァンスとトニー・マイエッタによる音声解説



by nakachan1045 | 2017-09-12 10:14 | 映画 | Comments(0)

カテゴリ

全体
映画
音楽
未分類

お気に入りブログ

なにさま映画評

最新のコメント

昔、NHKで見たので記憶..
by さすらい日乗 at 12:59
> さすらい日乗さん ..
by nakachan1045 at 10:21
これは、公開時に今はない..
by さすらい日乗 at 07:33

メモ帳

最新のトラックバック

venussome.co..
from venussome.com/..
venuspoor.co..
from venuspoor.com/..
venuspoor.com
from venuspoor.com
http://while..
from http://whileli..
http://while..
from http://whileli..
http://www.v..
from http://www.val..
オペラ・ブッファの傑作で..
from dezire_photo &..

ライフログ

検索

ブログパーツ

最新の記事

「La morte non ..
at 2017-11-21 01:11
「ボディ・ダブル」 Body..
at 2017-11-20 03:59
「ジーンズ・ブルース 明日な..
at 2017-11-18 14:34
「邪悪の女王」 Seizur..
at 2017-11-15 00:02
「賞金稼ぎ」 Shokin ..
at 2017-11-14 11:11

外部リンク

ファン

ブログジャンル

映画
ライター