なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「呪いの館」 Operazione paura... (aka Kill, Baby, Kill) (1966)
監督:マリオ・バーヴァ
製作:ナンド・ピサーニ
ルチアーノ・カテナッチ
原案:ロマーノ・ミリオリーニ
ロベルト・ナターレ
脚本:ロマーノ・ミリオリーニ
ロベルト・ナターレ
マリオ・バーヴァ
撮影:アントニオ・リナルディ
編集:ロマーナ・フォルティーニ
美術:アレッサンドロ・デロルコ
音楽:カルロ・ルスティケッリ
出演:ジャコモ・ロッシ=スチュアート
エリカ・ブラン
ファビエンヌ・ダリ
ピエロ・ルッリ
ジャナ・ヴィヴァルディ(ジョヴァンナ・ガレッティ)
マックス・ローレンス(ルチアーノ・カテナッチ)
ミカエラ・エスドラ
フランカ・ドミニチ
ジュゼッペ・アドバティ
ミレッラ・パンフィリ
ヴァレリオ・ヴァレリ
イタリア映画/83分/カラー作品
<あらすじ>
20世紀初頭のカルパチア山脈。とある村の廃墟となった教会で、若い女性イレーナ(ミレッラ・パンフィリ)の死体が発見される。実は、イレーナは事前に警察へ自分が殺されるというSOSの手紙を送っていた。しかし、死体は自殺のようにしか見えない。そこで、捜査に当たるクルーガー警部(ピエロ・ルッリ)は、警察医エスワイ(ジャコモ・ロッシ=スチュアート)を呼び寄せ、死体の検視を依頼する。
村ではこの十数年、死者が多発していた。そのため、外部の人々は怖がって近寄らない。村の外で馬車を降ろされたエスワイ医師は、村人の警戒心に満ちた視線を感じながら宿へと到着する。待ち受けるクルーガー警部も困り果てていた。村人の誰もが何かを恐れており、全く証言を得られないのだ。2人は田舎にありがちな貧困と無知、そして迷信が原因だと考える。
村人の妨害に遭いながらも、イレーナの死体を調べるエスワイ医師。立会人が必要であることから、看護婦の資格を持つ村娘モニカ(エリカ・ブラン)に協力してもらう。モニカは2歳の時に村を出て、つい最近両親の墓参りのため戻って来たばかりだった。死体を解剖したエスワイ医師は、心臓に埋め込まれたコインを発見して驚く。
検視を終えたエスワイ医師は、モニカを自宅まで見送った帰り道で村人に襲われるが、間一髪のところを村の魔女ルース(ファビエンヌ・ダリ)に救われる。宿へ戻ると、クルーガー警部は留守だった。イレーナが女中として働いていた、グラプス男爵夫人(ジャナ・ヴィヴァルディ)の邸宅へと向かったらしい。書置きにはエスワイ医師も来るよう記されていた。
その頃、宿の主人(ジュゼッペ・アドバティ)の娘ナディエンヌ(ミカエラ・エストラ)は、窓の外から中を覗く少女の姿を目撃して恐怖に固まる。彼女に目を付けられてしまった!と。両親はすぐさま魔女ルースを呼び寄せ、呪いから守る儀式をしてもらう。それを見たエスワイ医師はあきれ果てるが、そんな彼にルースは言う。答えはグラプス邸にあると。
深夜の静まり返ったグラプス邸を訪れたエスワイ医師。グラプス男爵夫人はクルーガー警部など知らないの一点張りで、エスワイ医師を冷たく追い返す。そこで彼は、白い毬を手にした幼い少女メリッサ(ヴァレリオ・ヴァレリ)と遭遇する。しかし、メリッサはそのままどこかへと姿を消した。
一方、モニカは不可解な悪夢にうなされて目覚める。恐怖を覚えて外へ飛び出した彼女は、ちょうどグラプス邸を後にしたエスワイ医師と遭遇。2人が宿へと戻ると、ナディエンヌが高熱でうなされていた。よく見ると、全身にお守りの鉄線が巻かれている。怒りを覚えたエスワイ医師は、母親マーサ(フランカ・ドミニチ)の反対も聞かず鉄線を外す。しばらくすると、再び窓の外に少女が現われ、ナディエンヌは殺されてしまった。
墓地でクルーガー警部の遺体を発見したエスワイ医師は、村長カール(マックス・ローレンス)と対面する。村長によると、12年前にグラプス夫人の7歳になる娘メリッサが村祭りの最中に事故死し、それ以来村は呪われてしまったのだという。メリッサのことを口にした村人は殺されてしまう。しかも、モニカはメリッサの実の妹だった。その直後に村長が殺され、エスワイ医師とモニカは真実を確かめようとするのだが…。
イタリアン・ホラーの父、マリオ・バーヴァ監督を敬愛・崇拝する筆者であるが、そんな私が彼のフィルモグラフィーからベスト3を選ぶとすれば、『ブラック・サバス 恐怖!三つの顔』('63)と『モデル連続殺人!』('64)、そしてこの『呪いの館』('66)というセレクションになるだろう。
もちろん、ホラー映画ファンの間での評価も圧倒的に高く、'16年に英国誌「Time Out」がホラー映画関係者の投票で選んだ「ホラー映画ベスト100」では70位(『ブラック・サバス』が82位、『血ぬられた墓標』が74位)に選ばれているし、アメリカのエンタメ系ウェブ雑誌「Slant Magazine」による「ホラー映画ベスト100」でも55位(『血ぬられた墓標』は62位)にランクイン。バーヴァ監督の代表作として一般的に挙げられるのは『血ぬられた墓標』だが、しかし『呪いの館』を彼の最高傑作とするファンも少なくない。
何が素晴らしいかと言うと、まずは目を奪われるようなビジュアルの美しさだ。不気味でありながらも幻想的で、ゴシック的なロマンティシズムすら漂う映像の美しさは、まさしく筆舌に尽くしがたい。そもそもロケ地がいいんだよね。場所はイタリア中部のラツィオ州にある古いコミューン、カルカータ。ここは切り立つ崖の上に建てられた城塞都市で、中世の町並みが今もなおそのまま残されており、宮崎駿監督作品『天空の城ラピュタ』のモデルになったとも言われている。'30年代に行政の指示で住民が新市街へと移って廃墟となり、'60年代に入って世界各地から芸術家やヒッピーが移住し始めたらしいが、恐らく本作の撮影当時はまだ廃墟に近かったのだろう。町全体に濃いスモークを焚き、赤や青やオレンジの間接照明を照らすことで、まるでこの世とあの世の境目にあるような異空間を作り上げている。
さらに、そのダークでファンタジックな世界を流麗に駆け巡るトリップ感満載のカメラワーク。さすが、一流の映画カメラマンであり特撮マンでもあったバーヴァ監督。撮影監督には『バンパイアの惑星』('65)や『黄金の眼』('67)でも組んだアントニオ・リナルディがクレジットされているが、バーヴァらしいトリッキーなアイディアがそこかしこに散りばめられている。実際、バーヴァ自身が撮影監督を務めたシーンも多々あったようだ。中でも、主人公が同じ部屋を何度も何度も駆け抜けているうち、自分自身のドッペルゲンガーに追いついてしまうというシーンは強烈なインパクトで、後にデヴィッド・リンチ監督がテレビ『ツイン・ピークス』のオリジナル・シリーズ最終話で丸々コピーしている。
そうそう、強烈なインパクトといえば、白い毬を持った幼いブロンド少女メリッサの幽霊も忘れ難い。というより、『呪いの館』といえば幽霊少女である。端正な顔立ちの美少女でありながら、明らかに何かがおかしい。薄気味悪いというのとはまたちょっと違う、なんとも言えない居心地の悪さ。実はこれ、男の子に女装させているのだ。何かがおかしく感じるのもそのせい。なるほど、素晴らしい発想だ。まあ、女装させられた子役ヴァレリオ君は終始不機嫌だったらしいけどね(笑)。
この幽霊少女メリッサが窓から覗き込むシーンはギレルモ・デル・トロ監督の『デビルズ・バックボーン』('01)などでコピーされているし、白い毬がどこからともなく投げられて弾むシーンも数多くのホラー映画で真似されている。そもそも、白い毬を持つブロンドの幽霊少女というイメージ自体が、オムニバス映画『世にも怪奇な物語』('67)でフェデリコ・フェリーニ監督によって模倣されている(夫人ジュリエッタ・マッシーナがバーヴァ本人に認めたらしい)し、ギレルモ・デル・トロ監督の『クリムゾン・ピーク』('15)でミア・ワシコウスカの演じたヒロインも、髪型から衣装まで本作のメリッサと瓜二つ。熱狂的なバーヴァ・ファンを公言するデル・トロだけに、決して偶然などではないはずだ。
ストーリーは王道的な正統派ゴースト・ストーリー。よそ者を嫌う閉鎖的な村で謎の怪死事件が発生。捜査のために訪れた検視医エスワイは、12年前に非業の死を遂げた少女メリッサの呪いに怯える迷信深い村人たちに戸惑いつつ、たまたま村に帰省したばかりの若い女性モニカと共に真相を究明するうち、村に隠された恐ろしい秘密と呪いの正体を知ることになる。
さながら横溝正史の金田一耕助シリーズのような趣きだが、しかしこちらは幽霊も呪いも全て本物。物語の背景や事情を少しずつ明かし、徐々に徐々に恐怖を盛り上げていく丁寧な語り口は極めて知性的だ。狭い地域社会にうごめくドロドロとした怨念というのも横溝正史的だし、本当に恐ろしいのは幽霊少女ではなくその母親だった…という結末も皮肉が効いていて面白い。
主演はマカロニ西部劇やアントニオ・マルゲリティ監督のSF映画で知られる二枚目俳優ジャコモ・ロッシ=スチュアート。イギリス人とのハーフで英語も堪能だったことから、『要塞』('70)などイタリアで撮影されたハリウッド映画にもたびたび出演している。本人はあくまでもB級スター止まりだったが、息子のキム・ロッシ=スチュアートは演技派の美形俳優として、一時期イタリア映画を代表するトップスターになった。
ヒロインのモニカ役には、当時まだデビューして間もない頃のB級セクシー女優エリカ・ブラン。世界で初めてエマニエル夫人を演じた女優としても知られている。個性的な色っぽい顔立ちとグラマーな肉体は勿論のこと、演技も抜群に上手い人だったのだが、どうしても低予算のアクション映画やホラー映画の色添え的な役が多かった。ただ、その後舞台へ活動の場を移して実力を磨き、近年はトルコ出身の名匠フェルザン・オズペテク監督や巨匠プピ・アヴァ―ティ監督の作品にたびたび起用され、渋い名脇役女優として確固たる地位を確立している。それらの作品が軒並み日本未公開なのは惜しまれる。
そのほか、魔女ルース役には『うたかたの恋』('68)などに出ていたフランス女優ファビエンヌ・ダリ、クルーガー警部役には『情無用のジャンゴ』('66)などマカロニ西部劇の悪役として有名なピエロ・ルッリ、グラプス男爵夫人役はロッセリーニの『無防備都市』('45)にも出ていた名脇役女優ジョヴァンナ・ガレッティ(本作ではジャナ・ヴィヴァルディ名義)、冒頭で殺される女性イレーナ役にはマカロニ西部劇のヒロイン役で活躍したミレッラ・パンフィリといった顔ぶれ。また、プロデューサーの一人であるルチアーノ・カテナッチが、マックス・ローレンスという名前で村長役を演じている。
ちなみに、本作のブルーレイはアメリカとイギリスの両方でリリースされている。どちらも同一の本編マスターを使用しており、特典映像の内容も全く一緒。ただし、イギリス盤のみDVDが付いてくる。35ミリのオリジナル・インターネガから2Kリマスターされているとのことだが、リールによってフィルムの質感がかなり違うので、恐らくインターネガ以外にも複数のマスターフィルムを繋ぎ合わせて使用しているのだろう。なので、部分的にフィルム粒子の粗さが目立ったり、修復しきれない傷みが見受けられたりするものの、過去のDVDと比較すると格段に画質が向上していることは間違いない。
評価(5点満点):★★★★★
参考ブルーレイ&DVD情報(英国盤)
ブルーレイ
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:1.0ch リニアPCM/言語:英語・イタリア語/字幕:英語/地域コード:B/時間:83分
DVD
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/音声:1.0ch Dolby Digital/言語:英語・イタリア語/字幕:英語/地域コード:2/時間:83分
発売元:Arrow Films (2017年)
特典:映画評論家ティム・ルーカスによる音声解説/ビデオ・エッセイ「The Devil's Daughter」(約22分)/助監督ランベルト・バーヴァのインタビュー(約25分)/女優エリカ・ブランのインタビュー(約11分)/女優エリカ・ブランによる本編イントロダクション(約35秒)/短編映画「Yellow」(約6分)/ドイツ語版オープニング(約3分)/オリジナル劇場予告編/フォトコミック採録(1976年出版)/スチルギャラリー
by nakachan1045
| 2017-09-15 18:15
| 映画
|
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