なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「A Study in Terror」 (1965)

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監督:ジェームズ・ヒル
製作:ヘンリー・E・レスター
製作総指揮:ハーマン・コーエン
脚本:ドナルド・フォード
   デレク・フォード
キャラクター創造:サー・アーサー・コナン・ドイル
撮影:デズモンド・ディッキンソン
美術デザイン:アレックス・ヴェチンスキー
音楽:ジョン・スコット
出演:ジョン・ネヴィル
   ドナルド・ヒューストン
   ジョン・フレイザー
   アンソニー・クエイル
   バーバラ・ウィンザー
   エイドリアン・コリ
   フランク・フィンレイ
   ジュディ・デンチ
   チャールズ・レジニエ
   セシル・パーカー
   ジョージア・ブラウン
   バリー・ジョーンズ
特別出演:ロバート・モーリー
イギリス映画/95分/カラー作品




<あらすじ>
19世紀末のロンドン。貧民街ホワイトチャペルで立て続けに娼婦が殺される。親友のワトソン氏(ドナルド・ヒューストン)から新聞報道を聞かされた名探偵シャーロック・ホームズ(ジョン・ネヴィル)は、同一犯による連続殺人事件ではないかと考えて興味を惹かれる。
3人目の犠牲者が出た。やはり娼婦のアニー・チャップマン(バーバラ・ウィンザー)だ。マスコミや世間は「切り裂きジャック」事件を騒ぎ始める。その翌日、ベイカー通りのホームズ宅に差出人不明の小包が届く。郵便局の消印はホワイトチャペル。中身は外科医の道具箱で、手術用のメスが1つ消えていた。
その状態や表面に記された数字から、ホームズはこの道具箱が質屋に預けられていたものと考える。また、宛先の筆跡から送り主は女性のようだった。さらに、箱の内側には名門貴族オズボーン卿の家紋が刻まれていた。
早速、オズボーン卿の邸宅を訪れたホームズとワトソン。道具箱は長男マイケルのものだったが、彼は父親の反対を押し切って医師の道を志したことから勘当されていた。弟のエドワード(ジョン・フレイザー)によると、マイケルはパリのソルボンヌ大学へ留学したものの、そのまま消息が掴めなくなってしまったという。
ホワイトチャペルの質屋へ向かったホームズたちは、道具箱を質へ入れたのはアンジェラ・オズボーンなる女性であることを突き止める。ただ、それを買い戻した人物の正体は不明。質屋の店主(チャールズ・レジニエ)によると、アンジェラは貧困層向けの病院にいるはずだという。
ホームズはレストレード警部(フランク・フィンレイ)に頼んでアニー・チャップマンの検視に立ち会う。凶器は外科手術用のメスだと思われた。検視官のマレー医師(アンソニー・クエイル)によると、これまでの犠牲者にも同様の凶器が使われたらしい。
貧困層向けの病院を運営しているのはマレー医師だった。そこでホームズはワトソンを病院に向かわせ、アンジェラの行方を捜させる。すると、マレー医師の姪サリー(ジュディ・デンチ)が急いでどこかへ出かける。浮浪者に変装したホームズが追いかけると、彼女はエドワード・オズボーンに事の次第を報告していた。
観念したエドワードがホームズに事情を説明する。アンジェラ(エイドリアン・コリ)とは、兄マイケルの妻だった。パリで娼婦だったアンジェラと出会ったマイケルは、彼女に骨抜きにされて大学を中退し、ロンドンへ戻ったものの金に困って実家を脅迫しようとしたのだ。
エドワードは父親の耳に入る前に手を打つため、要求された金を払うため病院を訪れ、貧しい人々に無償で医療と食事を提供するマレー医師に感銘を受けて手伝うようになったのだった。しかし、マイケルとアンジェラの消息は知らないという。
一方、切り裂きジャックの犠牲者は増え続けた。マレー医師は事件の背後に貧困問題があるとして、自らの社会運動に利用し始める。世間では政府や検察に対する不信と反発が広がった。困ったイギリス首相(セシル・パーカー)は、マイクロフト(ロバート・モーリー)を通じてホームズに正式な捜査依頼をする。
「切り裂きジャック」らしき人物に襲われるホームズ。その後を追いかけると、犯人はとある建物に逃げ込んだ。そこはマレー医師の病院だった。マレー医師を問い詰めたホームズは、数カ月前にロンドンへ戻ったマイケル・オズボーンの哀しい運命を知る。そこから彼が導き出した「切り裂くジャック」事件の意外な真相とは…?

ずばり、シャーロック・ホームズVS切り裂きジャックである。原作者のアーサー・コナン・ドイル自身は、あえてホームズ・シリーズに「切り裂きジャック」を登場させることはなかったが、なにしろ同じ19世紀末に起きた事件であることから、ホームズが切り裂きジャック事件の捜査に取り組んでいても何ら不思議ではないだろう。

実際、小説ではエラリー・クイーンが'66年に出版した『恐怖の研究』、マイケル・ディブディンが'78年に発表した『シャーロック・ホームズ対切り裂きジャック』など、両者が顔を合わせた番外編的作品はコンスタントに生まれている。映画においては、クリストファー・プラマーがホームズ役を演じたボブ・クラーク監督の『名探偵ホームズ/黒馬車の影』('79)が、数多のホームズ映画の中でも群を抜く名作として高く評価されている。しかし残念ながら、その10年以上前にホームズと切り裂きジャックの対決を描いた本作を知る映画ファンは少ないだろう。

日本では劇場未公開、テレビ放送やビデオ発売もされないまま今日に至る本作。実はエラリー・クイーンの『恐怖の研究』は本作のノベライズに当たる。当時はまだ映画のノベライズなど一般的ではなかったことを考えると、本作がそれなりの話題作であったことが容易に想像できる。ただし、同じ題材を扱った『名探偵ホームズ/黒馬車の影』が重厚感溢れる本格的な推理サスペンスで、事件のあらましも発生当時の資料に基づいて忠実に再現されていたのに対し、本作は製作当時のハマー・プロ作品を意識したようなゴシック風ホラー・ミステリー。犠牲者の名前以外は様々な事実の改変がなされており、全体的にはライトなB級娯楽映画といった印象だ。

なにしろ、製作総指揮を手掛けたのがB級映画界の名物男ハーマン・コーエン。アメリカン・インターナショナル・ピクチャーズ時代に『怪人女ドラキュラ』('57)や『怪物を作る男』('58)といったドライブイン・シアター向け低予算モンスター映画を製作し、イギリスに拠点を移してからは『黒死館の恐怖』('59)や『赤い野獣』('63)などのカルト・ホラーを生み出した商売人である。

なので、本作でも切り裂きジャックの犠牲者の大半は若い美女ばかり。人気お色気コメディエンヌのバーバラ・ウィンザーやセクシー女優エディナ・ロネイらが登場し、悲鳴をあげながらもしっかりと胸の谷間を強調する。酒場のシーンでは、有名なミュージカル舞台女優ジョージア・ブラウンの歌声まで楽しめるというサービス付き。やはり基本は大衆向けエンターテインメントだ。

ただし、カルト・ホラー『狂ったメス』('67)で知られる兄弟脚本家、ドナルド・フォードとデレク・フォードによる脚本はなかなか良く出来ている。筆者自身はシャーロキアンでもなんでもないので、コアなファン層がどう受け止めるかは分からないものの、原作物でないオリジナル作品にしてはホームズの推理の切れ味は鋭いし、複雑に入り組んだ人間関係なども上手く考えられている。B級ホラーには勿体ないくらいの上質な仕上がりだ。

さらに興味深いのは、切り裂きジャック事件の背後にイギリス階級社会の闇を描いていること。ネタバレになるので詳しくは述べないが、娼婦連続殺人が由緒正しい名門貴族の家名を守るための犯行だったということになっているのだ。これは'76年にジャーナリストのスティーブン・ナイトが発表した英国王室陰謀説、およびそれに基づく『名探偵ホームズ/黒馬車の影』の真相とも本質的な部分で似ており、脚本を書いたフォード兄弟の先見の明(?)に感心させられる。

また、ホームズ役を演じるジョン・ネヴィルとワトソン役のドナルド・ヒューストンも絶妙なまでのはまり役。特にネヴィルは、シドニー・パジェットが描いた有名な挿絵のホームズと瓜二つでビックリさせられる。役作りに関しても、史上最高のホームズ役者として名高いベイジル・ラズボーンのエレガントでスマートでダンディなホームズ像を踏襲しており、アクション・シーンの華麗な身のこなしも含めて実にクールだ。筆者も含めて日本では、テリー・ギリアムの『バロン』('89)で初めて知ったという人が大半だと思うので、若い頃のカッコいいジョン・ネヴィルは少なからず意外な驚きだ。

対するワトソン役のドナルド・ヒューストンも、ベイジル・ラズボーン版でワトソンを演じたナイジェル・ブルースの太目で三枚目というイメージを継承しつつも、年齢的にはホームズとほぼ同世代、のんびりした性格だけど知性ではホームズに負けておらず、いざという時は暴漢と戦って相手を打ち負かすだけの運動神経も持ち合わせているなど、原作のワトソン像にかなり寄せたキャラクターとなっている。そうそう、ホームズの兄マイクロフト役で特別出演している名優ロバート・モーリーも、シドニー・パジェットの挿絵に出てくるマイクロフトとソックリでニンマリさせられる。

そのほか、フランク・フィンレイが『名探偵ホームズ/黒馬車の影』と同じくレストレード警部役を演じているのも興味深いところ。そういえば、マレー医師役のアンソニー・クエイルも、別の役柄だけれど同作に出ていた。果たして偶然なのか、それともボブ・クラーク監督が本作を意識したのか。さらに、若い頃のジュディ・デンチの姿も見ることが出来るし、事件解決のカギを握るアンジェラ役として『時計じかけのオレンジ』('71)のエイドリアン・コリ、英国首相役に『バルカン超特急』('38)や『マダムと泥棒』('55)の名脇役セシル・パーカーが出ているのも要注目だ。

惜しむらくは、ホラー・ミステリーとしては少々健全過ぎるジェームズ・ヒルの演出であろう。なにしろ、『野生のエルザ』('65)とか『黒馬物語』('70)とか、ファミリー向け動物映画を得意とした監督だからね。エロスは限りなく控えめだし、残酷描写もかなり大人しいし。それだけならまだしも、全体的にライティングが明るすぎるため恐怖ムードもあまり盛り上がらない。これは明らかに人選ミス。もっとジャンルに精通した監督に任せるべきだったように思う。

評価(5点満点):★★★☆☆

参考ブルーレイ情報(イギリス盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.78:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/時間:95分/発売元:Odeon Entertainment
特典:オリジナル劇場予告編



by nakachan1045 | 2017-10-16 05:48 | 映画 | Comments(0)

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