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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「青い恋人たち」 Summer Lovers (1982)

「青い恋人たち」 Summer Lovers  (1982)_f0367483_22164092.jpg
監督:ランダル・クレイザー
製作:マイク・モダー
製作総指揮:ジョエル・ディーン
脚本:ランダル・クレイザー
撮影:ティモシー・ガルファス
   ディミトリ・パパコンスタンディス
音楽:ベイジル・ポールドゥリス
出演:ピーター・ギャラガー
   ダリル・ハンナ
   ヴァレリー・クイネッセン
   バーバラ・ラッシュ
   キャロル・クック
   ハンス・フォン・トングレン
アメリカ映画/99分/カラー作品




<あらすじ>
夏休みを利用してギリシャのサントリーニ島へやってきたアメリカ人カップル、マイケル(ピーター・ギャラガー)とキャシー(ダリル・ハンナ)。真っ白な街並みと真っ青な海を一望できるヴィラを借りた2人は、世界中から集まった同世代の若者でごった返すヌーディスト・ビーチで、母国アメリカでは味わえない自由を満喫する。
誰もが一糸まとわぬ姿で戯れ合う海辺。人前でも構わず堂々と愛を交わす恋人たち。そんな開放的な雰囲気に誘発され、セックス指南本を頼りにSMを試してみたりするマイケルとキャシーだったが、お互いに知り合ってから10年、付き合い始めてから5年も経っているため、なんとなく弾けきれずにいた。
そんなある日、一人で町へ出かけたマイケルはフランス人の若い考古学者リナ(ヴァレリー・クイネッセン)に声をかける。すぐ近くのヴィラに宿泊していて、以前から気になっていた女性だった。それまでキャシー一筋だったマイケルだが、ついつい勢いでリナと浮気をしてしまう。
罪の意識からリナと寝たことをキャシーに打ち明けるマイケル。困惑しつつも平静を装うキャシーは、それならば自分もと町へ繰り出して地元の若者と浮気しようとするものの、土壇場で怖気づいてしまった。
再びマイケルがリナと会ったことを知ったキャシーは彼女と直接対面することに。すると、リナはマイケルとキャシーの関係を壊すつもりなどないという。むしろ恋愛のゴタゴタなどウンザリだという彼女の言葉に驚いたキャシー。すぐに2人は親友のように打ち解けるのだった。
キャシーとリナの急接近に最初は戸惑うマイケルだったが、すぐに彼もこの奇妙な三角関係を楽しむように。いつしか3人は片時も離れずにはいられなくなり、やがて同じベッドで愛を交わすようになる。
3人でディスコへ繰り出し、3人でエーゲ海クルーズを楽しみ、3人で一緒に眠って朝を迎える毎日。まるで天国のような時間が過ぎていく。リナの誕生日にはサプライズ・パーティで花火を打ち上げるマイケルとキャシー。あまりにも幸せだった。
そんな折、キャシーの母親ジーン(バーバラ・ラッシュ)が親友バーバラ(キャロル・クック)を連れて訪ねてくる。娘たちの共同生活を訝しく思うジーン。3人はなんとなく夢から現実に醒めた気がした。いずれ夏休みは終わってしまう。そうすれば、マイケルやキャシーとも離れ離れになる。そう考えると居たたまれなくなったリナは、島で知り合った若者ヤン(ハンス・フォン・トングレン)と共に姿を消してしまう。
リナがいなくなって心にポッカリと穴の開いたマイケルとキャシーは、まだ夏休みが3週間も残っているのにも関わらず、アメリカへ帰国しようとするのだったが…。

オリヴィア・ニュートン=ジョンとジョン・トラヴォルタ主演の青春ミュージカル『グリース』('78)で大当たりを取ったランダル・クレイザー監督が、やはり大ヒットしたブルック・シールズ主演の海洋青春ロマンス『青い珊瑚礁』('80)に続いて手掛けたのが本作。前作の南太平洋から今度は地中海へと舞台を移し、真っ白い街並みと真っ青な海に囲まれたギリシャの島でひと夏を過ごす若い男女3人の、自由で無邪気な愛の戯れを描く瑞々しい青春映画の佳作だ。

主人公はいたって平均的なアメリカ人の若いカップル、マイケルとキャシー。アメリカという国はヨーロッパと比べると、一般的にセックスに関してはけっこう保守的だが、マイケルとキャシーの2人も御多分に洩れず、関心はあるけれどいまひとつ冒険できないでいる。そんな2人がバカンスを過ごすためにやって来たのは、ヨーロッパ中から自由を愛する若者たちが集まるギリシャはサントリーニ島のヌーディスト・ビーチ。その開放的な雰囲気に触発されたマイケルとキャシーは、ふとしたことから知り合った同世代のフランス人女性リナと意気投合し、新しい愛の形に目覚める。いわゆるMénage à troisというやつである。

男1人に女2人なんて、男性目線の都合のいい妄想じゃね?なんて声も聞こえてきそうだが、しかし本作ではそんな男性本位のポルノグラフィックな厭らしさは微塵も感じられない。むしろ、古代ギリシャのようなタブーなき性愛の大らかさ、何ものにも縛られず自由に愛し合うことの素晴らしさ、純粋に快楽を追求して悦びを分かち合うことの楽しさを高らかに謳う。そこにはドロドロとした欲望や情念、醜い嫉妬や愛憎などは存在しない。まさに夢のような理想郷。ナイーブなファンタジーと言ってしまえばそれまでだが、しかしこれはエイズが猛威を振るうようになる以前の、性に開放的な時代の空気を思いっ切り吸収した究極のラブ&ピース映画なのだ。

それでも一応、主人公たちが夢から現実に醒める瞬間はやって来る。キャシーの母親ジーンの思いがけない訪問によって、「いずれは日常の現実へと戻らねばならない」ことを悟るのだ。しかし、本作はそこを落としどころにしたりなどしない。確かに終わりは必ずやって来る。子供が大人へと成長せざるを得ないように。でも、それまでは心おきなく今を楽しめばそれでいい。そんな前向きな楽天主義こそが本作の最大の魅力だと言えよう。

もちろん、全編を彩る大勢の若い美男美女の屈託のない笑顔と美しい裸体も大きな見どころだ。これだけところ狭しと裸が出てくる映画、今のハリウッドでは絶対に作れない。それは2度と戻ることのない若さと青春の眩い輝きそのもの。セクシーというよりも健康的だ。若い肉体は恥ずかしがって隠すものじゃない、むしろその美しさを賞賛すべきだと言わんばかりに。しかも、地中海の風光明媚なロケーションの中では惚れ惚れとするほど絵になる。ここに出てくる若者たちも今ではみな50代以上の中年になっていることを思うと、なおさら感慨深いものがあるだろう。

主人公マイケルを演じているピーター・ギャラガーが、いかにも男性的なマッチョ体型ではなく、スラリとしたスマートな肉体の持ち主であることも功を奏している。余計なセックスの匂いがしないのだ。それは、どちらかというと胸が小さくて中性的なダリル・ハンナやヴァレリー・クイネッセンのほっそりとした体型も同様。これが筋肉ムキムキ男と巨乳女の組み合わせだったらポルノになってしまう。無垢な少年少女の名残り。それがキャスティングの鍵だ。

まあ、確かにピーター・ギャラガーの濃すぎる顔立ちは若干気になるものの、しかしエキゾチックなギリシャの風景には意外とマッチする。当時まだ無名だったギャラガーは26歳。後にスティーブン・ソダーバーグ監督の『セックスと嘘とビデオテープ』('89)で有名になり、テレビの青春ドラマ『The O.C.』('03~'07)の父親役でもお馴染みとなるわけだが、彼にもこんな若く瑞々しい時代があったのである。

また、当時『ブレード・ランナー』('82)で注目されたばかりだったダリル・ハンナの、輝かんばかりの美貌にも目を奪われる。今ではすっかりコワモテのオバサマになってしまった彼女だが、そういえば昔はこんなにキラキラとした天然美女だったんだよなあ…。一方のリナ役を演じるヴァレリー・クイネッセンのちょっとボーイッシュな個性も魅力的。彼女は当時『フレンチグラフィティ』('78)や『コナン・ザ・グレート』('82)でハリウッド進出していたフランス女優だが、'89年に交通事故で31歳という若さで亡くなっている。

キャシーの母親ジーン役には、『若き獅子たち』('58)や『都会のジャングル』('59)で人気を博した往年のお嬢様女優バーバラ・ラッシュ。フランク・シナトラ一派とのつながりも深く、『ナイスガイ・ニューヨーク』('63)や『七人の愚連隊』('64)ではシナトラと共演している。明朗快活な上品さが持ち味で、本作でも娘に理解を示そうと努力する母親を演じて好印象だ。また、その親友バーバラ役として登場する女優キャロル・クックがとてもいい。彼女は大女優ルシール・ボールの秘蔵っ子としてデビューし、『ルーシー・ショー』や『陽気なルーシー』にも出ていた美人コメディエンヌ。ここでも陽気でちょっとトボケたオバサマぶりを発揮して爆笑をさらう。

そして、本作の魅力を語る上で外せないのがサウンドトラックだ。オープニングのテーマ曲を歌うのは、『フラッシュダンス』('83)の挿入曲「マニアック」でも有名なマイケル・センベロ。ほかにもエルトン・ジョンやスティーブン・ビショップ、ティナ・ターナー、デペッシュ・モードなどの80'sポップスが盛りだくさんだ。中でも特に印象的なのは、ディスコ・シーンなどでたびたび使用されるカナダのハイエナジー系デュオ、ライムの名曲「ユア・ラブ」、パーティー・シーンなどを盛り上げるポインター・シスターズの「アイム・ソー・エキサイテッド」、そして終盤のすれ違いシーンでドラマチックに使われるシカゴの「素直になれなくて」の3曲。それぞれストーリーと歌詞が絶妙にリンクしていて、単なるBGMでは終わらないところがまた心憎い。

評価(5点満点):★★★★☆



参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)※3000枚限定プレス
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:英語/地域コード:ALL/時間:99分/発売元:Twilight Time/20th Century Fox
特典:ランダル・クレイザー監督による音声解説/プロモーション用メイキング・ドキュメンタリー(約12分)/ドキュメンタリー「Basil Poledouris: His Life and Music」(約48分)/スクリーンテスト集(約15分)/オリジナル劇場予告編集(2種類)/音楽&音響効果トラックの独立再生機能



by nakachan1045 | 2017-11-11 14:02 | 映画 | Comments(6)
Commented by にも at 2020-05-03 03:32 x
こんばんは!
突然のコメントで失礼致します。
30年以上前の大昔にテレビで見た映画をずっと探していてネットで調べているうちにここに辿り着きました。

探している映画が ブログで紹介されている青い恋人たちにとても近く、参考に調べたのですが
一番印象に残っているシーンがどうにもでてこなくて
違う映画なのかとモヤモヤしていて勇気を出して書き込みさせていただきました。
この映画の中のシーンで
女二人男一人で枕投げをするシーン
枕の羽毛がたくさん飛び散る中楽しそうに過ごす。
シーンがあったかどうか、
覚えておりますでしょうか?

もし覚えていたらお時間のあるときでいいので教えていただけると大変ありがたいです。

乱文失礼をいたしました。m(__)m
Commented by nakachan1045 at 2020-05-03 09:35
> にもさん
書き込み有難うございます。

ご質問の件ですが、念のため本編を確認したところ、残念ながら枕投げシーンはありませんでした。
その代わり、3人でオリーブオイルやケーキを投げ合って全身ベトベトになるシーンはあったのですが(^^;

Commented by にも at 2020-05-03 14:47 x
なかざわさま

早々にお返事いただきまして本当にありがとうございます。
しかも確認して頂いたなんて、、、(。>д<)申し訳ないです。
本当に感謝です。

御迷惑おかけしているなか、更に申し訳ないのですが
探している映画をテレビで見たのは自分が六歳頃だったので記憶が曖昧な部分があるため、枕投げ=ケーキを投げ合うシーン?の可能性がもあるのかなと思ったのですが
ケーキを投げ合うシーンの場所はベッドではないですか?
枕投げのシーンはベッドの上だったのでお時間あるときに教えていただけると幸いです。

もうかれこれ30年程この映画を探しています(^_^;)
覚えているシーンが枕投げのシーンと
(このシーンのときに一人の女性のTシャツがやぶけてて乳首が見える)←この映画自体裸は珍しくないと思うのですが
一ヶ所だけというのが印象に残っていました。
山小屋みたいな部屋から(曖昧な記憶)望遠鏡で男性が女性を覗き見しているシーンと
女性二人が金髪と赤毛(青い恋人たちにとても近い)
なのでゴールかも!
と思ったのです(^_^;)

突然のコメントで質問してしまい申し訳ありません

(;>_<;)


Commented by nakachan1045 at 2020-05-04 07:28
> にもさん
いえ、大丈夫ですよ(笑)。
『青い恋人』のシーンでは、テラスのテーブルで3人が誕生日を祝うという設定で、まずは男性が自分と女性2人にドラム缶入りのオリーブオイルを頭からぶっかけ、それから全員でケーキや食事などを投げ合う…という感じです。なので、残念ながらベッドではありませんね。
ご参考になれば。
Commented by TK at 2021-08-19 18:02 x
30年以上前の高校生時に見て、リナが去っていくところはとても切ない気分になったのを覚えています。Youtubeで久しぶりに見て、やっぱり健康的でいいなあ、青春だなぁと懐かしくなりました。挿入されている80'sポップの曲もマッチしていて本当に良いです。
改めて見直しても、やっぱりリナは綺麗すぎでカッコよすぎで感激しました。でも随分と前に死去されていたと知って、がっかりしました。
Commented by nakachan1045 at 2021-08-20 05:12
TK様
ヴァレリー・クイネッセンが若くして亡くなったのは残念ですよね。確か当時、スクリーンかロードショーの小さな記事にもなっていたような気もします。バックナンバーが実家の倉庫にあるため、すぐには確認が出来ないのですが…(^^;
シカゴの「素直になれなくて」を聴くと、真っ先にこの映画を思い出します。

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