なかざわひでゆき の毎日が映画三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画評論日記
by なかざわひでゆき
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「La morte risale a ieri sera」 aka Death Occurred Last Night (1970)

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監督:ドゥッチオ・テッサリ
製作:アルトゥール・ブラウナー
製作総指揮:ジュゼッペ・トルトレッラ
原作:ジョルジオ・セルバネンコ
脚色:アルトゥール・ブラウナー
脚本:ビアジオ・プロイエッティ
   ドゥッチオ・テッサリ
撮影:ランベルト・カイミ
編集:マリオ・モッラ
音楽:ジャンニ・フェリオ
出演:ラフ・ヴァローネ
   フランク・ウォルフ
   ガブリエル・ティンティ
   エヴァ・レンツィ
   ジリアン・ブレイ
   ジジ・リッツィ
   ベリル・カニンガム
イタリア・西ドイツ合作/98分/カラー作品




<あらすじ>
舞台はミラノ。近郊の町に住む中年男性ベルザーギ氏(ラフ・ヴァローネ)が、ランベルティ刑事(フランク・ウォルフ)のもとを訪れる。男手一つで育てている25歳の娘ドナテッラ(ジリアン・ブレイ)が行方不明だという。1カ月前に地元警察へ捜索願を出したものの、全く音沙汰がないため、ワラにもすがる想いで本署へやって来たのだ。
実はドナテッラは生まれつき精神障害を抱えており、体は大人でも知能は3歳児のままだった。誰にでもついていってしまうため、普段から勝手に家を出ないよう細心の注意を払っていたベルザーギ氏だったが、ある日忽然と姿を消してしまったのである。その悲しみや不安をこらえる姿に心動かされたランベルティは、自ら捜査に乗り出すことを約束する。
ミラノは売春ビジネスの本拠地だ。ドナテッラのような若く美しい娘が行きつく先は決まっている。そう考えたランベルティは、元売春あっせん業者のカーディーラー、サルバトーレ(ジジ・リッツィ)の弱みを握って協力させる。サルバトーレの案内で客を装って市内の売春宿で聞き込みをするランベルティだったが、部下マスカランティ(ガブリエル・ティンティ)の軽率な行動で覆面捜査がバレてしまう。もはや聞き込みは不可能だ。
そこで、彼は特捜部の情報を手掛かりに売春宿の捜索現場へ同行し、そこで知り合った黒人売春婦エレーロ(ベリル・カニンガム)から有力な情報を得る。さらに、秘かに売春ビジネスを続けているサルバトーレのもとへ犯人グループから接触があった。どうやら彼らは警察の捜査網が狭まっていることに勘付いたらしく、ドナテッラを売りに出しているらしいのだ。
そこで、囮として取引に応じたサルバトーレと犯人の待ち合わせ現場で待機するランベルティとマスカランティだったが、相手に気付かれて取り逃がしてしまった。その直後、郊外のゴミ廃棄場でドラテッラの無残な死体が発見される。
悲しみに暮れるベルザーギ氏に犯人逮捕を誓うランベルティ。しかし、唯一犯行メンバーの顔を見ているサルバトーレが殺害され、捜査は暗礁に乗り上げてしまった。その頃、ベルザーギ氏はゴミ回収業者がドナテッラと一緒に消えたぬいぐるみを持っているのを発見。同じアパートのゴミ捨て場に捨てられていたらしい。犯人はすぐ近くにいる。そう考えたベルザーギ氏は、自らの手で犯人を捜して復讐を果たそうと考えるのだったが…。

『続・荒野の1ドル銀貨』('65)や『荒野の大活劇』('69)などのマカロニ・ウエスタンで知られるイタリアの職人監督ドゥッチオ・テッサリ。日本ではアラン・ドロンが主演した『ビッグ・ガン』('72)と『アラン・ドロンのゾロ』('74)でもお馴染みだろう。これは、そんなイタリアン・アクションの名匠が手掛けた日本未公開の犯罪ドラマである。

しばしば海外ではジャッロとして紹介される本作だが、厳密にはポリッツィオテスキ(イタリア産刑事ドラマ)に分類されるべき作品だ。舞台はイタリアの犯罪都市ミラノ。知的障害を持つ25歳の女性が行方不明となり、売春組織に拉致・誘拐された疑いが強まる。男手一つで育てた父親の悲痛な訴えに心動かされた刑事が捜査に着手。やがて、社会を蝕む売春ビジネスの深刻な実態が浮かび上がっていく。

物語の核となるのは、犯罪捜査を巡る多重構造的な人間ドラマ。そのキーパーソンが被害者ドナテッラの父親ベルザーギ氏と担当刑事ランベルティだ。やはり障害児を片親で育てるのは無理だったのか、医者の勧めに従って施設へ入れるべきだったのか、あの日自分が仕事へ行かなければこんなことにならなかった、病気で亡くなった妻に対して申し訳ない。自分ばかりを責め続けるベルザーギ氏だが、同じアパートに住む隣人の中に犯人が紛れていることに気付き、自分たちがいかに荒んだ社会で暮らしているのかと改めて思い知らされ愕然とする。凶悪犯罪はテレビや新聞で目にするだけの他人事ではない、平凡な日常生活の隅々にまで忍び込んでるのだ。

一方のランベルティもまた、ごく平凡な刑事の一人に過ぎない。安月給の警察は慢性的な人手不足で、増加するばかりの犯罪件数に全く対応できていない。若い女性の失踪や行方不明など日常茶飯事。最初は適当にあしらうつもりだったが、しかしベルザーギ氏のこわばった表情の向こう側にある深い悲しみと苦悩に突き動かされ、やがて寝食を忘れるほど捜査にのめり込んでいく。

そんな彼にジャーナリストである妻が言う。「あなた一人で責任を背負う必要はない。人間なんていつの時代も互いに騙したり、裏切ったり、殺し合ったりするもの。社会というのはそういうものよ」と。しかし、ランベルティはこう切り返す。「その社会の一員として、僕は他人の痛みを見過ごすことなどできないんだ」と。だが、そんな彼の強い信念も捜査の現場では通用しない。挫折に次ぐ挫折の連続。挙句の果てに、ドナテッラは無残な死体で発見される。その先に待つ犯人逮捕の結末も悲劇的だ。事件が解決してめでたくハッピーエンド、なんてのは映画やテレビドラマの中だけのこと。刑事ほど報われない商売はない。そうしたランベルティの普段からの口癖が、結局は現実となってしまう。

このように、ベルザーギ氏=平凡な市井の人々、ランベルティ刑事=犯罪捜査の最前線、という2つの視点から当時の荒廃したイタリア社会の根深い病巣に斬り込む本作。さらにテッサリ監督は、自分たちが搾取されているという現実から目を背けて生きる売春婦たち、自由や反抗の意味を履き違えた無軌道な若者たち、保護者としての責任を放棄した偽善的な大人たちの姿を全編に散りばめながら、モラル意識の低下や訳知り顔のニヒリズム、人々の無関心といったものが、いかに社会を腐敗させ犯罪をのさばらせるのかを克明に描いていく。

役者陣も好演だ。ベルザーギ氏を演じるのは戦後イタリア映画を代表する大スターの一人、ラフ・ヴァローネ。労働者階級の屈強なタフガイというイメージそのままに、無骨で寡黙ながらも愛情溢れる父親の怒りと悲しみを体現して胸に迫るものがある。マカロニ・ウエスタンの悪役としてもお馴染みのアメリカ人俳優フランク・ウォルフも、クールなポーカーフェイスの裏に強い正義感と信念を秘めたランベルティ刑事を人間味たっぷりに演じている。

そんなランベルティの部下で、血気盛んな行動力が裏目に出がちな若手刑事マスカランティには、黒いエマニエルことラウラ・ジェムサーの旦那だったことでも知られる名優ガブリエル・ティンティ。ランベルティのシニカルな妻役には、アルジェントの『歓びの毒牙』('69)で有名なドイツ人女優エヴァ・レンツィが扮している。また、元ポン引きのサルバトーレ役に起用されたジジ・リッツィは、実はプロの俳優ではない。彼はローマで最初のディスコ「ナンバー・ワン」のオーナーで、当時は数々の女優やモデル、歌手と浮名を流すヨーロッパ社交界随一のプレイボーイとして名を馳せたセレブだった。中でも有名なのはブリジット・バルドーとのロマンス。そのハンサムな容姿と知名度が買われ、映画にもちょくちょく顔を出していた。黒人娼婦エレーロ役のベリル・カニンガムもジャマイカ出身のファッションモデルで、当時のイタリアでは歌手兼女優としても引っ張りだこだった。

なお、本作はクールでお洒落な音楽スコアも印象的。オープニングでは路面電車の窓から見えるミラノ市内の風景をバックに、カンツォーネの女王ミーナの歌う情熱的でドラマチックな主題歌を思う存分堪能させる。ジャズファンクやバロック・ロックをふんだんに盛り込んだ音楽スコアは最高にグルーヴィ―。作曲は『ビッグ・ガン』でもテッサリ監督と組んだジャンニ・フェリオだ。当時は「音楽がやかまし過ぎて邪魔だ」という批判もあったそうだが、しかし個人的にはそれこそが本作の魅力のひとつではないかと思う。そもそも、音楽がやかましいのは当時のイタリア映画全般に言えることだしね(笑)。

そんなわけで、単なる犯罪サスペンスの枠に収まらない骨太な社会派人間ドラマ。まあ、基本的にかなり地味で渋い映画ではあるし、ストーリー展開に多少の強引さも見られることは否めないが、制作から50年近くを経た今でも十分に見応えのある作品だ。

評価(5点満点):★★★★☆

参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.75:1)/1080p/音声:2.0ch リニアPCM/言語:イタリア語・英語/字幕:英語/地域コード:ALL/時間:98分/発売元:Raro Video USA
特典:オリジナル劇場予告編集(英語版・イタリア語版)/ファンゴリア元編集長クリス・アレキサンダーの解説/封入解説書(8p)



by nakachan1045 | 2017-12-13 00:30 | 映画 | Comments(0)

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