なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「待ち伏せ」 The Ambush aka Incident at Blood Pass (1970)
監督:稲垣浩
製作:三船敏郎
西川善男
脚本:藤木弓(稲垣浩)
小国英雄
高岩肇
宮川一郎
撮影:山田一夫
美術:植田寛
音楽:佐藤勝
出演:三船敏郎
石原裕次郎
浅丘ルリ子
勝新太郎
中村錦之助
市川中車
有島一郎
北川美佳
土屋嘉男
戸上城太郎
中北千枝子
山崎竜之介
田中浩
日本映画/117分/カラー作品
<あらすじ>
時は江戸時代。金のためならどんな仕事でも請け負う凄腕の用心棒・鎬刀三郎(三船敏郎)は、「からす」と呼ばれる謎の武士(市川中車)から小判100枚で奇妙な仕事を依頼される。とある宿場町で手紙を待てと。そこには文字が一つだけ書かれている。もし「山」とあれば中山道を出て諏訪へ向かえ、「三」とあれば三州峠へ出るように。いずれにしても、そこで待っていれば何かが起きる、どう行動すればいいかは自ずと分かるはずだ、というのだ。
かくして、宿場町へ来てから5日目、ようやく届いた手紙には「三」の文字があった。三州峠へ向かう三郎は、その途中で酒飲みの夫に虐待される人妻おくに(浅丘ルリ子)を助け、峠のふもとの茶屋「みのや」でおくにと別れる。「みのや」は店主の老人・徳兵衛(有島一郎)と孫娘・お雪(北川美佳)が切り盛りしており、人手が足りないことからおくにを手伝いとして雇う。
その「みのや」には玄哲(勝新太郎)という男が宿を取っていた。医者を自称する粗暴で怪しげな男で、嫌がるおくにを無理やり手籠めにしようとする。そこへ、流れ者の博打打ち・弥太郎(石原裕次郎)が休憩に立ち寄り、お雪は若くて颯爽とした弥太郎に惹かれる。さらに、コソ泥・野猿の辰(山崎竜之介)を捕らえた役人・伊吹兵馬(中村錦之助)が駆け込んでくるが、そのまま両名とも気を失って倒れてしまった。
茶屋へ戻って来た三郎の指示で、兵馬と辰を介抱する玄哲。その翌朝、意識を取り戻した兵馬は、役人であることを笠に着て威張り散らし、一触即発の空気が茶屋に漂う。すると、そこへ2人組の役人が訪れ、辰を引き取るという。怪しいと睨んだ三郎が、そのうちの1人を切り捨てると、確かにその人物は役人ではなくヤクザ者だった。ここで何かが起きるに違いない。そう気づいた三郎は、様子を見るために茶屋を離れた方が得策と考え、一晩で気心の知れた弥太郎と共に茶屋から出ていく。
彼らと入れ替わりでやって来たのは、おくにの夫・伊太八(土屋嘉男)だ。おくにを無理やり連れ戻そうとする伊太八。すると、そこへ大勢のならず者たちが辰を取り戻すために押し寄せ、茶屋の人々を人質にとって立て籠もる。彼らの首領はなんと玄哲だった。ならず者たちは辰から「からす」の指令を受け取り、その場で彼を切り捨てる。
異変に気付いた三郎は茶屋へ戻り、弥太郎は応援を呼びに町へと向かった。「からす」からの手紙を玄哲に見せる三郎。彼はならず者一味の用心棒として雇われたのだ。彼らの目的は三州峠を通る幕府御用金の強奪。それは、御用金運びを命ぜられた松本藩の御家取り潰しを狙う幕府老中・水野越前守の陰謀だった。
作戦の決行は明朝。それまでに茶屋の人々は皆殺しにする。既に、一人だけ助かろうと逃げ出した伊太八は切り捨てられた。すると、三郎のもとに「からす」から別の指令が下る。「玄哲を斬れ」と。これは、水野の秘密を知りすぎた男・玄哲を亡き者にするために仕組まれた罠だったのだ…。
日本映画が斜陽の一途をたどった昭和40年代。既に五社協定も有名無実と化していたその時期に、三船敏郎に勝新太郎、石原裕次郎、中村錦之助、そして浅丘ルリ子と、ちょっと前であれば不可能であったろう5大スターの豪華共演、しかも監督には『宮本武蔵』('54)や『無法松の一生』('58)で世界的な評価を得た巨匠・稲垣浩という錚々たる布陣を敷いて、日本映画の底力を見せつけんとばかりに製作されたのが時代劇『待ち伏せ』だ。
江戸時代の寂れた峠の茶屋を舞台に、密命を帯びた浪人の用心棒を筆頭として、曰くありげな連中が一人また一人と集まり、やがて幕府の御用金強奪作戦を巡る陰謀が浮かび上がる。さながらタランティーノの『ヘイトフル・エイト』('15)といった感じだが、まあ、この手の話の原点といえばやはり『化石の森』('36)だろうか。佐藤勝による西部劇調の音楽スコア(『用心棒』っぽくもあるけど)とも相まって、どことなくマカロニ・ウエスタン的な雰囲気も漂う。アバンタイトルの用心棒・三郎と謎の武士「からす」の密会からして、緊張感溢れるダークなミステリータッチ。掴みはまずまずだ。
とりあえず、そこからは登場人物たちの人となりや背景を詳らかにしつつ、それぞれの思惑が複雑に入り組んだ共闘体制および対立関係の人間ドラマが描かれていく。基本的に会話劇を中心にストーリーが進行するため、ならず者一味が茶屋を占拠するに至るまでは、少なからず冗長に感じられるかもしれない。それに、なんたって主要キャストの5人はいずれも集客力のあるスターばかり。各人に芝居の見せ場をちゃんと用意せねばならぬという事情もあってか、ちょっと余計なのでは?と思えるようなセリフや会話も少なくない。裕次郎演じる弥太郎と錦之助演じる兵馬の因縁話なんて、なんだか取って付けたような印象も拭えないしね。でも、あれがなければ弥太郎なんて端役みたいなものになっちゃうから、まあ、痛し痒しといったところだろうか。
それでもなお、日本映画を代表する大スターたちの顔合わせは、それだけでご飯が何杯も進んでしまうくらい魅力的。いずれもキャラクターの掘り下げはいまひとつ物足りないが、それでも各人の役者としての持ち味は十分に活かされているし、なにより彼らが並ぶとスクリーンが一段と華やかになる。やっぱり映画にスターは必要不可欠ですよ。中でも『座頭市と用心棒』('70)に続く三船敏郎と勝新太郎の顔合わせは最大の見どころ。黒澤明監督の傑作『用心棒』('61)と『椿三十郎』('62)で確立した用心棒のイメージを踏襲する三船、人殺しなど屁とも思わない極悪人でありながらスケベで人間味があって憎めない玄哲を豪快に演じる勝新。役者としての格といい、重量級の存在感といい、芝居の凄みといい、この2人が本作の牽引役であることは間違いない。
さらには、惚れた男をダメにして狂わせるファム・ファタール的な魅力を大いに発散する浅丘ルリ子、役人風を吹かせて威張り散らす居丈高な憎まれ役を嬉々として演じる錦之助。改めて時代劇の芝居は下手だなあ…と再認識させられる裕次郎も、心優しきヤクザな渡世人を颯爽とスマートに演じてカッコいい。脇役に目を移しても、有島一郎に市川中車、土屋嘉男、戸上城太郎、中北千枝子、田中浩と芸達者が勢ぞろい。特に同じく稲垣監督の『忠臣蔵 花の巻・雪の巻』('62)の吉良上野介役で強烈な印象を残した8代目・市川中車は、本作でも幕府老中配下の策士「からす」役で得体の知れない不気味さを存分に醸し出してており、少ない出番ながらも存在感は抜群だ。また、稲垣監督作品の常連である土屋嘉男も、今で言うDV夫・伊太八のえげつないくらいのクズ野郎っぷりを、あえてオーバーアクト気味に演じて場をさらう。三船美佳の母親である北川美佳もチャーミングだ。
ただ、惜しむらくは後半のアクションがいまひとつ盛り上がらず尻つぼみになってしまったこと。御用金強奪計画が実は玄哲を亡き者にしようとする老中側の仕掛けた罠だった、というどんでん返し的な展開はいいのだけれど、用心棒が玄哲に肩入れして味方する理由は説明不足でさっぱり分からないし、図られたと知りながら敵の罠に飛び込んでいく玄哲の行動心理にも疑問が残る。最後の最後でいきなり兵馬が物分かりの良い人になってしまうのも都合が良すぎる。肝心のチャンバラ・シーンも駆け足的で迫力が足りない。三船と勝新の大立ち回りをもうちょっと見せて欲しかったというのが正直なところだ。まあ、三船だけはラストの八秒七人斬りの用心棒剣法で見事な殺陣を披露するのだけどね。なんたって三船プロの映画ですから(笑)。
そんなこんなで、日本映画の礎を築いた巨匠・稲垣浩監督の実質的な遺作となった本作。そう考えると少々残念が気がしないでもないが、それでもなお無声映画の時代から第一線で活躍してきた当時65歳の大ベテランが、日本映画斜陽の時代にこのような時代劇の娯楽大作を残したことには感慨深いものがある。三船もこれ以降、ヨーロッパに招かれた『レッド・サン』('71)を除けば特別ゲスト的な仕事ばかりになっていくしね…。
評価(5点満点):★★★☆☆
参考DVD情報(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:1.0ch Dolby Digital Mono/言語:日本語/字幕:なし/地域コード:2/時間:117分/発売元:東宝株式会社
特典:特報/劇場予告編/ドキュメンタリー「素顔の稲垣浩」(約17分)
by nakachan1045
| 2018-01-08 06:48
| 映画
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