なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「怪人フランケンシュタイン VS. 骸骨ドクロ集団」 La Maldicion de Frankenstein (1972)
監督:ジェス・フランコ
製作総指揮:アルトゥーロ・マルコス
原案:ジェス・フランコ
脚本:ジェス・フランコ
撮影:ラウル・アルティゴット
美術デザイン:ジャン・ドーボンヌ
音楽:ダニエル・ホワイト
ヴラジーミル・コスマ
ヴァンサン・ジェミナーニ
ロベール・エルメル
H・ティカル(アルマンド・シャーシャ)
出演:デニス・プライス
ハワード・ヴァーノン
アン・リベール
ブリット・ニコルス(カルメン・ヤザルデ)
アルベルト・ダブレス
ルイス・バルボー
ダニエル・J・ホワイト
ベアトリス・サヴォン
フレッド・ハリソン(フェルナンド・ビルバオ)
リーナ・ロメイ ※スペイン語版のみ
フランス・スペイン合作/74分(フランス公開版)85分(スペイン公開版)/カラー作品
<あらすじ>
自らの作り上げた怪物(フェルナンド・ビルバオ)に、生きた人間の脳を移植することに成功したフランケンシュタイン博士(デニス・プライス)。ついに怪物が喋れるようになった!そう喜んだのも束の間、魔術師カリオストロ(ハワード・ヴァーノン)の手下である鳥女メリサ(アン・リベール)と下男カロンテ(ルイス・バルボー)が突然現れ、博士と助手モーフォ(ジェス・フランコ)を殺して怪物を連れ去った。
若く美しい女性ばかりをさらってくるよう、催眠術を使って怪物を操るカリオストロ。彼はその女性たちを殺して死体のパーツを集め、世界で最も完璧な人造美女を作ろうとする。そして、その人造美女と百万力のパワーを持つ怪物を性交させることで、容姿も身体能力も格段に優れた支配民族を生み出し、自らがその指導者として頂点に立つつもりなのだ。
その頃、父親の葬儀に参列するため、故郷へ戻ったフランケンシュタイン博士の娘ヴェラ(ベアトリス・サヴォン)。復讐に燃える彼女は、こっそりと盗み出した父親の死体を蘇生させ、犯人がカリオストロであることを知る。一方、フランケンシュタイン博士の最期を看取ったセワード博士(アルベルト・ダブレス)と、犯人を捜査するタナー警部(ダニエル・J・ホワイト)は、ヴェラから詳しい事情を聞き出そうとするも暖簾に腕押しだった。
怪物に催眠術をかけて自分を誘拐させるヴェラ。カリオストロの城に忍び込んで彼を殺すつもりだったが、一目で正体を見抜かれて反対に催眠術をかけられてしまう。ヴェラに作業を手伝わせて人造美女を完成するカリオストロ。いよいよ、怪物と人造美女が交わる性の儀式が執り行われ、カリオストロを崇拝する信者たちが集まってくる。だが、そこへヴェラの助手から城の場所を聞いたセワード博士とタナー警部が駆け付けた。生みの親であるフランケンシュタイン博士を殺したカリオストロに復讐するよう、怪物にけしかける2人だったが…。
スペインの生んだ希代の鬼才…というより奇人変人ジェス・フランコ。およそ本人にしか理解の出来ない独特のエログロ美学を貫き、見る人によってはアバンギャルドなポップアート映画とも、品性下劣なC級ゲテモノ映画とも取れるような作品を超低予算で大量生産し、いい意味でも悪い意味でも世界中の映画好事家にその名を知られた監督だ。これはそんなフランコ監督が、恐らく映像作家として最も脂の乗っていた時期に当たる、'70年代前半に作られた世にも奇妙な怪作である。
内容を一言で表現するなら「フランケンシュタインの怪物VS魔術師カリオストロ」。18世紀ヨーロッパに実在した天才詐欺師カリオストロは、同時にオカルト主義者でフリーメイソン会員でもあり、最後は宗教裁判で有罪となって獄死したことから、フィクションの世界では錬金術や魔術を操る怪物的な悪人として描かれることも多い。本作もまたご多聞に漏れず、目をカッと見開いて人間に催眠術をかけ、思いのままに操って悪事を働く「魔術師」ということになっている。
そんなカリオストロがフランケンシュタイン博士を殺して怪物を横取りし、得意の催眠術を使って若い美女たちを次々と誘拐させては殺害、その死体のパーツを集めて完全無欠の人造美女を作り上げる。で、その人造美女と怪物をセックスさせたら、きっと容姿端麗で超人的なパワーを持つ子供が生まれるに違いない!そんな子供たちを大量生産してスーパー人類を組織し、世界を支配してその頂点に自分が立つのだ!という、もはやどこから突っ込んでいいのか分からなくなるトンチンカンな世界征服計画に乗り出すのだ
フランコ監督自身の手による脚本は、ひとまず話の筋道だけはちゃんと通っているものの、ディテールのロジックはことごとく滅茶苦茶。コント55号じゃないけど、「どうしてそ~なるのっ!?」みたいなご都合主義や設定の破綻・飛躍がこれでもかと満載だ。例えば、何か分からないことが出てくると、みんなその都度いちいちフランケンシュタイン博士を蘇生させて話を聞くのだが、どうやら死体を蘇らせてもタイムリミットがあるらしい。それも、ものの5分とか10分とか。しかし、よくよく考えると、その機械で博士は人造人間に命を吹き込んだんだよね?だったら、普通にフルタイムで生き返らせられるはずなんじゃない?と思うのだが、しかしそうは問屋が卸してくれない。だって、そうなると宿敵カリオストロに対する娘ヴェラの復讐劇が成立しなくなるもんね。いやはや、何度も何度も死後の世界から叩き起こされるフランケンシュタイン博士が気の毒になります(笑)。
だいたい万事がそんな調子で失笑が絶えないのだが、それに輪をかけて噴飯ものなのが、フランコ監督お得意(?)のシェイクスピア劇かと見紛う…いや、聞き紛うような大仰で物々しい古文調のセリフの数々だ。しかも、いちいち無駄に長い(笑)!なんとかしてカリオストロ様の偉大さやら、世界征服計画の天才的な凄さやら、危機的状況の恐ろしさやらをセリフで説明しようとするのだが、そのくど過ぎるくらいに大袈裟な言葉の羅列によって、全てが北朝鮮のプロパガンダばりにトチ狂った妄言へと昇華されているのだ。ただ、実はこれこそがフランコ映画の醍醐味の一つで、慣れてくると微笑ましくすら感じられるのだから不思議なもの。ある意味、ジェス・フランコ・マジックである。
フランコ映画の醍醐味と言えば、ロケーション選びの上手さも挙げられるだろう。『シー・キルド・イン・エクスタシー』('70)や『ヴァンピロス・レスボス』('70)などもそうなのだが、ジェス・フランコ監督の作品は美術セットのデザインにお金をかけることが出来ない代わり、ロケ撮影に使われる土地や建物のセンスが抜群に良いのだ。それは本作でも同様に言えることで、ロケ地として選ばれたポルトガルはリスボン郊外にある古都シントラの、世界遺産にも指定されている風光明媚な景色が十二分に生かされている。カリオストロの城として使われたアラビア風の古い宮殿も、荘厳な佇まいがミステリアスな雰囲気を盛り上げて素晴らしい。
さらに、これまたフランコ監督が得意とする広角レンズを使ったスタイリッシュなカメラワークが、そうしたロケーションの豊かな風情をドラマチックに演出する。なにしろ当時の彼は年平均で10本前後の映画を撮っていたため、本作もろくにリハーサルなどせず即興で撮り進めたであろうことはバレバレで、お世辞にも演出や撮影が巧みだとは言えないのだが、そこをちょっとしたカメラの工夫とロケーションの美観で補っていることは評価に値すると言えよう。低予算映画作家の鑑である。
なお、邦題にある骸骨ドクロ集団というのは、劇中に登場するカリオストロの信者たちのことなのだが、これまたなんだかよく分からない連中なのだよね(笑)。大半はドクロ面を被ってフードに身を包んだ怪人なのだが、よく見ると中には腐敗したゾンビみたいな奴らもいれば、ただ単に顔色が悪いだけのオッサンも紛れていたりする。まるで統一性がない(笑)。そんな集団が儀式になるとどこからともなく現れるのだけれど、結局のところ最後まで何者なのか分からないまま終わってしまう。ま、恐らくもともと大した意味などない、賑やかしみたいなもんなのだろうけど。
ちなみに、本作には上映時間74分のフランス公開版と85分のスペイン公開版の2バージョンが存在する。基本的なストーリーはほぼ一緒なのだが、最大の違いはヌードシーンだ。フランス公開版では全裸の男女があちこちに出てくるのだが、スペイン公開版ではその全員がちゃんと服を着ているのである。フランコ将軍の独裁政権下にあった当時のスペインでは、性描写や暴力描写の検閲規制がとても厳しく、中でも特にヌードはご法度だった。そのため、多くのスペイン産B級娯楽映画では、国外マーケット向けに撮影したヌードシーンを別撮りの着衣バージョンと入れ替えていたのだが、本作もその法則に則っていたのだ。というか、そもそもこのやり方を編み出したのはジェス・フランコ監督自身なのだけどね。
加えて、スペイン公開版にはフランス公開版では存在しないサブプロットが織り込まれている。ここにはカリオストロの城近辺に暮らすジプシーの集団が登場。その中の若い娘エスメラルダが、脳裏に聞こえてくるカリオストロの声に悩まされる。どうやらカリオストロは、ジプシーの娘の胎内を使って輪廻転生を繰り返しているらしいのだが、どうにもこうにも後付けとして思えないような設定だし、結局最後までメインプロットとは殆ど絡んでこないので、スペイン国内向けに尺を増やす目的で後から追加撮影したのだろう。このエスメラルダ役を演じているのがリーナ・ロメイ。ソレダード・ミランダ亡きあと、フランコ映画のミューズとなった女優だが、これが映画初出演だったようだ。
これ以外にも、スペイン公開版には存在するけどフランス公開版には存在しないシーン、反対にフランス公開版には存在するけどスペイン公開版には存在シーンが少なからずある。イギリスで発売されたブルーレイには、その両バージョンが収録されているので、見比べてみると面白いかもしれない。
評価(5点満点):★★★☆☆
参考ブルーレイ情報(イギリス盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/1080p/音声:2.0ch リニアPCM/言語:フランス語・スペイン語・英語/字幕:英語/地域コード:B/時間:74分(フランス版)・85分(スペイン版)/発売元:Nucleus Films
特典:ジェス・フランコ研究家スティーブン・スロウワーのインタビュー(25分)/フランス版オリジナル劇場予告編/スチルギャラリー
by nakachan1045
| 2018-03-01 06:38
| 映画
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