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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「新・片腕必殺剣」 新獨臂刀(The New One-Armed Swordsman) (1971)

「新・片腕必殺剣」 新獨臂刀(The New One-Armed Swordsman)  (1971)_f0367483_04360039.jpg
監督:チャン・チェ
製作:ランラン・ショウ
脚本:ニー・クァン
撮影:カン・ムートー
美術:ジョンソン・ツァオ
武術:タン・チャ
   ラウ・カーリョン
音楽:チェン・ユンユー
出演:デヴィッド・チャン
   ティ・ロン
   リー・チン
   クー・フェン
   チェン・シン
   ワン・チュン
   ワン・クァンユー
   チェン・レイ
   リュー・カン
   ホアン・ペイチ
香港映画/98分/カラー作品




<あらすじ>
若き二刀流の天才として武術界にその名を知られるレイ・リ(デヴィッド・チャン)は、チェン・チェンナン(チェン・シン)が師範を務める虎威山荘が強盗殺人を働いていることに気付き、その悪事を懲らしめていた。それを快く思わないのが、武術界の重鎮ロン・イーチー(クー・フェン)。武術界の頂点に立つ人格者として尊敬を集めるロンだったが、実は彼こそが虎威山荘の背後にいる黒幕だった。このままレイを放置しておけば、いつか自分の地位が脅かされると考えたロンは、ある陰謀計画を企てる。
強盗殺人の犯人が二刀流剣士であるとの噂を広めたロン。被害に遭った遠声鏢局のホー・チェン総頭(チェン・レイ)は、レイを待ち伏せて報復しようとする。そこへ、偶然を装って現れたロンは、善意の第三者として罪を認めるようレイに迫った。しかし、身に覚えのないレイは強く反発し、理不尽なロンに対して決闘を申し入れる。負ければ潔く自分の右腕を切り落とすと宣言して。だが、二刀流封じの技を編み出したロンにレイは惨敗。約束通り自らの右腕を切り落として姿を消した。
それから歳月が過ぎた。もはや生きる希望を失ったレイは、小さな居酒屋の店員として働いていた。心無い客から片腕のないことをバカにされる毎日。そんな彼に心を寄せる鍛冶屋の娘パー・チアオ(リー・チン)は、護身用にと父親の持つ刀をレイに持たせようとするが、なぜか彼は頑なに拒むのだった。
そんなある日、たちの悪い客に絡まれたパーをレイが助けようとするが、逆に取り囲まれて暴行を受けてしまう。そこへ現れたのが流れ者の剣士フォン・チュンチェ(ティ・ロン)。暴漢たちを追い払った彼は、レイが只者ではないことに気付く。武術の心得があるのに、なぜあえてそれを使わないのか。興味を持ったフォンは居酒屋に通い始める。
実は、フォンもまた天才的な二刀流使いで、武術界で頭角を現しつつある若者だった。その後、虎威山荘のチンピラに誘拐されたパーをフォンが救ったことをきっかけに、それまで頑なだったレイがようやくフォンに心を開き、2人の間には深い友情と固い絆が生まれる。
一方、虎威山荘の手下がフォンに殺されたことを知ったロンは、目障りなフォンを始末しようと画策する。彼はチェンに命じて虎威山荘で武術大会を開催させ、そこに参加したフォンを罠にはめようというのだ。招待状を受け取ったフォンは、虎威山荘の悪事を暴くために参加を決意。心配したレイはロンに注意するよう警告するが、フォンはロンがチェンに騙されているに違いない、真実を知ったら味方になってくれるはずだと信じていた。
かくして、武術大会の会場に現れたフォン。ところが、そこで彼は公衆の面前でロンから、無実の若者を殺した狼藉者の烙印を押されてしまう。その理不尽な糾弾に逆上したフォンは、ロンに決闘を申し入れるもののレイと同じように惨敗し、それでも抵抗しようとしたことから、チェンの手下たちによって虐殺された。そのことを知って怒りに燃えるレイは、二度と持たないと誓った刀を手に持ち、復讐を果たすためたった一人で虎威山荘に殴り込むのだった…。

『片腕必殺剣』('67)と言えばジミー・ウォング。同シリーズの大ヒットで香港映画界の頂点に立った彼だが、'70年に所属するショウ・ブラザーズから新興スタジオのゴールデン・ハーヴェストへと移籍し、日本との合作映画『新座頭市 破れ!唐人剣』('71)で当たり役の片腕剣士を演じることになる。当然のことながら、ショウ・ブラザーズはこれに激怒。対抗措置として、本家本元のプライドを賭けたシリーズ第3弾を製作する。それが、当時「アジアの映画王」とまで呼ばれた大スター、デヴィッド・チャンを2代目片腕剣士に起用した『新・片腕必殺剣』だった。

初めに結論から言うと、これがショウ・ブラザーズの本気度をまざまざと感じさせる、武侠活劇の見事な傑作として仕上がっている。最大の勝因は、当時共演作の多かったデヴィッド・チャンとティ・ロンの名コンビの起用にあるだろう。アイドル的な爽やかベビーフェイスのデヴィッドと、ハンサムで凛々しい王子様的イケメンのティ。とにかく主演の2人に華がある。男性客だけでなく女性客にもアピール出来る最強の布陣だ。

加えて、彼らの熱い友情をストーリーに織り込むことによって、従来の『片腕必殺剣』シリーズにはない青春ドラマ的な魅力が加わり、作品全体にフレッシュな躍動感が駆け抜ける。おかげで、終盤の復讐劇にも血沸き肉躍る極上のカタルシスが生まれたと言えよう。また、可憐なヒロインの入り込む余地のない2人の固い絆には、ある種のBL的な香りも漂う。甘い美少年顔のデヴィッドと端正な美青年ティによる、友達以上恋人未満的な仲睦まじい友情ドラマは、恐らく多くの腐女子の琴線に触れることだろう。

でもって、片腕剣士役のデヴィッドはもともとスタントマン出身。さすが、チャンバラ・シーンのアクロバティックなスタントも見事なものだ。中でも、終盤の片腕による100人斬りアクションは圧巻の一言!橋の上を埋め尽くした無数の敵を、猛ダッシュで走り抜けながらバッサバサと斬りまくっていく。しかも凄いのは、斬られ役の衣服がちゃんと切り裂かれて、大量の血糊がブシャーッと飛び散ること。もちろん予め仕込んであることは理屈として分かるのだが、一連のノンストップ・アクションの流れの中で見せられるとビックリする。実に芸が細かい。

監督はシリーズ1作目から続投の巨匠チャン・チェ。ティ・ロン演じる剣士フォンの壮絶な最期など、凄惨で血生臭いバイオレンスをふんだんに盛り込んだ、ケレン味たっぷりの演出は痛快そのものだ。ダイナミックなカメラワークや大掛かりな美術セットも見ごたえ十分。悪の黒幕ロン・イーチーに敗れた主人公レイ・リが自らの片腕を斬り落とすわけだが、決闘現場にそのまま残された片腕が白骨化していく様を見せることで、時の流れを表現するという演出にもゾクゾクさせられる。

その悪漢ロン・イーチーの憎々しい狡猾ぶりも見どころだ。武術界の頂点に君臨するベテランの達人で、表向きは公明正大な人格者として人々の尊敬を集めているが、その仮面の裏では悪事の限りを尽くしている独裁者だ。しかも、将来有望な若者が現れるたび、王者の地位を守るため自分よりも強くなる前に叩き潰してしまう。ただし、決して自分の手は汚さない。

どういうことかというと、要するに様々な策略を講じて相手を悪者に仕立て、血気盛んな若者の青臭い心理を巧みに利用して自分に歯向かうよう仕向け、あたかも正義の制裁を加えるように見せかけて武術界から追放するのである。基本的には相手を殺したりせず、情けをかけるような状況を作り出す。なので、周囲からは「なんと慈悲深いお方だ!」と称賛され名声もさらに高まる。こういう狡賢い老人、現実世界でもいそうだよなあ…(笑)。しかも、百戦錬磨の武術家ゆえめっぽう強い。才能はあっても経験の浅い若者では歯が立たない。だからこそ、早いうちに芽を摘むんだろうけどね。

そんな極悪人にまんまとはめられた若者レイ・リが片腕を失うこととなり、失意と絶望と屈辱の日々を耐え忍んだ末に、無二の親友フォンを殺されて遂に堪忍袋の緒が切れる…というわけだ。一見するとシンプルなように思えるストーリーだが、しかしそこには、いつの世にも歴然と存在する社会の理不尽なヒエラルキー、その中で虐げられる心優しき者たちの怒りと哀しみが丁寧に描き込まれており、脚本の出来栄えはシリーズ3作中で最も高い。また、「盲目的な自信と驕り」によって挫折した一匹狼の主人公が、愛と友情を知ることで真のヒーローへと覚醒するという筋書きも、ことのほか感動的。これが当時、日本で劇場未公開だったとはなんとも惜しい。

評価(5点満点):★★★★★



参考ブルーレイ情報(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/1080p/音声:2.0ch リニアPCM/言語:北京語/字幕:日本語/時間:98分/発売元:ツイン/パラマウントジャパン
特典:オリジナルトレーラー/ニュートレーラー



by nakachan1045 | 2018-03-17 10:20 | 映画 | Comments(0)

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