なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「明日よさらば」 Gli Intoccabili (aka Machine Gun McCain) (1969)
監督:ジュリアーノ・モンタルド
製作:マルコ・ヴィカリオ
ビーノ・チコーニャ
原作:オヴィド・デマリス
脚色:ミーノ・ローリ
脚本:ミーノ・ローリ
台詞:イスラエル・ホロウィッツ
撮影:エリコ・メンツェール
美術:フラヴィオ・モヘリーニ
衣装:エンリコ・サバッティーニ
音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:ジョン・カサヴェテス
ブリット・エクランド
ピーター・フォーク
ガブリエル・フェルゼッティ
フロリンダ・ボルカン
サルヴォ・ランドーネ
トニー・ケンドール
ピエルルイジ・アプラ
ルイジ・ピスティッリ
マルゲリータ・グッジナーティ
特別出演:ジーナ・ローランズ
イタリア映画/96分/カラー作品
<あらすじ>
かつて情婦ローズマリー(ジーナ・ローランズ)と組んで数々の銀行強盗を働いた男マッケイン(ジョン・カサヴェテス)が、12年の刑期を終えてサン・クエンティン刑務所から釈放された。彼を出迎えたのは立派な青年に成長した息子ジャック(ピエルルイジ・アプラ)。久しぶりに娑婆の空気を吸ったマッケインに、ジャックがある計画を持ち掛ける。ラスベガスの新しい高級カジノ・ホテル、ロイヤルの金庫を襲撃しようというのだ。
すぐに息子の考え付いた計画ではないと見抜くマッケイン。何も裏はないと言い張るジャックだったが、実は彼の背後にチャーリー・アダモ(ピーター・フォーク)なるマフィアの存在があった。
ドン・サルヴァトーレ(サルヴォ・ランドーネ)率いる巨大イタリアン・マフィアのカリフォルニア支部を統括するチャーリー。しかし、人一倍野心の強い彼は組織に無断で勢力の拡大を狙い、ラスベガス進出を目論んでいた。その手始めに、ホテル・ロイヤルの乗っ取りを計画したのだが、支配人が脅迫に屈しなかったことから、カジノの金庫を襲って経営を弱体化させようと思いつく。その実行犯として、釈放されたばかりのマッケインに白羽の矢が立てられたのだ。
何かしらの裏事情があることを薄々感じつつ、カジノ強盗計画の下準備を始めるマッケイン。ある晩、彼はバーで男たちに絡まれた若い美女アイリーン(ブリット・エクランド)を助け、お互いに一目で恋に落ちる。どこか謎めいたところのあるアイリーンは、やがてマッケインの共犯者的な存在となっていく。
その頃、マフィアのニューヨーク本部では、チャーリーの処分問題が話し合われていた。というのも、実はホテル・ロイヤルのオーナーは他でもないドン・サルヴァトーレだったのだ。しかし、チャーリーのような下っ端には、そのことは知らされていない。支配人からチャーリーに脅迫を受けたことを知らされたドン・サルヴァトーレは、右腕ドン・フランチェスコ(ガブリエル・フェルゼッティ)をサンフランシスコのカリフォルニア支部へ派遣する。
ドン・フランチェスコから事情を知らされ、慌てふためくチャーリー。一刻も早くカジノ襲撃計画を中止せねばならない。チャーリーは部下デューク(ルイジ・ピスティッリ)に命じて、秘密裏にマッケインとジャックを始末しようとするが、マッケインだけは取り逃がしてしまう。復讐に燃えるマッケインはアイリーンの協力でカジノ襲撃を断行し、まんまと大金をせしめるのだった。
チャーリーの妻ジョニー(フロリンダ・ボルカン)の密告によって、カジノ襲撃犯がマッケインであること、もともとはチャーリーの計画であったことを知ったドン・フランチェスコ。見せしめのためチャーリーとデュークを処刑した彼は、腕利きの殺し屋ピート(トニー・ケンドール)に逃亡中のマッケインとアイリーンの抹殺を命じる…。
ジョン・カサヴェテスにジーナ・ローランズ、ピーター・フォークという、いわゆる「カサヴェテス・ファミリー」が顔を合わせた異色のイタリア産ハードボイルド映画である。しかも、監督は鬼才カルロ・リッツァーニの愛弟子である社会派ジュリアーノ・モンタルド。巨大マフィア組織の金を強奪した男女の逃走劇を描くのだが、悲壮感溢れる破滅的なストーリー展開はネオ・ノワール的でもあり、そのドライで骨太なタッチは数多のイタリア産バイオレンス映画とも一線を画する。非常にユニークな作品だ。
もともと役者としてリッツァーニ監督の目に留まり、やがて裏方へと転じたモンタルド監督。そのリッツァーニ監督や社会派の巨匠ジッロ・ポンテコルヴォ監督のもとで修業を積んだ彼は、戦争の矛盾を描いたパルチザン映画『Tiro al piccione(鳩を撃つ)』('61)で監督デビューしたのだが、映像作家としての高い評価とは裏腹に興行的な成功にはなかなか恵まれなかった。そんな折に「アメリカで映画を撮ってみないか?」と声をかけられたのが、エドワード・G・ロビンソンやジャネット・リー、クラウス・キンスキーら国際的なキャストを迎え、南米ブラジルやニューヨークで撮影された泥棒アクション『盗みのプロ部隊』('67)だった。
イタリア産の泥棒映画といえば『黄金の七人』('65)シリーズが有名だが、あちらがポップでお洒落で荒唐無稽な純然たる娯楽映画であったのに対し、『盗みのプロ部隊』はジュールズ・ダッシンの名作『男の争い』('55)を彷彿とさせるリアルでハードボイルドな仕上がり。これがモンタルド監督のキャリアで初めての世界的なヒットとなり、アメリカでもパラマウント映画の配給で大々的に公開されたことから、再びアメリカ・ロケの映画に誘われる。それがこの『明日よさらば』だったというわけだ。
主人公は名うての強盗犯マッケイン。かつてはボニー&クライドよろしく、情婦ローズマリーと組んでマシンガン片手に全米の銀行を荒らしまくったものの、悪運尽きて警察に逮捕され有罪判決を受け、カリフォルニア州最古のサン・クエンティン刑務所に12年間収監されていた。そんな彼の出所を出迎えたのは、正妻との間にもうけた実の息子ジャック。父親の知らぬ間にマフィアの一員となっていたジャックは、娑婆へ出たばかりの父親にラスベガスのカジノ強奪計画を持ち掛ける。
だが、未熟な若造の計画とは思えない用意周到な下準備に「背後で操る黒幕がいるのではないか?」と疑うマッケイン。さすがは百戦錬磨のベテラン犯罪者である。実際その通り、ジャックの背後には全米規模に及ぶイタリアン・マフィア組織のカリフォルニア支部長チャーリーの存在があった。
人一倍野心家で血気盛んなチャーリーだが、古い掟に縛られた巨大組織の中では思うように出世が出来ない。いつまでもこき使われるのは御免だ、俺だって立身出世がしたい。そこで彼は組織に無断でラスベガス進出を目論み、人気カジノホテルを乗っ取ろうとするのだが、強気の相手はなかなか脅しに屈しない。それならばカジノの金庫を襲撃して目にもの見せてやる、ということで、ジャックを使って強盗犯マッケインにカジノ強奪を実行させようとしていたのだ。
ところが、実はそのカジノホテルの匿名オーナーは自分の組織のボスだった。カリフォルニア支部長とはいえ所詮は下っ端、大事な機密情報は知らされていなかったのである。慌ててカジノ強奪計画の中止を命じるチャーリーだが、既にマッケインは地下へ潜伏して動き出していた。ボスに計画を知られてはまずい。焦ったチャーリーは関係者の抹殺に乗り出すのだが、これに逆上したマッケインが新しい愛人アイリーンと組んでカジノ強奪をまんまと成功させてしまう。
チャーリーにとってさらに不幸だったのは、妻ジョニーが組織幹部ドン・フランチェスコの愛人だったこと。ジョニーの密告で裏事情を知った組織は見せしめにチャーリーとその部下を処刑し、実行犯であるマッケインとアイリーンを始末するべく暗殺部隊を送り込む。果たしてマッケインたちは組織の大規模な捜索網を潜り抜け、メキシコへ逃亡することが出来るのか…?というお話だ。
主なロケ地がアメリカ西海岸の大都市サンフランシスコで、なおかつハードなカーチェイス・シーンも盛り込まれていることから、どことなく『ブリット』('68)を彷彿とさせる雰囲気もある本作。モンタルド監督の演出もスタイリッシュでクール。非常に都会的で洗練されている。実はサンフランシスコ・ロケでは撮影許可を取っていなかったため、アクション・シーンもカーチェイス・シーンも全てゲリラ撮影。そこはインディーズ映画製作の経験豊富なカサヴェテスにだいぶ助けられたという。ゲリラ撮影だからこそのヒリヒリとした緊張感は格別だ。しかし本作で最も注目すべきは、冷酷非情な巨大マフィア組織をコングロマリット(巨大複合企業)になぞらえて描いている点であろう。
原作は長年に渡ってマフィアを取材し、マフィア関連のノンフィクション本を数多く出版したアメリカのジャーナリスト、オヴィッド・デマリスが'61年に発表した小説『Candyleg』。「資本主義が高度に発達した現代アメリカ社会において、マフィアも大企業も基本的な性格はあまり変わらない」というモンタルド監督は、巨大なシステムの中で組織の利益ばかりが優先され、個人が歯車として使い捨てにされる資本主義社会の理不尽を本作に投影している。このテーマをさらに突きつめたのが、モンタルド監督の次回作『死刑台のメロディ』('71)だったと言えよう。
見終わった後にズッシリと来る、やるせないペシミスティックな後味もモンタルド監督ならでは。ニヒルでダンディなカサヴェテス、刑事コロンボとは打って変わった狂犬ぶりを発揮するピーター・フォーク、渋い枯れた味わいを醸し出すジーナ・ローランズ、そしてコケティッシュな小悪魔的魅力のブリット・エクランドと、主要キャストはいずれも好演。アントニオーニ映画の名優ガブリエル・フェルゼッティも存在感抜群だし、フロリンダ・ボルカンの凄みのあるお色気も印象的だ。また、マカロニ西部劇ファンにはお馴染みのトニー・ケンドールやルイジ・ピスティッリが顔を出しているのも嬉しい。
かくして、『盗みのプロ部隊』に続いて本作もスマッシュヒット記録。おかげで、モンタルド監督は当時のパラマウント社長からアメリカに活動の拠点を移すよう勧められたそうだ。しかし、基本的には自分の好きなテーマで自由に映画を撮りたい、『盗みのプロ部隊』や本作の仕事を引き受けたのは自分の市場価値を上げたかったからだというモンタルド監督は、ハリウッドの巨大な商業システムに組み込まれることを恐れたという。そのため、予定されていたハリウッド関係者との打ち合わせをドタキャンし、勝手にイタリアへ戻ってしまった。以降、再び作家性の強い小規模なアート映画を撮るようになる。
評価(5点満点):★★★★☆
参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/1080p/音声:1.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:ALL/時間:96分/発売元:Blue Underground
特典:ジュリアーノ・モンタルド監督インタビュー/英語版オリジナル予告編/イタリア語版オリジナル予告編
by nakachan1045
| 2018-04-08 12:36
| 映画
|
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