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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「ミニヴァー夫人」 Mrs. Miniver (1942)

「ミニヴァー夫人」 Mrs. Miniver  (1942)_f0367483_15123656.jpg
監督:ウィリアム・ワイラー
製作:シドニー・フランクリン
原作:ジャン・ストラザー
脚本:アーサー・ウィンペリス
   ジョージ・フォアシェル
   ジェームズ・ヒルトン
   クローディン・ウェスト
撮影:ジョセフ・ルッテンバーグ
美術:セドリック・ギボンズ
音楽;ハーバート・ストザート
出演:グリア・ガーソン
   ウォルター・ピジョン
   テレサ・ライト
   デイム・メイ・ウィッティ
   レジナルド・オーウェン
   ヘンリー・トラヴァース
   リチャード・ネイ
   ヘンリー・ウィルコクソン
   クリストファー・セヴァーン
   クレア・サンダース
   ヘルムート・ダンティン
アメリカ映画/134分/モノクロ作品




<あらすじ>
第二次世界大戦の足音が近づきつつあるイギリス。ロンドン郊外の美しく閑静な村ベルハムに住むケイ・ミニヴァー(グリア・ガーソン)は、裕福な建築士の夫クレム(ウォルター・ピジョン)とオックスフォード大学で学ぶ長男ヴィンセント(リチャード・ネイ)、おませな長女ジュディ(クレア・サンダース)、やんちゃ盛りの次男トビー(クリストファー・セヴァーン)に囲まれ、平凡だが幸せな日々を過ごしていた。
ケイは美人で気立てが良いと村でも評判の人気者。そんな彼女に敬意を表して、園芸が趣味の駅長バラード氏(ヘンリー・トラヴァース)が新種のバラに「ミニヴァ―夫人」と名付けたのはいいのだが、それを毎年恒例の園芸品評会に出品すると言い出したことから波紋が広がる。なぜなら、園芸品評会のバラ部門は、村の由緒正しい名門貴族ベルドン夫人(デイム・メイ・ウィッティ)に一等賞を取らせるため、他に誰も出品しないというのが暗黙のうちの了解だったからだ。
そんな折、ベルドン夫人の孫娘キャロル(テレサ・ライト)がミニヴァ―家を訪れる。バラの栽培が唯一の生き甲斐である祖母のため、品評会への出品を断念するようケイがバラード氏を説得してくれないかと言うのだ。それを聞いて憤慨したのは、ちょうどオックスフォードから帰省していた長男ヴィンセント。貴族が偉そうに庶民の上でふんぞり返る時代は終わった、いまだに階級意識を丸出しにするなど言語道断だというのだ。その言葉に自らの行動を反省するキャロル。これを機に、2人は深く愛し合うようになる。
その翌日、いよいよイギリスが対独戦に参戦する。村の若い男たちは次々と徴兵され、愛国心に燃えるヴィンセントも自ら空軍に志願する。不安を抱きつつも息子を誇らしく送り出すケイ。後方支援のため警備団に加わった夫クレムは、政府の要請に応じて自家用ボートを操縦し、ダンケルク包囲網で行き場を失った英国兵たちを救出するダイナモ作戦に加わった。その間、留守番をしていたケイは自宅の敷地で負傷したドイツ兵を発見。傷の手当てをしようとするが、反対に拳銃で脅され捕らわれてしまう。隙を見て警察へ連絡したケイは、駆け付けた警官にドイツ兵を突き出すのだった。
ベルドン夫人がミニヴァ―家を訪れる。身分違いの孫娘キャロルとヴィンセントの結婚に反対するというのだ。それは、新婚の夫を戦争で失った自らの悲しみを孫娘に味わせたくない一心からだったが、ケイはむしろ愛する人と結ばれることの喜びを若い2人に経験させて欲しいと説得する。かくして、ヴィンセントとキャロルは夫婦となった。しかし、戦争は日増しに深刻となっていき、ベルハムもドイツ軍の空襲に悩まされるようになる。
村人たちを励ますため園芸品評会が例年通り開催されることとなった。バラード氏も自慢のバラ「ミニヴァ―夫人」を出品する。審査員たちはベルドン夫人に忖度して一等賞を夫人に与えるが、実際にバラード氏のバラを目の前で見たベルドン夫人はその決定を覆し、バラード氏に一等賞を贈る。バラード氏のバラの美しさはもとより、貴族が庶民の上に立つ時代が終わったことを認めざるを得なかったのだ。だが、そこへドイツ軍戦闘機の集団が村に迫っているという一報が入る…。

『我等の生涯の最良の年』('46)や『ローマの休日』('53)、『ベン・ハー』('59)などなど、数々の不朽の名作で知られるハリウッドの巨匠ウィリアム・ワイラーが、第二次世界大戦中に発表した戦意高揚目的のプロパガンダ映画である。

原作は'37年から約2年間に渡ってイギリスの新聞「タイムズ」に連載されたジャン・ストラザーのコラム。作者自身をモデルにしたミニヴァ―夫人とその家族の、たわいない日常のエピソードを毎回読み切り形式で描いたものだったが、第二次世界大戦の勃発直後に連載は打ち切られた。その後、戦時下におけるミニヴァ―家の暮らしを綴った後日談を追加する形で書籍化。これがアメリカで出版されるや否や大評判となり、対独戦争で苦難を強いられるイギリスへ対してアメリカ国民の同情が高まった。

ご存知の通り、第二次世界大戦の勃発後も欧州の戦争には関わりたくないという国民感情に配慮して、当初は物資援助こそすれども基本的に中立の立場を取り続けていたアメリカ。内心では参戦を望んでいたルーズベルト大統領にとって、このベストセラーは世論の流れを変える強い後押しとなった。なので、本作の映画化に当たってアメリカ情報局の息がかかっていたことも頷けるであろう。

ただ、それでも当初はそこまで戦意高揚的なニュアンスはなかったと言われる。しかし、撮影終了後の'41年12月に日本軍の真珠湾攻撃が発生し、いよいよアメリカが参戦することに。そこで、ワイラー監督は幾つかのシーンを急遽撮り直し、「ナチス・ドイツ(とその同盟国)の悪行を阻止するために挙国一致で戦わねばならない」というメッセージを明確に打ち出したのである。

とはいえ、司祭が挙国一致の演説をぶつラストの教会シーンを除けば、一見すると戦争プロパガンダ色はさほど強くない。むしろ、平和で幸福な日常を徐々に破壊していく、戦争の恐ろしさや理不尽さを描いた反戦的な映画のようにも思えるのだ。それでいて、最後には「こんな酷いことをするナチス・ドイツをみんなで止めなくては」「戦争は怖いし嫌だけど、今ここで敵に立ち向かわなくては大変なことになる」と見る者に強く思わせる。勇猛果敢なヒロイズムに訴えるのではなく、普遍的なヒューマニズムに訴えるところが実に巧妙だ。

主人公のミニヴァ―家は絵に描いたような理想の一家。有能な建築士で頼りになる父親クレム、明るくて美人で家庭的で聡明な母親ケイ、理想主義に燃える真面目でハンサムな長男ヴィンセントに、可愛い盛りの妹と弟。ロンドンで値の張る帽子を衝動買いしてしまったケイと、妻に無断で高級車を買ってしまったクレムが、お互いに無駄遣いの言い訳をしようとして会話が右往左往する微笑ましいオープニングなどは、いかにミニヴァ―家が仲睦まじくて平和な家族なのかがよく分かる名シーンだ。

ていうか、劇中では平凡な中流家庭ということになっているが、いやいや、広いお屋敷にメイドさんと料理人を雇っていて、裏には専用の船着き場があって大きなボートを所有している。どこが中流やねん!立派なブルジョワ階級じゃん!と言いたくなるところだが、そもそも彼らの住むロンドン郊外の村そのものが、まるでポストカードから抜け出てきたかのような、自然豊かで風光明媚な場所。まさしく地上の楽園である。逆にいうと、だからこそ戦争が始まってからの試練や苦難が際立ち、その中で肩を寄せ合う主人公たちの家族愛や隣人愛に胸打たれるのだ。

また、園芸品評会を巡るサブプロットも、挙国一致で敵に立ち向かうというテーマを大いに盛り上げる。裕福な中産階級が台頭する一方で、依然として古くからの階級意識が根強く残っている田舎社会。その象徴が名門貴族の末裔であるベルドン夫人だ。「近頃は中産階級が分不相応な贅沢をしている、全くもってけしからん」などとブツブツ小言ばかり呟いているベルドン夫人。村人の中にも「我々平民は身分をわきまえないといけない」なんて疑いもなく考えている高齢者がいる。しかし、そんな封建的な価値観も若い世代には通用しない。確実に時代は変わりつつあるのだ。

そんな中、駅長のバラード氏が新種のバラ「ミニヴァ―夫人」を品評会に出品しようとするのだが、これが大きな波乱を巻き起こしてしまう。というのも、品評会のバラ部門はベルドン夫人の聖域。毎年一等賞を取るのはベルドン夫人でなくてはいけない。なので、夫人以外は誰も出品しない出来レースが、村では長いこと暗黙のうちの了解だったのである。

しかし、孫娘キャロルとミニヴァ―家の長男ヴィンセントの結婚を渋々許可するなど、時代の変化を痛感しつつあったベルドン夫人は、実際に目の当たりにしたバラード氏のバラの美しさに言葉を失い、もはや貴族が貴族というだけで庶民の上に立つ時代は終わったことを認めざるを得なくなる。それが戦時下という世相背景と絡み合うことで、階級の壁を取り払って全てのイギリス人が一致団結せねば国難を乗り越えられない、というメッセージに繋がっていくのだ。

主演は当時数々の映画で共演していた名コンビのグリア・ガーソンとウォルター・ピジョン。ガーソンは本作でアカデミー主演女優賞に見事輝き、ピジョンも主演男優賞にノミネートされた。誇り高き良妻賢母を得意としたガーソンに、粋なインテリ紳士を演じさせたら右に出る者なしのピジョン。文句のつけようのない完璧なキャスティングだ。ただし、その後ガーソンが息子役を演じた12歳年下のリチャード・ネイと結婚したと聞くと、現実は映画と違って生臭いものだなと感じさせられる。

そんな品行方正な優等生ぶりが鼻につく主演コンビに比べると、キャロル役を演じるテレサ・ライトの伸びやかな初々しさは素直に魅力的だ。また、頑固で石頭だけれども人間味に溢れたベルドン夫人役の名女優デイム・メイ・ウィッティも好演。どちらもアカデミー助演女優賞候補になったが、軍配はテレサ・ライトの方に上がった。脇役ではチャーミングで朴訥としたバラード氏役のヘンリー・トラヴァース、生意気だけど愛くるしい末っ子トビー役のクリストファー・セヴァーンも印象的だ。

アカデミー賞では作品賞以下6部門を制した本作。ドイツ兵(演じるは無名時代のヘルムート・ダンティン)を情けをかけるのも無駄な狂信者として描いたり、我々こそ神に祝福された正義だから悪魔のようなドイツを倒さなくちゃいけないという司祭の独善的な説教など、今となってはプロパガンダがあからさま過ぎて抵抗感を覚えざるを得ない部分も多々あるが、戦時下における庶民の苦労や普遍的な家族愛・隣人愛を描いたドラマとしては秀逸だし、さりげないディテール描写に登場人物の心情を投影したワイラーの演出は見事だし、光と影のコントラストを巧みに操るジョゼフ・ルッテンバーグのカメラワークや壮麗で贅沢なセドリック・ギボンズの美術デザインも素晴らしい。

評価(5点満点):★★★★☆



参考ブルーレイ情報(日本盤)
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/1080p/音声:1.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:日本語・英語/地域コード:A/時間:134分/発売元:ワーナー・ホームビデオ
特典:短編映画「ミスター・ブラバーマウス」/短編映画「共同防衛せよ」/短編アニメ「うそつき狼」/記録映像「グリア・ガーソン:アカデミー授賞式にて」/オリジナル劇場予告編



by nakachan1045 | 2018-04-11 00:11 | 映画 | Comments(0)

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