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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「牡丹燈籠」 Botan Doro (1968)

「牡丹燈籠」 Botan Doro  (1968)_f0367483_21110020.jpg
監督:山本薩夫
製作:永田雅一
脚本:依田義賢
撮影:牧浦地志
美術:西岡善信
音楽:池野成
出演:本郷功次郎
   赤座美代子
   西村晃
   小川真由美
   西村晃
   志村喬
   大塚道子
   宇田あつみ
   佐々木孝丸
   荒木忍
88分/日本映画/カラー作品





<あらすじ>
時は江戸時代。旗本の三男坊である萩原新三郎(本郷功次郎)は、名誉や仕来りばかりを重んじる武家社会に嫌気がさし、下町の長屋に住んで貧しい子供たちに読み書きを教えていた。だが、そんな彼を両親や親戚はまるで理解しないばかりか、一家の恥だとして叱責し、亡き次男と政略結婚した嫁を押し付けようとしていた。
それは盆の十六日。長屋の人々と燈籠流しに出かけた新三郎は、そこで下女のお米(大塚道子)に連れられたお露(赤座美代子)という美しい遊女と知り合う。よくよく話を聞けば、お露は武家の娘ながら不幸にも吉原へ売られてしまった身だった。お互いに冷酷非情な武家社会の犠牲者。惹かれあった新三郎とお露は祝言の真似事をし、やがて契りを結ぶ仲になった。
その様子を垣間見ていたのが、新三郎の身の回りの世話をしている長屋の遊び人、伴蔵(西村晃)。お露とお米を見知っている彼は、格好のゆすりのネタができたと小躍りするが、仲間からお露とお米が自害して果てたことを知って震え上がる。2人は幽霊だったのだ。
伴蔵から事情を聞いた易者の白翁堂(志村喬)は、新三郎の顔に死相が出ていることを確認し、このままお露と逢瀬を重ねれば死に至ると警告する。その言葉を最初は信じなかった新三郎だが、2人の行方を捜して亡骸の葬られた寺へとたどり着き、彼女たちがこの世の者ではないと認めざるを得なくなる。
再び現れたお露とお米に恐怖し、半狂乱で斬りつける新三郎。悲しむお露の姿に心動かされ、再び彼女を抱きしめるものの、見る見るうちにやせ衰えていく彼を心配した長屋の人々の願いを受け入れ、盆が開けるまで護符を張り巡らした篭もり堂から一歩も出ないことを約束する。盆が開ければ死者は黄泉の国へ戻るからだ。
ところが、欲の深い悪妻おみね(小川真由美)にそそのかされた伴蔵が、幽霊から小判100両を受け取る代わりに護符を剥がしてしまい…。

「牡丹燈籠」 Botan Doro  (1968)_f0367483_23173127.jpg
まさしく、お盆の季節にはうってつけの怪談映画。かつて怪談映画は夏の風物詩で、この時期には邦画も洋画もテレビも幽霊やモンスターで賑わったものだったが、それも今は遠い昔の話になってしまった。それに、日本の怪談映画といえばヒュ~ドロドロの子供騙しが大半。入江たか子主演の「怪猫有馬御殿」('53)や中川信夫監督の「亡霊怪猫屋敷」('58)など一部の例外を除けば、洋画モダン・ホラーに慣れ親しんで育った筆者にとって、日本の様式化された怪談映画は怖くもなんともない、どちらかというと退屈な作品が多いという印象は免れない。そんな中で、先述した数少ない例外に含まれるのが本作、山本薩夫監督の「牡丹燈籠」である。

「牡丹燈籠」 Botan Doro  (1968)_f0367483_23155707.jpg
そもそも、山本薩夫と怪談映画という組み合わせ自体が意表をつく。なにしろ、山本監督といえば「戦争と人間」三部作('70~'73)をはじめ、「荷車の歌」('59)や「白い巨塔」('66)などの反権力的な社会派映画で知られる、バリバリの左翼リベラルな映像作家。勝手なイメージとしては、共産党シンパのクソ真面目な校長先生である(笑)。そんな人がよりによって怪談映画ですか…?と首を捻りたくなるところだが、しかしよくよく考えれば山本先生、「忍びの者」('62)シリーズや「座頭市牢破り」('67)みたいな純然たる娯楽映画も結構撮っている。意外に懐の深い、職人的な面も併せ持った映画監督なのだ。

「牡丹燈籠」 Botan Doro  (1968)_f0367483_23145998.jpg

しかも本作、権威を盾に人権を蹂躙する理不尽な武家社会へ対する怒りは、それすなわち山本監督が常に描いてきた軍国主義や資本主義への激しい批判精神と相通ずるものがある。虐げられる者に寄り添うようなストーリー展開も同様。だいたい、「番町皿屋敷」にせよ「四谷怪談」にせよ、日本の古い怪談物語というのは多かれ少なかれ、権力の犠牲になった名もなき人々の怨念というのが根底に流れている。そう考えると、山本薩夫×怪談というのは決して不思議な組み合わせではない。

「牡丹燈籠」 Botan Doro  (1968)_f0367483_23165938.jpg

もともとは中国の説話を基に、江戸時代末期の落語家、初代三遊亭円朝が創作した怪談噺。成仏できず現世を彷徨う幽霊と人間の切なくも哀しい恋、夜の闇に鳴り響くカランコロンという下駄の音など、ドロドロとした恨み辛みが身上の日本の怪談物語らしからぬ、叙情的でロマンティックな要素はそうした異国の出自に由来するものなのかもしれない。しかも、本作の場合は円朝のオリジナルをだいぶ脚色しており、“封建社会の理不尽に虐げられる者の悲劇”という社会派的なメッセージを際立たせている。

「牡丹燈籠」 Botan Doro  (1968)_f0367483_23175981.jpg

また、妖しくも美しい幻想的なビジュアルも本作の大きな魅力だ。それは時に官能的ですらある。これみよがしなコケ脅しや残酷描写などに頼らず、ムード重視でジワジワと恐怖を盛り上げていく演出も風格がある。そこは山本監督らしい生真面目さと言えるかもしれない。

「牡丹燈籠」 Botan Doro  (1968)_f0367483_23185969.jpg

さらに、ワイヤーワークを使って女幽霊たちが宙を舞うシーンの美しさも筆舌に尽くしがたい。しかも、当時の技術がまだまだ未熟だったせいだろうか、ワイヤーで吊り下げられた幽霊の動きがどこかぎこちなく、それがかえって薄気味の悪さを倍増させる。仕掛けとしては極めて原始的だが、だからこその手作り感が妙なリアリティを生むのだ。

「牡丹燈籠」 Botan Doro  (1968)_f0367483_23182939.jpg

また、単に武家社会の権力を批判したり、名もなき庶民に寄り添うばかりではなく、必ずしも弱者=犠牲者=善人というわけではないことも忘れていないのが山本監督の巨匠たる所以。それが、欲の深い伴蔵とおみねの夫婦だ。貧しさゆえに意地汚く、金と引き換えに平気で恩人・新三郎を見殺しにしてしまう。中途半端な小悪党の嫌らしさをこれでもかとカリカチュアして演じる西村晃は、さすがに今見るとちょっとくどすぎるように感じるが、小川真由美のがらっぱちな悪女ぶりはなかなか痛快。物語の終盤に差し掛かってからの登場だが、すっかり場をさらってしまうところはさすが大女優だ。

「牡丹燈籠」 Botan Doro  (1968)_f0367483_23152794.jpg

一方、当時大映の二枚目スターだった本郷功次郎は、彼が得意とする真面目で実直な青年として新三郎役を好演。これが初めての大役だった赤座美代子は、まだまだ垢抜けないものの、哀れな宿命の女幽霊を可憐に演じている。庶民の善意を象徴する役回りの志村喬も、さすがの安定した存在感。大映映画ならではの豪華で美しい美術セット、三隅研次監督とのコンビで知られる牧浦地志のシャープで洗練されたカメラワークなども素晴らしい。


評価(5点満点):★★★★★

参考DVD情報(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:Dolby Digital Mono/言語:日本語/字幕:なし/地域コード:2/時間:88分/発売元:株式会社KADOKAWA
特典:劇場予告編/フォトギャラリー


by nakachan1045 | 2016-08-10 01:29 | 映画 | Comments(2)
Commented by さすらい日乗 at 2016-08-10 07:33
これは、公開時に今はないスキヤバシ映画で見ましたが、市川雷蔵の『ひとり狼』の方が圧倒的に良かった記憶があります。

原作では、「カラン、コロンン」はほんの序章で、その後お米と伴蔵の話が延々と続き、彼らのジェットコースター人生が非常に面白いのですが。映画ではそこまで描いたのは見たことがありません。
演劇では、大西信行作をシアターコクーンでやったのを見たことがありますが、非常に面白いものでした。映画で完全版でやってもらいたいものです。
Commented by nakachan1045 at 2016-08-10 10:21
> さすらい日乗さん

コメントありがとうございます。

雷蔵の「ひとり狼」、見逃していたので早速チェックしてみようと思います!

私は邦画=ダサいというイメージで育った洋画どっぷり世代で、全盛期日本映画の面白さを大人になって知った口なものですから、ここ20余年くらい後追いでいろいろと見ているものの、やはりこぼれ落ちてしまっているものがまだまだあるんですよね(^^;
特に大映作品は本当に面白いものが多いので、これからも頑張って掘り下げていこうと思っております!

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