なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「そして誰もいなくなった」 And Then There Were None (1974)
製作:ハリー・アラン・タワーズ
原作:アガサ・クリスティ
脚本:ピーター・ウェルベック
撮影:フェルナンド・アリバス
音楽:ブルーノ・ニコライ
出演:オリヴァー・リード
エルケ・ソマー
リチャード・アッテンボロー
ステファーヌ・オードラン
ハーバート・ロム
ゲルト・フレーベ
マリア・ローム
アドルフォ・チェリ
アルベルト・デ・メンドーザ
シャルル・アズナヴール
テレサ・ジンペラ
リック・バッタリア
声の出演:オーソン・ウェルズ
イギリス・イタリア・フランス・西ドイツ・スペイン合作/94分/カラー作品
イランの砂漠のど真ん中に建つ高級ホテルへ、ヘリに乗った宿泊客たちが訪れる。その顔ぶれは、実業家のヒュー・ロンバード(オリヴァー・リード)、秘書のヴェラ・クライド(エルケ・ソマー)、厳格な判事アーサー・キャノン(リチャード・アッテンボロー)、有名な映画女優イロナ・モーガン(ステファーヌ・オードラン)、医師のエドワード・アームストロング(ハーバート・ロム)、警察長官ウィルヘルム・ブローア(ゲルト・フレーベ)、陸軍将軍アンドレ・サルヴェ(アドルフォ・チェリ)、そして人気歌手のミシェル・ラヴァン(シャルル・アズナヴール)。彼らを迎えるのは召使のオットー(アルベルト・デ・メンドーザ)とエルサ(マリア・ローム)のマルティーノ夫妻。合計で10名だ。
肝心のオーナー、オーウェン氏が不在のまま始まる晩餐会。そこで突然、奇妙な録音テープの音声(オーソン・ウェルズ)が流れる。それは、ホテルに集まった10人全員の罪を糾弾するものだった。実は、誰もが過去に直接的ないし間接的に他人の命を奪い、何ら罰せられないまま現在に至っていたのだ。
思いがけない告発に狼狽える人々。よくよく考えると、誰一人としてオーウェン氏とは面識がない。それぞれが何らかの口実によって、ここへ招かれてきていた。みんなが戸惑い言葉を失う中、自らの罪を認めたミシェルが毒殺される。さらに、ホテルから逃げようとしたエルサも絞殺された。
誰かが一人また一人と“処刑”しているようだ。事態を察知した人々は、オーウェン氏がホテル内に隠れているのではと考え、各自ペアを組んで捜索を始める。だが、どこにも隠れている人間など見つからないばかりか、今度はサルヴェが惨殺される。
各部屋の壁に飾られた古い歌「10人のインディアン」の歌詞。犠牲者はその内容通りに殺されている。しかも、ダイニングテーブルに置かれた10体のインディアン人形は、一人殺されるたびに首がなくなっていく。果たして、いったい誰が何の目的で、このような罠を仕掛けているのか。そうこうしているうちに、犠牲者は一人また一人と増えていく…。
いずれにせよ、オールスターが揃った豪華なキャストの顔ぶれはこちらもなかなかのもの。制作に携わったヨーロッパ各国を代表する人気スターやベテラン名優がズラリと一堂に会する。まあ、ぶっちゃけるとエルケ・ソマーは既に全盛期を過ぎていたように思うが、クロード・シャブロル監督のミューズであるステファーヌ・オードランがこの手の娯楽映画に出演するのは珍しいし、映画監督としても確固たる地位を確立しつつあったリチャード・アッテンボローや、日本でも人気の高い大物シャンソン歌手シャルル・アズナヴールの出演も作品の格を上げている。コアなヨーロッパ映画ファンならば、ジャッロ映画の刑事役などでお馴染みのスペイン俳優アルベルト・デ・メンドーザの登場も嬉しい。しかも、あのオーソン・ウェルズまでが声の出演を果たしている。そもそも、ハリー・アラン・タワーズは低予算映画に有名俳優をかき集めてくることでも定評のあった人。いったいどんな手を使って口説き落としていたのか気になるところだ。
なので、本作も恐らくキャスト陣のギャラ以外は大して予算はかかっていないはずだ。クレジットによるとロケ地はイランとスペインだが、見たところ屋外シーンがイラン、屋内シーンがスペインってとこだろう。どちらも人件費は安いし、撮影も既存の建築物や遺跡をそのまま使用しているので、豪華な見た目ほど実は制作費をかけずに済んでいると思う。
で、肝心の中身はというと、登場人物の名前や設定、それぞれの殺され方など適度に変更を加えつつも、基本的なプロットはクリスティの原作通り。あ、あと原作では海に囲まれた小さな孤島が舞台だったが、本作は砂漠のど真ん中にある豪華ホテル。一応、数百キロ先まで砂漠と古代遺跡だけ、灼熱の太陽が照りつける中で踏破するのは不可能、唯一の交通手段であるヘリが迎えに来るのは数日後、電話回線が繋がっていないので外部との通信は無理と、陸の離れ孤島感を出してはいるものの、とりあえず頑張って歩けば結構逃げられるんじゃね?と感覚的に思えてしまうところが弱点ではある。
また、肝心のクライマックスをガラリと変えてしまった点も大いに疑問が残る。どういうことかというと、そして誰もいなく…ならなかったのである(笑)。あれ?と首を傾げてしまうこと必至だ。これじゃあ、ただのスラッシャー映画、ボディカウント・ムービーと大して変わらなくないか?といったところ。結果的に、当時のイタリア産猟奇サスペンス、要するにジャッロ映画の豪華版という印象が色濃い。まあ、それはそれで個人的に好きなので特に問題はないのだけれど。
脚本にクレジットされているピーター・ウェルベックというのは、製作者ハリー・アラン・タワーズのペンネーム。彼は'65年と'89年にも同じ原作を映画化しており、こと「そして誰もいなくなった」への愛着が深かったようだが、その3作中でベストはやはり'65年版かもしれない。それでも、豪華なキャストに豪華な設定に旺盛なサービス精神という、“映画は基本的に見世物”的なハリー・アラン・タワーズらしさは本作でも健在で、そういう点では好感が持てるのだが。毎度のことだが、しっかりと奥さんのマリア・ロームを出している辺りも憎めない(笑)。
監督はマイケル・ケイン主演のカーアクション「ミニミニ大作戦」('69)で有名なピーター・コリンソン。どちらかというとアクション畑の人という印象だが、しかし「密室」('67)や「恐怖の子守歌」('71)などサスペンス映画の仕事も実は多い。ショック演出よりもムード重視で丹念に見せていくタイプの人。そういう意味で本作も刺激こそ足りないものの、細部まで緻密に計算された流麗なカメラワークは見事なもので、なんとも洗練された上品な雰囲気を醸し出している。その丁寧な仕事ぶりを堪能するだけでも、けっこう楽しめるはずだ。こういう職人技の詰まった映画は何度見ても飽きないものである。
また、音楽スコアをエンニオ・モリコーネのコラボレーターとしても有名なブルーノ・ニコライが担当。イージーリスニング風の洒落たメロディとサウンドは、まさに'70年代イタリア映画音楽ならではの醍醐味といった感じで、ゴージャスなムードを存分に演出していく。劇中ではシャルル・アズナヴールが名曲「昔かたぎの恋」を引き語りするシーンもあり、エンターテインメントが大人のものだった時代の色香がなんとも心地良い。
参考DVD情報(イギリス盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.66:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語/字幕:なし/地域コード:2/時間:94分/発売元:Optimum Releasing/Studio Canal (2009)
特典:オリジナル劇場予告編
by nakachan1045
| 2016-08-10 11:17
| 映画
|
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