なかざわひでゆき の毎日が映画三昧
「怒りの刑事」 The Offence (1973)

製作:デニス・オデル
原作:ジョン・ホプキンス
脚本:ジョン・ホプキンス
撮影:ジェリー・フィッシャー
編集:ジョン・ヴィクター=スミス
音楽:ハリソン・バートウィッスル
出演:ショーン・コネリー
トレヴァー・ハワード
ヴィヴィアン・マーチャント
イアン・バネン
ピーター・ボウルズ
イギリス映画/113分/カラー作品
<あらすじ>
イギリスのとある小さな町。幼い少女がレイプされるという事件が連続発生し、町の大人たちは神経をピリピリとさせている。そんな中、またもや少女が行方をくらましてしまう。捜索に乗り出す地元警察。特に血気盛んなのはベテラン刑事のジョンソン巡査(ショーン・コネリー)だ。
森の中で怯える少女を発見したジョンソン巡査。病院まで付き添った彼は、憔悴しきった少女から犯人の情報を無理やり聞き出そうとするが断念する。その苛立ちから同僚に八つ当たりするジョンソン巡査だったが、容疑者が逮捕されたとの情報に目の色を変えた。
容疑者はケネス・バクスター(イアン・バネン)という身なりの良い紳士。ただし、あくまでも逮捕理由は挙動不審というだけで、明らかに酔っ払っているバクスターが連続レイプ事件の犯人だという確証はない。しかし、ジョンソン巡査だけは100%ヤツが犯人だと信じきっている。
上司たちが今後の対応策を話し合っている間に、勝手にバクスターの尋問を始めたジョンソン巡査は、のらりくらりと容疑を否定するバクスターに怒りを爆発させ、気が付くと相手を意識不明になるまで殴り倒していた。異変を知って駆けつける警察官たち。血だらけのバクスターは病院へと搬送され、ジョンソン巡査は停職処分のうえ自宅待機を命ぜられる。
帰路に着くジョンソン巡査の脳裏を駆け巡るのは、これまで目の当たりにしてきた惨たらしい事件の数々。一家惨殺に暴行殺人、血みどろの幼い子供に無残な腐乱死体。世の中に溢れかえる暴力。ジョンソン巡査の心も荒みきっていたのだ。
そのため、妻モーリーン(ヴィヴィアン・ジョンソン)との夫婦仲も破綻寸前。あなたの力になりたいと妻は言うが、しかしその優しさがジョンソン巡査をさらに苛立たせる。いつも安全な場所にいるお前に、俺の気持ちの何が分かるのかと。
バクスターが病院で死亡したとの知らせが入り、ジョンソン巡査は警察の内部調査を受けることとなる。尋問を担当するのはカートライト警視(トレヴァー・ハワード)。その厳しい追及に、やがてジョンソン巡査の内に秘めた心の闇が暴かれていく…。
「007は二度死ぬ」('67)を最後にジェームズ・ボンド役を卒業したショーン・コネリー。しかし、続く「女王陛下の007」('69)で2代目ボンドを演じたジョージ・レーゼンビーが僅か一本で降板し、代役として白羽の矢を立てたジョン・ギャヴィンからオファーを断られたことから、配給会社ユナイテッド・アーティスツは新作「007/ダイヤモンドは永遠に」('71)でコネリーにボンド役復帰を要請する。その際に、コネリーは高額のギャラと併せて交換条件を付けた。それは、彼自身が選んだ主演映画の企画2本を予算合計200万ドル以内で自由に作らせるということ。その第一弾となったのが本作である。
原作は「007/サンダーボール作戦」('65)で知られる脚本家ジョン・ホプキンスの舞台用戯曲の処女作「This Story of Yours」。ロイヤル・コート・シアターでの上演を見て強い感銘を受けたというコネリーは、ホプキンス本人に映画用の脚色を依頼し、自ら主人公ジョンソン巡査を演じることにしたというわけだ。
これが舞台劇の映画化であるというのは、本編を見ただけで容易に察することが出来るだろう。連続少女レイプ事件で揺れる小さな町、付近の捜索に乗り出す警官隊など、僅かながら屋外シーンも見られるものの、ストーリーの本筋は警察署内およびジョンソン巡査の自宅で展開する緊迫した会話劇だ。中でも終盤で明らかにされるジョンソン巡査とバクスターの密室での応酬は、ショーン・コネリーとイアン・バネンの白熱した演技が凄まじい火花を散らせる。
そして、この終盤の密室ドラマにこそ本作の核心があると言えよう。果たしてバクスターが本当に犯人なのかどうか、彼を尋問中に殺めてしまったジョンソン巡査はどのような罰を受けるのか。劇中では一切触れられない。なぜなら、それらは本作の重要なファクターではないからだ。ここで描かれるのは、およそ20年間に渡って犯罪捜査の最前線に立ってきた主人公の歪んだ心の闇だ。日々目の当たりにする残酷で悲惨な犯罪の現場状況に神経を蝕まれ、必ずしも正義が全うされるわけではない司法の現実に怒りや不満を鬱積させたジョンソン巡査。知らず知らずのうち、己の中に怪物を作り上げてしまった彼の深層心理を通し、日常的に過度なプレッシャーを強いられる現代人の悲劇を描いた作品だとも言えよう。
自ら望んだ役柄ゆえに、コネリーの大熱演は際立つ。ボンド役で付いてしまったヒーローのイメージを、徹底的に払拭してやろうという気概がヒシヒシと伝わる。職務に忠実ゆえ壊れてしまう生真面目なジョンソンとは対照的に、仕事は仕事と割り切る合理的なエリート肌のカートライト警視を演じる名優トレヴァー・ハワード、あえてジョンソンの神経を逆なでさせて彼の深層心理を暴くバクスター役のイアン・バネンと、脇を支える役者陣も素晴らしい仕事をしている。
確かに全体的に演劇的な傾向が強すぎる嫌いはある。シドニー・ルメットの演出も、時に実験的過ぎて難解だ。スローモーションを多用しながら同じシーンを繰り返し見せることの意図も見えにくい。なので、たった10日間で撮影された90万ドルの低予算映画にも関わらず、製作費を回収するのに9年を要したという興行的惨敗も不思議ではないだろう。おかげで、予定されていた第2弾「マクベス」の企画は見送られることになってしまった。とはいえ、失敗作で片付けるには惜しい野心的な作品ではある。
評価(5点満点):★★★☆☆
参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:なし/地域コード:A/時間:113分/発売元:Kino Lorber/MGM/20th Century Fox (2014)
特典:オリジナル劇場予告編
by nakachan1045
| 2016-08-22 03:28
| 映画
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