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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「パッション」 Madame Dubarry (1919)

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監督:エルンスト・ルビッチ
脚本:フレド・オルビング(ノルベルト・ファルク)
   ハンス・クレリ
撮影:テオドル・シュパルクール
セット・デザイン:クルト・リヒテル
衣装:アリ・フベルト
出演:エミール・ヤニングス
   ポーラ・ネグリ
   ハリー・リートケ
   ラインハルト・シュレンツェル
   エルゼ・ベルナ
   エドゥアルド・フォン・ヴィンテルシュタイン
   ヴィクトル・ヤンソン
ドイツ映画/114分/モノクロ映画(サイレント)





「パッション」 Madame Dubarry  (1919)_f0367483_10453616.jpg
<あらすじ>
18世紀後半のパリ。婦人向け高級帽子店のお針子として働く自由奔放な娘ジャンヌ(ポーラ・ネグリ)は、アルマン(ハリー・リートケ)という誠実なフィアンセがいたものの、たまたま知り合った裕福なスペイン特使ドン・ディエゴ(マグヌス・スティフテル)の愛人となる。とはいえ、アルマンへの愛情は変わらない。彼女はただ贅沢を楽しみたいだけだった。しかし、嫉妬に狂ったアルマンは決闘の末にドン・ディエゴを殺して逮捕されてしまう。ジャンヌも共犯者とされる可能性があった。
そんな彼女を救ったのは、借金漬けの貧乏貴族デュバリー子爵(エドゥアルド・フォン・ヴィンテルシュタイン)。豪華な首飾りをプレゼントされて子爵の愛人となったジャンヌは、彼の財政を助けるために宮廷へ懇願にあがった際、国王ルイ15世(エミール・ヤニングス)に見初められることとなる。子爵は借金を帳消しにして貰うことでジャンヌを手放し、彼女は国王の妾となった。
しかし、出自の卑しいジャンヌと国王の関係は、たちまち国民から嘲笑の対象となる。そこで、ルイ15世はジャンヌをデュバリー子爵の兄と結婚させることで貴族の爵位を与え、さらに宮廷でお披露目をさせることで正式に彼女を自分の公妾とするのだった。
しかし、宮廷でジャンヌを待っていたのは、以前より国王の公妾の座を狙っていた年増女のグラモン夫人(エルゼ・ベルナ)、彼女を使って国王を操ろうと目論んでいた兄のショワズール大臣(ラインハルト・シュレンツェル)による陰湿な嫌がらせ。さらに、ジャンヌを贅沢させるために莫大な浪費を重ねるルイ15世に、貧しい庶民たちの怒りと不満が募り、その憎悪の矛先はジャンヌにも向けられた。
また、彼女の懇願によって死刑を免れ、近衛兵となったアルマンだったが、世間に非難されている国王の妾がジャンヌだと知って激しいショックを受け、やがて革命派の一員として戦いに身を投じていく…。

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ルビッチ・タッチと呼ばれる軽妙洒脱で洗練されたユーモア・センスが幅広く愛され、「結婚哲学」('24)や「生活の設計」('33)、「ニノチカ」('39)、「天国は待ってくれる」('43)など数々の名作を世に残したハリウッドの巨匠エルンスト・ルビッチ。ビリー・ワイルダーや小津安二郎にも多大な影響を与えた彼は、もともと母国ドイツでは人気コメディアン兼映画監督として、サイレント映画草創期から活躍していた才人だった。そんな彼の出世作として世界中で大ヒットを記録し、ハリウッドへ招かれるきっかけとなったのが、フランス国王ルイ15世の愛人として名を馳せたデュバリー夫人の栄光と転落を描いた歴史絵巻「パッション」である。

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ドイツ時代のルビッチといえば、「花聟探し」('19)や「寵姫ズムルン」('20)など風刺と毒の効いた、スラップスティックでハチャメチャなコメディを得意としていたわけだが、本作ではジャンヌがお針子から国王の公妾へと上り詰めていく過程を描く前半にその傾向が色濃い。天真爛漫な無邪気さで男たちを手玉に取っていくジャンヌの明るいお色気を前面に出しつつ、そんな彼女に振り回される権力者たちの滑稽なバカバカしさを笑い飛ばすセックス・コメディといった趣きだ。

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そう、実在のデュバリー夫人がそうであったように、本作におけるジャンヌも自由奔放で朗らかな、愛嬌のある可愛い女性として描かれており、そんな彼女が激動の歴史に翻弄され、犠牲となっていく姿に同情を寄せているのである。基本的には物事を深く考えないパーティガールなので、よりリッチで贅沢を楽しませてくれるオジサンたちのもとを転々としていくわけだが、しかし本当に心の底から愛しているのはフィアンセのアルマンだけ。彼女に罪があるとすれば、誘惑に勝つことができなかった…というよりも、そもそも誘惑に抗うつもりなど毛頭なかったということくらいだろうか。そのおかげで男たちは次々と不幸になっていくわけだから、ある意味で天性のファムファタールだと言えるだろう。

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そして、いよいよジャンヌはルイ15世の公妾としてフランス宮廷にデビューするわけだが、そこから作品のトーンはどんどんと暗く重苦しいものになっていく。彼女の出現によって国王に取り入る計画を邪魔されたショワズール大臣とグラモン夫人の陰湿なイジメ、国民から向けられる激しい憎悪の目。さらには、最愛の人アルマンまでもが彼女に背を向け、絶対王政の打倒を掲げる市民運動へ身を投じ、やがてフランス革命が勃発する。怒り狂った群衆の前でジャンヌが処刑されるクライマックスはかなり衝撃的。なんたって、生首を晒しものにするわけだから。実際、フランス革命における恐怖政治は理不尽で血も涙もないものだったが、本作ではジャンヌを愛すべき女性として描いていることもあり、尚さらその残虐性が際立っている。

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ということで、前半は当時のルビッチらしいセックスコメディ、後半は重厚でシリアスな歴史ドラマという2部構成で成り立っているわけだが、どうも中途半端な印象は否めない。他のルビッチ作品に比べるとコメディのトーンはかなり抑え気味だし、歴史ドラマと呼ぶにはご都合主義的で大げさなメロドラマ性が目立つ。そもそも、フランス革命へとなだれ込んでいく終盤の流れは明らかにおかしい。というのも、本作ではルイ15世の崩御をきっかけにして暴動が発生し、バスティーユが襲撃されてヴェルサイユが制圧され、まだうら若きジャンヌが断頭台の露と消えるわけだが、実際にフランス革命が起きるのはルイ15世の崩御からおよそ15年後。ジャンヌも既に50歳だった。さすがに映画とはいえ、ここまで史実を都合よく変えてしまうのもいかがなものかとは思う。

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ただ、宮廷シーンの絢爛豪華たる美術セットやコスチューム、フランス革命シーンのスペクタクルな群衆パニックなど、莫大な予算を注ぎ込んだであろう見せ場の数々は大作映画ならではの醍醐味だ。恐らく、当時世界中で大ヒットした理由もここにあるのだろう。もちろん、フランス宮廷の赤裸々な裏側を描いたスキャンダル性、ヒロインの生首を晒すというショッキングなクライマックス、そして主演女優ポーラ・ネグリのエキゾチックなエロティシズムも魅力だ。ルビッチ作品としては明らかに及第点だが、当時の観客を惹きつける要素は十分過ぎるくらいにあったのではないかと思う。

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本作の大成功で一躍国際的な注目を集めたルビッチだが、同じく本作をきっかけに世界へ飛び出した人物が2人いる。それがジャンヌ役を演じたポーラ・ネグリと、ルイ15世役のエミール・ヤニングスだ。ネグリがルビッチとコンビを組むのは、「呪いの目」('18)と「カルメン」('18)に続いてこれが3本目。舞台裏では犬猿の仲だったと言われる2人だが、当時の世間からはゴールデン・コンビと見なされ、本作以降も「寵姫ズムルン」('20)や「山猫リュシュカ」('21)などでタッグを組むことになる。'23年にルビッチがハリウッドへ拠点を移すと、彼女もまたパラマウントと契約してアメリカ・デビュー。妖艶なファムファタール女優として一世を風靡し、ルドルフ・ヴァレンティノとの熱愛などでも浮名を流した。骨格の良すぎるゴツイ顔立ちと体つきは、今見ると必ずしも美人とは呼べないかもしれないが、しかしエネルギッシュでバイタリティ溢れる演技にはスターのオーラが満ちており、型破りなルビッチ作品との相性が良かったことも大いに納得ができる。

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一方、舞台では当代一の名優として謳われるも映画では無名に等しかったエミール・ヤニングスは、ルビッチに起用された「呪いの目」と本作で一躍映画界でも脚光を浴び、F・W・ムルナウ監督と組んだ「最後の人」('24)や「ファウスト」('26)などで大スターへの階段を登りつめ、ハリウッドへ招かれた「肉体の道」('27)で見事アカデミー主演男優賞に輝く。本作のルイ15世役は全体的にライトな印象だが、しかし天然痘に倒れて死の淵を彷徨いながらも、ジャンヌの顔を一目見たいと半狂乱となる最期の鬼気迫る演技はさすがだ。なお、アルマン役のハリー・リートケもドイツ時代のルビッチ作品には欠かせない二枚目スターだったが、第二次世界大戦の末期にドイツへ侵攻したソ連軍の兵士によって自宅で虐殺された。

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評価(5点満点):★★★☆☆

参考ブルーレイ&DVD情報(イギリス盤2枚組セット)
ブルーレイ
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/1080p/音声:2.0ch LPCM(音楽スコア)/字幕:英語・ドイツ語・フランス語/地域コード:B/時間:114分
DVD
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:2.0ch Dolby Digital(音楽スコア)/字幕:英語・ドイツ語・フランス語/地域コード:2/時間:114分
発売元:Eureka Entertainment (2014年)
特典:エルンスト・ルビッチ監督短編「Als Ich Tot War」(38分)/作品解説ブックレット(36P)


by nakachan1045 | 2016-10-02 15:54 | 映画 | Comments(0)

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