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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「事件の死角」 Shield For Murder (1954)

「事件の死角」 Shield For Murder  (1954)_f0367483_22434072.jpg
監督:エドモンド・オブライエン
   ハワード・W・コッチ
製作:オーブリー・シェンク
原作:ウィリアム・P・マクギヴァーン
脚本:リチャード・アラン・シモンズ
   ジョン・C・ヒギンズ
撮影:ゴードン・アヴィル
音楽:ポール・ダンラップ
出演:エドモンド・オブライエン
   マーラ・イングリッシュ
   ジョン・エイガー
   エミール・メイヤー
   キャロリン・ジョーンズ
   クロード・エイキンズ
   ラリー・ライル
   ハーバート・バターフィールド
   ヒュー・サンダース
アメリカ映画/82分/モノクロ作品




<あらすじ>
深夜の裏通り。ノミ屋のマーティンに近づく刑事バーニー・ノーラン(エドモンド・オブライエン)。戸惑うマーティンをサプレッサー付きの拳銃で殺害したバーニーは、彼の懐から現金25000ドルを奪い、そのうえで改めてサプレッサーを外した拳銃を発砲する。
銃声を聞いた近隣住民が警察に通報し、やがて相棒の刑事マーク(ジョン・エイガー)が現場に駆け付けた。逃げようとしたマーティンに威嚇のため発砲したところ、誤って弾が当たってしまったと説明するバーニーだったが、一部始終をアーネストという老人が目撃していたことに気付いていない。
バーニーは勤続16年のベテラン刑事。かつて不良少年だったマークは彼に救われ、刑事としてのイロハを教わったことから全幅の信頼を置いている。そのため、バーニーの証言を信じ、不慮の事故として処理をした。上司のグンナーソン署長(エミール・メイヤー)も、警察の評判が悪くなることを心配しつつ厳重注意のみで済ませる。しかし、署内にデスクを置く新聞記者キャボット(ハーバート・バターフィールド)だけは腑に落ちない様子だ。
近ごろのバーニーは暴力沙汰など不祥事が多い。しかも彼は拳銃のエキスパートだ。そんな彼の一方的な言い分を鵜吞みにしていいのか?と問い詰めるキャボットに不快感を隠せないマーク。そこへ、私立探偵のファット・マイケルズ(クロード・エイキンズ)とラディー・オニール(ラリー・ライル)が訪ねてくる。死んだマーティンが、ノミ屋の元締めパッキー・リード(ヒュー・サンダース)に届ける現金25000ドルを持っていたはずだというのだ。しかし、現場からはそんな大金は見つかっていない。マークの脳裏に疑念がよぎる。
バーニーにはパティ(マーラ・イングリッシュ)という恋人がいた。社会の荒んだ裏側を見続けてきた彼にとって、素朴で純粋なパティは唯一の救いだ。そんな彼女との幸福な結婚生活のためにも、彼には現金が必要だったのである。パティを連れてモデルハウスを見学に訪れたバーニーは、その近くに現金を埋めて隠す。
その翌日、警察署に老人アーネストがやって来る。耳が不自由で話すことのできない彼は、目撃証言を記したメモを、こともあろうかバーニーその人に渡してしまう。事件当夜、彼はバーニーの後ろ姿しか見ていなかったのだ。アーネストの自宅を訪ねたバーニーは、激高して彼を撲殺してしまう。慌てて事故に見せかけて逃げるバーニー。しかし、アーネストは目撃情報の詳細をノートに書き記しており、通報を受けて現場検証に訪れたマークがそれを発見。バーニーの犯行を確信する。
自首するよう説得するマークを殴り倒して逃亡するバーニー。パティを連れて高飛びしようとするが、事情を知らない彼女はバーニーの支離滅裂な言動に怯える。もはや一人で逃げるしかないと考えるバーニーだったが、既にマークの報告を受けた警察の追手が迫っていた…。

エドモンド・オブライエンといえば、アカデミー助演男優賞に輝いた『裸足の伯爵夫人』('54)の狡猾で野心的な芸能エージェント役や、ジョン・フォード監督の傑作西部劇『リバティ・バランスを射った男』('62)の新聞編集長ピーボディ役を演じた重量級の性格俳優として記憶しているクラシック映画ファンも多いだろう。とはいえ、彼の本領はなんといってもB級フィルム・ノワール。後にデニス・クエイド主演の『D.O.A.』('88)としてリメイクされた『都会の牙』('49)を筆頭に、『恐怖の町』('52)や『黒い街』('52)、『ヒッチハイカー』('53)など、数多くのフィルムノワール映画に主演したタフガイ・スターだった。そんな彼が主演のみならず初めて監督も手掛け、『都会の牙』と並ぶ代表作とも評されているのが、この『事件の死角』である。

早い話が汚職刑事もの。金に目がくらんだベテラン刑事が犯罪組織の裏金を奪うために強盗殺人の罪を犯し、証拠を隠滅すべくさらなる殺人や暴力などの凶行を重ね、挙句の果てには警察からも組織からも追われる身へと転落してく。言うなれば、元祖『バッド・ルーテナント』みたいな作品だ。まあ、さすがにあそこまでクソみたいに罰当たりな悪徳刑事ではないものの、それでも保身のためなら見境なく殴る蹴る殺すの大暴れ。市民プールでは組織の手先を相手に、大勢の一般人を巻き込んでの銃撃戦を繰り広げるなど、市民の安全や命を守ろうなんて意識はこれっぽっちもなし。しかも、自分の女に手出ししようとした探偵コンビをレストランの公衆の面前で半殺しにし、”誰か警察を呼んで!”と悲鳴を上げる人々に”警察ならここにいるぞ!”と睨み返すふてぶてしさ。さすがに手塩にかけた愛弟子マークを殺すのには躊躇するものの、追いかけてきた同僚の警察官たちは容赦なく次々と射殺。なんとしてでも金を持って逃げてやる、生き延びてやる、という執念の凄まじいこと!エドモンド・オブライエンの気迫に満ちた演技は圧巻で、これは一世一代の名演と呼んでもよかろう。

ストーリー展開もテンポ抜群だ。上映時間そのものが82分というコンパクトサイズだが、オープニング・テロップ前のノミ屋殺しから一切の無駄なくサクサクと物語が進んでいく。それでいて、かつては人情家の頼れる刑事だったバーニーがなぜ暴力刑事へと落ちぶれてしまったのか、その心の闇にもきっちりと迫っていく。それも、フラッシュバックとかモノローグとか煩わしい手段を使わず、セリフの随所にさりげなく散りばめることで、徐々に背景を浮かび上がらせていくという芸の細かさ。当時PTSDという言葉が既にあったのかは定かでないが、犯罪と暴力に日々接する刑事ならではのトラウマがバーニーの精神を長年に渡って少しづつ蝕み、その結果人格が崩壊してしまったという核心部分も説得力を持って描かれている。

エドモンド・オブライエンと共に監督としてクレジットされているのは、ジョン・フランケンハイマー監督の傑作ポリティカル・サスペンス『影なき狙撃者』('62)のプロデューサーとして知られるハワード・W・コッチ。もともと低予算のB級西部劇やB級ホラーを製作していた人だが、その一方で『真昼の脱獄』('55)や『第三独房・地獄の待合室』('59)など骨太なハードボイルド映画の監督としても知る人ぞ知る存在だ。また、脚本には『Tメン』('47)や『夜歩く男』('48)などの傑作ノワールで有名なジョン・C・ヒギンズが参加。初監督のオブライエンを支えた彼らの協力も無視できない。

バーニーの相棒である後輩刑事マークには、『世紀の怪物/タランチュラの襲撃』('55)や『モグラ人間の叛乱』('56)、『金星怪人ゾンタ―の襲撃』('66)などB級SF映画のヒーローとして有名なジョン・エイガー。恋人パティ役のマーラ・イングリッシュも、『怪物の女性/海獣の霊を呼ぶ女』('56)や『女黄金鬼』('57)などAIP初期のモンスター映画でヒロインを務めた女優だ。また、テレビ『アダムズのお化け一家』のモーティシア役でお馴染みのキャロリン・ジョーンズが、レストランでバーニーに言い寄るブロンド美女役で登場。B級西部劇スターのクロード・エイキンズも私立探偵役で顔を出している。

なお、オブライエンはその後、やはり金に目がくらんだ中流階級の平凡な男が、友人に誘われるがまま犯罪に加担をしたところ、堕ちるところまで堕ちていく姿を描いた『男の罠』('61)という隠れた名作を演出しているものの、残念ながら監督作はそれっきりとなってしまった。

評価(5点満点):★★★★☆



参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
モノクロ/ワイドスクリーン(1.75:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:なし/地域コード:A/時間:82分/発売元:Kino Lorber/MGM/20th Century Fox (2016年)
特典:オリジナル劇場予告編

by nakachan1045 | 2016-12-10 12:23 | 映画 | Comments(0)

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